)” の例文
これだけでは不安心だが、アバラケは亭を阿婆良也あばらやむごとく荒れすさんだ義で毛なしと近く、ほとんど相通ずる意味の詞であろう。
また「蟆」の一字をタニククとませた例もなければ、「蟆」は畢竟ククの音に当てた仮名であって、それ自身タニグクではなく
それゆえ椿には実は字音というものは無い筈だが、しかしそれをしいて字音でみたければこれをシュンというより外致し方があるまい。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
右のほか峠をヒョウまたはヒヨとむ例はきわめて多い。『俚言集覧』に上総では嶺をヒヨという、タケガヒヨという高山がある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「乞」をイデとむ例は、「乞我君イデアギミ」、「乞我駒イデワガコマ」などで、元来さあさあと促がすことばであるのだが「出で」と同音だから借りたのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
叡山南都の大衆——などというばあいは、わざとフリ仮名をつけて「だいじゅ」と古典どおりなみをつかって書いている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禁厭きんえんをまじないやむるとんでいるのは古いことだ。神代じんだいから存したのである。しかし神代のは、悪いこと兇なることを圧しむるのであった。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
古くから祖の字を「おや」とまして、両親の意でなく「おっかさん」の意に使うことになっているのは、字は借り物だが、語には歴史がある。
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その頃まだ百五十首ばかり読めない歌が残っていたのだが、それは鎌倉の中頃、仙覚せんがく律師の新点で一応すべてみ解かれるようになるのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
香以の履歴はおもに資料を仮名垣魯文の「再来紀文廓花街」に仰いだ。今紀文曲輪くるわの花道とむのだそうである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かように、「奚」がいかなる類に属するかによって「さやけく」とんだのは間違いで「きよけく」と訓まなければならぬときめることが出来るのであります。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
「あらえびす」の方は、新聞に音楽や、絵のことを書くのに、胡堂でははなはだ堅いので、胡という字を柔らかくんで、「あらえびす」としたまでのことである。
されば「東行西行雲眇眇びようびよう。二月三月日遅遅」を「とざまにゆき、かうざまに、くもはるばる。きさらぎ、やよひ、ひうらうら」とみ給ひけむ神託もさることながら
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
「なるほど。はやぶさとませるのですか。それでは余り無造作むぞうさに過ぎはしませんか。こうしたらどうでしょう。もう一字足して二字名にしては。隼男というように。」
もっとも「イソ」はまた冠の縁や楽器の縁辺でもある。海の縁でもあるから、頭と比較するのは無理かもしれない。しかし「上」は「ほとり」とまれることがあるのである。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
水海道はミツカイドウとむべきことは高田与清たかだともきよの『相馬日記』に説かれている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つづめて「童話」としるし、これを、ドウワまたはムカシバナシとませている。
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
ことに異彩を極めたのは大元帥明王だいげんみょうおうの大画像でございます、大元帥だいげんすいと書きましても、帥の字は読まず、ただ大元明王とむのが宗教の方の作法でございますが、あの大画像は、いつの頃
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、違ふ。堪忍とは、『たへしのぶ』とんで二字で出来てゐるのだ。」
「宇をつくる」とむべきこの「為宇」を、いつのころからか「宇となす」と訓み「宇」を譬喩ひゆの語として見るものがあったので、そこから八紘を一家とするというような解釈が加えられ
「お父さま、百日紅にちこうと書いてどうしてサルスベリとむんですか?」
人造人間 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
私はミズナガレと読んだが、それはツルとむのだそうだった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
大阪の新聞の三面記事に折々現われて来る柴島警察分署、あの柴島は今でもクニシマとむのである(西成郡中島村大字柴島)。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
上の歌ではスガノミのスガに菅の字がて用いてある。この菅の字は通常スゲ(Carex)の場合に用いスゲともスガともませてある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
併し、「夏山の木末の繁に」といって生かしているのを後代の吾等は注意していい。「しじに」は槻落葉つきのおちばにシゲニとんでいる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
『和名抄』に仁之木倍美にしきへみんだ蚺蛇は日本にない。予漢洋諸典を調べるに後インドとマレー諸島産なる大蛇ピゾン・レチクラツスに相違ない。
恐らくその地にあった仏堂の本尊の名の、顕れた為にさようんだものだろうとせられている。併し、ここに一説がある。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「新・平家物語」は、もちろん、現代語を基調としているから、それらのみは、みな今日の読み方にあらためている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「間人」と書いてマヒトとむ。これは全くその文字通りの意義であって、中間に位する人というに外ならぬ。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
香以の氏細木は、正しくは「さいき」とむのだそうである。しかし「ほそき」と呼ぶ人も多いので、細木氏自らも「ほそき」と称したことがあるそうである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
されば狼を恐れて大神とするも然るべきことにて、熊野は神野の義、神稲をくましねとむたぐいを思うに、熊をくまと訓むはあるいは神の義なるや知るべからず。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかしそう読むと、今は余り耳遠いからして「ヒル」とんで置くといっているのであります。そうすると、宣長翁も上二段活用であったと考えておられたと思われます。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
『万葉』では楸をひさきとませてある。ひさきというのは、辞書で見ると、久しきにえる意味からその名を得たという一説を挙げている。そんなわけで、賢所の前庭に植えてあったのであろう。
ちなみに曰く、馬琴は童話をワラベモノガタリとませている。
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
わたくしは例によって原文を次の如くくだす。
上野 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それによく似た五十雀ごじゅうから山雀やまがら小雀こがら、いずれも雀の字をガラとんでいるのは、クラと原一つであると見て大抵たいてい誤りはあるまい。
大和の三輪明神始め熊野辺に、古来老樹大木のみありて社殿なき古社多かりし。これ上古の正式なり。『万葉集』には、社の字をモリとめり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
日課として、源氏のみとときを教えている松琴尼は、文学には熱心なこの少女が、勉強の中途でこんな声を出したのは初めて見ることだったので
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松浦竹四郎の著に『後方羊蹄日記』と題する一冊の書物があってこれを「シリベシ日記」とむ。書中に雌岳マチネジリなる知別岳を後方羊蹄と書いてある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
略解でホフシ・ナカラカムとみ(古義同訓)、「なからは半分の意にて、なからにならんと戯れ言ふ也」と解した。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
日本の漢詩は、字面は支那の律に従うてゐても、実は変態の国文としてまれ、詠ぜられて来た。固有の詞章になかつた音律が、古く和讃・踏歌に伴うて起つた。
わたくしは紙をべて漫然空車と題した。題しおわってなんと読もうかと思った。音読すれば耳に聴いて何事ともわきまえがたい。しからばからぐるまともうか。
空車 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
饒速日命にぎはやひのみことの天降に随従した三十二人の供奉の人々の中に、天玉櫛彦命は間人連等祖とあるのがこれで、「間人」ここに「ハシビト」また「ハジウド」とませてある。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
水守は筑波山つくばさんの南の北条の西である。兵は進んで下総堺の小貝川の川曲に来た。川曲は「かはわた」とんだのであらう、今の川又村の地で当時は川の東岸であつたらしい。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
伊賀では旧村名に二三の「界外」があって今はカイゲと呼んでいるが、これも「外」の字を「ト」とんだのではあるまいか。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
白馬節会あおうまのせちえの白馬を青馬とますを古く不審いぶかしく思うた人少なからぬと見え、平兼盛たいらのかねもりが「ふる雪に色もかはらてくものを、たれ青馬となづそめけん」
寧子と書いて、ねねとむ。その可憐な名も、この娘の人がらにふさわしかった。小さく整った容貌かおだちに、ぱちりと、聡明らしいひとみを静かに持っている。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ「撰経籍訪古志」に訓点を施して、経籍を撰び、古志をうとませてあるのにあきたらなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
混効験集に、「おほころ、男の事か、こしあて大ころと云へば夫の事なり」とあるコロはすなわちこれである。朝鮮にも古く「骨」の字をあててコルとみ、族の意義に用いた。
「ケット」と「マット」 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
秘かに思ふに、接吻を「口づけ」とませたのは、聖書の飜訳以来のことではなからうか。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)