)” の例文
召使に茶をれさせ、ほっとして窓に倚ると、障子に青白く光りがさしている。あけてみると十三夜あたりのきれいな月が出ていた。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
西谷と私がそうして打解けて話していることが、娘には大変に嬉しいらしく、何時も娘は私達のところへ茶をれて出て来るのであった。
「へエ、來ましたが、お茶をれて上げると、喉が乾いて面倒臭せえから水をくんろ——と言つてね、柄杓ひしやくで一杯飮んで——」
「あれ、私の方から持ち込んだ話ですもの、お世話も何もありゃしませんけど……」と口籠くちごもるところへ、娘のお仙は茶をれて持って来た。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
おようがお茶をれに立ったので明はちょっとの間、初枝と差し向いになっていた。明はつとめて相手から目をそらせていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
姉は茶をれる。土産の包を開くと、姉の好きな好きなシュウクリーム。これはマアおしいと姉の声。で、しばらく一座はそれに気を取られた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
綺麗きれいつくつてからかへると、つま不図ふと茶道具ちやだうぐともなかとをわたしそばはこんで、れいしとやかに、落着おちついたふうで、ちやなどれて、四方八方よもやまはなしはじめる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
板谷との長閑のどかな間柄が恋いしくなって来る。きんは、がっかりした気持ちで、しゅんしゅんと沸きたっているあられの鉄瓶てつびんを取って茶をれた。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
私を呼ぶつもりで、茶の間で茶でもれているらしい嫂の気配を感じると、私は大急ぎで床をとって、寝てしまいました。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ばあやは近所へ買物に行ったということで、老人は自身に茶をれたり、菓子を出したりした。ひと通りの挨拶が済んで、老人は機嫌よく話し出した。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二日目の晩、ある大きな駅に汽車が停ったとき、この神経質な紳士は熱い湯を汲みに行き、自分で茶をれ始めた。
月夜の松濤庵しょうとうあんに清流を汲んで茶をれ、何かないかと戸棚を捜したら一袋の掻餅が出て来た、それを泉鏡花氏が喜んで食べた、ということが書いてある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ぜんを引かせて、叔母の新らしくれて来た茶をがぶがぶ飲み始めた叔父は、お延の心にこんなったわだかまりが蜿蜒うねくっていようと思うはずがなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
座についた彼らに、はいって来て女中が茶をれた。彼女はさがりがてに、ひざまずいて障子を閉めようとした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「イヤこれはこれは、今日は全家うちじゅうが出払って余り徒然つれづれなので、番茶をれてひとりでうかれていた処サ。」と。
立った序にとて、弟は茶をれかえ、今度は自分で新しく桶から出した山独活を鉢で勧めまして、なおも話の続きから私たちを逃すまじき粘りを見せています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女は茶をれると、砂糖を使いすぎたと言って叱られ、小説を読んで聞かせると、こんなくだらないものをと言って、作者の罪が自分の上に降りかかって来る。
光明寺の和尚さんは、伏見から取り寄せた駿河屋の羊羮で、宇治の玉露をれて飮むのを樂んでゐた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あとは実験室の片隅でやすりがけや盤陀はんだ付けで小さい実験装置の部分品を作ったり、漫談に花を咲かせたり、時にはビーカーで湯をわかして紅茶をれて飲んだりしていた。
要らないお茶をれたり、プロレスのように両脚で私の首をはさんで引き倒したりするのだ。
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
その湯でれた毒入りの茶を、一杯また一杯と重ねながら、つい今しがたまでジノーヴィー・ボリースィチは、どうにか一家のあるじの沽券こけんをみずから慰めていたものだったが
モカ系のコーヒーで、丁寧にれてあって、これは中々東京には無い味だった。
神戸 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
何でも昨日きのふ医者が湯治が良いと言うてしきりに勧めたらしいのだ。いや、もう急の思着おもひつきで、脚下あしもとから鳥のつやうな騒をして、十二時三十分の滊車きしやで。ああ、ひとりで寂いところ、まあ茶でもれやう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「お茶でもれよう、遊んでおいで。叔父さんも帰って来ようからね」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「えらい済んまへんが、珈琲六人前れたっとくなはれ」
雪の夜 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
けい ええ、でも、お茶くらいれますよ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
そして、自分でれて勧めた。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
濃くれし緑茶を所望しょもう梅雨つゆ眠し
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
おうめにお茶をれて、と云いながら、おみきは喜六を家へ招き入れた。その家は六じょうと四帖半二た間に、かわやと勝手という造りだった。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平次は、口ほどには驚く色もなく、そのまゝ庭へさそひ入れて、お靜に茶などをれさせるのです。まことに自若たる姿です。
「お茶でもれましょうか?」ひざの上で何やら本を読み出していたお照が、ふいとその本から目を上げて、弘に言った。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
小野は自分の花嫁でも来るような晴れ晴れしい顔をして、「どうだ新さん待ち遠しいだろう。茶でもれようか。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
れたてのコオフィ一杯で時々朝飯ぬきにする時があるが、たいていは、紅茶にパンに野菜などの方が好き。このごろだったら、胡瓜きゅうりをふんだんに食べる。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そして私の旅行話に興味を持ったらしく、小形の地図なぞを出して、フムフムと相槌あいづちを打っていましたが、そのうちに例の娘は珈琲コーヒーれて、運んで来てくれました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
老人は自分で起って、忙しそうに茶をれたり、菓子を運んで来たりした。それがなんだか気の毒らしくも感じられたので、私はすゝめられた茶をのみながら訊いた。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お延は仕方がないので、茶をえるのを口実に、席を立とうとした。小林はそれさえさえぎった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そののち女は紅茶をれ、簡単な食事をつくって帰った。次の土曜日にも、女は来た。
愛のごとく (新字新仮名) / 山川方夫(著)
「紅茶をれましたからお上んなさい。少しばかりくりでましたから」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ある朝私は自分の部屋で、紅茶をれて飲んでいた。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
茶をれようとする妻に手をふって云った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
老僧は茶をれながら言つた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
清、茶をれてもってくる。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
十時になったとき珍しく鈴が鳴り、「茶をれてまいれ」と命ぜられた。都留は茶菓を運びながら、それとなくその座のようすを見た。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ヘエ、来ましたが、お茶をれて上げると、喉が渇いて面倒臭えから水をくんろ——と言ってね、柄杓ひしゃくで一杯飲んで——」
やがて友達の引き揚げて行った座敷に、夫婦はしばらく茶をれなどして、しめやかに話しながら差し向いでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうして茶をれ、机の上の色々なものに触れてみる。「御健在か」と、そういてみる気持ちなのだ。ペンは万年筆を使っている。インキは丸善のアテナインキ。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そのときおばさんがお茶をれて持ってきた。そしてあらためて私に無沙汰ぶさたびやら、手みやげのお礼などいい出した。無口なおじさんも急にいずまいを改めた。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
まあ、折角の御馳走ですから、番茶でもれましょう。湯ももう沸いたようです。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時婆さんがようや急須きゅうすに茶をれて持って出た。今しがた鉄瓶に水をしてしまったので、煮立にたてるのに暇が入って、つい遅くなって済みませんと言訳をしながら、洋卓テーブルの上へ盆を載せた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小間使いが茶をれて持って来た。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)