)” の例文
けれど、今、戸外に呶鳴っている法師たちの悪罵あくばには、時こそよけれと、いい機会をつかまえてせてきたらしい気色けしきが濃厚である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのしつく空気の中で、笑婦の群れが、赤く割られた石榴ざくろの実のように詰っていた。彼はテーブルの間を黙々として歩いてみた。押しせて来た女が、彼の肩からぶら下った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そして彼自身は、甘んじて、その直後にせて来た捕手の群れに身をまかせ、われから司直の裁きの庭へすすんで坐ったものだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時、しい蜜柑みかんの原の中から、再び新らしい鹿の群が頂へ向ってせて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「六波羅の討手なせて見えまするぞ。必定、一味御謀反の沙汰、事あらわれしかと覚えられます。……う、お覚悟をこそ」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たいへんです。司馬懿しばいみずから、およそ十五万の大軍をひきい、真直ぐにこれへせてくる様子です」と、声を大にして伝えた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆坂峠ほさかとうげ鷹取越たかとりごえの方に、姫路や岡山や高松や、諸国の兵が、たくさんにせて来たというから、兄様にいさまと一緒に見に行って来たの』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何、鳴海へせた敵の首級が届いたとか、わざわざ首を授けに来おった笑止な織田侍の死顔。どれ、並べてみい、てくれよう」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老臣の分別や重役のささえも何らのかいなく、得物を取って宮津武士の百人余りは今しも愛宕へ差して海嘯つなみの如くせようとしていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おおかた武蔵の助太刀のものたちが、どこかにたむろしていて、彼を待ち合せ、それと合してここへせて来るつもりではないかと思う」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「難事は、水害のさまたげのみではないぞ。築城中にも、うるさくせ来る美濃の兵に対しても、そちは何ぞしかとした勝算があるか」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
董承もそれに励まされて、物具もののぐを着こみ、槍をひッさげ、郎党の寄せる馬上へとび移るや、つづみうしおとともに、相府の門へせかけた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それさえあるにまたまた、司馬懿しばい仲達が時を同じゅうして、全魏軍に総攻撃の命を発し、今しもこの所へ押しせてくるとも伝えてきた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「丞相ッ。丞相ッ。魏軍がせてきました。遂に、こっちの望みどおり、しびれをきらして、司馬懿のほうから戦端を開いて来ましたぞ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すぐ、蹴上けあげの辺りまで、信長がせて来ましたッ。明智、朝山、島田、中川などの諸隊を先鋒せんぽうとし、死にもの狂いの勢いで」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、次郎義助などは激昂のあまり、すぐにも足利へせて、仕返しせんと息まく始末じゃ。尼御前、せっかくであったが、あきらめてくれい
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうはいったが、暁天ぎょうてんの光を見たなら、ふもとから孫兵衛や有村が、原士の新手あらてをすぐって、ここへせてくることは分っていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おおういっ……」と一声さしまねくと、雲霞のようにじっとしていた西涼の大軍が、いちどに、野を掃いて押しせてきた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜならば、時すでに、国庁の内は、すわ戦ぞ、将門がせて来るぞという声々に、何ともいえない恐怖の波がうねっていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺到して、ほりのまぢかまで、まっ黒にせて来たのは、甲軍の馬場美濃守みののかみの隊、山県昌景やまがたまさかげの隊など、気負い立った精鋭だった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『詳しい事はまだ分りませぬが、せて来た時刻は、つい今し方との事で、仔細は、木村丈八が見届けておるとの由にございまするが……』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さればで。——てまえが長浜のお城を脱して来たのは四日の早暁でございましたが、その時もうお城へは少数の敵がせ始めておりました」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一挙、京都からせて来るかと、去年も騒いだが、その時は、来なかった。堺など、眼の中にもないように、岐阜へ帰ってしまったのである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵がまた、そこへせてきたら、さらに潰走して、次の白旗の立っている陣まではしれ。いよいよ、敵は勝ちに乗るだろう。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、つまらぬ事のみつい申し上げた。余事はさてき、要するに、ご進撃はいつの事か。東の城戸きどせるにも、手心を合せねばならぬが」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、敵の華雄軍は、長い竿さおの先に孫堅の朱いかぶとをさしあげ、罵詈ばり悪口をついて、大河の如くこれへせてくる——という伝令のことばだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六波羅の討手が、各所へ押しせたと知れたあの暁のこと。良人は、わらわを罵りちらして、夫婦の縁もこれきりじゃ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「正季。われら一族みなここの一堂で自刃のていと知れば、敵も無下むげせてはまいるまい。とは思うが、念のためだ、堂の外に、物見を立てよう」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「かなりの大軍です。鷲津、丸根の兵のみか、善照寺、中島などの砦の兵も、挙げてこちらへせて来たようでござる」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、固山かたやま宗次の弟子やゴロ浪人は、獲物を持って、せて来たが、がらん——と開け放してある家の中と、どかどか燃えさかっている火を見ると
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから二町ほど上流を、一群の騎馬が、先に対岸へ渡ってゆくのが望まれたし、また下流の方からも、黒々と、一陣の兵馬がこっちへせてくる。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「冬じゅうの居食いで、山寨の倉も少々お寒くなっていたら、この到来物とうらいものときたぜ。なんとこんな疾風はやてなら、ときどきせて来てもらってもいいな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、足利家の方から腕ずくで取り返しにでも来たのなら、応戦もまたぜひはない。しかし噂ぐらいで、われから押しせてはならん。かまえて、ならんぞ
と、笑ったが、時も時、後方から一ぴょうの軍馬が、地を捲いてこれへせてきた。さてはとばかり張飛はいよいよ疑って、本格的に身構えをあらためた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さては、訴人があって、県城の捕手が、せてきやがったか、花にあらし月に雲だが、こいつアちっと早過ぎる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『無駄ですぞ、暢々のびのびと身をやすめていたほうが得策とくさくじゃ。上杉家の者が、ほん気になってせてくるつもりなら、何で、この真昼間を選ぶものですか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光秀はやむなく、坂本城に留まって、むなしく両三日を過し、橋の急修理をおえて、ようやく安土へせかけた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この期になっても、まだそんな名分にくよくよしておられるのですか。では、彼が攻めせてきても手をこまねいて、自滅を待っているつもりですか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たとえ甲州の大軍が、その全力をかたむけて、これにせ参りましょうとも、御武威を示して、石垣の一つだに、取りつかせることではございません」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もって、敵へ攻めせられるように——ご辺はこの由を周都督に報じ、お手ぬかりのないように万端待機せられよ
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
討つなら討つと、初めから堂々とを鳴らして、彼奴きゃつの宿所へせかけるならば、今頃はもう二人のあいだに、秀吉の首級しゅきゅうを置いて見ていられたものを。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
趙雲はその夜のうちに、この五百名を先頭に立たせ、後から千余騎の本軍をひきいて、桂陽の城へ押しせた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それのみならず、徐庶は、味方の兵数、内状、すべてに精通していますから、その智を得て、曹操の大軍がせてきたら、如何とも防ぎはつきますまい」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、いとまもなく、勝ちほこった徳川勢が、ここをも踏みつぶしにせるであろう。——かれの勝ったる勢いこそ、浮き足と見て、かれの弱点とおもえ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「那古屋衆の、謀叛むほんと見ゆるぞ。柴田権六の兵千人。林美作みまさかの人数七百ばかり。——不意をせて来おった!」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楠正成たちの忠誠が守るところとなるかと思えば、京六波羅ろくはらの賊軍が、大挙して攻めせる目標となったり
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄徳も、舟に移って、渡江しにかかったが、折もあれ、この方面へせてきた曹軍の一手——約五万の兵が、馬けむりをあげて樊城はんじょう城外から追いかけてきた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何ぞ知ろう、血のつながるおいめが、今なお、性根を改めずに、町人の家へせて、夜盗を働いておろうとは!
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしやがて、織田軍が伊丹城へせかけて来たおりに自分が討死うちじにしたら、その約束は元よりないものとしてどこへなりと、お菊どのの好きな家へ嫁ぐがいい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久太郎秀政は、今ぞッと、ふたたび下知げちして、せてきた者へさかよせを喰わせた。この場合の勝敗は、心理的にも、実体的にも、結果をまたず明らかである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)