“よ”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
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(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
よる大分だいぶんけてゐた。「遼陽城頭れうやうじやうとうけて‥‥」と、さつきまで先登せんとうの一大隊だいたいはうきこえてゐた軍歌ぐんかこゑももう途絶とだえてしまつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
始めのうちは音信たよりもあり、月々つき/″\のものも几帳面ちやん/\と送つてたからかつたが、此半歳許はんとしばかり前から手紙もかねも丸で来なくなつて仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
寶鼎はうてい金虎きんこそんし、芝田しでん白鴉はくあやしなふ。一瓢いつぺう造化ざうくわざうし、三尺さんじやく妖邪えうじやり、逡巡しゆんじゆんさけつくることをかいし、また頃刻けいこくはなひらかしむ。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
半ば渡りて立止り、欄干にりて眺むれば、両岸の家々の火、水に映じて涼しさを加え、いずこともなく聞く絃声流るるに似て清し。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
「遅いからもうそうと断りましたが、多の市さんは依怙地いこじな方で、こんな大雪にわざわざ来たんだからと、無理に入り込んで——」
ようやく、あちらに、かがやうみが、わらっているのが、にはいった時分じぶん、どこからか、自分じぶんたちをぶ、はとのこえがきこえてきました。
兄弟のやまばと (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくは学校から帰る途中とちゅうたびたびカムパネルラのうちにった。カムパネルラのうちにはアルコールランプで走る汽車があったんだ。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いろひ、またゆき越路こしぢゆきほどに、られたとまを意味いみではないので——これ後言くりごとであつたのです。……不具かたはだとふのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一方では真実の役者がそれぞれ立派に三座にっていたが、西両国という眼抜きの地に村右衛門が立籠たてこもったので素破すばらしい大入おおいりです。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
さて、それでは、その恋愛、すなわち色慾の Warming-up は、単にチャンスにってのみ開始せられるものであろうか。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
貸す気がないなら貸さんでもいい、無理に借りようとはいわない。何も同情呼ばわりして逆さに蟇口を振って見せなくてもかろう
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
(四三)しんへいは、もと(四四)悍勇かんゆうにしてせいかろんじ、せいがうしてけふす。たたかもの(四五)其勢そのいきほひつてこれ利導りだうす。
毛といふ毛はこと/″\く蛇で、其の蛇は悉く首をもたげて舌を吐いて、もつるゝのも、ふのも、ぢあがるのも、にじり出るのも見らるゝ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
「でもあの辺はうございますのね、周囲まわりがおにぎやかで」おゆうはじろじろお島の髷の形などを見ながら自分のあたまへも手をやっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
りに選って、日本人なんか目っけなくてもよさそうなものだと、少々変な心持で、何だって聞くと、今度は名刺を出した、見ると
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
抱いて通ったのか、もつれて飛んだのか、まるでうつつで、ぐたりと肩にっかかったまま、そうでしょう……引息をほっと深く、木戸口で
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
太古たいこ遺跡ゐせき發掘はつくつに、はじめてくだしたのは、武藏むさし權現臺ごんげんだいである。それは品川しながはたくからきはめてちかい、荏原郡えばらぐん大井おほゐ小字こあざこと
(四三)しんへいは、もと(四四)悍勇かんゆうにしてせいかろんじ、せいがうしてけふす。たたかもの(四五)其勢そのいきほひつてこれ利導りだうす。
ことにどもらしい氣持きもちをうた自由じゆうみこんだひとで、そんなのになると、つい/\よいわるいをわすれて、同感どうかんせずにゐられません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
なるほど門人種員の話した通り打水うちみず清き飛石とびいしづたい、日をける夕顔棚からは大きな糸瓜へちまの三つ四つもぶら下っている中庭を隔てて
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この場合には町内の衆が、各一個の提灯ちょうちんを携えて集まり来たり、夜どおし大声でんで歩くのが、義理でもありまた慣例でもあった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
只今も申しまする通り夜分になれば伯父の目さえければはゞかるものはないんでげすから、お若さんも伊之助も好事いゝことにして引きいれる
苗代川は現実の世から見ればまさに夢の国だとも思える。進歩を誇る吾々に易々やすやすいものが出来にくいのと何たる対比であろうか。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あるいはその手の指の先に(ニコティンは太い第二指の爪を何と云う黄色きいろに染めていたであろう!)おりに折られた十円札が一枚
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何、何故ばなかったって。それは帰りにここへ来るつもりだったから招ばなかったのさ。ね、小言はようきいてからにするがいい。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
花を枕頭まくらもと差置さしおくと、その時も絶え入っていた母は、呼吸いきを返して、それから日増ひましくなって、五年経ってから亡くなりました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手紙で知らして来た容子にると、その後も続いて沼南の世話になっていたらしく、中国辺の新聞記者となったのも沼南の口入くちいれなら
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
さかずきかずがだんだんかさなるうちに、おかしららしいおには、だれよりもよけいにって、さもおもしろそうにわらいくずれていました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おわっても、それを読みはじめたときから私の胸を一ぱいにさせていた憤懣ふんまんに近いものはなかなか消え去るようには見えなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ほんとはこの『抒情小曲集』は『愛の詩集』と併せて読んで、僕の心持のたてとよことにれ込んだリズムをほぐして見てほしいのだ。
抒情小曲集:04 抒情小曲集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
主人の飼っている Jeanジャン という大犬が吠えそうにしてして、鼻をくんくんと鳴らす。竹が障子を開けて何か言う声がする。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
各々おのおの従者をしたがえ、また友情に厚き人々のこととて多くの見舞品などを携え、沙漠の舟とばるる駱駝に乗りて急ぎ来ったのであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
湖上の弦月げんげつと暁の雪峰せっぽう 暁霧ぎょうむを冒して少しく山の上に登ったところで、いかにも景色がうございますから湖面を眺めますと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
先哲せんてついはく……君子くんしはあやふきにちかよらず、いや頬杖ほゝづゑむにかぎる。……かきはな、さみだれの、ふるのきにおとづれて……か。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
我若しヴィルジリオとを同じうするをえたらんには、わが流罪るざいとき滿つること一年ひととせおくるゝともいとはざらんに。 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
また「蟆」の一字をタニククとませた例もなければ、「蟆」は畢竟ククの音に当てた仮名であって、それ自身タニグクではなく
女郎屋ぢよらうやふわけにはかず、まゝよとこんなことはさてれたもので、根笹ねざさけて、くさまくらにころりとたが、如何いかにもつき
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
経緯いきさつ悉皆すっかり打ち明けて、もっと真面目になれと忠告した後、長倉家の方も君の態度次第で話のりを戻すことが出来ると伝えた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのしつく空気の中で、笑婦の群れが、赤く割られた石榴ざくろの実のように詰っていた。彼はテーブルの間を黙々として歩いてみた。押しせて来た女が、彼の肩からぶら下った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
少年の時、嘗て一村院をぎり、壁上に詩あるを見る。云ふ、夜涼疑雨、院静似僧と。何人の詩なるやを知らざる也。
読みて大尉たいゐ壮行さうかうわれともにするの感あり、此日このひよりのちことにして、此日このひ只一人たゞひとりうれしくて、ボンヤリとなり、社員にもせず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
一夜道心の俄坊主にわかぼうずが殊勝な顔をして、ムニャムニャとお経をんでお蝋を上げたは山門に住んだと同じ心の洒落しゃれから思立ったので
そしてわざと暗い所をってもつれ合ってゆく柔弱なやからを見るといきなり横づっぽうの一つも張り飛ばしてやりたいほどかんがたって
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
銀杏を撫で石壇を攀ぢ御前に一禮したる後瑞垣にりて見下ろせば數百株の古梅ややさかりを過ぎて散りがてなるも哀れなり。
鎌倉一見の記 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
遂にスペイン人につぐなわれて城に帰った、それはかったが全体この女性質慓悍で上長の人の命にしたがわぬから遂に野獣にわす刑に処せられた
「これでは、いかに何でも、おれないでしょう。あしたは、ほかの旅籠はたごかわりましょう。毎夜ですから、寝不足になりますよ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
峰の小屋の熊のような主は「危えぜ、く気を付けて行かっせ、何でも右へ右へと、小石の積んだのを目当てに行きせえすりぁ大丈夫だ。」
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
し一方が余の見立通り老人は唯一突にていたみを感ずる間も無きうちに事切れたりと見定むるとも其一方が然らずと云わば何とせん
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
またようむしの事語りていわく、博士なにがしは或るとき見に来しが何のしいだしたることもなかりき、かかることはところの医こそく知りたれ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
でも、困つたのよ、安いのを買はうとすると、そばから、三輪さんの奥さんが、こつちがいゝつて、高いのをるんですもの……。
屋上庭園 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
驚くことのあらんとすらんとおみになった心をけて、数ならぬ私共もまた、何物にか驚かされたいと常に念じている次第でございます。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぎたる紅葉もみぢにはさびしけれど、かき山茶花さゞんかをりしりかほにほひて、まつみどりのこまやかに、ひすゝまぬひとなきなりける。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
未だ報裁をかうむらず、欝包うつはうの際、今年の夏、同じく平貞盛、将門を召すの官符を奉じて常陸国にいたりぬ。つて国内しきりに将門に牒述てふじゆつす。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
さうして結局けつきよく節約額せつやくがくが一おく二千五百萬圓まんゑんあまりであつて特別會計とくべつくわいけいの一おく三千四百萬圓まんゑん節約額せつやくがく合算がつさんすると二おく六千萬圓まんゑんとなる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
心のみにつてあらゆることが起つて来る。その心が果して宇宙の心につゞいてゐるか、何うか。永遠の生命につゞいてゐるか、何うか。
大阪で (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
元の天下を得る、もとより其の兵力にると雖も、成功の速疾なるもの、劉の揮攉きかくよろしきを得るにるものまたすくなからず。秉忠は実に奇偉卓犖きいたくらくの僧なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「何、安田の炭鑛へかゝつてたんですがね。エ、二里ばかり、あ、あの山の陰になつてます。エ、最早しちやつたんです」
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ばれる座敷は気が向いた客のみにしか行かず、弟子取りも断って、わたし一人だけ幼年の無邪気なのを取得に家に置くことを許した。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
雑木林を抜けて、裏街道を停車場の方へ足を向けた菜穂子は、前方から吹きつける雪のために、ときどき身をげて立ち止まらなければならなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
われかつてゴツトシヤルが詩學にり、理想實際の二派を分ちて、時の人の批評法を論ぜしことありしが、今はひと昔になりぬ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
いたずらに自尊の念と固陋ころうけんり合せたるごとき没分暁ぼつぶんぎょうむちを振って学生を精根のつづく限りたたいたなら、見じめなのは学生である。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「先ず好かった」と思った時、眩暈が強く起こったので、左の手で夜具葛籠を引き寄せて、それにり掛かった。そして深いゆるい息をいていた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかるに弟子はぶを知ってうを知らぬので、満屋皆水なるに至って周章く所を知らなかったということがある。当時の新聞雑誌はこの弟子であった。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すでに他人の忠勇ちゅうゆうみするときは、同時にみずからかえりみていささ不愉快ふゆかいを感ずるもまた人生の至情しじょうまぬかるべからざるところなれば、その心事を推察すいさつするに
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
めたり/\、檜葉菩薩の賢明、三馬鹿の陰謀をそれと見拔き、釣られたる風をして、そつと三馬鹿を出し拔き、麓にて待ち合はす相手にとて、六一菩薩を招きたるよな、その手は喰はぬと
夜の高尾山 (旧字旧仮名) / 大町桂月(著)
「えゝ、なさけねえ奴等やつらだな」ぢいさんはかけかみてた。店先みせさき駄菓子だぐわしれた店臺みせだいをがた/\とうごかすものがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ついこなひだのこと、侯爵細川護立氏のところへ、春陽会の若い画家五六人がばれて往つたことがあつた。山崎省三氏もその中にまじつてゐた。
この世にし、楽しくあらば、来んには、虫にも、鳥にもれはなりなむ。そら、これだこれだ! 此の世さへ楽しかつたら来世には、たとへどんな動物になつたつてそんな事あ構はん。
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
台州たいしうから天台縣てんだいけんまでは六十はんほどである。日本にほんの六はんほどである。ゆる/\輿かせてたので、けんから役人やくにんむかへにたのにつたとき、もうひるぎてゐた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
こうして牛の背をかりて旅の出来るほどには、体のぐあいもくなっては来たが、彼女のやまい以上の問題は、決してまだ解決はしていない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
揺れない大きな船の乗組員は、小さな船の船員よりもうとの事だ。つまりたまにより大揺れに逢わないからである。サロンの桃の花しだいにこぼれていく。
欧洲紀行 (新字新仮名) / 横光利一(著)
もう一人、あわせ引解ひっときらしい、汚れたしま単衣ひとえものに、綟れの三尺で、頬被ほおかぶりした、ずんぐりふとった赤ら顔の兄哥あにいが一人、のっそり腕組をしてまじる……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほかにも烏檡おと(『漢書』)、𪂬䖘(揚雄『方言』)など作りあれば、烏菟おとは疑いなく虎の事でその音たまたま猫の梵名にく似たのだ。
されども諸王は積年の威をはさみ、大封のいきおいり、かつ叔父しゅくふの尊きをもって、不遜ふそんの事の多かりければ、皇太孫は如何いかばかり心苦しくいとわしく思いしみたりけむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ところが講談では大高源吾が神崎かんざきろう国蔵くにぞう馬食うまくらいのうしろう、場所も遠州浜松となっています
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
れど是等これらの道具立てに不似合なる逸物いちもつは其汚れたる卓子てえぶるり白き手に裁判所の呼出状を持ちしまゝ憂いに沈める一美人なり是ぞこれ噂に聞ける藻西太郎の妻倉子なり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と云つて、ひと汽車の客が皆左の窓際へつて眺めるのであつた。自分は秋草あきぐさを染めたお納戸なんどの着物に、同じ模様の薄青磁色うすせいじいろの帯を結んで居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そは妾にしてし彼の家の如き冷酷の家庭にるとも到底長くとどまるあたわざるを予知すればなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「だけど、なにしろ友達が悪いんですからね。あなたもあまりきびしく言うのはおしなさいよ。おっかないから。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
又、しんば英才の人が容易に或事を爲し得たとするも、其の英才は何れから來たか。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
示さば、臣ならうこと無からんや。且つ、ぶんからず。君、其れ、之(夏姫の肌着)を納めよ。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ちかうち御邪魔おじやまても御座ございますか」とくと、坂井さかゐ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あけはひつてな、えのさ、そんでも麁朶そだあよりやえゝかんな、松麁朶まつそだだちつたつてこつちのはうちやなまで卅五だのなんだのつて、ちつちえくせにな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
池を飛び越えて向うへ立ってスリの立ち廻りを見物していたそうで、私は、いつもながら、年はっても父の機敏なのに驚いたことであった。
平吉はじめ五兵衞其外とも一同下られけり是より伊奈殿には手代てだい杉山すぎやま五郎兵衞馬場ばば三右衞門の兩人に幸手宿さつてじゆくの杉戸屋富右衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「何れそんなことでしょうと存じましたが、これからはもうして下さいよ。私の方の予算が悉皆狂ってしまいますから」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とぞ御涙おんなみだこのに一つ
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
大伴家持の歌に、「春花のうつろふまでに相見ねば月日みつつ妹待つらむぞ」(巻十七・三九八二)というのがある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
甲野さんは寝ながら日記をけだした。横綴よことじの茶の表布クロースの少しは汗にごれたかどを、折るようにあけて、二三枚めくると、一ページさんいちほど白い所が出て来た。甲野さんはここから書き始める。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私らンとこの菊太郎も実地はもうたくさんだで、今茲ことしは病院の方をさして、この秋から田舎に開業することになっておりますでね、私もこれで一ト安心ですよ。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今夜という今夜はたしかの実地を見届けたのだ、あれがにいう魔とか幽霊とか云うものであろう。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「矢張りおったままで『済まん、細木永之丞君、命令だったからじゃ、済まん』と、仰有おっしゃったじゃアありませんか」
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
姿を借りてその群の中に伍してゐたか、或は時流が一樣にそれらの人をもくるめて、武者修業とんだだけに過ぎない。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
行年ぎょうねんその時六十歳を、三つと刻んだはおかしいが、数え年のサバをんで、私が代理に宿帳をつける時は、天地人とか何んとか言って、ぜんの問答をするように、指を三本
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……芳ちやん』群集を振り返た時にはおろおろ聲で眼が血走つて居る。やがて凜とした甲聲かんごゑ
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「は?」彼は覚えず身をかへして、ちようと立てたる鉄鞭にり、こはこれ白日の夢か、空華くうげの形か、正体見んと為れど、酔眼のむなしく張るのみにて、ますまれざるはうたがひなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
各町の知事毎年その町良家新産の女児をて最も美な者十二人を選び、殿中に養い歌舞を習わせ、十二歳の始めにこれを王宮に進め、旧制にって試験を受く。
二人は連れ立つてそこらの珈琲コーヒー店に入つて往つた。音楽家は暖い珈琲と菓子の一皿とを乞食にあてがひながら、自分は卓子テーブルりかゝつて、せつせと作曲に取りかゝつた。
斜めに吹きかける雨を片々かたかたの手に持った傘でけつつ、片々の手で薄く切った肉と麺麭パンを何度にも頬張ほおばるのが非常に苦しかった。彼は幾たびか其所そこにあるベンチへ腰をおろそうとしては躊躇ちゅうちょした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と細い聲で、靜に、冷笑的に謂ツて、チラと對手あひての顏を見る。そしてぐいと肩をそびやかす。これは彼が得意の時にく行る癖で。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
此の後はみやこに出でて雀部を六二とぶらひ、又は近江に帰りて児玉に身をせ、七とせがほどは夢のごとくに過しぬ。
この已来このかた秋稼しうかに至り風雨ついでしたがひて五穀豊かにみのれり。此れすなはち誠をあらはし願をひらくこと、霊貺りやうきやう答ふるが如し。すなはおそれ、載ち惶れて以てみづかやすみするとき無し。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ところで、なんぜ油を嘗めよったかと言うと、いまもいう節で、虐待されとるから油でも嘗めんことには栄養の取りがない。まあ、言うたら、止むに止まれん栄養上の必要や。
秋深き (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その勢力のある英国の権力を持って軍隊からわざわざこしてくれたこの人物——ホートンと名乗るこの人物の、こればかりの要求を拒絶するということも義理合いとして出来難い。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
東山野ひがしさんやこのはじめてきく聲の茅蜩かなかなのこゑは竹にとほれり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
お父さまは一週間前から感冒にかゝられておつてゐられます。それに持病の喘息ぜんそくも加つて昨今の衰弱は眼に立つて見えます。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
朋友死してる所なければ我がもとにおいてひんせよという。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この時、無窮と見えた雲の運動は止まって、踏むさえ惜しい黄金の土地の上を、銀色の川がぎって、池の菱の花は、静かに、その瞼を閉ざすのである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
投げ植えるようにしてあるのが、今時分になって、う/\数えるほどの花が白く開いている。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
此處こゝ大黒屋だいこくやのとおもときより信如しんによものおそろしく、左右さゆうずしてひたあゆみにしなれども、生憎あやにくあめ、あやにくのかぜ鼻緒はなををさへに踏切ふみきりて、せんなき門下もんした紙縷こより心地こゝち
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その心志の周旋するところ、日夜の郷往きょうおうするところ、その死してのち数十年、しかもその物、具存して、体魄たいはくりんより、気のるところを知る。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ビテ水雲くらシ/手ニ到ル凶函涙痕湿うるおフ/蕙帳夜空シク謦欬ノ如ク/松堂月落チテ温存ヲ失フ/俊才多ク出ヅ高陽里/遺業久シク伝フ通徳門/天際少微今見エズ/誦スルニ招隠ヲもっテ招魂ニ当ツ〕『春濤詩鈔』にこの挽詞ばんし
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勝信 おっていらっしゃいませ。(親鸞を助けて寝床にさせる)お苦しゅうございますか。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
招待ばれて来た猪之松の兄弟分の、領家の酒造造みきぞう、松岸の権右衛門、白須の小十郎、秩父の七九郎等々十数人の貸元で、それらと向かい合って亭主役の、高萩の猪之松が端座したまま
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
周章て火鉢の前に請ずる機転の遅鈍まづきも、正直ばかりで世態知悉のみこまぬ姿なるべし。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
世間はしばし中将の行くえを失いて、浪子ひとりその父を占めけるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
いずれも、しずまれい。お家の重大事を、私憤とおまちがい召さるまいぞ。私議、我執がしゅうつつしまれたい。かかる際には、一藩一体となり、挙止もの静かなるこそそ目にも見事と申すもの。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひそかに川を渡って逃げた跡へ村方の百姓衆が集って来ましたが、何分にも刃物はし、斬人きりては水司又市で、お山は余程の深傷ふかででございますから、もう虫の息になって居る処へ伯父が参り
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
みけるに、翁はこれを何とか読み変へて見たり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
... よぶ夜の鶴、我はつまよぶ野辺の雉子きじ」又下の巻に入りて「さこいと云ふ字を ...
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
慈悲善根の心がけがあつく、町内で評判の良いことは、平次もく知っております。
これ等のお守は竹でつくり、色あざやかな、金銀の紙で被った小さな米俵、った藁その他の、豊饒と幸運との表徴である。
それと同時に、裏門からも、表門からも、塀のみねへ、樹の梢へ、ましらのようにじ登る人影が鮮かに見えた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
到底のんどくだるまじと思いしに、案外にもあじわいくて瞬間にべ尽しつ、われながら胆太きもふときにあきれたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
愉園ゆゑんはひつて蒸す様なまぶしい𤍠帯花卉の鉢植の間のたくり、二本ふたもとのライチじゆの蔭の籐椅子を占領して居る支那婦人の一団を眺めながら、珈琲カフエエを取つて案内者某君の香港ホンコン談を聞いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
まだ「大坂」という地名はなく「難波なにわ」とよび、また、「小坂おさか」といっていたその頃から、四天王寺は堂塔四十幾ツの輪奐りんかんせた大曼陀羅だいまんだらの丘だったが
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
働いておらぬ貧民は、貧民たる本性を遺失して生きたものとは認められぬ。余が通り抜ける極楽水ごくらくみずの貧民は打てどもがえ景色けしきなきまでに静かである。——実際死んでいるのだろう。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我を呼びて主よ主よと言う者ことごとく天国に入るに非ず、之に入る者は唯我天にいます父の旨にしたがう者のみ、其日我に語りて主よ主よ我等主の名にりて教え主の名に託りて鬼を逐い
失敬しっけいな!』と、一言ひとことさけぶなりドクトルはまどほう退け。『全体ぜんたい貴方々あなたがたはこんな失敬しっけいなことをっていて、自分じぶんではかんのですか。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
孔子、弥子瑕にりて夫人を見たり。(『呂氏春秋』、慎大覧貴因)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ながながしに唯ひと日
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
かれ大國主の神、出雲の御大みほ御前みさきにいます時に、波の穗より、天の羅摩かがみの船に乘りて、ひむしの皮を内剥うつはぎに剥ぎて衣服みけしにして、り來る神あり。
ここに太后、神せして、言教へさとし詔りたまひつらくは、「西の方に國あり。くがねしろがねをはじめて、目耀まかがや種種くさぐさ珍寶うづたからその國にさはなるを、あれ今その國をせたまはむ」
おばこ来るかやと田圃たんぼんづれまで出て見たば、コバエテ/\、おばこ来もせでのない煙草たんばこ売りなの(なのはなどの意)ふれて来る。コバエテ/\
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
おばこ居たかやと裏の小ん窓からのぞいて見たば(見たばは見たればの意)、コバエテ/\、おばこ居もせでのない婆様ばあさまなの(など)糸車、コバエテ/\。
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
清「いや然うはきませぬ、うでもうでも落合までだ日も高いからこ積りで」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
清「いやうでない、今日はみて落合までつもりで」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
要するに彼は、し此時だけにもしろ、味が薄いが、かんにして要を得た市民的生活が氣に適ツたのであつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しや事業熱はめても、失敗を取返へさう、損害をつくのはうといふ妄念まうねんさかんで、頭はほてる、血眼ちまなこになる。それでも逆上氣味のぼせぎみになツて、危い橋でも何んでもやたらと渡ツて見る………矢張やはり失敗だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ろづの事皆な空にして、法のみ独りじつなり、法のみ独り実にして、法にしたがふところの万物皆な実なるを得べし。自然は常変にして不変、常動にして不動、常為にして無為、法の眼に於て然り。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
松田 そんなに御亭主の事が気になるなら、一層今の中止したらどうだい。
ここに山部やまべむらじ小楯をたて針間はりまの國のみこともちさされし時に、その國の人民おほみたから名は志自牟しじむが新室に到りてうたげしき。ここにさかりうたげて酒なかばなるに、次第つぎてをもちてみな儛ひき。
分子間相互の引力に使って、凝集して楕円塊となり、さらに収縮してその密度を増すのである、彼らの楕円塊がその熱度を空間に放出して、外殻が出来たものこそ、我地球のごとき有様を呈する
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
「誰れが言ひますもんか、しんばいうたかて、これが猫や犬の飯詰めたんやなし、神佛のお下りなら願うても頂く人がおますがな。勿體ない/\。」
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
まだ月もそう西へはっていない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛙も、元氣能く聲を揃へていてゐる、面白いに取紛とりまぎれて、自分は夢中で螢を追駈廻してゐた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「私のも」と吉どんがせた算盤を見せるようにして。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むかしむかし棄老国とばれたる国ありて、其国そこに住めるものは、自己おの父母ちちははの老い衰へて物の役にも立たずなれば、老人としよりは国の費えなりとて遠き山の奥野の末なんどに駆りつるを恒例つねとし
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
不二ののいや遠長き山路をも妹許いもがり訪へばはず
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ひとやゝもすれば、その最期いまはこゝろかるゝ! それを看護人かんごにんぬるまへ電光いなづまんでゐる。
高いものや 善良きものや 深いものや
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
辛未かのとひつじ、皇太子、使をまたして飢者を視しむ。使者かへり来て曰く、飢者既にまかりぬ。ここに皇太子おほいこれを悲しみ、則ちりて以て当処そのところほふりをさめしむ。つかつきかたむ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
多少の金廻りは村人の心を動揺させないために有効であった。「うまくいった。うまくいった、北野家の伝統の岩をゆるがし得るものがこの地上にあろうはずがない」
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
一瞬間誰もの胸をスーッとぎってゆく暗い冷たいものがあった。そういっても重苦しいものでいっぱいに皆の胸がしめつけられてきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
或日、私はいつもうに午食後、食堂に残って主人の相手になって無駄話に耽っていた。ふと、いなくなった「彼」の事を思い出して、主人にあのセルヴィヤ人は何うしたろうと、訊いて見た。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
隅「いゝえ、そうで有りません、ひょっとして貴方が私の様な者でもんで下さいますと、わざわいはしもからといって、あゝいう人に胡麻を摺られるとたまりませんからねえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「随分よくおられますね。ほほほほほ。」
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
諸将の行方を追及することも急だったが、彼らは山林ふかく身をせて、呂布の捜索から遁れていたので、遂に、網の目にかからなかった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女「大層いたしますね、今度の狂言は中々大入で、私が参りましたら一杯で、尤も土曜日でございましたが、ぎっしりでございましたよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お前さまは大岡様からの大事な預り人で、困って芸者に出る人じゃないから、嫌になったらいつでも廃業すこった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
清「いや然うはきませぬ、うでもうでも落合までだ日も高いからこ積りで」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
間貫一の十年来鴫沢の家に寄寓せるは、る所無くて養はるるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あたしだつて人間だもの、まさかお前の心のめていないでもなかつたけれど、そこにア、それ……、かういつちや勿体もつたいないけどまつたくさ。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
記者も初め遠くから見た時は、大昔の美津良みずら式を復活させたものかと思ったが、近付いてよくよく見ると、髪毛とは全く別の感じを持った黒い固まりなので腹の皮がれた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
彼の議論がってつ所の基礎、すなわち、穀物の価格は常に地代を生ずるということを譲歩するならば、彼が主張するすべての結果が当然それに随伴すべきことは明かである。
こは逍遙子が言に、今の批評家狂言作者に向ひて「ドラマ」を求むるは底事なにごとぞとありしにりたるなるべし。されど逍遙子が所謂「ドラマ」には、單に戲曲といはむよりは廣き義あり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
グーングーングーングーンと既に間近くって来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人間様の恋路の笑止をかしいのは鍋小路どので初めて承知して毎日顔を見る度に俺は腹筋はらすぢれたわい
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
これは懸けわくといって、的串まとぐしを左右に立て、せみの緒という二重にった綿紐わたひもっておくのである。矢頃は十三丈というのが古法だった。光政の第一矢は、四寸の的に外れた。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おンなツたが可い!」
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「えらいよおましたなあ。ほんまにこない巧い工合に行たことあれしません。さあ、さあ、今の間アにしやはらんと、ぐずぐずしてはったら電話かかって来まっせ」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こんなことを次から次へと考へてゐるうちに、また新しいみ手が詩稿を拡げた。わたしは自分に対しても、またこの会全体に対しても、ひどくうとましい気持になつて来た。
キリスト者の告白 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
旦那様だんなさま、誠にまア結構けつこうくすりでございます、有難ありがたぞんじます、疼痛いたみがバツタリりましてございます。主「それはるよ、くすりだもの……はおまへかえ。 ...
なみにたゞよひなみ
ゴンドラの唄 (旧字旧仮名) / 吉井勇(著)
幸に江湖の識者来つて、吾人に教へよ、吾人をして通津つうしんを言ふの人たらしむるなかれ。吾人は漁郎ぎよらうを求めつゝあり、吾人をして空言くうげんともとならしむる勿れ。天下誰れか隣人を愛するを願はざる者あらむ。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
このり分けを母はどうしたのでしょうか。私にはそれが自然のように見えていながら、しまに言わせると
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
御傍へれば心持の好い香水が顔へ匂いかかる位、見るものも聞くものも私には新しく思われたのです。御奉公の御約束もまとまりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
田辺の漁夫は大きさにってぶりを「つはだ、いなだ、はまち、めじろ、ぶり」と即座に言い別くる。しかるに綿羊と山羊の見分けが出来ぬ。
兄上がひ来玉ひし品は「にっける」をせたれば、陸にてはく輝けど、水の中にては黒みて見ゆる気味ありて魚の眼を惹くこと少しとなり、我が購ひ来しは銀色なせる梨子肌のものなれば
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「今晩もかい。よく来るじゃアないか」と、小万は小声で言ッて眉をせた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「いえ、それでしたら御心配いりませんわ。私、もう五、六年も毎年葵原と一緒にヨットの練習をやっているんですもの——一度だって、ったこと御座いませんの——」
葵原夫人の鯛釣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
聞えよがしに苦笑しいしい、税関吏に穿じり返された荷物の始末をしている。嬢はじっとそれをながめていた。やっと後片付けも終ると
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
わが物と何を定めん難波潟蘆のひとのかりそめの世に
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
筆択むべし、道具詮議すべし、魚を釣らんとせば先づ釣の具をくすべし。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そうしてそれがだんだんに大きい輪を作って、さながら踊りだしたようにれたりもつれたりして狂った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
盲目にその運命に従うとうよりは、むしひややかにその運命を批判した。熱い主観の情と冷めたい客観の批判とがり合せた糸のように固く結び着けられて、一種異様の心の状態を呈した。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
これが岡崎の殷富を致した基だと云ふ。忠茂の血と倶に忠茂の経済思想を承けた忠行が、曾て引水の策を献じ、つひ商賈しやうことなつたのは、つて来る所があると謂つて好からう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ねえ、っちゃん」
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おないろ薄掻卷うすかいまきけたのが、すんなりとした寢姿ねすがたの、すこ肉附にくづきくしてせるくらゐ。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「何うしてきふしてしまツたのだらう。」
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
或被酒僵臥 或は酒にいて僵臥きょうが
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
多福かめさんとタチヤナ姫と、ただの女と——そう! どう思い返してもこう呼ぶのがいい——が流行の波斯縁ペルシャぶちの揃いの服で、日けの深いキャフェの奥に席を取った。遊び女だ。
巴里のキャフェ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
帝は高祖武帝ぶていの第七子にして、は武帝の長子にして文選もんぜん撰者せんじゃたる昭明太子しょうめいたいしとうの第二子なり。一門の語、誉を征するの時に当りて発するか。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近年新聞紙の報道するところについて見るに、東亜の風雲はますます急となり、日支同文の邦家ほうかも善鄰のしみをさだめているいとまがなくなったようである。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
めたり/\、花よりも團子、風景よりも料理、前年、時も同じ今頃、この三人に榎木小僧加はりて、柴又の川甚の川魚料理に舌鼓打ちたり。その味、今もなほ忘れざるものと見えたり。
川魚料理 (旧字旧仮名) / 大町桂月(著)
それはおそらくたゝかふ者の誇と名にかけて、または男の地にかけてであつたらう。が、現在げんざいでは對局たいきよくの陰に實際的じつさいてきな生くわつ問題もんだいまでふくまれて來たらしい。
今まで何百ツて云ふい月給を頂いて居らつしやいましたのが、急に一文なしにおなりなすつたのですから、ほんとに御気の毒の様で御座いましたがネ、奥様が、貴郎あなた厳乎しつかりして
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
またバートンは北米のインジアンが沙漠中に天幕と馬にりて生活するよりアラビア人と同似の世態を発生した由を述べた。したがって西大陸に新規現出した馬に関する習俗が少なからぬ。
その時、おくればせにせつけた見慣れない大男——刀を横たえ、息せききって来合わせたのをお角が見ると、ははあ、相撲取だと思いました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は肱で縦横無尽に突きまくった。すると、突かれた女はろけながら、また他の男の首に抱きついて運ばれていった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それまで水手拭みずてぬぐいを当てていた頭の髪を結び、病褥にいたわっていた痩せた足に草鞋わらじをつけ、誰が止めようと意見しようと耳をさず、とうとう烏丸家の門からい出たものではあるまいか。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は失笑ふきだしそうになったのをうやっと知らん顔をする。
通り雨 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
戦争中いくささなかの縁談もおかしいが、とにかく早く奥様をびなさるのだね。どうです、旦那は御隠居と仲直りはしても、やっぱり浪子さんは忘れなさるまいか。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あのめくらが、いつかの日真犯人を云いあてるのじゃないかな、という恐ろしい考えがチラッと僕の心をぎった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
菊「其の折のお肴はお前に上げるから、部屋へて往って、お酒もい程出してゆっくりおたべ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又お前の信仰の虚偽をあばかれようとすると「主よ主よというものことごとく天国に入るにあらず、吾が天にまします神の旨にるもののみなり」
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「おれがっていたものだから。」
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるに国にっては、ちょうどわがくに上方かみがたで奈良の水取みずとりといって春の初めにかえって冷ゆるごとく、暖気一たび到ってまた急に寒くなる事あり。仏国の東南部でこれを老女ばば次団太じだんだと呼ぶ。
ひとりコノ筆録一友人ノ許ニ託ス。因テ免ルヽコトヲ得タリ。コレヲ篋衍きょうえんニ蔵ス。南郭子なんかくし纂ノ言ヘルアリ。今ノル者ハ昔ノ几ニ隠ル者ニ非ズト。一隠几いんきノ間ニシテナホ然リ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また或時、天皇すめらみこと遊行しつつ美和河に到りませる時に河の辺に衣洗ふ童女あり、其容姿甚だかりき。天皇その童女に、汝は誰が子ぞと問はしければ、おのが名は引田部の赤猪子あかゐことまをすと答白まをしき。
枕物狂 (新字旧仮名) / 川田順(著)