)” の例文
が、争われないのは、不具者かたわ相格そうごう、肩つきばかりは、みじめらしくしょんぼりして、の熊入道もがっくり投首の抜衣紋ぬきえもんで居たんだよ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒犬にももまれて驚いたなどという下らない夢を見る人は、めていても、のみの目をされて騒ぐくらいの下らない人なのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時唱う歌の一つに「の子神さん毎年ござれ、祝うて上げます御所柿ごしょがきを、面白や云々」、『華実年浪草かじつとしなみぐさ』十に、ある説に亥子餅いのこもち七種の粉を合せて作る。
と云ったが、脊中の刺青がれましてしゝ滅茶めっちゃになりましたから、直ぐ帰りに刺青師ほりものしへ寄って熊にほりかえて貰い、これからくまの亥太郎と云われました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わしにしてからが大勢はいけない。大名行列という奴は、山師の看板と同じだからなあ。ろうさんと紅丸べにまるさん、眼を病んでいる白烏しろがらすさん、三人のお供で充分だ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「何をいかるやいかの——にわかげきする数千突如とつじょとして山くずれ落つ鵯越ひよどりごえ逆落さかおとし、四絃しげんはし撥音ばちおと急雨きゅううの如く、あっと思う間もなく身は悲壮ひそう渦中かちゅうきこまれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その名称を俗にシシ(「宍」にて肉の義)とまで呼ばるるに至った程の鹿しかの肉を喰った者でも、数十日ないし百日間神社参詣を遠慮せねばならぬというが如き
牛捨場馬捨場 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
ヶ原の高原、木曾の切所せっしょなどへかかったら、どうする気だろうと思われるが、小手調べの碓氷峠でも、さして難儀な顔もみせないところは、お十夜も周馬も
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
申し訳けほどの低いカラーを頸につけた、四斗樽どころの騒ぎじゃない、五斗か六斗樽って大男が、牧場の柵の上に乗っかって、日なたぼくりをしながらくわえ煙管で下ろして
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
去年が「甲戌きのえいぬ」すなわち「いぬの年」であったからことしは「乙亥きのとい」で「の年」になる勘定である。こういう昔ふうな年の数え方は今ではてんで相手にしない人が多い。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「しなが鳥」は猪名いなにつづく枕詞で、しなが鳥即ち鳰鳥におどりが、居並いならぶのとが同音であるから、猪名の枕詞になった。猪名野は摂津、今の豊能川辺両郡にわたった、猪名川流域の平野である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
晋の宗懍そうりんの『荊楚歳時記けいそさいじき』註に魏の董勛とうくんの『問礼俗』に曰く、正月一日を鶏とし、二日をいぬと為し、三日を羊、四日を、五日を牛、六日を馬、七日を人と為す。
お浪ははや寝しすけが枕の方につい坐って、呼吸いきさえせぬようこれもまた静まりかえり居るさびしさ。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
主としてしし鹿ししであった、かくてその称呼が世人の口に、耳に親しくなった結果として、遂にそれがただちに猪または鹿そのものの名称の如くに用いられる様になったのである。
「さよう、あのとがった山が矢筈やはずたけ、その右手のがやまとかいいましたよ。まア名なんぞはどうでも、あのひだになっている山のしわが、なんともいえない深味のある色じゃございませんか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言うが早いか、馬方ははなだいの平地をはすッかけに駈け出した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)