)” の例文
してゐる。しかし僕はら々々するのだ。それはロツクの目から見れば、或は一歩の差かも知れない。けれども僕には十マイルも違ふのだ。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いましがたまでの何か自分にもわけの分らないような気分が私にはだんだん一種のたしさに変り出したように見えた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ら立つた心をおさへて、もう終末の来る断定だけで、富岡はゆき子のそばへ歩み寄つた。鸚鵡あうむのやうにもう一度
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そのら立った肱金の恐ろしい響きは、地震のように全家を揺り動かさないではおかなかったろうと彼には思えた。
(立ち上る。部屋の隅へ行ってレコードをかける。低い音)あなたの話を聞いてるとよけいらするわよ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
鷲尾はらだった顔色で、懐中の子供を揺すぶり歩きながら、裏口の方をセカセカとのぞいてみる。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
近所の悪たれ小僧共にじめられては女の子に同情される役だ。あれはいいね。君だって覚えがありやしないかな。君の少女時代に近所にそんな子が一人位いたろう。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
彼女と話をすると、彼は心がやわらぎ休らうのを感じた。ただ彼女と会うだけでも十分だった。不安だの、焦燥だの、心をしめつけるら苛らした懊悩おうのうから、解放された。
私はらしてきた。それで女中を呼んで、チョコレートをくれと大きい声で怒鳴りつけてやった。その時私は紙巻煙草を吸っていた。落ちつかない心地で続けて二本目のに火をつけた。
蠱惑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
せぬ顔をしながらも勝手元へ立って行ったが、しかし私はもう兄と口をきく気もしなかった。ただら苛らしくて苛ら苛らしくて、胸がムシャクシャして身の置きどころもないようであった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
こゝろられのさるゝものは散曾さんくわいぎてむかひのくるまかぞれたし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
主人あるじは、むら/\とれて、はや追退おひのけようより、なにより
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、そのときの菜穂子の揶揄するような眼ざしには圭介をらさせるようなものは何一つ感ぜられなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私はら立ってはいません。私はこれから仕合わせになるのをよく知っています。夜通し私は、何か白いものを、そして私に笑いかけてる人たちを見ました。
手いっぱいに仕事をしないで家の入口で欠伸あくびばかりしてるようなそんな人たちを見ると、気がら苛らしてくるなどというようなことを、聞えよがしに高い声で言っていた。
僕は勿論もちろんらして来た。しかしその底に潜んでいるのは妙にわびしい心もちだった。僕はいつか外套の下に僕自身の体温を感じながら、前にもこう言う心もちを知っていたことを思い出した。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
諏訪 ああ、らしてくるわ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
が、私は傍らの椅子に腰かけたまま、その手帳を無雑作に手に丸めて持ちながら、一種たしいような気持で、爺やが薪を焚きつけているのを見ている外はなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それから、小さくはあったが彼はら立ってきて、ほとんど脅かすような様子になった。
彼はら立っていたが、しかしあえて逆らいはしなかった。晴れのわざをやるんだと考えていたから。そして得意でもあったが心配でもあった。そのうえ、皆から大事にされていた。
が、私は傍らの椅子に腰かけたまま、その手帳を無雑作に手に丸めて持ちながら、一種たしいような気持で、爺やが薪を焚きつけているのを見ている外はなかった。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いよいよクリストフがやって来るという数日の間、彼女は待ち焦れてらしていた。家が彼の気に入らなくはないだろうかと心配して、できるだけ彼の部屋をきれいにしようと骨折った。
私はなんだかまだらしたような気分のままその娘を帰してしまったが、それから暫らくするとその事をいくぶん後悔し出しながら、再びなんと云う事もなしにヴェランダに出て行った。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
最初、それは何か明に対して或感情を佯っているかのような漠然とした感じに過ぎなかった。彼が自分の前にいる間じゅう、彼女は相手に対してとも自分自身に対してともつかず始終っていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)