)” の例文
わたし其時分そのじぶんなんにもらないでたけれども、母様おつかさん二人ふたりぐらしは、この橋銭はしせんつてつたので、一人前ひとりまへ幾于宛いくらかづゝつてわたしました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
けばくほど山がふかくなって、もうどこをどうあるいているのか、まるでらない山の中のみちを、心細こころぼそくたどって行くばかりでした。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しか崖丈がけだけ大丈夫だいぢやうぶです。どんなことがあつたつてえつこはねえんだからと、あたか自分じぶんのものを辯護べんごでもするやうりきんでかへつてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はたけえ、牧場ぼくじょうえてはしってくうち、あたりは暴風雨あらしになってて、子家鴨こあひるちからでは、しのいでけそうもない様子ようすになりました。
「あれから、なア、また○○の」と、先輩の名を擧げて、「とこへて來たんぢや——銀行家なんて、なか/\けちんぼで、なア。」
ちょうど女房と子供が、実家さと餅搗もちつきの加勢にとるけに、この店をば慾しがっとる奴の処へて委任状と引換えに五十両貰うて来た。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
安「オヽ左様か、じゃアみずから稼いで苦しみ、金を貯めてなにかい身形を拵えて江戸へこうと云う訳か、どうも能く離縁が出たのう」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうせあたしは檀那衆だんなしゆうのやうによくするわけにはかないんだから。」——お宗さんは時々兄さんにもそんな愚痴ぐちなどをこぼしてゐた。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
するとだんだんがふさいで、病気びょうきになりました。それから八つきったときに、おんなおっとところって、きながら、こういました。
ところがすこつたとき、嘉十かじふはさつきのやすんだところに、手拭てぬぐひわすれてたのにがつきましたので、いそいでまたかへしました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
四十一ねんぐわつ二十一にち午前ごぜんごろ水谷氏みづたにしとは、大森おほもり兒島邸こじまてい訪問ほうもんした。しかるにおうは、熱海あたみはうつてられて、不在ふざん
老人ろうじんたちは、ごんごろがねわかれをしんでいた。「とうとう、ごんごろがねさまもってしまうだかや。」といっているじいさんもあった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
あいちやんは一ぱうした、一ぱううへと一まいごとしらべてから、その眞中まんなかつてました、どうしたらふたゝられるだらうかとあやしみながら。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いもうとも一げだしたんですけれど、やつぱりつかまつてしまひました。ちやうど大森おほもり鉱泉宿くわうせんやどへつれられてつたときのことでした。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
伊太利イタリイの公使館にいた時、すばらしい別品べっぴんの処へ連れてかれたのに、顫え上ってどうもすることが出来なかったというじゃあないか。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれどその途中とちゅうで、うちの子は授業料じゅぎょうりょう免除めんじょしてもらってるのだったっけ、と思い出した。さわぎをちあげるわけにかなかった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
勘次かんじ利根川とねがは開鑿工事かいさくこうじつてた。あきころから土方どかた勸誘くわんいう大分だいぶうまはなしをされたので近村きんそんからも五六にん募集ぼしふおうじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ですから、われ/\が、あるひとつの土地とちにはえたを、やたらにわきへつてったつて、それが一々いち/\つくわけのものではありません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「ふん。むかしいまもあるもんじゃねえ。隣近所となりきんじょのこたァ、女房にょうぼうがするにきまッてらァな。って、こっぴどくやっけてねえッてことよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
幾許いくら急いで出掛けたつて、何とか一言ひとことぐらゐ言遺いひおいてきさうなものぢやないか。一寸ちよつと其処そこへ行つたのぢやなし、四五日でも旅だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
院長いんちょう不覚そぞろあわれにも、また不気味ぶきみにもかんじて、猶太人ジウあといて、その禿頭はげあたまだの、あしくるぶしなどをみまわしながら、別室べっしつまでった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これが今日こんにちおほくの石器せつき發見はつけんされる理由りゆうひとつでありまして、おかげ私共わたしどもみなさんととも石器せつきさがしにつても、獲物えものがあるわけです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
浜寺はまでらの別荘いてた時分、お互に物いうようになって、或る晩散歩に誘い出されて、海岸に置いたある漁船の蔭に連れて行かれた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どうしたはずみからか、その袖子そでこ金之助きんのすけさんをおこらしてしまった。子供こども袖子そでこほうないで、おはつほうへばかりった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いゝよ親方おやかたからやかましくつてたら其時そのときこと可愛想かあいさうあしいたくてあるかれないとふと朋輩ほうばい意地惡いぢわる置去おきざりにてゝつたと
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其處そこその翌日あくるひ愈〻いよ/\怠惰屋なまけや弟子入でしいりと、親父おやぢ息子むすこ衣裝みなりこしらへあたま奇麗きれいかつてやつて、ラクダルの莊園しやうゑんへとかけてつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しばらくうまと一しょあそんで、わたくしたいへんかる気持きもちになってもどってましたが、そのってにもなれませんでした。
「さあさあ、て来なされ、遊廓は灯ともし頃の宵がよく、もそっとよいのは、黄昏たそがどきかよというげな。武蔵どのも、ておざれ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かない⁉ それはつよい! けれどいまあぶないからいけません、追付おつつ成長おほきくなつたら、大佐たいさ叔父おぢさんもよろこんでれてつてくださるでせう。
いま彼女かのぢよかほをごりと得意とくいかげえて、ある不快ふくわいおものために苦々にが/\しくひだりほゝ痙攣けいれんおこしてゐる。彼女かのぢよつてく。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
第一番だいいちばんに、石造皇子いしつくりのみこはずるいほうさいのあつたかたですから、註文ちゆうもんほとけ御石みいしはちりに天竺てんじくつたようにせかけて、三年さんねんばかりたつて
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
恁うしてさびしい一生を送ツてかなきやならないかと思ふと、僕は自分じぶん將來せうらいといふものがおそろしいやうな氣がしてならない。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「少し失敗しやはつてな。今な、教へさしてあげるよつて、おまはんお君ンとこへておいなはい、行て会うておいなはい。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
そこで早速さつそく理髪店とこやつてそのみゝ根元ねもとからぷつりとつてもらひました。おもてへるとゆびさして、ふものごとわらふのです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
私はある時、一人の行商人たびあきんどから、こういう話を聞きました。その行商人は、十勝とかちの高原のあるところで、夕方、道にき暮れてしまいました。
(新字新仮名) / 久米正雄(著)
するとここに、あやしげなようすをしたものが、このくににさまよってきました。このものは、人間にんげん運命うんめいうらなって、すえのことをかたるのです。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今年ことしみたいに、紅白こうはくはながたんといたとしい。一面いちめんめるやうないろだ。どこへつても垣根かきねうへしゆ御血潮おんちしほ煌々ぴかぴかしてゐる。
ゾオラが偶々たま/\醜悪しうあくのまゝをうつせば青筋あをすじ出して不道徳ふだうとく文書ぶんしよなりとのゝしわめく事さりとは野暮やぼあまりに業々げふ/\しき振舞ふるまひなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「うん、あん時ゃぐうぐうよった。ばってんが、もうだりか醒めとろ。車輛会社もパンクしとらすか知れんくさい。たて見うたて見う。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
日本人がいろんな物をのこしてつたり、わざわざ日本から送つてれたりするので日本品の小さな陳列場コレクシヨンが出来ると云つて夫婦は喜んで居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『繁ちやん、それアおも一緒にいち行きね。た方がいゝが、……土産物みやげもんどんもろちよつたちつまらん。それア行たほがよつぽづいゝが……』
金比羅参り (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「……うらあもう東京イたらじゝむさい手織縞やこし着んぞ。」為吉は美しいさっぱりした東京の生活を想像していた。
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
そんならくが好い。丁度ステーションのそばに何軒か普請中ふしんちゆううちも有るから、煉瓦でも運んで居りや、かつゑもしまい。たゞ酒だけはつゝしむんだぞ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
そこで五人はかけました。おかあさんにちゃんとお約束やくそくをしたので、五人だけでってもいいというおゆるしが出たのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
のびやかで、ひっぱりげるような調子ちようしが、あるてんまでつて、ぴったりとちつきよくをさまつてゐるではありませんか。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あたしだって彼様あんな窮屈なとこくよか、芝居へ行った方が幾らいか知れないけど、石橋さんの奥様おくさんに無理に誘われてことわり切れなかったンだもの。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
無論、この位ならけると思われるかたもあるだろう。が、随分大食と言われる人でも、うんざりだ、と言って降参するほうが多いんじゃなかろうか。
富士屋ホテル (新字新仮名) / 古川緑波(著)
したがつこゝ堅實けんじつなる基礎きそ出來でき以上いじやう基礎きそうへつて今後こんごおほい日本にほん産業さんげふ振興しんこう貿易ぼうえき發達はつたつはかつてくことが、吾々われ/\政府せいふ責務せきむであり
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「うるさかつたのかい。わたしおつかさんの、田舎ゐなかのおてらへお墓参はかまゐりにつたんでね。昨夜ゆうべはやてしまつたんだよ。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
青木さんはそのまゝそこの花床へらつして、草花の若い芽生についてゐる虫を取つたりなさつたが、そのうちにまた表の方へ行つてお了ひになつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)