)” の例文
旧字:
オブロモフなんてふ小説は読んだこともなかつたが、そんなとてつもない代物に比べられたので、自分が偉くなつた気がしたのだ。
スプリングコート (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
山浦環は、又の名を内蔵助くらのすけともった。まだ二十歳はたちぐらいで、固くかしこまって坐った。黒いひとみには、どこかに稚気ちき羞恥はにかみを持っていた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其兄弟を怒る者は(神の)審判さばきあずかり、又其兄弟を愚者よとう者は集議(天使の前に開かるる天の審判)に干り
佐渡でも低地水多き所をヤチ(谷地)またはフケと呼び(佐渡方言集)、信州ではさらに進んで蜘蛛くもの巣をもヤジとったそうである(これは虫の悩むことヤチのごときためであろうか)
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
或は聖情とふ、何を以て劣と聖との別をなす、何が故に一は劣にして、一は聖なる、若し人間の細小なる眼界を離れて、造化の広濶なる妙機をうかゞえば、いづれを聖と呼び、いづれを劣とぶをるさむ。
いわく、〈近代阿蘭陀オランダの献る遍体黒白虎斑の馬あり、馬職に命じてこれを牧養せしむ、馬職これに乗りこれに載す、ともに尋常の馬に及ばず、ただ美色とうのみ、あるいは曰くの族なり云々〉と。
忍斎にんさいと号し、または泥舟でいしゅうともったのは、ずっと彼の晩年ではあるが、便宜上、以下高橋謙三郎を単に泥舟で記してゆく。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが翳扇かざしおふぎふものであるといふことを樽野が聞き知つたのは彼が青年になつてからのことである、とても果敢ない恋のやうなこともあつたが
籔のほとり (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
一、公儀(信長をう)に対せられ御身上ごしんじやう御理おんことわりの儀、われら請取しやうしゆ申し候でう、いささか以て疎略そりやくに存ずべからず候事。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ようやくの思いで塚田村を無事に通り越すと、今度は、丘というよりは寧ろ小山とうべき段々の麦畑が積み重って行く坂を登って、猪鼻村に降りるのである。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
『そうだ。たとえ一振でも、末代に残る銘刀めいとうわれる刀をたぬうちは、この足を、二度と、信州へは向けねえぞ』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ある、たしか一つはお玉ヶ池とひ、一つはヒョータン池とつたと思ふ……それから」
籔のほとり (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
屯食とんじき——とは遠い時代、握り飯のことをった名と聞いている。屯食たむろぐいという意味から生れた言葉であろう。だが、ここの「どんじき」とは一体何か。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
艪を漕ぐのには川底が浅すぎる、棹をさすのには流れが速すぎる——そのやうな川を渡るために、岸から岸へ綱を引き、乗手は綱を手繰つて舟をすすめる、これを繰舟くりふねの渡しとふ。
繰舟で往く家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
聟どのが着座すると程なく、花嫁の寧子は、物吉ものよしの女とう世話女﨟じょろうに導かれて、聟どのの隣へ音もなく坐る。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ずつと此方の方は、またトータルで足柄山とふんだがね、金時山は何れかな?」
籔のほとり (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
外道、羅刹らせつの名をもってして、まだいいたらぬ気がするわ! それでもおぬしは人間か、いや、この国の山ざくら花とついわれるさむらいといえるかどうじゃ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、十日ばかり前父と一処の席で出会つた若いトン子とふ芸者が好きになつて、またトン子に会へると思つて内心大いに喜んでゐたのだつた。そして斯ういふ機会の来るのを待つてゐたのだ。
父を売る子 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
この新介は、城内の片隅に、質子構ちしがまえとわれる小さい一棟を当てがわれて住んでいた。戦国の世のならいで、強国の城廓には、幾人も他国の質子が養われていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
英雄エイユウふ普通名詞があるんで弱る。」
父を売る子 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
人にも語らず、げきの文にもそれはえないことだったが、光秀の心事というのは、実にこうであった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗やみ坂とでもいそうな、木下闇このしたやみを登りきると、山の上には、まだ西陽があたっていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ、これから流儀は、巌流とおう、一刀斎の一刀流などより、遥かにいい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神子上典膳みこがみてんぜんっていたが、関ヶ原の戦後、秀忠将軍の陣旅で、剣法講話をしたのが機縁で、幕士に加えられ、江戸の神田山に宅地をもらって、柳生家とならんで師範に列し、姓も
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折れるか、折れないか、自分等の作刀さくとうを試す会だとはっているが、その目標が、無名鍛冶の山浦真雄にあることはいう迄もない。——途々みちみち、嘉兵衛の口から、そんな事情を聞かされると、環は
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、石舟斎——その頃は、まだ柳生宗厳むねよしっていた彼へ話した。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
があるとかって、その度ごとに、江戸の同志が集まった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)