)” の例文
僕はかかる手紙を読みつつ、日々腹ぐすり「げんのしやうこ」を飲み、静かに生を養はんと欲す。不眠症のえざるも当然なるべし。
病中雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
日本で言えば「羽織の紐にでも触れば」というところです。するとただちに女の一念が届いて、病根の全くえたのを直感しました。
「そのお千絵殿も、今の容体では、まだ何を話してもお分りあるまい、いずれ病気がえた後に、晴れて名乗りあう時節もござろう」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
滝之助は血鎌を洗う前に、清水を手に掬って、喉の乾きをやさずにはいられなかった。大男の圧迫がかなり長く続いたからであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
また友人のIが大根を食ってよろずの病をやし百年の寿を保つとしても、自分がそのまねをして成効するという保証はついていない。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
戸をたたいておどした位では、なかなか腹がえなかった。彼はその晩自分の家へ逃げて帰っても、まだいらいらしてよく眠られなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
吹き折られた杉の傷のあとは、まだえない。そこからかろうじて吹き出した芽生えを見ているお豊の面には痛々しい色があります。
ただの一度の仕合にきずつきて、その創口きずぐちはまだえざれば、赤き血架はむなしく壁に古りたり。これをかざして思う如く人々を驚かし給え
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
... 引張ひっぱって来さっせい」お代「そうでもしなけりゃこの腹がえねいだ。和女おまえも一緒に来さっせい」と怒りのあまりに家の内を空虚からあきとなし
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
追々薄紙はくしぐが如くにえ行きて、はては、とこの上に起き上られ、妾の月琴げっきんと兄上の八雲琴やくもごとに和して、すこやかに今様いまようを歌い出で給う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
例の疵口きずぐちも日に増し目立たないほどにえ、最近に木曾福島の植松家から懇望のある新しい縁談に耳を傾けるほどになったとある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宮は我とも覚えず浅ましがりて、産後を三月ばかり重く病みけるが、そのゆる日をたで、初子うひごはいと弱くて肺炎の為に歿みまかりにけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ワルシャワから、コヴノ要塞にかけての戦場で、有名をとどろかした士官候補生イワノウィッチの負傷も、もうまったくえていた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
うん。それはいゝね。しかし僕はまだそれ位ぢゃ腹がえないよ。結婚式がすんだらあいつらを引っぱり出して、あの畑の麦を
蛙のゴム靴 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
わたくしはむなしく終吉さんのやまいえるのを待たなくてはならぬことになった。探索はここに一頓挫いちとんざきたさなくてはならない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこへまた油薬のやうなものを塗つて呉れた。ひどく苦んだ漆瘡しつさうの男根図はかくのごとくにしてつひに直つた。かさは極く『平凡』にえた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
で、またいまきず一昨日をとゝひ昨夜ゆうべ怪我けがをしたものとはえぬ、綺麗きれいえて、うまれつき其處そこだけ、いろかはつてえるやうなのに悚然ぎよつとした。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分の病気がえきったその時を見ているがいい。どうして倉地をもう一度自分のものに仕遂しおおせるか、それを見ているがいい。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もっと時間が経って、傷がまったくえ、気持がすっかり平静になるまでは、少しでも二人を連想させることは絶対に避けたかったのである。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれども腹はなかなかえない。なおその喰っただけが食物を渇望かつぼうする動機になったものかぐうぐう腹が鳴って仕方がない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
明日あすえん、ここに来たれ、物語して聞かすべし」しいてうちえみ、紀州を枕辺まくらべに坐らせて、といきつくづくいろいろの物語して聞かしぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これは歩行することのできない病人が尋問を受ける時の礼儀だということである。十月二十七日最終の申渡のあった時には病も既にえていた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
キリストは人々の方へ手をさし伸べて祝福を与えたが、その体どころか、着物の端に触れただけで、すべてのものをやす力が生ずるのだった。
遲速おそきはやきを問はずたゞ彼の心のまゝにわが目ゆべし、こは彼が、絶えず我をもやす火をもて入來りし時の門なりき 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私はいつの間にか立ち上って、部屋をったり来たりしながら、どうしたらこの恋慕の情をやすことが出来るだろうかと、長い間考えました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
身には不治の病をいだきて、心は添われぬ人を恋う。何のためにか世にながらうべき。よしこの病ゆとも、添われずば思いに死なん——死なん。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
いくばくもあらぬに、ベルナルドオがきず名殘なごりなくえ候ひぬ。彼人も君の御上をば、いたく氣遺きづかひ居たれば必ず惡しき人と御思ひしなさるまじく候。
前日来の病もまだ全くはえぬにこの旅亭に一夜の寒気を受けんこと気遣わしくやや落胆したるがままよこれこそ風流のまじめ行脚の真面目なれ。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼は自分の火傷のまだえていないのも忘れて、夢中で看護するのであった。不安な一夜が明けると、甥はそのまま奇蹟的に持ちこたえて行った。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
モナコのさいの目に現れた不吉が、佐野を行方不明にしてしまい、妾は傷のえるまでニースの赤十字病院にロダンさんの手厚い看護を受けました。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
そうして、心の傷だけならば時とともにえることもあろうが、おのが身体のこの醜悪な現実は死に至るまでつづくのだ。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
関雪氏は金魚のやうに赤くなつて金魚のやうに息を切らしてゐる麦僊氏を見て、気持よささうに笑つたが、それでもまだ腹はえないらしかつた。
さうした不思議はほこれにとゞまらなかつた。貧しき者は富み、乏しき者は得、病める者はえ、弱き者は力を恢復くわいふくした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
七月となり、八月となり、牛乳の時期に向かって、不景気の荒波もようやく勢いを減じたが、幼女を失うた一家の痛みは、容易にゆる時はこない。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
深く切るわけではありませんから、命には別状はありませんが、あれだけの傷がえるのには相当の日数がいります。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
看護卒は、負傷した少尉の脚に繃帯ほうたいをした。少尉の傷は、致命的なものではなかった。だから、傷がえると、少尉から上司へいい報告がして貰える。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
ある僧が旅で病んだがこの村の人が手篤てあつく看護したためにえたという。坊さんはそのお礼にといって、竹で籠を編む手法を村の人に教えてくれたという。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
旅の疲れのすつかりえた九月末の或る日、私は突然さう考へついた。と、それはもうすぐにも書かずにはゐられないやうな衝動を私の全身に感じさせた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
天保元年襄胸痛を患ひしが久ふしてへたり。此年古賀溥卿其藩侯の為めに絹一幅を寄せて画を求む、襄は故人の求めなりとして之を甘諾する能はざりき。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
八つ割きにでもしなければ、私の腹がえぬ。奧が人手に掛つたと相わかれば、津志田家の瑕瑾かきんにもならう。
胸のきずえて、甲板を散歩することがゆるされたチャン君は、中甲板で、四つの屍体を発見して、ぞっとした。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
ベリー公についてわしが言った事柄の腹せだ。実に不名誉なことだ。だがまあ床について、静かに眠るがいい。ああ死んでしまった。これがわしの覚醒めざめだ。
固執するところがない故に損傷することがないので、たまにそういう場合が生じても、久しからずしてそれが止みそれがえたところに、重要なる意味がある。
日本精神について (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
さうしたら幾分腹せになるであらう。こんなことを考へて居るうちに、俺は段段悒欝いううつな気分になつて来た。何でもかでも気掛きがかりになる様な心持がしてならない。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
しその皮の上に一寸ちょっとしたしみが出来るとか、一寸したきずが付くとかしますと、わたくしはどんなにしてでも、それをやしてしまわずには置かれませんでした。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一人は肺結核のえがたきを嘆じての死であった。一人はまだ二十歳前後の青年であった。獣のように地べたに倒れた頭のそばにモルヒネのびんが転がっていた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
同僚らはくだらない話にばかりふけり、上役の悪口を言いながら自分らの生活のつまらなさの腹せをし、彼が精神的な野心をもってるというので冷笑していた。
病がようよえて衣をえる場合であろう。その恢復に向う力に対して、土をぬきんずる笋の勢を持って来たのである。現在それほど元気になったというわけではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
これ、長崎屋さま、三郎兵衛さま——どんな恨みが、あるじにはあるかも知れねど、赤子には、罪というてあるはずはなし、どうぞ、お腹がえるよう、わたしの身を
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「十二万円は私の背後うしろに在ります。その新聞紙包です。……私は犯人の三好を絞め殺しました。これで、やっと腹がえました。……縛って……下さいまっせ——」
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)