)” の例文
憎々しげに言いながら起上たちあがって「私はお客様きゃくさんの用で出て来るが、用があるなら待っていておくれ」と台所口から出てって了った。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『これから大阪までいても、何處どこぞへ泊らんなりまへんよつてな。……大阪からうちへはさみしいよつて、わたへもうようにまへんがな。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「お主の賃銀もその話が片づいてから渡すものは渡すそうじゃ、まあ、それまでざいへんで休んどって貰えやえゝ。」と云った。
豚群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
この人が来る時は、よく私に物をって来てくれました。この人が帰ってった後で、爺さんはきっと白銅を一つ握っておりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぬる年、みやこにありつる日、鎌倉の兵乱ひやうらんを聞き、九二御所のいくさつひえしかば、総州に避けてふせぎ給ふ。管領くわんれいこれを責むる事きふなりといふ。
牝牛を買いたく思う百姓はって見たり来て見たり、容易に決心する事ができないで、絶えずだまされはしないかと惑いつおそれつ
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
「もう、六波羅風はんでしもうたし、誰へ気がねもいらぬことじゃ。お内儀がよくなるまでは、ゆっくり、ここで養生して立つがよい」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えらいのね。でも悪魔、変化へんげばかりではない、人間にも神通じんずうがあります。私が問うたら、お前さんは、って聞けと言いましたね。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて雀がつてしまふと、総江は駄夫に呼びかけるやうに、アハアハといふ笑ひを洩らし、ホッと両肩を落して空を仰いだ。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ここにその建御名方の神の手を取らむと乞ひわたして取れば、若葦を取るがごと、つかひしぎて、投げ離ちたまひしかば、すなはち逃げにき。
『オヤ、其處そこれの大事だいじはなあるいてつてよ』通常なみ/\ならぬおほきな肉汁スープなべそばんでて、まさにそれをつてつてしまつたのです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「どこさって……。わかっていべえに。おみきの匂いこかんだばしで、どうしてこれからんで寝られっけに。行ぐべな。」
鰊漁場 (新字新仮名) / 島木健作(著)
すると、何処からか番人が出て来て、見物を押分け、犬の衿上えりがみをむずとつかんで何処へか持ってく、そこで見物もちりぢり。
其の後、彼は何処にったか、宿には姿を見せなくなった。雌牛のような感じを与える彼の事を、私も漸く忘れて行った。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
「ほれ御覧、やつぱり猫の方が大事なんやないかいな。リヽーどないぞしてくれへなんだら、わてなして貰ひまつさ。」
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こうしていつか春も去り、やがて蒸し熱い夏となったが、その夏もって秋となった。郷介が治部に随身してから六月の月日が経ったのである。
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
幽霊ゆうれいじゃない、幽霊じゃない、あれは嘘かいや、そうとは知らずにきみ子は孫をつれて親元いんだのに。——いねは嬉し泣きに泣きむせんだ。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
彼奴やつつまみ塩か何かで、グイグイ引っかけてかア。うちは新店だから、帳面のほか貸しは一切しねえというめなんだ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「わたし、少し疲れてますし、それに帰りが遠くなるから、先ににますわ。どうせお二人とは別別になるのやし。」
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
私も、あんたはんがおいでやしたんで、今家を黙って出て来ましたよって、早うなんと、年寄りの病人さんが、用事があるといけまへんさかい……
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
皆天には霧の球、地には火山の弾子だんし、五合目にして一天の霧やうやれ、下によどめるもの、風なきにさかしまにがり、故郷を望んで帰りなむを私語さゞめく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
「いや、そちらから、お話がのうても、今日あたり、こちらから、ボチボチなせていただこう、思うとりました」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
……ね、相談敵手さうだんあひてにした其方そちぢゃが、其方そちわしとはいまからはこゝろ別々べつ/\。……御坊ごばうところすくひをはう。ことみなやぶれても、ぬるちから此身このみる。
「丸田さんによろしう云うてくれ云うてにました。あんたはなかなか苦労人ぢやいうてほめとりましたぞな。」
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
三百は念を押して帰ってった。彼は昼頃までそちこち歩き廻って帰って来たが、やはり為替かわせが来てなかった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
んぬる歳、拙僧湯殿山に籠り、生身の大日如来を拝まんと、三七二十一日の間、断食の熱願を籠めたのじゃ。
海の音遠き午後ひるすぎ、湯上がりのたいを安楽椅子いすせて、鳥の音の清きを聞きつつうっとりとしてあれば、さながらにし春のころここにありける時の心地ここちして
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
……ウムウム……ところでその女はドッチへ逃げたかお前は知らんか……エエ……どっちの方へんだか
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
明後日あさつて帰つて来てそれからまた彼方あつちつてしまふんだらう。え。おいとちやんはもうれなりむかうの人になつちまふんだらう。もうぼくとは会へないんだらう。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
 或日一人の美くしい乙女が一つの小石を持って参って春は紫に夏はみどりに秋は黄金色に冬が参れば銀色に輝くと申しのこいてその石を置いてんでしもうた。
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
どこへつたのか分らんやうな、そんなお父さんてあるもんけえ、そのあひだ、おら、街を歩くにも小さくなつて歩いたし、学校へ行つても友達もよう出来んし
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
本庄が出かけた後に何者かが忍び入り、家探しをした上に、少女をさらってったに違いない、それにしてもこの部屋の荒しようはどうだろう。足の踏み場もない。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「もう翼が利かないのだ。こうなってはやはり籠の中においてやった方がいい。」と、ってしまった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かく語りつゞけて、末にはいかなる事をか言ひけん、悉くはせず、又解したるをも今は忘れたれば甲斐なし。これぬる夜惡少年の杖を跳り越ゆべかりし翁なり。
「騒ぐと人が来ますぞ。わしは、当家に恩のあるものでもない——見のがすほどにぬるがいい——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼はくちびるの寒かるべきを思ひて、むなし鬱抑うつよくして帰り去れり。その言はざりしことばただちに貫一が胸に響きて、彼は人のにけるあとも、なほ聴くにくるしおもて得挙えあげざりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
持ち行きて商主にわかれると、何故おそく来たか、荷物は皆ってしまった、気は心というから、何か上げたいものと考えた末、かの新たに生まれた駒こそ災難の本なれ
「お嬢様はすぐお目にかかりますから、暫時お待ち下さいまし」老婦人は部屋を閉めて出てった。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
甚樣じんさまわたしの部屋へやへもおいでなされ、玉突たまつきしてあそびますほどに、と面白おもしろげにさそひて姉君あねきみはやねがしにはたはたと障子しやうじてヽ、姉樣ねえさまこれ、と懷中ふところよりなか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私は今この花を見捨ててぬるのがものうくその花辺に彽徊しつついる内にはしなく次の句が浮んだ。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
朝影あさかげはなりぬたま耀かぎるほのかにえてにしゆゑに 〔巻十一・二三九四〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
みんな早うのうよ。——お主達ぬしだちも早うなないと、見よ、今に南蛮寺の門に食はれるぞよ。恐いぞ、恐いぞ。昨日きのふ一昨日をととひも人が食はれたさうぢや。皆、去なうよ。去なうよ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
昨夜ゆうべ、空を通つた、足の早い風は、いま何處を吹いてゐるか! あの風は、殘つてゐたふゆを浚つてつて、春の來た今朝けさは、誰もが陽氣だ。おしやべりは小禽ことりばかりではない。
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「お前があめの羽衣の隠してあるとこを教へたりなんかするから、おふくろつちまつたんだよ。だがの女はさすが天の者だけに子供の可愛いことを知らんと見える、人情がないね。」
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
三人とも裸にむいてお目にかけようとしたのですが、そんならとつととにまつさ。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
右、臣伏しておもんみれば、にし延喜元年の官符、已に権貴の山川を規錮し、勢家の田地を侵奪することを禁じ、州郡の枳棘をり、兆庶の蟼蠈を除く。吏治施し易く、民居安きを得たり。
善吉はうがいをしながらうなずく。初緑らの一群は声高にたわぶれながらッてしまッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「——いや、わてもにます、——ひとりで飲んでても、面白いことあらへん」
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
低徊るに忍びず、墓門に立尽して見るともなしに見渡せば、其処そこここにちりのこる遅桜おそざくらの青葉がくれに白きも寂しく、あなたの草原には野を焼くけむりのかげ、おぼろおぼろに低くい高く迷いて
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ねといひなぬといひてかの君と争そひしこともうれしきひとつ
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)