“よ”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:ヨ
語句割合
夜8.4%
好5.4%
能5.2%
倚4.4%
止4.3%
呼4.0%
寄4.0%
世3.9%
拠3.3%
依3.2%
宜3.0%
善2.9%
攀2.9%
可2.7%
選2.1%
凭2.0%
余1.9%
因1.9%
詠1.9%
避1.8%
喚1.7%
除1.7%
佳1.6%
四1.4%
招1.4%
快1.4%
由1.4%
酔1.3%
読1.0%
縒1.0%
廃0.9%
称0.8%
美0.7%
讀0.7%
代0.7%
訓0.6%
良0.6%
撚0.5%
襲0.5%
過0.5%
予0.5%
誦0.4%
択0.4%
憑0.4%
吉0.4%
寝0.3%
克0.3%
縦0.3%
熟0.3%
撰0.3%
咏0.3%
醉0.3%
縁0.2%
仍0.2%
餘0.2%
頼0.2%
廢0.2%
聘0.2%
捩0.2%
據0.2%
綯0.2%
靠0.2%
召0.1%
嘉0.1%
解0.1%
捻0.1%
饗0.1%
生0.1%
輿0.1%
癒0.1%
暈0.1%
綟0.1%
酷0.1%
藉0.1%
与0.1%
凴0.1%
集0.1%
仮0.1%
休0.1%
縱0.1%
令0.1%
宣0.1%
弱0.1%
老0.1%
與0.0%
舎0.0%
界0.0%
数0.0%
汚0.0%
罷0.0%
俗0.0%
眠0.0%
稱0.0%
算0.0%
芳0.0%
仗0.0%
従0.0%
恁0.0%
防0.0%
屡0.0%
托0.0%
世界0.0%
自0.0%
様0.0%
遣0.0%
夕0.0%
寢0.0%
帰0.0%
横0.0%
漸0.0%
縷0.0%
馮0.0%
叫0.0%
臥0.0%
招待0.0%
世態0.0%
世間0.0%
他0.0%
利0.0%
吟0.0%
宵0.0%
悉0.0%
扭0.0%
攣0.0%
旨0.0%
椅0.0%
聚0.0%
蘇0.0%
託0.0%
退0.0%
道0.0%
齡0.0%
歸0.0%
用0.0%
行0.0%
設0.0%
万0.0%
中止0.0%
任0.0%
使0.0%
假0.0%
傾0.0%
元氣能0.0%
加0.0%
号0.0%
呻0.0%
命0.0%
善良0.0%
囚0.0%
地上0.0%
外0.0%
如0.0%
娶0.0%
寐0.0%
寓0.0%
巧0.0%
廃業0.0%
往0.0%
怙0.0%
悟0.0%
拗0.0%
挙0.0%
据0.0%
接0.0%
揉0.0%
搓0.0%
擇0.0%
早0.0%
朗0.0%
極0.0%
樣0.0%
江湖0.0%
淘0.0%
添0.0%
準0.0%
甚0.0%
皺0.0%
眩0.0%
穿0.0%
節0.0%
精0.0%
糾0.0%
絡0.0%
繇0.0%
義0.0%
肥0.0%
舍0.0%
被0.0%
覆0.0%
誉0.0%
誼0.0%
諒0.0%
譽0.0%
貴0.0%
資0.0%
走0.0%
踉0.0%
蹌0.0%
辛0.0%
迎0.0%
遏0.0%
適0.0%
遵0.0%
醺0.0%
随0.0%
隠0.0%
麗0.0%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
夜(よる)は大分(だいぶん)更(ふ)けてゐた。「遼陽城頭(れうやうじやうとう)夜(よ)は更(ふ)けて‥‥」と、さつきまで先登(せんとう)の一大隊(だいたい)の方(はう)で聞(きこ)えてゐた軍歌(ぐんか)の聲(こゑ)ももう途絶(とだ)えてしまつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
始めのうちは音信(たより)もあり、月々(つき/″\)のものも几帳面(ちやん/\)と送つて来(き)たから好(よ)かつたが、此半歳許(はんとしばかり)前から手紙も金(かね)も丸で来なくなつて仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
寶鼎(はうてい)金虎(きんこ)を存(そん)し、芝田(しでん)白鴉(はくあ)を養(やしな)ふ。一瓢(いつぺう)に造化(ざうくわ)を藏(ざう)し、三尺(さんじやく)妖邪(えうじや)を斬(き)り、逡巡(しゆんじゆん)の酒(さけ)を造(つく)ることを解(かい)し、また能(よ)く頃刻(けいこく)の花(はな)を開(ひら)かしむ。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
半ば渡りて立止り、欄干に倚(よ)りて眺むれば、両岸の家々の火、水に映じて涼しさを加え、いずこともなく聞く絃声流るるに似て清し。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
「遅いからもう止(よ)そうと断りましたが、多の市さんは依怙地(いこじ)な方で、こんな大雪にわざわざ来たんだからと、無理に入り込んで——」
ようやく、あちらに、輝(かがや)く海(うみ)が、笑(わら)っているのが、目(め)にはいった時分(じぶん)、どこからか、自分(じぶん)たちを呼(よ)ぶ、はとの声(こえ)がきこえてきました。
兄弟のやまばと (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくは学校から帰る途中(とちゅう)たびたびカムパネルラのうちに寄(よ)った。カムパネルラのうちにはアルコールランプで走る汽車があったんだ。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
色(いろ)と言(い)ひ、また雪(ゆき)の越路(こしぢ)の雪(ゆき)ほどに、世(よ)に知(し)られたと申(まを)す意味(いみ)ではないので——此(これ)は後言(くりごと)であつたのです。……不具(かたは)だと言(い)ふのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一方では真実の役者がそれぞれ立派に三座に拠(よ)っていたが、西両国という眼抜きの地に村右衛門が立籠(たてこも)ったので素破(すば)らしい大入(おおいり)です。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
さて、それでは、その恋愛、すなわち色慾の Warming-up は、単にチャンスに依(よ)ってのみ開始せられるものであろうか。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
貸す気がないなら貸さんでもいい、無理に借りようとはいわない。何も同情呼ばわりして逆さに蟇口を振って見せなくても宜(よ)かろう
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼(か)の(四三)三晉(しん)の兵(へい)は、素(もと)(四四)悍勇(かんゆう)にして齊(せい)を輕(かろ)んじ、齊(せい)を號(がう)して怯(けふ)と爲(な)す。善(よ)く戰(たたか)ふ者(もの)は(四五)其勢(そのいきほひ)に因(よ)つて之(これ)を利導(りだう)す。
毛といふ毛は悉(こと/″\)く蛇で、其の蛇は悉く首を擡(もた)げて舌を吐いて、縺(もつ)るゝのも、捻(ね)ぢ合(あ)ふのも、攀(よ)ぢあがるのも、にじり出るのも見らるゝ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
「でもあの辺は可(よ)うございますのね、周囲(まわり)がお賑(にぎや)かで」おゆうはじろじろお島の髷の形などを見ながら自分の髪(あたま)へも手をやっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
選(よ)りに選って、日本人なんか目っけなくてもよさそうなものだと、少々変な心持で、何だって聞くと、今度は名刺を出した、見ると
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
抱いて通ったのか、絡(もつ)れて飛んだのか、まるで現(うつつ)で、ぐたりと肩に凭(よ)っかかったまま、そうでしょう……引息を吻(ほっ)と深く、木戸口で
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
太古(たいこ)遺跡(ゐせき)の發掘(はつくつ)に、初(はじ)めて余(よ)が手(て)を下(くだ)したのは、武藏(むさし)の權現臺(ごんげんだい)である。それは余(よ)の品川(しながは)の宅(たく)から極(きは)めて近(ちか)い、荏原郡(えばらぐん)大井(おほゐ)の小字(こあざ)の事(こと)。
彼(か)の(四三)三晉(しん)の兵(へい)は、素(もと)(四四)悍勇(かんゆう)にして齊(せい)を輕(かろ)んじ、齊(せい)を號(がう)して怯(けふ)と爲(な)す。善(よ)く戰(たたか)ふ者(もの)は(四五)其勢(そのいきほひ)に因(よ)つて之(これ)を利導(りだう)す。
ことに子(こ)どもらしい氣持(きも)ちを歌(うた)に自由(じゆう)に詠(よ)みこんだ人(ひと)で、そんなのになると、つい/\よいわるいを忘(わす)れて、同感(どうかん)せずにゐられません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
なるほど門人種員の話した通り打水(うちみず)清き飛石(とびいし)づたい、日を避(よ)ける夕顔棚からは大きな糸瓜(へちま)の三つ四つもぶら下っている中庭を隔てて
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この場合には町内の衆が、各一個の提灯(ちょうちん)を携えて集まり来たり、夜どおし大声で喚(よ)んで歩くのが、義理でもありまた慣例でもあった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
只今も申しまする通り夜分になれば伯父の目さえ除(よ)ければ憚(はゞか)るものはないんでげすから、お若さんも伊之助も好事(いゝこと)にして引きいれる
苗代川は現実の世から見ればまさに夢の国だとも思える。進歩を誇る吾々に易々(やすやす)と佳(よ)いものが出来にくいのと何たる対比であろうか。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あるいはその手の指の先に(ニコティンは太い第二指の爪を何と云う黄色(きいろ)に染めていたであろう!)四(よ)つ折(おり)に折られた十円札が一枚
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何、何故招(よ)ばなかったって。それは帰りにここへ来るつもりだったから招ばなかったのさ。ね、小言はようきいてからにするがいい。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
花を枕頭(まくらもと)に差置(さしお)くと、その時も絶え入っていた母は、呼吸(いき)を返して、それから日増(ひまし)に快(よ)くなって、五年経ってから亡くなりました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手紙で知らして来た容子に由(よ)ると、その後も続いて沼南の世話になっていたらしく、中国辺の新聞記者となったのも沼南の口入(くちいれ)なら
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
お杯(さかずき)の数(かず)がだんだん重(かさ)なるうちに、おかしららしい鬼(おに)は、だれよりもよけいに酔(よ)って、さもおもしろそうに笑(わら)いくずれていました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
読(よ)み了(おわ)っても、それを読みはじめたときから私の胸を一ぱいにさせていた憤懣(ふんまん)に近いものはなかなか消え去るようには見えなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ほんとはこの『抒情小曲集』は『愛の詩集』と併せて読んで、僕の心持のたてとよことに縒(よ)れ込んだリズムをほぐして見てほしいのだ。
抒情小曲集:04 抒情小曲集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
主人の飼っている Jean(ジャン) という大犬が吠えそうにして廃(よ)して、鼻をくんくんと鳴らす。竹が障子を開けて何か言う声がする。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
各々(おのおの)従者を随(したが)え、また友情に厚き人々のこととて多くの見舞品などを携え、沙漠の舟と称(よ)ばるる駱駝に乗りて急ぎ来ったのであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
湖上の弦月(げんげつ)と暁の雪峰(せっぽう) 暁霧(ぎょうむ)を冒して少しく山の上に登ったところで、いかにも景色が美(よ)うございますから湖面を眺めますと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
先哲(せんてつ)いはく……君子(くんし)はあやふきに近(ちか)よらず、いや頬杖(ほゝづゑ)で讀(よ)むに限(かぎ)る。……垣(かき)の卯(う)の花(はな)、さみだれの、ふる屋(や)の軒(のき)におとづれて……か。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
我若しヴィルジリオと代(よ)を同じうするをえたらんには、わが流罪(るざい)の期(とき)滿つること一年(ひととせ)後(おく)るゝともいとはざらんに。 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
また「蟆」の一字をタニククと訓(よ)ませた例もなければ、「蟆」は畢竟ククの音に当てた仮名であって、それ自身タニグクではなく
女郎屋(ぢよらうや)と云(い)ふわけには行(ゆ)かず、まゝよとこんな事(こと)はさて馴(な)れたもので、根笹(ねざさ)を分(わ)けて、草(くさ)を枕(まくら)にころりと寢(ね)たが、如何(いか)にも良(よ)い月(つき)。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
経緯(いきさつ)を悉皆(すっかり)打ち明けて、もっと真面目になれと忠告した後、長倉家の方も君の態度次第で話の撚(よ)りを戻すことが出来ると伝えた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その蒸(む)しつく空気の中で、笑婦の群れが、赤く割られた石榴(ざくろ)の実のように詰っていた。彼はテーブルの間を黙々として歩いてみた。押し襲(よ)せて来た女が、彼の肩からぶら下った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
少年の時、嘗て一村院を過(よ)ぎり、壁上に詩あるを見る。云ふ、夜涼疑レ有レ雨、院静似レ無レ僧と。何人の詩なるやを知らざる也。
読みて大尉(たいゐ)の壮行(さうかう)と予(われ)も共(とも)にするの感あり、其(そ)は此日(このひ)より後(のち)の事(こと)にして、予(よ)は此日(このひ)只一人(たゞひとり)嬉(うれ)しくて、ボンヤリとなり、社員にも辞(じ)せず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
一夜道心の俄坊主(にわかぼうず)が殊勝な顔をして、ムニャムニャとお経を誦(よ)んでお蝋を上げたは山門に住んだと同じ心の洒落(しゃれ)から思立ったので
そしてわざと暗い所を択(よ)って縺(もつ)れ合ってゆく柔弱な輩(やから)を見るといきなり横づっぽうの一つも張り飛ばしてやりたいほど癇(かん)がたって
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
銀杏を撫で石壇を攀ぢ御前に一禮したる後瑞垣に憑(よ)りて見下ろせば數百株の古梅ややさかりを過ぎて散りがてなるも哀れなり。
鎌倉一見の記 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
遂にスペイン人に賠(つぐな)われて城に帰った、それは吉(よ)かったが全体この女性質慓悍で上長の人の命に遵(したが)わぬから遂に野獣に啖(く)わす刑に処せられた
「これでは、いかに何でも、お寝(よ)れないでしょう。あしたは、ほかの旅籠(はたご)へ更(かわ)りましょう。毎夜ですから、寝不足になりますよ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
峰の小屋の熊のような主は「危えぜ、克(よ)く気を付けて行かっせ、何でも右へ右へと、小石の積んだのを目当てに行きせえすりぁ大丈夫だ。」
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
縦(よ)し一方が余の見立通り老人は唯一突にて痛(いたみ)を感ずる間も無きうちに事切れたりと見定むるとも其一方が然らずと云わば何とせん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
また恙(よう)の虫(むし)の事語りていわく、博士なにがしは或るとき見に来しが何のしいだしたることもなかりき、かかることは処(ところ)の医こそ熟(よ)く知りたれ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
でも、困つたのよ、安いのを買はうとすると、傍(そば)から、三輪さんの奥さんが、こつちがいゝつて、高いのを撰(よ)るんですもの……。
屋上庭園 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
驚くことのあらんとすらんとお咏(よ)みになった心を承(う)けて、数ならぬ私共もまた、何物にか驚かされたいと常に念じている次第でございます。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
落(ち)り過(す)ぎたる紅葉(もみぢ)に庭(には)は淋(さび)しけれど、垣(かき)の山茶花(さゞんか)折(をり)しり顏(かほ)に匂(にほ)ひて、松(まつ)の緑(みどり)のこまやかに、醉(よ)ひすゝまぬ人(ひと)なき日(ひ)なりける。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
心のみに縁(よ)つてあらゆることが起つて来る。その心が果して宇宙の心につゞいてゐるか、何うか。永遠の生命につゞいてゐるか、何うか。
大阪で (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
未だ報裁を蒙(かうむ)らず、欝包(うつはう)の際、今年の夏、同じく平貞盛、将門を召すの官符を奉じて常陸国に到(いた)りぬ。仍(よ)つて国内頻(しき)りに将門に牒述(てふじゆつ)す。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
さうして結局(けつきよく)節約額(せつやくがく)が一億(おく)二千五百萬圓(まんゑん)餘(あま)りであつて特別會計(とくべつくわいけい)の一億(おく)三千四百萬圓(まんゑん)の節約額(せつやくがく)を合算(がつさん)すると二億(おく)六千萬圓(まんゑん)餘(よ)となる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
元の天下を得る、もとより其の兵力に頼(よ)ると雖も、成功の速疾なるもの、劉の揮攉(きかく)の宜(よろ)しきを得るに因(よ)るもの亦(また)鮮(すくな)からず。秉忠は実に奇偉卓犖(きいたくらく)の僧なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「何、安田の炭鑛へかゝつてたんですがね。エ、二里ばかり、あ、あの山の陰になつてます。エ、最早廢(よ)しちやつたんです」
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
聘(よ)ばれる座敷は気が向いた客のみにしか行かず、弟子取りも断って、わたし一人だけ幼年の無邪気なのを取得に家に置くことを許した。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
雑木林を抜けて、裏街道を停車場の方へ足を向けた菜穂子は、前方から吹きつける雪のために、ときどき身を捩(よ)じ曲(ま)げて立ち止まらなければならなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
われ嘗(かつ)てゴツトシヤルが詩學に據(よ)り、理想實際の二派を分ちて、時の人の批評法を論ぜしことありしが、今はひと昔になりぬ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
いたずらに自尊の念と固陋(ころう)の見(けん)を綯(よ)り合せたるごとき没分暁(ぼつぶんぎょう)の鞭(むち)を振って学生を精根のつづく限りたたいたなら、見じめなのは学生である。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「先ず好かった」と思った時、眩暈が強く起こったので、左の手で夜具葛籠を引き寄せて、それに靠(よ)り掛かった。そして深い緩(ゆる)い息を衝(つ)いていた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
而(しか)るに弟子は召(よ)ぶを知って逐(お)うを知らぬので、満屋皆水なるに至って周章措(お)く所を知らなかったということがある。当時の新聞雑誌はこの弟子であった。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すでに他人の忠勇(ちゅうゆう)を嘉(よ)みするときは、同時に自(みず)から省(かえり)みて聊(いささ)か不愉快(ふゆかい)を感ずるもまた人生の至情(しじょう)に免(まぬ)かるべからざるところなれば、その心事を推察(すいさつ)するに
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
解(よ)めたり/\、檜葉菩薩の賢明、三馬鹿の陰謀をそれと見拔き、釣られたる風をして、そつと三馬鹿を出し拔き、麓にて待ち合はす相手にとて、六一菩薩を招きたるよな、その手は喰はぬと
夜の高尾山 (旧字旧仮名) / 大町桂月(著)
「えゝ、情(なさけ)ねえ奴等(やつら)だな」爺(ぢい)さんは捻(よ)り掛(かけ)た紙(かみ)を棄(す)てた。店先(みせさき)の駄菓子(だぐわし)を入(い)れた店臺(みせだい)をがた/\と動(うご)かす者(もの)があつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ついこなひだのこと、侯爵細川護立氏のところへ、春陽会の若い画家五六人が饗(よ)ばれて往つたことがあつた。山崎省三氏もその中に交(まじ)つてゐた。
この世にし、楽しくあらば、来ん生(よ)には、虫にも、鳥にも吾(あ)れはなりなむ。そら、これだこれだ! 此の世さへ楽しかつたら来世には、たとへどんな動物になつたつてそんな事あ構はん。
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
台州(たいしう)から天台縣(てんだいけん)までは六十里(り)半(はん)程(ほど)である。日本(にほん)の六里(り)半(はん)程(ほど)である。ゆる/\輿(よ)を舁(か)かせて來(き)たので、縣(けん)から役人(やくにん)の迎(むか)へに出(で)たのに逢(あ)つた時(とき)、もう午(ひる)を過(す)ぎてゐた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
こうして牛の背をかりて旅の出来るほどには、体のぐあいも癒(よ)くなっては来たが、彼女の病(やまい)以上の問題は、決してまだ解決はしていない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
揺れない大きな船の乗組員は、小さな船の船員よりも暈(よ)うとの事だ。つまりたまにより大揺れに逢わないからである。サロンの桃の花しだいにこぼれていく。
欧洲紀行 (新字新仮名) / 横光利一(著)
もう一人、袷(あわせ)の引解(ひっと)きらしい、汚れた縞(しま)の単衣(ひとえ)ものに、綟(よ)綟れの三尺で、頬被(ほおかぶ)りした、ずんぐり肥(ふと)った赤ら顔の兄哥(あにい)が一人、のっそり腕組をして交(まじ)る……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほかにも烏檡(おと)(『漢書』)、𪂬䖘(揚雄『方言』)など作りあれば、烏菟(おと)は疑いなく虎の事でその音たまたま猫の梵名に酷(よ)く似たのだ。
されども諸王は積年の威を挟(はさ)み、大封の勢(いきおい)に藉(よ)り、且(かつ)は叔父(しゅくふ)の尊きを以(もっ)て、不遜(ふそん)の事の多かりければ、皇太孫は如何(いか)ばかり心苦しく厭(いと)わしく思いしみたりけむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ところが講談では大高源吾が神崎(かんざき)与(よ)五郎(ろう)、国蔵(くにぞう)が馬食(うまくら)いの丑(うし)五郎(ろう)、場所も遠州浜松となっています
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
去(さ)れど是等(これら)の道具立てに不似合なる逸物(いちもつ)は其汚れたる卓子(てえぶる)に凴(よ)り白き手に裁判所の呼出状を持ちしまゝ憂いに沈める一美人なり是ぞこれ噂に聞ける藻西太郎の妻倉子なり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と云つて、一(ひと)汽車の客が皆左の窓際へ集(よ)つて眺めるのであつた。自分は秋草(あきぐさ)を染めたお納戸(なんど)の絽(ろ)の着物に、同じ模様の薄青磁色(うすせいじいろ)の絽(ろ)の帯を結んで居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
そは妾にして仮(よ)し彼の家の如き冷酷の家庭に入(い)るとも到底長く留(とど)まる能(あた)わざるを予知すればなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「だけど、なにしろ友達が悪いんですからね。あなたもあまり厳(きび)しく言うのはお休(よ)しなさいよ。おっかないから。」
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
又、縱(よ)しんば英才の人が容易に或事を爲し得たとするも、其の英才は何れから來たか。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
示さば、臣効(なら)うこと無からんや。且つ、聞(ぶん)令(よ)からず。君、其れ、之(夏姫の肌着)を納めよ。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「近(ちか)い中(うち)御邪魔(おじやま)に出(で)ても宣(よ)う御座(ござ)いますか」と聞(き)くと、坂井(さかゐ)は
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
赤(あけ)え灰(はひ)に成(な)つてな、火(ひ)も弱(よ)えのさ、そんでも麁朶(そだ)買(か)あよりやえゝかんな、松麁朶(まつそだ)だちつたつてこつちの方(はう)へ來(き)ちや生(なま)で卅五把(は)だの何(なん)だのつて、ちつちえ癖(くせ)にな
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
池を飛び越えて向うへ立ってスリの立ち廻りを見物していたそうで、私は、いつもながら、年は老(よ)っても父の機敏なのに驚いたことであった。
平吉始(はじ)め五兵衞其外とも一同下られけり是より伊奈殿には手代(てだい)杉山(すぎやま)五郎兵衞馬場(ばば)與(よ)三右衞門の兩人に幸手宿(さつてじゆく)の杉戸屋富右衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「何れそんなことでしょうと存じましたが、これからはもう舎(よ)して下さいよ。私の方の予算が悉皆狂ってしまいますから」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とぞ御涙(おんなみだ)この界(よ)に一つ
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
大伴家持の歌に、「春花のうつろふまでに相見ねば月日数(よ)みつつ妹待つらむぞ」(巻十七・三九八二)というのがある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
甲野さんは寝ながら日記を記(つ)けだした。横綴(よことじ)の茶の表布(クロース)の少しは汗に汚(よ)ごれた角(かど)を、折るようにあけて、二三枚めくると、一頁(ページ)の三(さん)が一(いち)ほど白い所が出て来た。甲野さんはここから書き始める。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私らンとこの菊太郎も実地はもうたくさんだで、今茲(ことし)は病院の方を罷(よ)さして、この秋から田舎に開業することになっておりますでね、私もこれで一ト安心ですよ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今夜という今夜は確(たしか)に其(そ)の実地を見届けたのだ、あれが俗(よ)にいう魔とか幽霊とか云うものであろう。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「矢張りお眠(よ)ったままで『済まん、細木永之丞君、命令だったからじゃ、済まん』と、仰有(おっしゃ)ったじゃアありませんか」
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
姿を借りてその群の中に伍してゐたか、或は時流が一樣にそれらの人をもくるめて、武者修業と稱(よ)んだだけに過ぎない。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
行年(ぎょうねん)その時六十歳を、三つと刻んだはおかしいが、数え年のサバを算(よ)んで、私が代理に宿帳をつける時は、天地人とか何んとか言って、禅(ぜん)の問答をするように、指を三本
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『芳(よ)……芳ちやん』群集を振り返た時にはおろおろ聲で眼が血走つて居る。やがて凜とした甲聲(かんごゑ)
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「は?」彼は覚えず身を回(かへ)して、丁(ちよう)と立てたる鉄鞭に仗(よ)り、こは是(これ)白日の夢か、空華(くうげ)の形か、正体見んと為れど、酔眼の空(むなし)く張るのみにて、益(ますま)す霽(は)れざるは疑(うたがひ)なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
各町の知事毎年その町良家新産の女児を視(み)て最も美な者十二人を選び、殿中に養い歌舞を習わせ、十二歳の始めにこれを王宮に進め、旧制に従(よ)って試験を受く。
二人は連れ立つてそこらの珈琲(コーヒー)店に入つて往つた。音楽家は暖い珈琲と菓子の一皿とを乞食に配(あてが)ひながら、自分は卓子(テーブル)に恁(よ)りかゝつて、せつせと作曲に取りかゝつた。
斜めに吹きかける雨を片々(かたかた)の手に持った傘で防(よ)けつつ、片々の手で薄く切った肉と麺麭(パン)を何度にも頬張(ほおば)るのが非常に苦しかった。彼は幾たびか其所(そこ)にあるベンチへ腰を卸(おろ)そうとしては躊躇(ちゅうちょ)した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と細い聲で、靜に、冷笑的に謂ツて、チラと對手(あひて)の顏を見る。そしてぐいと肩を聳(そびやか)す。これは彼が得意の時に屡(よ)く行る癖で。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
此の後は京(みやこ)に出でて雀部を六二とぶらひ、又は近江に帰りて児玉に身を托(よ)せ、七とせがほどは夢のごとくに過しぬ。
今(この)春自(よ)り已来(このかた)秋稼(しうか)に至り風雨序(ついで)に順(したが)ひて五穀豊かに穣(みの)れり。此れ乃(すなは)ち誠を徴(あらは)し願を啓(ひら)くこと、霊貺(りやうきやう)答ふるが如し。載(すなは)ち惶(おそ)れ、載ち惶れて以て自(みづか)ら寧(やす)みするとき無し。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ところで、なんぜ油を嘗めよったかと言うと、いまもいう節で、虐待されとるから油でも嘗めんことには栄養の取り様(よ)がない。まあ、言うたら、止むに止まれん栄養上の必要や。
秋深き (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その勢力のある英国の権力を持って軍隊からわざわざ遣(よ)こしてくれたこの人物——ホートンと名乗るこの人物の、こればかりの要求を拒絶するということも義理合いとして出来難い。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
東山野(ひがしさんや)この夕(よ)はじめてきく聲の茅蜩(かなかな)のこゑは竹にとほれり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
お父さまは一週間前から感冒に罹(かゝ)られてお寢(よ)つてゐられます。それに持病の喘息(ぜんそく)も加つて昨今の衰弱は眼に立つて見えます。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
朋友死して帰(よ)る所なければ我がもとにおいて殯(ひん)せよという。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この時、無窮と見えた雲の運動は止まって、踏むさえ惜しい黄金の土地の上を、銀色の川が横(よ)ぎって、池の菱の花は、静かに、その瞼を閉ざすのである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
投げ植えるようにしてあるのが、今時分になって、漸(よ)う/\数えるほどの花が白く開いている。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
此處(こゝ)は大黒屋(だいこくや)のと思(おも)ふ時(とき)より信如(しんによ)は物(もの)の恐(おそ)ろしく、左右(さゆう)を見(み)ずして直(ひた)あゆみに爲(せ)しなれども、生憎(あやにく)の雨(あめ)、あやにくの風(かぜ)、鼻緒(はなを)をさへに踏切(ふみき)りて、詮(せん)なき門下(もんした)に紙縷(こより)を縷(よ)る心地(こゝち)
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その心志の周旋するところ、日夜の郷往(きょうおう)するところ、その死してのち数十年、しかもその物、具存して、体魄(たいはく)一淪(りん)より、気の馮(よ)るところを知る。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
叫(よ)ビテ水雲昏(くら)シ/手ニ到ル凶函涙痕湿(うるお)フ/蕙帳夜空シク謦欬ノ如ク/松堂月落チテ温存ヲ失フ/俊才多ク出ヅ高陽里/遺業久シク伝フ通徳門/天際少微今見エズ/誦スルニ招隠ヲ将(もっ)テ招魂ニ当ツ〕『春濤詩鈔』にこの挽詞(ばんし)を
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勝信 お臥(よ)っていらっしゃいませ。(親鸞を助けて寝床に臥(ふ)させる)お苦しゅうございますか。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
招待(よ)ばれて来た猪之松の兄弟分の、領家の酒造造(みきぞう)、松岸の権右衛門、白須の小十郎、秩父の七九郎等々十数人の貸元で、それらと向かい合って亭主役の、高萩の猪之松が端座したまま
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
周章て火鉢の前に請ずる機転の遅鈍(まづき)も、正直ばかりで世態(よ)を知悉(のみこま)ぬ姿なるべし。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
世間(よ)はしばし中将の行くえを失いて、浪子ひとりその父を占めけるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
いずれも、鎮(しず)まれい。お家の重大事を、私憤とおまちがい召さるまいぞ。私議、我執(がしゅう)は慎(つつし)まれたい。かかる際には、一藩一体となり、挙止もの静かなるこそ他(よ)そ目にも見事と申すもの。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窃(ひそ)かに川を渡って逃げた跡へ村方の百姓衆が集って来ましたが、何分にも刃物は利(よ)し、斬人(きりて)は水司又市で、お山は余程の深傷(ふかで)でございますから、もう虫の息になって居る処へ伯父が参り
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と吟(よ)みけるに、翁はこれを何とか読み変へて見たり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
... よぶ夜の鶴、我は夫(つま)よぶ野辺の雉子(きじ)」又下の巻に入りて「宵(よ)さこいと云ふ字を ...
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
慈悲善根の心がけが篤(あつ)く、町内で評判の良いことは、平次も悉(よ)く知っております。
これ等のお守は竹でつくり、色あざやかな、金銀の紙で被った小さな米俵、扭(よ)った藁その他の、豊饒と幸運との表徴である。
それと同時に、裏門からも、表門からも、塀のみねへ、樹の梢へ、猿(ましら)のように攣(よ)じ登る人影が鮮かに見えた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
到底喉(のんど)を下(くだ)るまじと思いしに、案外にも味(あじ)わい旨(よ)くて瞬間に喫(た)べ尽しつ、われながら胆太(きもふと)きに呆(あき)れたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
愉園(ゆゑん)に入(はひ)つて蒸す様な眩(まぶ)しい𤍠帯花卉の鉢植の間の卓(たく)に椅(よ)り、二本(ふたもと)のライチ樹(じゆ)の蔭の籐椅子を占領して居る支那婦人の一団を眺めながら、珈琲(カフエエ)を取つて案内者某君の香港(ホンコン)談を聞いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
まだ「大坂」という地名はなく「難波(なにわ)」とよび、また、「小坂(おさか)」といっていたその頃から、四天王寺は堂塔四十幾ツの輪奐(りんかん)を聚(よ)せた大曼陀羅(だいまんだら)の丘だったが
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
働いておらぬ貧民は、貧民たる本性を遺失して生きたものとは認められぬ。余が通り抜ける極楽水(ごくらくみず)の貧民は打てども蘇(よ)み返(がえ)る景色(けしき)なきまでに静かである。——実際死んでいるのだろう。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我を呼びて主よ主よと言う者尽(ことごと)く天国に入るに非ず、之に入る者は唯我天に在(いま)す父の旨に遵(したが)う者のみ、其日我に語りて主よ主よ我等主の名に託(よ)りて教え主の名に託りて鬼を逐い
『失敬(しっけい)な!』と、一言(ひとこと)呌(さけ)ぶなりドクトルは窓(まど)の方(ほう)に身(み)を退(よ)け。『全体(ぜんたい)貴方々(あなたがた)はこんな失敬(しっけい)なことを言(い)っていて、自分(じぶん)では気(き)が着(つ)かんのですか。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
孔子、弥子瑕に道(よ)りて釐(り)夫人を見たり。(『呂氏春秋』、慎大覧貴因)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ながながし齡(よ)に唯ひと日
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
かれ大國主の神、出雲の御大(みほ)の御前(みさき)一にいます時に、波の穗より二、天の羅摩(かがみ)の船三に乘りて、鵝(ひむし)の皮を内剥(うつは)ぎに剥ぎて四衣服(みけし)にして、歸(よ)り來る神あり。
ここに太后、神歸(よ)せして、言教へ覺(さと)し詔りたまひつらくは、「西の方に國あり。金(くがね)銀(しろがね)をはじめて、目耀(まかがや)く種種(くさぐさ)の珍寶(うづたから)その國に多(さは)なるを、吾(あれ)今その國を歸(よ)せたまはむ」
おばこ来るかやと田圃(たんぼ)の外(は)んづれまで出て見たば、コバエテ/\、おばこ来もせで用(よ)のない煙草(たんばこ)売りなの(なのはなどの意)ふれて来る。コバエテ/\
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
おばこ居たかやと裏の小ん窓から覗(のぞ)いて見たば(見たばは見たればの意)、コバエテ/\、おばこ居もせで用(よ)のない婆様(ばあさま)なの(など)糸車、コバエテ/\。
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
清「いや然うは往(よ)きませぬ、何(ど)うでも彼(こ)うでも落合まで未(ま)だ日も高いから行(よ)こ積りで」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
清「いや然(そ)うでない、今日は切(せ)みて落合まで行(よ)く積(つもり)で」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
要するに彼は、設(よ)し此時だけにもしろ、味が薄いが、簡(かん)にして要を得た市民的生活が氣に適ツたのであつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
設(よ)しや事業熱は冷(さ)めても、失敗を取返へさう、損害を償(つくの)はうといふ妄念(まうねん)が熾(さかん)で、頭は熱(ほて)る、血眼(ちまなこ)になる。それでも逆上氣味(のぼせぎみ)になツて、危い橋でも何んでも妄(やたら)と渡ツて見る………矢張(やはり)失敗だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
万(よ)ろづの事皆な空にして、法のみ独り実(じつ)なり、法のみ独り実にして、法に遵(したが)ふところの万物皆な実なるを得べし。自然は常変にして不変、常動にして不動、常為にして無為、法の眼に於て然り。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
松田 そんなに御亭主の事が気になるなら、一層今の中止(よ)したらどうだい。
ここに山部(やまべ)の連(むらじ)小楯(をたて)、針間(はりま)の國の宰(みこともち)一に任(よ)さされし時に、その國の人民(おほみたから)名は志自牟(しじむ)が新室に到りて樂(うたげ)しき。ここに盛(さかり)に樂(うた)げて酒酣(なかば)なるに、次第(つぎて)をもちてみな儛ひき。
分子間相互の引力に使(よ)って、凝集して楕円塊となり、さらに収縮してその密度を増すのである、彼らの楕円塊がその熱度を空間に放出して、外殻が出来たものこそ、我地球のごとき有様を呈する
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
「誰れが言ひますもんか、假(よ)しんばいうたかて、これが猫や犬の飯詰めたんやなし、神佛のお下りなら願うても頂く人がおますがな。勿體ない/\。」
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
まだ月もそう西へは傾(よ)っていない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛙も、元氣能(よ)く聲を揃へて啼(な)いてゐる、面白いに取紛(とりまぎ)れて、自分は夢中で螢を追駈廻してゐた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「私のも」と吉どんが加(よ)せた算盤を見せるようにして。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むかしむかし棄老国と号(よ)ばれたる国ありて、其国(そこ)に住めるものは、自己(おの)が父母(ちちはは)の老い衰へて物の役にも立たずなれば、老人(としより)は国の費えなりとて遠き山の奥野の末なんどに駆り棄(す)つるを恒例(つね)とし
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
不二の嶺(ね)のいや遠長き山路をも妹許(いもがり)訪へば気(け)に呻(よ)はず来(き)ぬ
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人(ひと)は動(やゝ)もすれば、其(その)最期(いまは)に心(こゝろ)が浮(う)かるゝ! それを看護人(かんごにん)が死(し)ぬる前(まへ)の電光(いなづま)と命(よ)んでゐる。
高いものや 善良(よ)きものや 深いものや
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
辛未(かのとひつじ)、皇太子、使を遣(また)して飢者を視しむ。使者還(かへ)り来て曰く、飢者既に死(まか)りぬ。爰(ここ)に皇太子大(おほい)に之(これ)を悲しみ、則ち囚(よ)りて以て当処(そのところ)に葬(ほふり)埋(をさ)めしむ。墓(つか)固(つき)封(かた)む。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
多少の金廻りは村人の心を動揺させないために有効であった。「うまくいった。うまくいった、北野家の伝統の岩をゆるがし得るものがこの地上(よ)にあろうはずがない」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
一瞬間誰もの胸をスーッと外(よ)ぎってゆく暗い冷たいものがあった。そういっても重苦しいものでいっぱいに皆の胸がしめつけられてきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
或日、私は例(いつも)の如(よ)うに午食後、食堂に残って主人の相手になって無駄話に耽っていた。ふと、いなくなった「彼」の事を思い出して、主人にあのセルヴィヤ人は何うしたろうと、訊いて見た。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
隅「いゝえ、そうで有りません、ひょっとして貴方が私の様な者でも娶(よ)んで下さいますと、禍(わざわ)いは下(しも)からといって、あゝいう人に胡麻を摺られると堪(たま)りませんからねえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「随分よくお寐(よ)られますね。ほほほほほ。」
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
諸将の行方を追及することも急だったが、彼らは山林ふかく身を寓(よ)せて、呂布の捜索から遁れていたので、遂に、網の目にかからなかった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女「大層巧(よ)く演(いた)しますね、今度の狂言は中々大入で、私が参りましたら一杯で、尤も土曜日でございましたが、ぎっしりでございましたよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お前さまは大岡様からの大事な預り人で、困って芸者に出る人じゃないから、嫌になったらいつでも廃業(よ)すこった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
清「いや然うは往(よ)きませぬ、何(ど)うでも彼(こ)うでも落合まで未(ま)だ日も高いから行(よ)こ積りで」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
間貫一の十年来鴫沢の家に寄寓せるは、怙(よ)る所無くて養はるるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あたしだつて人間だもの、まさかお前の心の悟(よ)めていないでもなかつたけれど、そこにア、それ……、かういつちや勿体(もつたい)ないけどまつたくさ。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
記者も初め遠くから見た時は、大昔の美津良(みずら)式を復活させたものかと思ったが、近付いてよくよく見ると、髪毛とは全く別の感じを持った黒い固まりなので腹の皮が拗(よ)れた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作、杉山萠円(著)
彼の議論が挙(よ)って樹(た)つ所の基礎、すなわち、穀物の価格は常に地代を生ずるということを譲歩するならば、彼が主張するすべての結果が当然それに随伴すべきことは明かである。
こは逍遙子が言に、今の批評家狂言作者に向ひて「ドラマ」を求むるは底事(なにごと)ぞとありしに据(よ)りたるなるべし。されど逍遙子が所謂「ドラマ」には、單に戲曲といはむよりは廣き義あり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
グーングーングーングーンと既に間近く接(よ)って来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人間様の恋路の笑止(をか)しいのは鍋小路どので初めて承知して毎日顔を見る度に俺は腹筋(はらすぢ)が揉(よ)れた哩(わい)。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
これは懸け枠(わく)といって、的串(まとぐし)を左右に立て、蝉(せみ)の緒という二重に搓(よ)った綿紐(わたひも)で吊(つ)っておくのである。矢頃は十三丈というのが古法だった。光政の第一矢は、四寸の的に外れた。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お擇(よ)ンなツたが可い!」
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「えらい早(よ)よおましたなあ。ほんまにこない巧い工合に行たことあれしません。さあ、さあ、今の間アにしやはらんと、ぐずぐずしてはったら電話かかって来まっせ」
卍 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こんなことを次から次へと考へてゐるうちに、また新しい朗(よ)み手が詩稿を拡げた。わたしは自分に対しても、またこの会全体に対しても、ひどくうとましい気持になつて来た。
キリスト者の告白 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
旦那様(だんなさま)、誠にまア結構(けつこう)な薬(くすり)でございます、有難(ありがた)う存(ぞん)じます、疼痛(いたみ)がバツタリ去(さ)りましてございます。主「それは去(さ)るよ、極(よ)く効(き)く薬(くすり)だもの……其(そ)の子(こ)はお前(まへ)の子(こ)かえ。 ...
波(なみ)にたゞよひ波(なみ)の樣(よ)に
ゴンドラの唄 (旧字旧仮名) / 吉井勇(著)
幸に江湖(よ)の識者来つて、吾人に教へよ、吾人をして通津(つうしん)を言ふの人たらしむる勿(なか)れ。吾人は漁郎(ぎよらう)を求めつゝあり、吾人をして空言(くうげん)の徒(とも)とならしむる勿れ。天下誰れか隣人を愛するを願はざる者あらむ。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
この淘(よ)り分けを母はどうしたのでしょうか。私にはそれが自然のように見えていながら、しまに言わせると
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
御傍へ添(よ)れば心持の好い香水が顔へ匂いかかる位、見るものも聞くものも私には新しく思われたのです。御奉公の御約束も纏(まとま)りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
田辺の漁夫は大きさに準(よ)って鰤(ぶり)を「つはだ、いなだ、はまち、めじろ、ぶり」と即座に言い別くる。しかるに綿羊と山羊の見分けが出来ぬ。
兄上が購(か)ひ来玉ひし品は「にっける」を被(き)せたれば、陸にては甚(よ)く輝けど、水の中にては黒みて見ゆる気味ありて魚の眼を惹くこと少しとなり、我が購ひ来しは銀色なせる梨子肌のものなれば
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「今晩もかい。よく来るじゃアないか」と、小万は小声で言ッて眉を皺(よ)せた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「いえ、それでしたら御心配いりませんわ。私、もう五、六年も毎年葵原と一緒にヨットの練習をやっているんですもの——一度だって、眩(よ)ったこと御座いませんの——」
葵原夫人の鯛釣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
聞えよがしに苦笑しいしい、税関吏に穿(よ)じり返された荷物の始末をしている。嬢はじっとそれを眺(なが)めていた。やっと後片付けも終ると
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
わが物と何を定めん難波潟蘆のひと節(よ)のかりそめの世に
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
筆択むべし、道具詮議すべし、魚を釣らんとせば先づ釣の具を精(よ)くすべし。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そうしてそれがだんだんに大きい輪を作って、さながら踊りだしたように糾(よ)れたり縺(もつ)れたりして狂った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
盲目にその運命に従うと謂(い)うよりは、寧(むし)ろ冷(ひやや)かにその運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とが絡(よ)り合せた糸のように固く結び着けられて、一種異様の心の状態を呈した。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
これが岡崎の殷富を致した基だと云ふ。忠茂の血と倶に忠茂の経済思想を承けた忠行が、曾て引水の策を献じ、終(つひ)に商賈(しやうこ)となつたのは、繇(よ)つて来る所があると謂つて好からう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ねえ、義(よ)っちゃん」
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
同(おな)じ色(いろ)の薄掻卷(うすかいまき)を掛(か)けたのが、すんなりとした寢姿(ねすがた)の、少(すこ)し肉附(にくづき)を肥(よ)くして見(み)せるくらゐ。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
「何うして急(きふ)に舍(よ)して了(しま)ツたのだらう。」
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
或被レ酒僵臥 或は酒に被(よ)いて僵臥(きょうが)す
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お多福(かめ)さんとタチヤナ姫と、ただの女と——そう! どう思い返してもこう呼ぶのがいい——が流行の波斯縁(ペルシャぶち)の揃いの服で、日覆(よ)けの深いキャフェの奥に席を取った。遊び女だ。
巴里のキャフェ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
帝は高祖武帝(ぶてい)の第七子にして、誉(よ)は武帝の長子にして文選(もんぜん)の撰者(せんじゃ)たる昭明太子(しょうめいたいし)統(とう)の第二子なり。一門の語、誉を征するの時に当りて発するか。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近年新聞紙の報道するところについて見るに、東亜の風雲はますます急となり、日支同文の邦家(ほうか)も善鄰の誼(よ)しみを訂(さだ)めている遑(いとま)がなくなったようである。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
諒(よ)めたり/\、花よりも團子、風景よりも料理、前年、時も同じ今頃、この三人に榎木小僧加はりて、柴又の川甚の川魚料理に舌鼓打ちたり。その味、今もなほ忘れざるものと見えたり。
川魚料理 (旧字旧仮名) / 大町桂月(著)
それは恐(おそ)らく戰(たゝか)ふ者の誇と名譽(よ)にかけて、または男の意(い)地にかけてであつたらう。が、現在(げんざい)では對局(たいきよく)の陰に實際的(じつさいてき)な生活(くわつ)問題(もんだい)まで含(ふく)まれて來たらしい。
今まで何百ツて云ふ貴(よ)い月給を頂いて居らつしやいましたのが、急に一文なしにおなりなすつたのですから、ほんとに御気の毒の様で御座いましたがネ、奥様が、貴郎(あなた)、厳乎(しつかり)して
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
またバートンは北米のインジアンが沙漠中に天幕と馬に資(よ)りて生活するよりアラビア人と同似の世態を発生した由を述べた。したがって西大陸に新規現出した馬に関する習俗が少なからぬ。
その時、後(おく)ればせに走(よ)せつけた見慣れない大男——刀を横たえ、息せききって来合わせたのをお角が見ると、ははあ、相撲取だと思いました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は肱で縦横無尽に突きまくった。すると、突かれた女は踉(よ)ろけながら、また他の男の首に抱きついて運ばれていった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それまで水手拭(みずてぬぐい)を当てていた頭の髪を結び、病褥にいたわっていた痩せた足に草鞋(わらじ)をつけ、誰が止めようと意見しようと耳を藉(か)さず、とうとう烏丸家の門から蹌(よ)ろ這(ば)い出たものではあるまいか。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は失笑(ふきだ)しそうになったのを辛(よ)うやっと知らん顔をする。
通り雨 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
戦争中(いくささなか)の縁談もおかしいが、とにかく早く奥様を迎(よ)びなさるのだね。どうです、旦那は御隠居と仲直りはしても、やっぱり浪子さんは忘れなさるまいか。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あのめくらが、いつかの日真犯人を云い当(あて)るのじゃないかな、という恐ろしい考えがチラッと僕の心を遏(よ)ぎった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
菊「其の折のお肴はお前に上げるから、部屋へ持(も)て往って、お酒も適(よ)い程出して緩(ゆっ)くりおたべ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又お前の信仰の虚偽を発(あば)かれようとすると「主よ主よというもの悉(ことごと)く天国に入るにあらず、吾が天に在(ましま)す神の旨に遵(よ)るもののみなり」
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「おれが醺(よ)っていたものだから。」
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるに国に随(よ)っては、ちょうどわが邦(くに)上方(かみがた)で奈良の水取(みずとり)といって春の初めにかえって冷ゆるごとく、暖気一たび到ってまた急に寒くなる事あり。仏国の東南部でこれを老女(ばば)の次団太(じだんだ)と呼ぶ。
独(ひとり)コノ筆録一友人ノ許ニ託ス。因テ免ルヽコトヲ得タリ。コレヲ篋衍(きょうえん)ニ蔵ス。南郭子(なんかくし)纂ノ言ヘルアリ。今ノ几(き)ニ隠(よ)ル者ハ昔ノ几ニ隠ル者ニ非ズト。一隠几(いんき)ノ間ニシテナホ然リ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また或時、天皇(すめらみこと)遊行しつつ美和河に到りませる時に河の辺に衣洗ふ童女あり、其容姿甚だ麗(よ)かりき。天皇その童女に、汝は誰が子ぞと問はしければ、おのが名は引田部の赤猪子(あかゐこ)とまをすと答白(まを)しき。
枕物狂 (新字旧仮名) / 川田順(著)