)” の例文
このやみなかに、ただ一つきているもののごとくおもわれたものがあります。それは、半丁はんちょうおきごとにともされている電燈でんとうでありました。
唯一の憧れであった蕗子が死んでみれば放浪に出ることなんか意義のないことで、免訴になったところで何のがいがあるでしょう。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
このごろはめっきりとしをとって、こんどまたおうといっても、それまできていられるかおぼつかない。ああ、ざんねんなことだ。
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
自分はその後に続く言葉を言わないでもただ奎吉けいきちと言っただけでその時の母の気持をきいきとよみがえらすことができるようになった。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
たふうへにははとあそぶさうである。く。花屋敷はなやしきをのがれたざうたふしたきた。ざう寶塔はうたふにしてしろい。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……しかし久しい間、つい隣国に、こんどりになった虎が穴居けっきょしておりましたので、折々、好まぬ相手にもなっておりましたが
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おかみさん、きてるよ、金いろだよ、美しいよ。まるで清い小さい心の臟だ、蝋の涙だ。蝋と愛と死のこの香がしないのかねえ。
わるい花 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
なにじつふと、二十ねんも三十ねん夫婦ふうふしわだらけになつてきてゐたつて、べつ御目出度おめでたくもありませんが、其所そこもの比較的ひかくてきところでね。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その上でたずねてみると、どうも様子がおかしい。ついに正体が露見ろけんするが、結社の本部を知られてはもうかして置けぬということになる。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その靈魂れいこんきてゐる人間にんげんるいことをしないために、足部そくぶをまげてしばるといふことがあつたものとかんがへられるのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
母親は二階のとこの間に、ゆるような撫子なでしこと薄紫のあざみとまっ白なおかとらのおといろいこがねおぐるまとをぜてけた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
食料くひものしがるなんちごふつくばりもねえもんぢやねえか、本當ほんたうばちつたかりだから、らだらかしちやかねえ、いやまつたくだよ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
子供こどもあたまには、善良と馬鹿とは、だいたい同じ意味いみの言葉とおもわれるものである。小父おじのゴットフリートは、そのきた証拠しょうこのようだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
「ええ……そうですね。それはたしかに、あたりまえですが……そのきていたときには、元気げんきにひらひらおよいでいたといいましたから……」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
見つけ出してその木をいて取り出してかして、その子に仰せられるには、「お前がここにいるとしまいには大勢の神にころされるだろう」
みなさんこんないろ/\のわけをおはなししたら、われ/\がおたがひに、いまそだつてゐるすべての老樹ろうじゆ名木めいぼくを、ます/\大事だいじにして
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「おたがひに、明日あす生命いのちもしれない、はかないものなんだ。なんでも出來できるうちにはうがいいし、また、やらせることだ」と。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
へえ、これは、その、いえまえとおりますと、まきがきにこれがかけてしてありました。るとこの、しりあながあいていたのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
段段先方むかうでは憎しみを増し、此方ではひがみが募る。意地を張つても、悲しいことには、彼女の一家は人のなさけと憐みとできなければならない。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「このお人は生きてござんす、その片腕を切られたのは、このお人ではござんせぬ、薬を飲まして呼びけて上げましょう」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まことに畏しかつたことを覚えない郎女にしては、初めてまざ/″\と圧へられるやうなこはさを知つた。あゝあの歌が、胸にかへつて来る。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
木曾は愈〻勢ひに乘りて、明日あすにも都に押寄せんず風評ふうひやう、平家の人々は今は居ながらける心地もなく、りとて敵に向つて死する力もなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
すると向うからお嬢さんが一人ひとりがきに沿うて歩いて来た。白地のかすりに赤い帯をしめた、可也かなりせいの高いお嬢さんだつた。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『だつてあなたは、わたしがやつぱし、ちゝのいふ意味いみ幸福かうふく結婚けつこんもとめ、さうしてまた、それに滿足まんぞくしてきてられるをんなだとしかおもつてない……』
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
そりゃァもう仙蔵せんぞうのいうとお真正しんしょう間違まちげえなしの、きたおせんちゃんを江戸えど町中まちなかたとなりゃァ、また評判ひょうばん格別かくべつだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
青黒い滑々ぬめぬめしたあの長細いからだが、なわの様に眼の前に伸びたり縮んだりするのは、見て居て気もちの好いものではない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それに、この家には、おばさんがひとり住んでいるだけですが、あのおばあさんは、ものをつかまえたりはしませんよ。
くじに当たった男は新平しんぺいというわかい力持ちの男だった。りょうに行って穴熊あなぐまりにしたことのある男で、村でも指りの度胸のいい男であった。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
何を探すのかもらずにたゞ探しました。今になつて思つてみれば、それはきようとする要求にほかなりませんでした。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
この至情しゞやうをあざけるひとは、百萬年まんねんも千萬年まんねんきるがい、御氣おきどくながら地球ちきうかはたちま諸君しよくんむべくつてる、あわのかたまり先生せんせい諸君しよくん
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
事実上じじつじょうこまかい注意ちゅういのこりなくおはつからおしえられたにしても、こんなときかあさんでもきていて、そのひざかれたら、としきりにこいしくおもった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(笑ふ)戲談じゃうだんいまとなってほんことになったとおもふと! ほんに/\、千ねんきたとても、これがわすれられることかいな。
そのつぎにはがきがあって二つの土蔵があって、がちょうの叫び声がきこえる、それはこの町の医者の家である。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それから、小さいニールスは、家も食べ物も何もない、野のき物たちと生活をともにして、小さな生き物たちのくるしみやかなしみをつぶさに知ります。
そのときの一ねんふかふかわたくしむねんで、現世げんせきているときはもとよりのこと、んでからのち容易よういわたくしたましいからはなれなかったのでございます。
もし、おとうさまがきておられたら、おまえは、いまごろは、どこかのおてらぞうさんになっているところだよ。
きていればね。だが、おそらくんでいるだろう。目に見えないねこに、えさをやる人もいないだろうからね」
うつくしといもはやねやもけりともわれるべしとひとはなくに 〔巻十一・二三五五〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
泣きたくなるような気持で、またションボリと家へはいると、ただ一人つけられている若い女中が背戸口から秋草を取ってきて、床の間にけています。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もうきがいのないわたし、あなたが殺されなけりゃわたしが殺す……。こうさけんで母は奥座敷おくざしきへとびった。……礼子れいこ下女げじょごえあげてそとへでた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
りょうのたたりであろうか、もしかしたら故郷に捨ててきた妻が怨霊おんりょうとなってたたりをしているのであろうかと、正太郎は、ひとり胸をいためるのだった。
ちょうど片目の魚がにえのうちからおそれ敬われたように、後々神の御身につく布である故に、その機の音のするところへは、ただの人の布を織る者は
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ついで政右衛門はひそかに戸外へ忍び出て、雪の上に倒れた妻を呼びける。前段の苦悩によって不当に緊張させられた心が、ここにおいてややくつろぐ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
若し眞似をしようと思つたら、お手本よりも一枚上手うはてに出て、まんまと自分の肚の藝にしかしてしまふに違ひ無い。さういふひえもんを持つて生れた人だ。
机の上には、置時計と、きれいな花をけたむらさき色のガラスの花びん、筆立てなどが置いてあります。その置時計の針は、もう十時半をさしていました。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「こりゃ、生れぞくない——今、門倉うじおおせの通り、汚らわしい身を以って、剣法をもてあそぶ奴、けては、この場を立たせぬのだ。覚悟するがいいぞ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
しかし、とうとうやっとひとつ、からけ、それからつづいて、ほかのもれてきて、めいめいのたまごから、一ずつものました。そしてちいさなあたまをあげて
ひよつくりへんてこなゆめなんかをてね、平常ふだんやさしいこと一言ひとことつてれるひと母親おふくろ親父おやぢあねさんやあにさんのやうにおもはれて、もうすこきてやうかしら
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おしつまって来るほどに匆忙そうぼうとして日は暮れる、とこけてある水仙——もしくは鉢に植えてある水仙——も、その多忙のために余りかえりみる人がなくって
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
黒い風呂敷を冠せられている枕元の電気スタンド……床の間に自分がけた水仙の花……その横の床柱に
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)