)” の例文
など話しながら、足は疲労くたびれても、四方あたりの風景のいのに気も代って、漸々ようよう発光路に着いたのがその日の午後三時過ぎでありました。
私は津田氏と附合って、こんない半面を見るにつれて、以前ほど都会人というものを、おそろしくも、また、いやでもなくなった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
成程、おっしゃりました名のとおり、あなた相の山までいらっしゃいましたが、この前方さきへおいでなさりましても、い宿はござりません。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女は容貌みめ形ばかりくっても心掛が悪くっては何にもなりませんが、此のお花さんは海も山も備わった、実にんとも云えないい娘で
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうせおれは薄情だ、こんな薄情者にいつまでもくっついてないで、い男でも持って、親仁おやじの讐を打ってもらうがいいよ」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
茶がすんでから、康子が月がいから浜へ行こうと云い出した。麦酒でぼうとなっていた清三はすぐ応じた、青木も立った。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
身分の貴い家の子供は、いばってていうにたりないですよ。もしい夫を得たいと思うなら、貧乏人とか金持ちとかいわないが好いでしょう。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ロセッチはあるいはこれを縦に弾くものと誤解したのかもしれぬが、この物凄い魔の女に取合とりあわした対照は実にいと思った。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
藤の花の匂い、ほのかであり、十六夜いざよいの光、清らかである。こんな奇麗ない晩に、二人は斬り合おうとするのであった。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今宵は月がいからというので——大中寺とは背中合わせになっている大平山おおひらやまの隠居から招かれて、碁打ちに参りました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「よく見たの。」長谷川夫人は自分も処女きむすめあとがへりしたやうな若い気持で愛嬢の顔をさしのぞいた。「どつちがいと思つて。種子田さん?」
けれどもただ念力だけでは作物さくぶつのできばえを左右する訳にはどうしたって行きっこない、いくらいものをと思っても
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『心配しなさんな。明日あしたからおれが書き出す。此処こゝへ来てから大分に気分もいのだから。月末げつまつにはうにか成るさ。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
寛永前後の風俗画の中で、又兵衛は特に傑出もしているようですし、数はそう沢山あるのではないにしても、いものもなかなか多いように思います。
双語 (新字新仮名) / 上村松園(著)
おいらァとれてるんだ。かおといい、姿すがたといい、おまえほどのおんな江戸中えどじゅうさがしてもなかろうッて、師匠ししょうはいつも口癖くちぐせのようにいってなさるぜ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
い女だぜ。俺が金は持ち合せていないッて云ったら、銀行の金庫にあるわよッて、あの女ピストルを突きつけやがった。好い度胸だぜ。自動車に乗せて俺を
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
しかもそれがことごとくいので厄介だが、参考のために、とにもかくにも一通り書いておくとしよう。(バックハウスのレコードは全部ビクターに入っている)
或日の夕暮、一人の若い品のい洋服の紳士が富岡先生の家の前えに停止たちどまって、しきりと内の様子をうかがってはもじもじしていたが遂に門をはいって玄関先に突立つったって
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
眺望がいからと言つてこの梅の坊をえらんで住居すまひにした道臣も、此頃では、景色なぞはどうでも可い、といつた風で、毎日お駒やお時を相手にして酒ばかり飮んでゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
大橋流の書もいし、絵は木挽こびき町の狩野かのうの高弟で、一僊いっせんといって、本丸炎上の時は、将軍の居間の画を描いたりしたほど出来たし、漢学も出来る、手をとって教えてもらった。
身を入れるとまるで味が悪くなる。塩で味をつけるから鯛の潮汁うしおに似て味は十倍もい。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何分なにぶん月がい晩なので、ステッキを手にしながら、ぶらぶら帰って来て、表門へ廻るのも、面倒だから、平常ふだん皆が出入でいりしている、前述の隣屋敷の裏門から入って、竹藪を通抜とおりぬけて
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
色の浅黒い、中高な、右の頬の黒子ほくろが目にたつ、お糸さんはい女の方ではなかつた。すぐれて愛想のよいと云ふ程でもなかつた。それでも私達は其夜からお糸さんがきになつた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
作兵衛は小屋の中から藁筵わらむしろを出して、見晴らしのい場所に、それを敷いた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北宗画とうのは、南宗画とはまた違った、柔かいい味のあるものだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして、さっきとちがい頭髪かみかたちもととのえ薄く化粧をしているのでずっと引き立って見えた。こうしてみると、たしかにい女である。この女に自分が全力をげてれているのは無理はない。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
最初はあたかも楽劇の首歌妓プリマドンナも及ばぬようない音調で、それがだんだんに調子を上げて、ついにその頂点は苦痛の長い号泣と変わってしまった。これは死者の最期の絶叫であったかもしれない。
実にい声であった。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
得も言われぬにおいがしました。はてな、あの一軒家の戸口をのぞくと、ちらりと見えた——や、その艶麗あでやかなことと申すものは。——
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああい気もちだ、人間どもは、う者も逢う者も、首をすくめ、水洟みずばなをたらして、不景気な顔をしているが、ぜんたい、どうしたと云うのだ」
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
錦手にしきでい葢物ですね、是は師匠が大好だいすきでげす、煎豆腐いりどうふの中へ鶏卵たまごが入って黄色くなったの、誠に有難う、師匠が大好
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一人のむすめじょちゅうれて、枝に着いた梅の花をいじりながら歩いていた。それは珍らしい容色きりょうで、その笑うさまは手にすくってとりたいほどであった。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
夕方高梨で「精進しょうじんあげ」を馳走してくれた。今は午前三時、もう寝る。い夢があるだろう。(四、一〇)
... あゝ心持こゝろもちぢや』と老人らうじんつてさら若者わかものむかひ『おまへさんは何處どこものぢや』とひました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ねえさん此家こゝは景色がいね。』と、小池はお光のいだサイダーを冷たさうにして飮んだ。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
すれ違いました時、『オオ、い匂だ!』と思わず心で叫んで、私は深い息を吸いました。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
新しい家は二階づくりひき越した当分の気持が実にい。此の二階の明るい書斎でならば保雄が計画して居る長篇小説も古事記を材料にした戯曲もうやら手が附けられさうに思はれた。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
... 今日こしらえたら今夜一晩地の上へ置いて明日再び温めて食べるのが一番い味になるね」と込入こみいりたる手続に客は失望し「そんな面倒な事はとても出来ん。先ず略式から試してみよう」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「これは何んでもボヘミヤ彫りだ。すこぶる珍らしい彫刻ほりものだ。音色も大方いだろう」
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「湖上の美人——あれはうです、い詩だとはお思ひになりませんか。」
「名は不気味ですが、ながめはい。洛内はひと目ですから」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あるかも知れない。いのを周旋してり玉へ」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
実にい声であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
待遇もてなすやうなものではない、銚子ちょうしさかずきが出る始末、わかい女中が二人まで給仕について、寝るにも紅裏べにうら絹布けんぷ夜具やぐ枕頭まくらもとかおりこうく。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「子供がどうしてい悪いがわかるものかね。たとえよかったにしても、秦には及ばないよ。秦の方がだめになったら、その時にしてもおそくはないよ。」
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
年増のい姿がはっきり道夫の眼に見えた。それは勝浦の旅館で知りあったじょちゅうにそっくりの好ましい姿であった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
エーなんとも重々恐れ入りやした、田舎者で始めて江戸へめえりやして、亀井戸かめいどへ参詣して巴屋で一ぺい傾けやした処が、料理がいので飲過ぎて大酩酊おおめいていを致し
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
秋のはじめの空は一片の雲もなくはれて、景色けしきである。青年わかもの二人は日光の直射を松の大木の蔭によけて、山芝の上に寝転んで、一人は遠く相模灘を眺め、一人は読書している。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「アア詰まらんな、実に詰まらん。家へ入ったところがドウセ今夜は寝られない。月がいから少しそのへんでも散歩しようか」と心のうれいたえざるごとく歩を移して中川家の門前へ来れり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
江州は米所こめどころであるうえ、水もい地方のせいでしょうか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)