)” の例文
栃木県益子ましこ窯場かまばで長らく土瓶どびん絵附えつけをしていた皆川マスというお婆さんのことは、既に多くの方々も知っておでの事と思います。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「これ太郎! どこにいる。お前はまた家の勇を泣かせましたねえ、太郎、さあ私がお前さんをいじめて上げるから、おでなさい」
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
当主の丹下という人は今年三十七の御奉公盛りですが、病気の届けでをして五六年まえから無役の小普請入りをしてしまいました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
枕辺まくらべ近く取り乱しあるは国々の詩集なり。その一つ開きしままに置かれ、西詩せいし「わが心高原こうげんにあり」ちょう詩のところでてその中の
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
陶器なるが故に聡明な諸氏もうかうかしていられるが、これを画に移して、ある方法のもとに名画が生まれづるかを考えられたい。
「そうです。だから特に貴方におでを願ったので——この告白を是非貴方に聞いて頂きたかったのです。私は元検事のドルーです」
自責 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
でも、あなたの御深切しんせつが、今ではもう、妾には忘れ難いものになって了った。あなたのおでなさらぬ夜が淋しく感ぜられさえする。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はや雲深くとざされ、西穂高が間々まま影を現わすより、蒲田がまた谷へ下りかけた事と知れ、折り返して頂上にで、東北へと尾根伝いに下る。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
ルッソオでて始めて思想は一変し、シャトオブリアンやラマルチンやユウゴオらの感激によって自然は始めて人間に近付けられた。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
誰かが『徒然草』の好い注解本をはなわ検校けんぎょう方へ持ち行きこの文は何に拠る、この句は何よりづと、事細かに調べある様子を聞かすと
あなたがおでになったら、お話し申すつもりで、今日はお出でか明日はお出でかと、実は家中がお待ち申したのですからどうぞ……
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
呉傑ごけつ平安へいあんは、盛庸せいようの軍をたすけんとして、真定しんていより兵を率いてでしが、及ばざること八十里にして庸の敗れしことを聞きて還りぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
矢場にはすでに弓道師範日置へき流に掛けては、相当名のある佐々木源兵衛が詰めかけていたが、殿のおでと立ちいでてうやうやしく式礼した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
執刑しっけいは、佐々木入道道誉に申しつくる。なお道誉には、その儀、果たし次第、早々、鎌倉表へ身のみにて、まかずべきこと——」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みね「大きな声をしたっていゝよ、お前はお國さんのところへおでよ、行ってもいゝよ、お前の方であんまり大きな事を云うじゃアないか」
かねて仰せだされ候通り、一橋中納言殿ひとつばしちゅうなごんどの御相続遊ばされ、去る二十日より上様うえさまと称し奉るべきむね、大坂表において仰せ出だされ候。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その翌日またキーチュ川に沿うて行くこと二里ばかりにしてその川原にで、その川原を二里進んでネータンという駅に着きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
夕涼ゆふすゞみにはあしあかかにで、ひかたこあらはる。撫子なでしこはまだはやし。山百合やまゆりめつ。月見草つきみさうつゆながらおほくは別莊べつさうかこはれたり。
松翠深く蒼浪遥けき逗子より (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
多少の学術を愛し、書を読み——多くは経済法律の初歩を学びて、しかして喋々ちょうちょう大問題を論ず。その眼界は法律政治の外にでず。
武士道の山 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ただ亡児のおもかげを思いずるにつれて、無限に懐かしく、可愛そうで、どうにかして生きていてくれればよかったと思うのみである。
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
でては家中の若侍たちに嘲弄ちょうろうされ、入ってはお不由の卑しめを受ける、しかも黙ってそれを忍ばねばならぬのだ、——何故であろう。
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
されど、とにもかくにも此のまま過ぎ行くは、死ぬべき道に立行たちゆくにて、立帰る期のあらざるを、いかでかその術を行いてよ。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
惜哉おしいかな東洋半開の邦に生れたるを以て僅に落語家の領袖おやだまよばれ、或は宴会に招かれ或は寄席よせで、一席の談話漸く数十金を得るに過ず
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
「何をぼんやりしているの。早く馬をつかまえておでよ。」と、もって来た手袋の先でじょうだんにちょいと肩をたたきました。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
キルマンセッグ男爵は進みでて、恐る恐る「ヘンデルにござります。陰ながら今日の御盛典を祝して、あの音楽を指揮しております」
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ところ厚利こうりづるものなるに、これくに名高めいかうもつてせば、すなは無心むしんにして事情じじやうとほしとせられ、かなら(六三)をさめられざらん。
この拘束あればこそ俳句の天地が存在するのであります。いったん俳句の門に入って後にはまた格に入って格をずるの法もあります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
父と下町へ行くのはいつも私の楽しみにして居たことで、此日もかういはれるとうれしくてたまらず、父の手にひかれてイソ/\行升ゆきました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
今の苦労を恋しがる心もづべし、かく形よく生れたる身の不幸ふしやはせ、不相応の縁につながれて幾らの苦労をさする事と哀れさのまされども
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「嘘だてえ、手前こそ嘘だ。前におでの坊ちゃん方が皆ああやっておっしゃっておいでじゃねえか。食べたんだろう、この野郎」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
いかに時頼、人若ひとわかき間は皆あやまちはあるものぞ、萌えづる時のうるはしさに、霜枯しもがれの哀れは見えねども、いづれか秋にはでつべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「三村さんですか。お嬢さまは療養所へ行っておでなさいますがね、もうお帰りなさる時分ですよ。どうぞお上がりなすって……。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あの乃木さんの死というものは至誠しせいよりでたものである。けれども一部には悪い結果が出た。それを真似して死ぬ奴が大変出た。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしの考では若しイエスがまだ生きておでなされたなら、あなたがわたくしの所へお出でなさるのを、おさえぎりなさる事でしょう。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かどの戸引啓ひきあけて、酔ひたる足音の土間に踏入りたるに、宮は何事とも分かず唯慌ただあわててラムプを持ちてでぬ。台所よりをんなも、出合いであへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
類品るゐひんよりでたれど此所ここげたるものは武藏荏原郡大森貝塚より出でたるなり。骨器の類は此他種々れどはんいとひてしるさず
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
途々みちみち喰べながらおで、遠いから路を間違っちゃいかんよ、そのうちわしもまたすきをみてあがるからって家に帰ったら言っておくれ」
さて最初さいしょ地上ちじょううまでた一人ひとり幼児おさなご——無論むろんそれはちからよわく、智慧ちえもとぼしく、そのままで無事ぶじ生長せいちょうはずはございませぬ。
親が子をねたむということ、あるべしとは思われねど、浪子は良人おっとの帰りし以来、一種異なる関係の姑との間にわきでたるを覚えつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
為世はそれに対しては「万葉集の耳遠き詞などゆめゆめ好み読むべからず」と一本くぎをさして、「詞は三代集をづ可らず」を固く守る。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「かれくろがねうつわを避くればあかがねの弓これをとおす、ここにおいてこれをその身より抜けばひらめやじりそのきもよりで来りて畏怖おそれこれに臨む」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「ほんとうに長い間お見えになりませんでしたのね。箱根へおでになったって、新聞に出ていましたが、行らっしゃらなかったの。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この日も終日私は船室をでず、夕飯ゆふはんの時からうじて食堂に参りさふらひしが、何ばかりの物も取らず人目醜きことと恥しく思ひ申しさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
初めてぐううしのうて鰥居無聊かんきょむりょうまたでて遊ばず、ただ門につて佇立ちょりつするのみ。十五こう尽きて遊人ゆうじんようやまれなり。丫鬟あかんを見る。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
客は微笑ほほえみて後を見送りしが、水に臨める縁先に立ちでて、かたえ椅子いすに身を寄せ掛けぬ。琴の主はなお惜しげもなく美しき声を送れり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
割合に身が大きく命を取留めた魚は川下に下れる限り下つたのもあり、あるものは真水のづるところにかたまつてあへいでゐるのもある。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
では、次に明治時代にはいって、大衆的なる文芸として、先ず最初にんなものが現れでたであろうか。否、現れざるを得なかったか。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「よろしゅうございます。こちらへおで下さい。ただ今丁度ひるのやすみでございますが、午后の課業をご案内いたします。」
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
『おとといおで』と彼女は、心のなかでつぶやいた。その顔には微笑がただよい、息づかいは、罪のない幼な児のように安らかだった。
「おお潤一か、よくまあお使いに行って来てくれた。さあ上って火の傍におで。ほんとうに夜路は淋しかったろうに、感心な子だねえ」
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)