)” の例文
彼が手をかける迄もなく、自分できちんと畳み附けてったらしい。古い帯も、持物も、すべてが几帳面に、その上に乗せてあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母親は何やらモゾクサしてゐて、「わしもナ、ひよツとすると、此の冬あたりはくやも知れンてノ。」と他言ひとごとのやうに平気でいふ。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ああ何もかもってしまってくれ、私には何にも用はない。男と私は精養軒の白い食卓につくと、日本料理でささやかな別宴を張った。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
私がってしまうのはためになることです。死はよい処置です。神は、私どもがどうなればよいかを私どもよりよく知っていられます。
父母にかれた孤児であった。が、日本橋の店の方は、古い番頭や手代達によって、順調に経営されていた。お島が柏屋の戸主であった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
芦峅あしくらきってのその強力で冬の登山者に取って重宝がられたあの福松も、去年一月の劍のアクシデントで無惨にってしまった。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
もうふゆってしまうのだと、からだまるくして、心地ここちいい、あたたかなかぜはねかれながら、いままでもれていたやまはやしや、また野原のはら木立こだち
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど、私の春はつてしまつた。しかし、それはあの佛蘭西の小花を私の手に殘して。ある氣持ちから、私はそれを捨てゝしまひたいのです。
俄跛の姉妹のことをれ/″\も夫にたのんでつたお辻の死顔のあおざめたしなびたほお——お辻は五十で死んだのである。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
鴎外が董督とうとくした改訂六国史りっこくしの大成を見ないでったのは鴎外の心残りでもあったろうし、また学術上の恨事でもあった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
キンチャコフは、不運にも、ゴンドラが地上に激突したとき、当りどころが悪くて脳震蘯のうしんとうを起こし、そのままあの世へってしまったそうである。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金打きんちょうして、耳もとに叫ぶと法外先生は微笑を洩らしたきり、それなり一言も口をひらかずに、ったのだった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
身につけて来た僅かの資本で今の所に文房具店を開き、幸に場所がよかったため相当に客足もついたが、間もなく老母は日光と空気と運動との不足のためにった。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この詩も近ごろった人をいたんだ詩であることから、詩の中の右将軍の惜しまれたと同じように、世人が上下こぞって惜しんだ幾月か前の友人の死を思うのであった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
其後そのご母の希望をれて、さいを迎え、子を生ませると、間もなく母も父の跡を追って彼世あのよった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
青木淳ののこしてった手記の言葉が、太陽の光にさらされたように、何の疑点もなくハッキリとわかって来た。彼女が、瑠璃子夫人であることに、もう何の疑いもなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
無数に生まれて一人一人にかわった無量の生涯しょうがいのこしてった人のなかで、よい人とよくない人と、優れた人と劣った人と、満足した人としなかった人とをくらべてみたら
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
彼女は赤んぼにかえって、母のふところにねむった夢を見たのだ、そして、間もなくってしまった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしそれも、せいぜい二、三日のうちで、四日、五日と経っても帰って来ない日がつづくと、やっぱりあの方はってしまわれたのだという思いが身にしみるのであった。
二十人はとうとう、その家族を残して、妻子はその主人に残されてってしまわれたんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
乳母 あゝ、かなしや! なしゃった/\/\! もう無效だめでござります、もう無效だめでござります。あゝ、かなしや!……なしゃった、ころされさっしゃった、なしゃった!
「この三人の中じゃ、一番先へ僕がきそうだ」とた足立が笑いながら言出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
去年は草取頃に、婆様にはあかれて、米と桶の銭を島の伯父家おじげに借りさあ行ってことうすましやした。悪い時にゃあ悪い事べえ続くもんで、その秋にゃ娘っ子が死にやしたかんない。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
年々変らない景物に対して、心に思うところの感懐もまた変りはないのである。花の散るが如く、葉のおつるが如く、わたくしには親しかったの人々は一人一人相ついでってしまった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と云うのは外でもなく、郷里の母が脳溢血のういっけつで突然ってしまったことです。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だが、あのなつかしい、思い出ふかいクリスマスのおじいさんはもうってしまったのだろうか。あとに残っているのは、あの年とった頭の白髪とあごひげだけなのか。それでは、それをもらおう。
その秋地方に流行性感冒の蔓延まんえんしました時、はつは年は取っても元気を出して、あちこちの看病に雇れていたのですが、とうとう自分も感染して、年寄の流感で、それなりってしまいました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
悲しくった、浪路にして見れば、一たん、そこからのがれて来た、松枝町の三斎屋敷になきがらを持ちかえされて、仰々ぎょうぎょうしく、おごそかなはぶりの式を挙げられようより、いのちを賭けた雪之丞の
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
なにかとりのこされたようなさみしい気持になりました。青春むなしくくを悲しむ。そうした感情が、呪文のようにも、また悔恨のようにも、苛立たしく、切なく胸のうちを通りぬけて行きました。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
「放してくれ、此奴こいつわさにゃ、腹の虫が納るかい。」
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「驚いたなあ。ってしまったんだね」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ってはいけない
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
けれど、ただ力攻ちからぜめして兵を損じることの不可なることを説いて、最後の一策を、味方のために、書きのこしてったものである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マドレーヌさん! ああ棺の中にはいっていなさる。もうってしまわれた。もうだめだ。——いったいこれは何て訳のわからないことだ。
こうかもどろかオロラの下へ——という感傷的センチメンタルな声は市井しせいはてから田舎人の訛声だみごえにまで唄われるようになった。そして最後にカルメンの悲しい唄声を残して彼女はった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
最早もう絶滅をはりぢゃと宣告せんこくせい! あの二人ふたりにゃったなら、きてゐる甲斐かひはない!
その夏もって秋となった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、孔明に託してったのである。孔明の生涯とその忠誠の道は、まさにこの日から彼の真面目しんめんもくに入ったものといっていい。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところで、わしにいい機会がきた。ねえきみ、こう言っちゃなんだが、きみは今日っちまうんだろう。ところが、そういうふうに死なせられた者は、確かに前から富籤がわかる。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
明治二十九年十一月二十三日午前に、この一代の天才は二十五歳のほんに短い、人世のなかばにようやく達したばかりでってしまった。けれど布は幾百丈あろうともただの布であろう。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
春がって夏が来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さいごの息をひくときには「——甥の柴進さいしんに告げて、この恨みをはらしてくれ!」とくり返し言いのこしてったという。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう私は明日ってしまうのに、今日きて下さらないのはまちがってるわ。」
った人を葬むるのに、そんな無作法なことってないと腹立はらだたしかった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おそらく、武蔵が下り松で死んでいれば気持だけでも、彼女もあのままってしまったに違いなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが神の配剤である。神は天にあって、われわれ皆の者を見られ、大きな星の間にあって自分の仕業しわざを知っていられる。私はもうってしまう。ふたりとも、常によく愛し合いなさい。
訥升とつしょう沢村宗十郎の妻となって——今の宗十郎の養母——晩年をやすらかにったが、これまた浅草今戸橋のかたわらに、手びろく家居かきょして、文人墨客ぶんじんぼっかくに貴紳に、なくてならぬ酒亭の女主人であった。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
帯紐おびひもかず七、八日は必死に看病をしたけれど、とうとう病床とこに就いたままってしまったんですよ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ビヤンヴニュ閣下は、かくのごとき楽園より他の天国へとったのであった。
急病でってしまった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)