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凍
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い
ふりがな文庫
“
凍
(
い
)” の例文
寒気は朝よりもひとしほ厳しくなつたが、そのかはり、靴の下で
軋
(
きし
)
む
凍
(
い
)
てた雪の音が半露里もさきまで聞えるほど物静かな夜である。
ディカーニカ近郷夜話 後篇:02 降誕祭の前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
音も月も
凍
(
い
)
てついた深夜の
衢
(
まち
)
、湯島切通しの坂を掛声もなく上って行く四手駕籠一梃、見えがくれに後を慕って黒い影が
尾
(
つ
)
けていた。
早耳三次捕物聞書:01 霙橋辻斬夜話
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
枯つ葉一つがさつか無え桑畑の上に
屏風
(
びやうぶ
)
を
立
(
たて
)
てよ、その桑の枝を
掴
(
つか
)
んだ
鶸
(
ひは
)
も、寒さに
咽喉
(
のど
)
を痛めたのか、声も立て無えやうな
凍
(
い
)
て
方
(
かた
)
だ。
鼠小僧次郎吉
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ひっそりと寝しずまった町に寒さも
凍
(
い
)
てついたようで、下駄の音が高くひびいた。扶佐子は茂緒によりそって、その手をにぎりながら
風
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
このあいだまで青かったはずの芋の葉は数日来の霜に
凍
(
い
)
ててすっかりうだったようになったのが一つ一つ丁寧に結び束ねてあった。
写生紀行
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
▼ もっと見る
遮る樹立の
楯
(
たて
)
もあらず、霜夜に
凍
(
い
)
てたもののごとく、山路へぬっくと立留まった、その一団の霧の中に、カラカラと鐸が鳴ったが
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
しゅんと、
凍
(
い
)
てついたように家の内がひっそりしていた。小島の小母さんの声がひそひそ聞え、四つの浜子がシュクシュク泣いている。
忘れ残りの記:――四半自叙伝――
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
葉の落ちつくした
櫟
(
くぬぎ
)
の林が、東から南にかけて、晴れた空に
凍
(
い
)
てついている。日の出がせまって、雲が金色に燃えあがっていた。
次郎物語:05 第五部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
凍
(
い
)
てた手はふところの中の
温
(
ぬく
)
みをなつかしく感じた。弁当は食う気がしないで、切り株の上からそのまま取って腰にぶらさげた。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
風はないがひどく
凍
(
い
)
てる夕方だった。寒いからであろう、背中でしきりに子供がぐずった、しかしおせんはあやすことも忘れた。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
木立
(
こだち
)
は
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
てて
凍
(
い
)
て
割
(
わ
)
れますし、
海
(
うみ
)
の
水
(
みず
)
は、いつのまにか、
動
(
うご
)
かなくとぎすました
鉄
(
てつ
)
のように
凍
(
こお
)
ってしまったのであります。
黒い人と赤いそり
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
沈々と更け行く
凍
(
い
)
てついた雪の街上を駈け抜ける人の
跫音
(
あしおと
)
、金切り声で泣き叫ぶ声、戸外からは容易ならぬ
気色
(
けしき
)
を伝えてくる。
生不動
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
その表情の中には大人のような固い、皮のある
微笑
(
ほほえ
)
みが
凍
(
い
)
てついて見えた。姉はそれをまじまじ珍らしいもののように眺めた。
童話
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
凍
(
い
)
てついた道に私たちの下駄を踏み鳴らす音が、両側の大戸を
閉
(
し
)
めきった土蔵造りの建物にカランコロンとびっくりするような
谺
(
こだま
)
を
反
(
かえ
)
した。
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
彼等少年軍の多くは足駄を
穿
(
は
)
いておりました。
凍
(
い
)
てついた大地をその足駄穿きで、カランコロンと蹴りながら歩いていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
この作者に
由
(
よ
)
つて自分は初めて未来の世界を見ることが出来、明日の詩を聞くことが出来た。自分達の周囲は今
総
(
すべ
)
て
凍
(
い
)
て附いてしまつてゐる。
註釈与謝野寛全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
地上に
凍
(
い
)
てついた二人の影と、低くしずかに余韻を響かせている鉄の扉の
軋音
(
あつおん
)
と、——いつの間にか、その音は、車匿の
歔欷
(
きょき
)
に変わっていた。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
風に吹きつけられた雪が、
窓硝子
(
まどガラス
)
を押し破りそうに積りかかっていた。谷間の泉から湧き出る水は、その周囲に
凍
(
い
)
てついて、氷の岩が出来ていた。
渦巻ける烏の群
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
なおかつ
凍
(
い
)
てた馬鈴薯だけで命をつないでいる人たちから俸給をもらい、なおかつ私が仁愛に富むか否かを論ずる資格があると自惚れているのだ。
妻
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
否、外の
凍
(
い
)
てつくやうな嵐——吠え猛ける暗黒——の中から、
鐉
(
かけがね
)
を
外
(
はづ
)
して這入つて來て、私に前に立つたのは、セント・ジョン・リヴァズだつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
凍
(
い
)
てつくような寒い朝、刑吏はカテリーナ・リヴォーヴナのむき出しになった白い背中の上に、定めの数だけの青むらさきのミミズ腫れをしるしづけ
ムツェンスク郡のマクベス夫人
(新字新仮名)
/
ニコライ・セミョーノヴィチ・レスコーフ
(著)
こうした無駄話の塀外も冷々と夜が更けて、八五郎と浪人者の影法師が長々と
凍
(
い
)
てつく往来の上へ引いて居ります。
銭形平次捕物控:243 猿回し
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
只
(
たゞ
)
凍
(
い
)
ての
酷
(
ひど
)
い
冬
(
ふゆ
)
の
夜
(
よ
)
などには
以前
(
いぜん
)
からの
持病
(
ぢびやう
)
である
疝氣
(
せんき
)
でどうかすると
腰
(
こし
)
がきや/\と
痛
(
いた
)
むこともあつたが
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
草原の牝狼が、白けた冬の月の下で飢に惱みながら一晩中
凍
(
い
)
てた土の上を歩き廻る辛さを語ることもある。
狐憑
(旧字旧仮名)
/
中島敦
(著)
飢えさせられ、
凍
(
い
)
てつかされ、呪われたものの呵責をこうむりながら、どうして生きていかれるのだろう。
新西遊記
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
声のする方を眼でもとめて、私はふかぶかと雪をかぶつた松の小枝に、
凍
(
い
)
てついたやうな二羽の雀を見た。
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
無生物である人形の歩み——まさに、魂の底までも
凍
(
い
)
てつけるような
驚愕
(
おどろき
)
だった。しかし、当然そうなると、人形の
側
(
かたわら
)
にある何者かを想像しなくてはならない。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
その風景は寒くて
凍
(
い
)
てついていたが、どこかにまだギラギラと燃える海や青野の
悶
(
もだ
)
えを潜めているようで、ふと
眩
(
まぶ
)
しく強烈なものが、すぐ足もとにも感じられた。
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
通り
路
(
みち
)
は、どこを見ても、皆窓の戸を
鎖
(
さ
)
して寝ているかと思う
宅
(
うち
)
ばかりで、北風に白く
晒
(
さら
)
された路のそこここに、
凍
(
い
)
てついたような
子守
(
こもり
)
や子供の影が、ちらほら見えた。
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
皎々
(
こうこう
)
と月のさえた夜だったが、寒さははげしかった。わたしたちの駅伝馬車は、
凍
(
い
)
てついた大地を矢のように走った。
馭者
(
ぎょしゃ
)
はたえず
鞭
(
むち
)
を打ちならし、馬はしばらく疾駆した。
クリスマス・イーヴ
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
と、振りあげた
右手
(
めて
)
は宙に止まり、叫びかけた呪いも
唇
(
くち
)
に
凍
(
い
)
てついた。というのは、老人の頸を押えた左の手先に、何とも
譬
(
たと
)
えようのない不気味な冷さを感じたからである。
空家
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
卓一の方へ背を向けて、火鉢の前へ静かにしやがむと、つめたさのために
凍
(
い
)
てついてしまつたやうに、微動もしなくなつてゐた。泣いてゐるのではあるまいかと卓一は思つた。
吹雪物語:――夢と知性――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
私の頭も手足も
正面
(
まとも
)
に月の光りに照らされて
凍
(
い
)
てついた様にそこのそこまで白く見える。
秋霧
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
ひとしきり風が出たと見えて、庭の松の木から落ちるらしい
凍
(
い
)
てた、雪の音がした。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
縁端
(
えんばた
)
にずらり並んだ数十の
裸形
(
らぎょう
)
は、その一人が低く歌い出すと、他が高らかに和して、
鬱勃
(
うつぼつ
)
たる力を見せる革命歌が、大きな波動を描いて
凍
(
い
)
でついた朝の空気を裂きつつ、高く
弾
(
は
)
ねつつ
眼
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
あるいはかれらの鉄の駒が
凍
(
い
)
てついてうごかなくなるときにのみ眠るのである。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
六七年も、洋服を着て暖かい
日向
(
ひなた
)
を選み/\坊ちゃん嬢ちゃんの草花いじりの相手をして
鈍
(
なま
)
ってしまったこの身体が、どうして再びあの吹き
晒
(
さら
)
しと
凍
(
い
)
て
土
(
つち
)
の世界へ、苦痛に噛まれに戻れよう。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
次から次へと小さな家々と
凍
(
い
)
てついた窓ガラスと雪とがつづき、
人気
(
ひとけ
)
はさっぱりなかった。——とうとうこのしつっこい通りから身体を引きちぎるようにして離れ、狭い小路へと入っていった。
城
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
しかしその憎悪が恋、気ちがいじみた恋と、間一髪をいれないものだった! おれは窓に近寄って、
凍
(
い
)
てたガラスに額を押し当てた。氷がまるで火かなんぞのように額を焼いたのを覚えている。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
夜になると街のアスファルトは鉛筆で光らせたように
凍
(
い
)
てはじめた。そんな夜を
堯
(
たかし
)
は自分の静かな町から銀座へ出かけて行った。そこでは華ばなしいクリスマスや歳末の売出しがはじまっていた。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
路地の溝板がカチカチに
凍
(
い
)
てて、月が青い冷たい光を投げていた。
円太郎馬車
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
いままで
凍
(
い
)
てついてゐたやうな頑固な手もほんのりと赤味をさし
風は草木にささやいた:01 風は草木にささやいた
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
父母とぽつりぽつりとひろふ飯の
凍
(
い
)
ててかたけば茶をかけて見つ
雀の卵
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
地べたは
硝子
(
ガラス
)
をはりつめたように
凍
(
い
)
てついていた。
誰が何故彼を殺したか
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
大地も木の葉もはげしい霜に
凍
(
い
)
てはてている。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
列車の窓に花のごと
凍
(
い
)
てしを
染
(
そ
)
むる
一握の砂
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
日
凍
(
い
)
てゝ空にかゝるといふのみぞ
六百五十句
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
ものゝすべてが
凍
(
い
)
てついていた。
工場細胞
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
凍
(
い
)
てつきて 心もあらず
在りし日の歌:亡き児文也の霊に捧ぐ
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
時をり村道を、柴や薪をつんだ荷馬車が通つてゆくのが眼についた。大地はいよいよ固くなり、ところどころに
凍
(
い
)
てが染みとほつた。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:04 イワン・クパーラの前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
凍
常用漢字
中学
部首:⼎
10画
“凍”を含む語句
凍死
冷凍
凍結
凍傷
凍雪
下凍
凍豆腐
夕凍
凍土
凝凍
凍着
凍原
朝凍
凍上
凍蝶
凍天
上凍
冷凍球
凍雲
霜凍
...