)” の例文
なぜならつくえかどは、小刀こがたなかなにかで、不格好ぶかっこうけずとされてまるくされ、そして、かおには、縦横じゅうおうきずがついていたのであります。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるいはその手の指の先に(ニコティンは太い第二指の爪を何と云う黄色きいろに染めていたであろう!)おりに折られた十円札が一枚
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雅楽所を出る時は、それがほんのつけたりになってしまった。自分はいよいよ彼に別れる間際まぎわになって、始めてかどすみに立った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
例のその日はたびめぐりて今日しもきたりぬ。晴れたりし空は午後より曇りてすこし吹出ふきいでたる風のいと寒く、ただならずゆる日なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
中庭のがきのばらにからみ、それからさらにつるを延ばして手近なさんごの木を侵略し、いつのまにかとうとう樹冠の全部を占領した。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼女は、驚嘆したであろう客の、つぶの眼の玉を充分に引きよせておいて、やおら身じろぎをした。立上って、挨拶あいさつをしようとするのだ。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
水層はいよいよ高く、より太平町たいへいちょうに至る十五間幅の道路は、深さ五尺に近く、濁流奔放舟をもって渡るも困難を感ずるくらいである。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
で、からつたつのそでから、萌黄もえぎむらさきとがいろけて、ツにはら/\とみだれながら、しつとりともつつて、つまくれなゐみだれし姿すがた。……
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
緑赤色りよくせきしよくをして南天の葉を枚横に並べた様な擬態を現して居るクロマリイとうこの通信を書く時の記憶に鮮かに残つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
例えばわかくして山にまぎれ入った姉弟が、そのころの紋様もんようあるの衣を着て、ふと親の家に還ってきたようなものである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「あ、やッと帰ってきた!」思わず涼み台を離れると、トンとみせさきへ駕尻かごじりが下り、れを揃えた三挺のうちから
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうって、たぬきのあしをしばって、うちへかついでかえりました。そして天井てんじょうのはりにぶらげて、おばあさんに
かちかち山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
安政あんせい末年まつねん、一人の若武士わかざむらいが品川から高輪たかなわ海端うみばたを通る。夜はつ過ぎ、ほかに人通りは無い。しば田町たまちの方から人魂ひとだまのやうな火がちゅうまようて来る。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
麹町見附みつけ内に開設せられ、西岡未亡人がその学校の校長に推されているというようなことなども段々知らされた。
「バスに乗って行こ」いうてばしの停留場い出て、そいから阪神で家い帰るまで、夫は不機嫌に黙ってしもて、何いうてもなま返事しかせえしません。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
菖蒲畑の側にある木戸から、地境じざかいにある井戸まで、低い目垣めがき美男葛びなんかずらが冬枯もしないで茂っていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
おつぎは足速あしばや臺地だいちはたけから蜀黍もろこしのざわつく小徑こみち低地ていちはたけへおりてやうやくのことで鬼怒川きぬがは土手どてた。おつぎはばひつてしばつかまりながらのぼつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
距離わずかに一間ばかりなれど千里を行くの思ひして、容易には思ひ立たれず。やがて思ひ立つて身を起しかろうじてひになる。されど左の足は痛みて動かず。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「運転手、三十番街を左に曲れ。真直まっすぐ走ると殺されちまうぞ」僕はしつけるように命令した。車はもう三十番街に来ていたので、かどを急角度に旋回した。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
近づくものは一人ひとり残らずその美しい手網であみにからめ取った。葉子の心は知らず知らず残忍になっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「八日。(五月。)晴。今夜姫路鳥取行乗船。但安石同伴夜四つ時前より竹忠船たけちゆうふねへ乗込。直出帆。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その指をかぞへるに「一イ二ウ三イ」とやらず「に」とゆくのも、へんに可笑しかつた。
初代桂春団治研究 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
愚僧は地上に落ち候まゝ、ほとんど気絶も致さむばかりにて、ようや起直おきなおり候ものゝ、烈しく腰を打ち、その上片足をくじき、ばいになりて人知れず寝所しんじょへ戻り候仕末。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その創業わずかに五、六年に過ぎざれども、すでにその通用の政体をなせば、たとい政府の力をもって前の駕籠かごに復古せんとするも、決してよくすべからず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
男の子はじぶんのお家の、つ足の白い、栗の皮のような赤い色の牛のことを話しました。女の子は、そこいらになっているりんごを一つもいで、二人で食べました。
岡の家 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ひどく赤い眼とこわい顔をして、ジェリー・クランチャーは、動物園のあし連中のように食事を前にして唸りながら、朝食を食べるというよりも噛みちらかしていた。
危ねえよ、どいたどいた、と云うどなり声でわれに返ると、右の脇をすれすれに、駕籠かごが走りぬけてゆき、そこが蔵前くらまえの通りであることに、おみきは気がついた。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大きな星一ツに小さいのがツきらきらとして、周囲まわりには何か黒いものが矗々すっくと立っている。これは即ち山査子さんざしの灌木。俺は灌木の中に居るのだ。さてこそ置去り……
みんなはあつけにとられてがや/\うちに帰つて見ましたら、粟はちやんと納屋に戻つてゐました。そこでみんなは、笑つて粟もちをこしらへて、つの森に持つて行きました。
狼森と笊森、盗森 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「易とは、これ、八卦屋の漢語だ。唐では、八卦見のことを、易家というな。八卦屋が、二つに分れると、になって、四い屋と、八卦屋とが合併すると、ハッケヨイヤ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ときいま何時なんどきにか、あれ、そらきこゆるは上野うへのかねならん、ふたつ、八時はちじか、いな九時くじになりけり、さてもおそくおはしますことかな、いつも九時くじのかねはぜんうへにてたまふを
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雨でも降るとスッカリ雨戸を閉切しめきツて親子微暗ほのぐらなかに何がなしモゾクサしていじけ込むてゐる。天気の好い日でも格子戸の方の雨戸だけは閉切しめきツて、臺所口から出入してゐる。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
い、う、い、お、つ、う、ななあ、こことを、十一、十二……十三……
落葉日記(三場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
私はまた、この本所の万屋で小豆あずき屋善兵衛というやつ、それがじつは、赤浪の化けたのだと聞かされたことがあります。たしか、かんざし五郎とか、五五郎とか——しかし、らちもない。
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だれでもよいから幇間たいこもちをひとり呼べというご注文だとか申しましてな、こちらの菱屋びしやさまからてまえのところにお座敷をかけてくださいましたんで、なんの気もなく伺いましたら、今
一休いっきゅうさんは さいごんじで ねんかん。みっちり しゅぎょう しました。
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
お町は其の様子を知って居りますから、暮方くれがたになると段々胸がふさがりまして、はら/\致し、文治郎の側に附いて居りました。つを打つと只今の十時でございますから、何所どこでも退けます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雪の側はいわゆる御花畑で、塩釜しおがま白山一華はくさんいちげ小岩鏡こいわかがみなどが多い。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
行き止まりもあり、袋庭もあり、まっくらな曲がりかどもあり、多くの道が交錯してる不安なつじもある。ジャン・ヴァルジャンは今、それらの四つ辻のうち最も危険なものに立ち止まっていた。
つきて見むこことを手もて数へてこれの手鞠を
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すぢのみちの三すぢへと吹きゆく風の
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
がきの外を通りかかると
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「ナニ、とんびだって——」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よくにはかぎりなく
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
つになる子のもりをしぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
イ、ウ、イ、
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
そうして急に思い立ったように姉のうちへ出掛けた。姉の宅は守坂かみざかの横で、大通りから一町ばかり奥へ引込んだ所にあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ああ、あさのうちからとおるにちがいない。しかし、この街道かいどうでよくみんながみちをまちがえるのだ。らぬひとこまるだろう。」
石をのせた車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もつとも僕等が何かの拍子ひやうしひになつて見たいやうに、いまだ生まれざる大詩人も何かの拍子ひやうしに短歌の形式を用ふる気もちになるかも知れぬ。
又一説? (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)