)” の例文
そのアーチのあいだには、鉄のわくどりがさながらくもののように一面に組みあげられて、それにガラスがはめこんでありました。
大気は死んだようにそよりともせず、長い蜘蛛のが栗の梢から地上に力なく垂れ下がったまま、じっと揺れずにいた。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
暁の冷い空気が顔をつ。臭橘からたちの垣の蜘蛛のに留まつてゐる雨の雫は、矢張真珠のやうに光つてゐる。藪には低いもやが漂うてゐる。八は身慄みぶるひをした。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そうなると男は女恋しさをいよいよ切に感じ出し、袖にかかるくもを払いながら、山吹の茂みのなかを掻き分けていった。男はもう一度空しく女の名を呼んだ。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
機械を調べてみると、何とかいうあの蜘蛛のの形をした捲線まきせんが新しく取換えられてあるのである。
ラジオ雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こしかけに坐ったまま板縁の地図へずっと手をさしのばして、そのこまかく図してあるところより蜘蛛くものように画かれた線路をたずねながら、かなたこなたへコンパスを歩かせているうちに
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
道翹だうげうくもはらひつゝさきつて、りよ豐干ぶかんのゐた明家あきやれてつた。がもうかつたので、薄暗うすくら屋内をくない見𢌞みまはすに、がらんとしてなに一つい。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
道翹はくもを払いつつ先に立って、閭を豊干のいたあき家に連れて行った。日がもう暮れかかったので、薄暗い屋内を見廻すに、がらんとして何一つない。
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
竹藪の奥のつめまで来た。ここからは障子をはづしてある八畳の間が見える。ランプの光は、裏の畠のさかひになつてゐる、臭橘からたちの垣を照して、くもに溜まつた雨のしづくがぴかぴかと光つてゐる。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蜘蛛くもを張って虫の掛かるのを待っています。あれはどの虫でも好いのだから、平気で待っているのです。若し一匹のまった虫を取ろうとするのだと、蜘蛛の網は役に立ちますまい。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)