“焙(い)” の例文
結婚式の夜、茶の間で良人(おっと)は私が堅くなってやっと焙(い)れてあげた番茶をおいしそうに一口飲んでから、茶碗を膝に置いて云いました。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
腦天を焙(い)りつける太陽が宛然(まるで)火の樣で、習(そよ)との風も吹かぬから、木といふ木が皆死にかかつた樣に其葉を垂れてゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この頃色んな探偵事件に引っぱり出され初めて、焙(い)り麦みたように家(うち)の仕事をすっぽかすようになった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
兄がモカという上等の豆を食品屋で焙(い)ってもらって宅で先程砕(つぶ)しましたのですから焙りたてのひきたてでございます。珈琲は珈琲碾(こーひーひき)の器械を買って家で碾(ひ)くのに限ります。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
夫の苦しみが伸子の魂に焙(い)りついた。ああ、彼は苦しいのだ、苦しいのだ。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
濡れ焙(い)ぶる水無月ぞらの日の名残(なごり)
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
噴き出して独楽(こま)のようにキリキリと廻転し初める……それを日比谷の大通りから米国の軍楽隊が囃(はや)し立てる……数万の見物が豆を焙(い)るように拍手喝采する……それを
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)