)” の例文
謙譲のつまはずれは、倨傲きょごうの襟より品を備えて、尋常な姿容すがたかたちは調って、焼地にりつく影も、水で描いたように涼しくも清爽さわやかであった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或る宗徒の一団七、八百人の隊は、残暑のがかんかんりつける炎天へ、半裸体のまま刀槍とうそうを手にふるって、城中から突き出し
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、はるかに続く山の峯にらだたしい思いをのこしながら、夕闇につゝまれた、石の多い坂道をとぼとぼと降りて来た。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
自分はこの死んだような静かさのために、かえって神経をらつかせて、「あの女」の室から三沢の出るのを待ちかねた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちに夜はますます更けて来る、——人々の影はますます少なくなって来る、——彼はますますら立ったもののように、室の中を歩き始めた。
あゝ云う死にようをさせたは伊之助ゆえと思うから、私も煮えるように肝がれてなんねえだが、おめえさんから段々の話で私いだけは勘弁もしようけんど
その声は聞えなかったと見えて、鋸屋は吹雪の闇に一直線に進んでいた。どんどん歩いていた。「どうした? おい?」と、高倉はら立って跳びだした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
富岡は時々、清吉の事を考へると、自分の良心を持ちこたへる事の出来ないらだたしさを感じてきてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
午後じゅう、ひき裂かれた戦跡をめぐって来た伸子の体と心を、いま貫いてらだたせているのは率直な、譲歩のない生への主張だった。巨大な死への抗議だった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
なんともいえない嫌悪の情が彼をら立たせるばかりだった。彼はそこを飛び出して行って畑の中の広い空間に突っ立って思い存分の呼吸がしたくてたまらなくなった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
らして、ヒステリイになったみたいに落ちつかない。死んでも死にきれない思いがする。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかも其声が何となくつて老人のそれに彷彿してゐるのを悲しく感じた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
不断に上ずった、とめどないらだった考えを追いながら、その癖もうシンは疲れきっている感じで、この広い野ッ原のどっかに腰掛ける場所を、休憩する場所を探し歩いている気持だった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
「サア、行こう。ここで愚図愚図してたって仕様がないよ、君」翌朝、さんざん押問答のすえらついてきたダネックが、語気を荒げていう。しかし、ケルミッシュの態度は水のように静かだ。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
年中変らぬ稗勝ひえがちの飯に粘気がなく、時偶ときたま夜話に来る人でもあれば、母が取あへず米を一掴み程十能でつて、茶代りに出すといふ有様であつたから、私なども、年中つぎだらけな布の股引を穿いて
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
雪之丞は、ますます女ごころを、ら立たせようとする。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼はら焦らして怒ったような口調で云った。
魔性の女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
られてのぼりゆく路はなだらに盡きもせず。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
謙譲のつまはづれは、倨傲きょごうえりよりひんを備へて、尋常じんじょう姿容すがたかたち調ととのつて、焼地やけちりつく影も、水で描いたやうに涼しくも清爽さわやかであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(彼は、さう云つてるうちに、だんだんらしはじめる。部屋中を歩きまはる、時々額に手をあてゝ考へ込む。)
昨今横浜異聞(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
けれど、どうしても、どうしても、なお、きただらし得ない、何かがある。かれは、かの君のくろ髪をつかんでも想いを果そうとあせりらだつ。
私は友にこのことを注意しようとすると、彼はら立たし気に何か叫んで、街路の上を見つめ続ける。彼は足をもじもじさせ、また指で壁をたたいた。
これらの報知は郷里にある邦夷をら立たせずにはおかなかった。またしても宗藩に阻まれたのか。じりじりとした思いで、改めて家老の相田清祐を急ぎ遣わした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
彼には父の態度と同様、小作人たちのこうした態度も快くなかった。東京をつ時からなんとなくいらいらしていた心の底が、いよいよはっきりらつくのを彼は感じた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何や清藏、あのお若を屋敷奉公させてうちへ帰らば、やあらけえ物も着られめえと思って、紬縞つむぎじま手織ておりがえらく出来ている、あんな物が家に残ってるとあとで見てきもれてくねえから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長崎屋は、一そうら立たずにはいられないのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と、直人は、多少ら立つて、奥へ声をかけた。三鴨倉太は、鼻をすかすか云はせながら、しきゐの外へ手をついた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
牛の背なかの秋蠅が、やたらに顔を襲うので、それにも、らだち、逃げるように、別れかけた。
清「鳶頭まア/\貴方あんたは正直な方だから、こんな事を云われたら、さぞはアきもれてたまるめえが、己が一と通りいわねばなんねえ事があるだアから、少し待ったがえ——コレ番頭さん、此処こゝへ出ろ」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時分の、妙に、らした気持を、もつと、上手に、はつきり申上げたいんですけれど、なんですか、自分では可笑をかしくつて、口には出せません……。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
山中の静寂しじまにも、とりの声すらしなかった。風もなく、りつくような炎日なのだ。灌木の葉は皆、合歓ねむのようにしぼんでいるか、乾煙草ほしたばこのように、からからになっていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男——(急にらして)なんですか? さういふ場合、僕がどうするかとおつしやるんですか? それは考へてゐません。そんな先のことは、まるで考へてゐません。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そして高氏は今、しきりとれる鹿毛の手綱を抑えながら、自邸の門から大路へ出て来た。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女優C′ (ベンチに腰をおろし)あゝあ、どうしてかう、誰もかれもらしてるんだらう。人に食つてかゝりさへすれや、運が向いて来るとでも思つてるのかしら……。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
くようなが、かれらの笠の上からりつけた。有村も一角も、はかまの上から小袖を脱いで、白い肌着になっていた。柄頭つかがしらの金具や刀のつばも、手をふれると熱いほど焼けている。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ事変の最中さなかに、博多はかた宗湛そうたんとともに、京都を立ち、その宗湛と、よどの船つき場でわかれて、さかいへ急いでいた茶屋四郎次郎は、りつける田舎いなか道の炎天を枚方ひらかたから二里ほども来ると
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炎天にりつけられて
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)