“寄(よ)” の例文
ちょうど私(わたし)と同(おな)じい七つ、八つばかりの子供(こども)が、毎日(まいにち)五、六人(にん)も寄(よ)り集(あつ)まって鬼事(おにごっこ)をしたり、こまをまわしたりして遊(あそ)んでいました。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくは学校から帰る途中(とちゅう)たびたびカムパネルラのうちに寄(よ)った。カムパネルラのうちにはアルコールランプで走る汽車があったんだ。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
八の字(じ)を深(ふか)くしながら、寄(よ)せた松(まつ)五郎(ろう)の眼先(めさき)を、ちらとかすめたのは、鶯(うぐいす)の糞(ふん)をいれて使(つか)うという、近頃(ちかごろ)はやりの紅色(べにいろ)の糠袋(ぬかぶくろ)だった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と言葉(ことば)やさしく愛兒(あいじ)の房々(ふさ/″\)せる頭髮(かみのけ)に玉(たま)のやうなる頬(ほゝ)をすり寄(よ)せて、餘念(よねん)もなく物語(ものがた)る、これが夫人(ふじん)の爲(た)めには、唯一(ゆいいつ)の慰(なぐさみ)であらう。
ずいぶん注意して見ていたのであるが、やはり向こうから見つけてかけ寄(よ)って来るまで、わたしたちはアルキシーを見つけなかった。
妙見勝三郎——そう言えば、生き残りの番士を代表して、今夜一人で喬之助の件につき相談に来ると言って寄(よ)こした妙見勝三郎……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「俺(お)ら其(そ)の手拭(てぬげ)被(かぶ)つてこつち向(む)いてる姐樣(あねさま)こと寄(よ)せて見(み)てえもんだな」立(た)ち塞(ふさ)がつた陰(かげ)から瞽女(ごぜ)の一人(ひとり)へ揶揄(からか)つていつたものがある。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
寄(よ)れば触(さは)れば高慢(かうまん)の舌(した)爛(たゞら)してヤレ沙翁(シヱークスピーヤ)は造化(ざうくわ)の一人子(ひとりご)であると胴羅魔声(どらまごゑ)を振染(ふりしぼ)り西鶴(さいくわく)は九皐(きうかう)に鳶(とんび)トロヽを舞(ま)ふと飛(と)ンだ通(つう)を抜(ぬ)かし
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵、三文字屋金平(著)
『もつと近(ちか)うお寄(よ)りなさい。それで檢死(けんし)の役目(やくめ)は濟(す)みますか。』と言(い)ひ/\、玄竹(げんちく)は腐(くさ)つた死體(したい)を右(みぎ)に左(ひだり)に、幾度(いくたび)もひつくりかへした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
跡取(あとと)りの弟は糟谷(かすや)をばかにして、東京へきても用でもなければ寄(よ)らぬということもわかった。細君の顔はよりはなはだしく青くなった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ドカリ——洗面所(せんめんじよ)の方(かた)なる、扉(どあ)へ立(た)つた、茶色(ちやいろ)な顔(かほ)が、ひよいと立留(たちどま)つてぐいと見込(みこ)むと、茶(ちや)の外套(ぐわいたう)で恁(か)う、肩(かた)を斜(はす)に寄(よ)つたと思(おも)ふと
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
つつましく膝に置いて俯向(うつむ)き加減にしている盲目の㒵(かお)のあでやかさは一座の瞳(ひとみ)をことごとく惹(ひ)き寄(よ)せて恍惚(こうこつ)たらしめたのであった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
梅子は何にも云はずに、額(ひたい)に八の字を寄(よ)せて、笑ひながら手を振り振り、代助の言葉を遮ぎつた。さうして、向(むか)ふから斯(か)う云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ジリ、ジリ、と一寸(すん)にじりに寄(よ)りながら息をはかり、気合いをかけたが最後、ただ一刀に、息(いき)の根(ね)をとめてしまおうとするらしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おかあさんはその夕方(ゆうがた)、姫(ひい)さんをそっとまくら元(もと)に呼(よ)び寄(よ)せて、やせ衰(おとろ)えた手で、姫(ひい)さんのふさふさした髪(かみ)の毛(け)をさすりながら
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
すぐに庫裏(くり)の玄関先(げんくわんさき)へ歩(あゆ)み寄(よ)ると、折(をり)よく住職(ぢゆうしよく)らしい年配(ねんぱい)の坊(ばう)さんが今(いま)がた配達(はいたつ)されたらしい郵便物(いうびんぶつ)を見(み)ながら立(た)つてゐたので
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風、永井壮吉(著)
其れに引易え、或信心家は最初片っ方しか無い車井(くるまい)の釣瓶なぞに随喜したが、此頃ではつい近所に来て泊っても寄(よ)っても往(い)かなくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
胡桃(くるみ)、澤胡桃(さはくるみ)などゝいふ木(き)は、山毛欅(ぶな)の木(き)なぞと同(おな)じやうに、深(ふか)い林(はやし)の中(なか)には生(は)えないで、村里(むらさと)に寄(よ)つた方(はう)に生(は)えて居(ゐ)る木(き)です。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
六時(じ)が七時(じ)になつても、船(ふね)はひた/\と波止場(はとば)の際(きは)まで押(お)し寄(よ)せて居(ゐ)ながら、まだなか/\著(つ)けさうにない。其(そ)のうち又(また)しても銅鑼(どら)が鳴(な)る。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
けれども……皷動(こどう)が全(まつた)く靜(しづ)まつて、血(ち)の流(なが)れがもとのゆるやかさにかへつた頃(ころ)、極(きは)めて靜(しづ)かに歩(あゆ)み寄(よ)つて來(く)るもの侘(わ)びしさを
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
大蛇(おろち)は人形を見ると、それを生きた人間と思ったのでしょう、いきなり大きな鎌首(かまくび)をもたげて、恐(おそ)ろしい勢(いきおい)で寄(よ)ってきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼は楯と弓とを投げ捨てて父の傍へ馳(か)け寄(よ)った。彼は父の死の理由の総(すべ)てを識(し)った。彼は血潮の中に落ちている父の耳を見た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
今(いま)、この新(あたら)しく入(はい)って来(き)た仲間(なかま)を歓迎(かんげい)するしるしに、立派(りっぱ)な白鳥達(はくちょうたち)がみんな寄(よ)って、めいめいの嘴(くちばし)でその頸(くび)を撫(な)でているではありませんか。
かえりにはまた必(かなら)ず立ち寄(よ)るからとお言いのこしになって、さらに東の国へお進みになり、山や川に住んでいる、荒(あら)くれ神や
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
敦子(あつこ)さまはそう言(い)って、私(わたくし)に膝(ひざ)をすり寄(よ)せました。私(わたくし)は何事(なにごと)かしらと、襟(えり)を正(ただ)しましたが、案外(あんがい)それはつまらないことでございました。——
こないだっから仕掛(しか)けて居たものが「つまずい」て仕舞ったのでその事を思うと眉(まゆ)が一人手に寄(よ)って気がイライラして来る。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
村の人たちは寄(よ)り合いをやって相談(そうだん)をした。そして結局(けっきょく)、村の人の中で、寺の鬼どもを退治(たいじ)したものを寺の住職にしようということになった。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
源一は、できるだけの速力で、泥田(どろた)の中へとびこんでいった。ひっくりかえったジープの横をぬけ、たおれているアメリカ人のそばへ寄(よ)った。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それと知(し)れば俄(にはか)に肩(かた)すぼめられて見(み)る人(ひと)なければ遽(あはたゞ)しく片蔭(かたかげ)のある薄暗(うすくら)がりに車(くるま)も我(われ)も寄(よ)せて憩(いこ)ひつ、靜(しづ)かに顧(かへり)みれば是(こ)れも笹原(さゝはら)走(はし)るたぐひ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
然(しか)るところ寛永十八年妙解院殿存じ寄(よ)らざる御病気にて、御父上に先立ち、御逝去(せいきょ)遊ばされ、肥後守殿の御代と相成り候。
沖(おき)なる島山(しまやま)の頂(いたゞき)は紫嵐(しらん)に包(つゝ)まれ、天地(てんち)見(み)るとして清新(せいしん)の氣(き)に充(み)たされて居(ゐ)る時(とき)、濱(はま)は寂寞(じやくばく)として一(いつ)の人影(じんえい)なく、穩(おだや)かに寄(よ)せては返(か)へす浪(なみ)を弄(ろう)し
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
先年横山大観、寺崎広業(てらさきくわうげふ)、山岡米華(べいくわ)の諸氏が連立(つれだつ)て支那観光に出掛ける途(みち)すがら神戸へ立寄ると、土地(ところ)の富豪連(かねもちれん)が寄(よ)つて集(たか)つて三人を招待(せうだい)した。
(暑(あつ)い日(ひ)で直(すぐ)に眠(ねむ)くなつたり、懵然(ぼんやり)するものだから一心(しん)に)心(こゝろ)の中(うち)で考(かんが)へてゐますと、突然(とつぜん)可愛(かあい)い眼(め)をした白兎(しろうさぎ)が、その傍(そば)に驅(か)け寄(よ)つて來(き)ました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それらは當時(とうじ)支那(しな)から渡(わた)つた石材(せきざい)を取(と)り寄(よ)せて、つくつたものと思(おも)はれます。またこの美(うつく)しい楕圓形(だえんけい)の石(いし)の眞中(まんなか)に、穴(あな)のあるものなどもあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
得ざれば汝ぢが申所は道理(もつとも)に似(に)たりと雖も親の罪を子に負(おは)すると言ふ事には成(なら)ず又罪も罪の次第に寄(よ)る況(まして)や其方は他人の養子(やうし)と成りし身(み)成(なら)ずや夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
魔女は、赤い目をしていて、遠目(とおめ)のきかないものなのですが、そのかわり、けもののように鼻ききで、人間が寄(よ)ってきたのを、すぐとかぎつけます。
といつて、例(れい)の車(くるま)をさし寄(よ)せると、不思議(ふしぎ)にも堅(かた)く閉(とざ)した格子(こうし)も土藏(どぞう)も自然(しぜん)と開(あ)いて、姫(ひめ)の體(からだ)はする/\と出(で)ました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
西洋風にすればパンの端を少しちぎっておいてそれでフライの肉をフークの背中へ掻(か)き寄(よ)せるようにして食べるのだ。イイエ、フークの腹ではない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いはゆる目(め)の寄(よ)るところに玉(たま)で、この新古今集(しんこきんしゆう)の時(とき)ほど、日本(につぽん)の歌(うた)の歴史(れきし)の上(うへ)で、名人(めいじん)・上手(じようず)といふべき人(ひと)が、たくさん揃(そろ)つて出(で)たことはありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
竹村(たけむら)はその時(とき)姉(あね)なる彼女(かのぢよ)の身(み)のうへを、少(すこ)しきいてみた。彼女(かのぢよ)は東京(とうきやう)の親類(しんるゐ)に身(み)を寄(よ)せて、女学校(ぢよがくかう)を出(で)てから、語学(ごがく)か音楽(おんがく)かを研究(けんきう)してゐるらしかつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
十分程すると、私達の立っている処(ところ)より少しく左に寄(よ)って、第二号船渠(ドック)の扉船(とせん)から三米(メートル)程隔(へだた)った海上へ、夥(おびただ)しい泡が真黒(まっくろ)な泥水と一緒に浮び上って来た。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
さう答(こた)へて玄関(げんくわん)にあがると、機嫌(きげん)のいい時(とき)にするいつもの癖(くせ)で、青木さんは小柄(がら)な奧(おく)さんの體(からだ)を軽(かる)く引(ひ)き寄(よ)せながら、そのくちびるに短(みじか)い接(せつ)ぷんを與(あた)へた。
夢 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
こんな集合花を、植物学上で頭状花(とうじょうか)と称する。キク科の花はいずれもみな頭状花である。つまり寄(よ)り合い世帯(せたい)、すなわち一の社会を組み立ている花である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
大勢(おほぜい)寄(よ)つて集(たか)つて己(おれ)を三つも四つも打(ぶ)ち倒(のめ)しアがつて、揚句(あげく)のはてに突飛(つきと)ばされたが、悪いところに石があつたので、膝(ひざ)を摺剥(すりむ)いて血が大層(たいそう)出るからのう……。
歌舞伎座と市村座で骨(こつ)寄(よ)せの岩藤を演じたが、先代菊五郎の演(や)った一昔の前には見物は喜んで見ていたのが、今では骨(こつ)が寄るのを見ると、いずれも見物は笑った。
当今の劇壇をこのままに (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こいつはいけないと金太郎は思つた。兩足をもう一度ペタルにのせて速(そく)度を制(せい)御しようとしたが、ペタルの囘轉は速さを増すばかりで金太郎の足を寄(よ)せつけない。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
初(はじ)めて萱原(かやはら)に分入(わけい)つた時(とき)に居(ゐ)た活東子(くわつとうし)は死(し)んだ。望蜀生(ぼうしよくせい)は如何(どう)したのか、寄(よ)りつきも仕(し)ない。狹衣子(さごろもし)は役者(やくしや)に成(な)つて、あの泥(どろ)を渫(しやく)つた手(て)でお白粉(しろしい)を解(と)きつゝあり。
そも/\空想(くうさう)は、空氣(くうき)よりも仄(ほのか)なもので、今(いま)は北國(ほっこく)の結氷(こほり)に言寄(いひよ)るかと思(おも)へば、忽(たちま)ち腹(はら)を立(た)てゝ吹變(ふきかは)って、南(みなみ)の露(つゆ)に心(こゝろ)を寄(よ)するといふ其(その)風(かぜ)よりも浮氣(うはき)なものぢゃ。
そこで大國主の命が出雲(いずも)の御大(みほ)の御埼(みさき)においでになつた時に、波(なみ)の上(うえ)を蔓芋(つるいも)のさやを割(わ)つて船にして蛾(が)の皮をそつくり剥(は)いで著物(きもの)にして寄(よ)つて來る神樣があります。
遠い旅(たび)に出るまえに、一ど家へ寄(よ)っていったらどうだい? 小人の話じゃ、おまえがいなくなってからというもの、おとうさんは運(うん)が悪(わる)くって、借金(しゃっきん)はかさなるし