)” の例文
けれども帽子をかぶらない男はもうどこからも出て来なかった。彼は器械のようにまた義務のように何時もの道をったり来たりした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
井戸辺いどばたに出ていたのを、女中が屋後うらに干物にったぽっちりのられたのだとサ。矢張やっぱり木戸が少しばかしいていたのだとサ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
郡教育会、愛国婦人会、其他一切の公的性質を帯びた団体加入の勧誘は絶対的に拒絶する。村の小さな耶蘇教会にすらもほとんかぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それが大きな船の多人数でなく、またしばらく島人の中に住んでいて、やがてかえってったという話も一、二ではなかったように思う。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
時々わっち合口あいくちだもんだから、長次こうと仰しゃってお供で来るけれども、何うかすると日暮ひくれ方から来て戌刻前よつめえけえる事もあるし
先年或る高等官が大病にかかった時、私の友人の学者連が二、三人で病気見舞にってその帰りにここへ寄った。その時の話しに驚く。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「そない言はんと、せめて秋まで延ばしなはらんかいな。そのうち千日せんにちへでもて、おもろい奇術てづまを見てからにでもしたらうや。」
しかし泉太も繁もこの下宿へ移って来たことをめずらしそうにして、離座敷から母屋おもやの方へ通う廊下をしきりにったり来たりした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それで諸君が東京のうし御前ごぜってごらんなさると立派な花崗石かこうせきで伊藤博文さんが書いた「天下之糸平」という碑が建っております。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
踊を見にっても好いかと、お母様に聞くと、早く戻るなら、往っても好いということであった。そこで草履を穿いて駈け出した。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこへて、くらまぬで、わしするあるかほとローザラインのとをお見比みくらべあったら、白鳥はくてうおもうてござったのがからすのやうにもえうぞ。
吹雪のときは日中でさえ、善く知っている道に出ながら、どっちにったら村に出られるやら見当がつかないことがしばしばある。
我かならず三二万歳をうたふべしと、きて香央に説けば、彼方かなたにもよろこびつつ、妻なるものにもかたらふに、妻もいさみていふ。
がシカシ君のこったから今更直付じかづけににくいとでも思うなら、我輩一の力を仮しても宜しい、橋渡はしわたしをしても宜しいが、どうだお思食ぼしめし
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
人樣に辛抱人しんばうにんほめたのが今となりては面目めんぼくない二階へなりときくされつらみるのも忌々いま/\しいと口では言ど心では何か容子ようすの有事やと手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼はいつも子供の宿とまったときに限ってするように、また今日も五号の部屋の前をったり来たりし始めた。次には小さな声で歌を唄った。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
舞台の下手まで来て「あゝ、草臥くたびれた/\」と腰を伸し、空を見上げて「まだ日が高けえや、一服つてかう」と下手の床几しょうぎに腰を掛け
沛然はいぜんとして金銀の色に落ちて来た、と同時に例の嫁入よめいり行列の影は何町なんちょうったか、姿は一団の霧に隠れてらにすかすも見えない。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
彼はベッドのそばったり来たりしながら、葉子をなじった。葉子はそれについては、弁解がましいただの一言も口にしなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
庄造はきょうあることに思って、うちの中から食物を持って来て投げてやった。と、狸はうまそうにそれを食ってからってしまった。
狸と俳人 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから思うと彼得堡ペテルブルグ、たいしたもんだ! うそとおもうならッてみるがいい、お前たちが夢に見たこともないけっこうなものばかりだ。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
監視課の事務所の前を来たりったりする人数は絡繹らくえきとして絶えなかったが、その中に事務長らしい姿はさらに見えなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「おとぼけなすっちゃいけません。やみのない女護にょごしま、ここから根岸ねぎしけさえすりゃァ、をつぶってもけやさァね」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
僕はははの國になむとおもひて哭くとまをししかば、ここに大御神みましはこの國になとどまりそと詔りたまひて、神逐かむやらひ逐ひ賜ふ。
すると、紆余曲折うよきょくせつしばらくったところに右手の埋れ木にきざんだ文字と地図。あっと、ロイスが胸をおどらせてみれば……。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「しかしその人はどこに居るか」と言ったところが「ナムサイリン(兄の別宅)というところにって居る」という返事です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
で船を出る時、船頭にむかって三人分の賃金を払って今僕の外に二人ほど友人が乗り込んでいたから……といって岸に上ってったと書いている。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なべから鍋へとったり来たりして、味をみ、意見を述べ、確信ある調子で料理の法を説明していた。普通なみの料理女はそれをかしこまって聞いていた。
イエスはただちに弟子たちに向かって、先にベッサイダにっているよう命じ給うて、御自分は一人で群衆を返されました。
ところの名はわからないが、その部落まではき帰り十日ほどの距離だという。残った二人はなお砂金を採りながら待った。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
学校のかいりなぞに出遭であうことありましても、何や気イさして、前みたいに顔しげしげと見守ること出来しませなんだ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
貧乏な、しかしさっぱりした、品のいたち先生。ちょこちょこと、道の上をったり来たり、溝から溝へ、また穴から穴へ、時間ぎめの出張教授。
が、二分っても、五分過ぎても、冷凍船虎丸タイガーまるの火薬庫は爆発しそうにもなく、本船は悠々潮流に乗って、可成かなりの速さで、僕等を遠ざかってく。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
こんな山の中で休むより、畑へってから休もうというので、今度は民子を先に僕が後になって急ぐ。八時少し過ぎと思う時分に大長柵の畑へ着いた。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
江戸から京大阪を通り越して芸州の広島まで、一日のうちにって戻ることができる——こういう説明が、見物のすべての魂を飛ばしてしまいました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
妻美代は臨月に近かったので長女恒と共にとどまって芝口奥平家の邸内なる生家川田氏のもとに寄寓し、十一歳になる男文豹のみが父にしたがって尾張にった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたし今朝けさ急患きゅうかんがあつて往診おうしんかけました。ところがきにもかえりにも、老人ろうじんうちもんが五すんほどひらきかかつていたから、へんなことだとおもつたのです。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
村で一番の金持らしい大きなうちの庭に、幕を張りまはして、祭壇をこさへて、そして村人たちはみな晴着はれぎをきて、忙しさうにつたり来たりしてゐます。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
おらきこの附近あたりに住まふものぢや。われら家にて持つて来るものがおぢやるわ。少時しばしがほどここに待たれよ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
市に接した山村に捜索にって、渓流のほとりに転がっていたものを見つけ出したというのである。鶴見に取って庭師の自慢話は実はどうでも好いのである。
当日は自分は手習いが済むと八ツ半からやり稽古けいこッたが、妙なもので、気も魂も弓には入らずただ心の中で,「もウ来たろうか?」と繰り返していた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
人間が魚をとらなければ海が魚でまってしまうという勘定かんじょうさえあるがそんなめのこ勘定でくもんじゃない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼は線路に付いて三間ばかりって、東の方のレールを枕に仰向あおむけになって次の汽車の来るのを今か今かと待ちつつ、雲間を漏れる星の光りを見詰めていた。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
く時も帰る時も、なりたけお前さんのそばに引っ付いているようにしたのだわ。なんでもお前さんを敵にすると大変だと思ったので、わたし友達になったのよ。
どこまでってもおたがいに全然無関係な散歩者の列が、排他的に散歩のために散歩し、ピカデリイでは
「馬鹿!」忽ち恥かしさうに顏を赤くしてにらみ付け、坐りもしないで、「馬鹿!——早うんで呉れ!」
小君は源氏に同情して、眠がらずにったり来たりしているのを、女は人が怪しまないかと気にしていた。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私は旅行をしても何時も大名旅行をするから年中くことが出来ぬが、共に行く時には一緒に演説者になって何時でも御手伝いをしよう。どうか私の歎願である。
〔憲政本党〕総理退任の辞 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
此女房目をさまし、きものつぶれた顔して、あたりへ我をつきのけ、起きかへつて、コレ気ちがひ、ここを内ぢやと思ひやるか、けぬ先ににや/\と云ふに
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「わしらはあんたがんなんしたあと、いつまでもあんたの事ばかり話していたんぞ」とにこにこする。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)