)” の例文
夏の頃フト蚊帳の記憶をび起して、蚊帳に螢を配したならば面白かろうと思ひ付いたのが此画を製作するに至りました径路でした。
(新字旧仮名) / 上村松園(著)
この場合には町内の衆が、各一個の提灯ちょうちんを携えて集まり来たり、夜どおし大声でんで歩くのが、義理でもありまた慣例でもあった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
雜木林ざふきばやしあひだにはまたすゝき硬直かうちよくそらさうとしてつ。そのむぎすゝきしたきよもとめる雲雀ひばり時々とき/″\そらめてはるけたとびかける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私はその行列を一遍見ただけですから、今記憶をび起してこれだけの事を言いましたので、その細かな事はなかなか話し切れない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
型のごとく検屍が済んで、第一番に三助ばんとうの丑松、丁子湯のお神、死骸を最初に見つけたお六——などが、順々に番所にび付けられた。
初め海間がばれた時、裁判官は備前の志士の事を糺問きうもんしたが、海間は言を左右に託して、嫌疑の上田等の上に及ぶことを避けた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と、お濱さんが書院しよゐんの庭あたりでんで居る。貢さんは耳鳴みヽなりがして、其のなつかしい女の御友達おともだちの声が聞え無かつた。兄はにつと笑つて
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
私のうちに去来するもろもろの心は自己の堂奥どうおうまつられたるものの直接的な認識を私にび起させるために生成し、発展し、消滅する。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
止まれ! 早く、額の汗が乾かないうちに、眼を空に転じ、胃のから眩暈めまいがやってくる前に、崇高な思念をび起こすことを努めろ。
この過程を二三度繰り返して、最後の幻覚からび醒まされた時は、タンホイゼルのマーチで銅鑼どらたた大喇叭おおらっぱを吹くところであった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
全人類界の大悪夢……『物を考える脳髄』に関する迷信、妄執をび醒ますべく『絶対無上の大真理』に逢着ほうちゃくする事が出来たのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
召使ひたちがび込まれて、食堂の卓子テエブルが運び去られ、ともし火もいつもと違つた風に置かれ、迫持アアチに向つて椅子いすが半圓形に置かれた。
朝鮮半島との軍事的接触はやがて西方の文化との密接な関係をび起こし、この方面からも素朴な原始的統一はおびやかされ始めた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
日にやけたこの顔も、この声も、彼女の記憶をび起すには充分であったほど、その瞬間の私は昔の私にかえっていたのでした。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
麹町こうじまちの宅に着くや、父は一室ひとまに僕をんで、『早速さっそくだがお前とく相談したいことが有るのだ。お前これから法律を学ぶ気はないかね。』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
セラピオン師が彼女について語った言葉は時どきにわたしの記憶をび起こして、不安な心持ちを去るというわけにはゆきませんでした。
梵士らこの大礼を無事に遂げんには必ず私陀をべと勧め、羅摩、様々と異議したが、ついにこれを召還しよく扱うたので大牲全く済む。
鬼のごとく立てこもって来たひたぶるな身に——ふと聞えてきた琴の音は、卒然そつぜんと、この中の将士の心に、さまざまな思いをび起させた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、原稿を受取ると、その場ですぐ読み出したが、詩があまりよく出来てゐるので、急に居ずまひを直しながら、執事をんだ。
「夕なぎにあさりするたづ潮満てば沖浪おきなみ高み己妻おのづまばふ」(同・一一六五)というのもあり、赤人の此歌と共に置いて味ってよい歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
又我が能く少時の夢をび起して、この詩中に入るゝことの、かくまで細かなることを得しは、この老女の振舞あづかりて力ありければなり。
二・二六と大震災当時の心境についてそれぞれの出席者が所感を語っている部分に至って、読者の感想をび出す幾多のものを示している。
艶子は警視庁にばれて訊問じんもんされた。艶子がおどおどして社長室での出来事を陳述すると、係官はそれで満足してそれ以上追及しなかった。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ところが、ああ、何という不幸で私はあったろう、その夏のある夜、ぐっすり眠り込んでいた私は突然叔母にび起こされた。
かれは痛む頭をかたむけて、努めて自分の記憶をび起こそうとしたが、采女の死——それから後のことはどう考えても思い出せなかった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その手紙を母が読む前に兄が開封するかも知れないというおそれが、その為に母の立場を一層苦しくするだろうという疑いをび起したから。
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
慰藉料ゐしやれう、今後の子女の養育費のことなどをおつしやれば、相手方をび出して双方話し合ひの上、審判官が判決してくれます
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
ある夜中に、鷲尾は病人にさまされてガバと起きあがった。全身汗をかいていて、怖ろしくマザマザした夢が、まだ眼先にチラついていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
これ教理のためには何者を犠牲とするも厭わぬ心を生みやすきものであって、愛の反対なる憎をび起し、無数の害悪を生むに至るのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
それを彼女のある身振りのうちに見出せないではなかった。彼女の声音のある響きは、彼の心を動かす反響をび起こした。
十二三の時分、同じような秋の夕暮、外口の所で、外の子供と一緒に遊んでいると、と遠い昔に見た夢のような、その時の記憶をおこした。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母親が病気で永い床に就き、親類にび戻されて家に帰って来た彼女は、誰の目にもただ育っただけで別に変ったところは見えなかった。母親が
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたしは宏兒をそばんで彼と話をした。字が書けるか、このうちを出て行きたいと思うか、などということを訊いてみた。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
自然な感興をび起したにちがいないが、いずれにせよその方が私にはこの地を選んだ甲斐かいもあったと喜ぶべきである。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
最前の仇辛い雑炊の舌ざわりを、悲しく次郎吉は舌の上へび戻していた。何とも彼ともつきあい切れない味だった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
『おゆるしあれ、陛下へいかよ』とつてかれは、『こんなものみまして、でも、おしになりましたとき、おちやみかけてましたものですから。』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そうして読者自身の研究心を強くびさます。こういう意味からでも、自分の専門以外の題目に関するいい論文などを読むのは決して無益な事ではない。
案内者 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
金花は客の額に懸つた、黒い捲き毛を眺めながら、気軽さうに愛嬌あいけうを振り撒く内にも、この顔に始めてつた時の記憶を、一生懸命にび起さうとした。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
間もなく、この胸苦しいまでに緊迫した空気の中を、乙骨医師と入れ違いに、ばれた田郷真斎が入って来ると、さっそく法水は短刀直入に切り出した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何日いつでもちよいとわつしをおびなさりやアあな見附みつけて一幕位まくぐらゐせてげらア、うもおほきに有難ありがたうがした。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
最初に、最も大きな枝が地にちた音で、彼の珍らしい仕事を見に来た彼の妻は、何か夫にびかけたやうであつたけれども、彼は全く返事をしなかつた。
それは恐怖と憧憬どうけいのおののきに燃えてゆくようだ。いつのまにか妻は女学生の頃の感覚にび戻されている。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
かかる光の人間的技術の進展をわれわれは感覚型態の名によってぶことが許さるるであろう。それによって、芸術も特殊の型態をもつこととなるであろう。
芸術の人間学的考察 (新字新仮名) / 中井正一(著)
小倉両博士の所論が多大の反響をんだ所以のものは、先に述べたように、我々の周囲に現に拡がっているところのいかにも息苦しい圧迫的な雰囲気に対して
社会事情と科学的精神 (新字新仮名) / 石原純(著)
また一方では捲きあがって行ったへりが絶えず青空のなかへ消え込むのだった。こうした雲の変化ほど見る人の心に言い知れぬ深い感情をび起こすものはない。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
中谷も参考人としてばれましたが、親しかった以前に引かえて、彼は冷然と私に不利な証言をしました。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
それがまされるような気持で、のろわしい現実の自身と環境にすっかり厭気いやきが差してしまうのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その瞬間、彼はちょっと軽い眩暈めまいを感じはしたが、それでもなおその回転する虹に見入っていると、それがいつしか彼に子供の頃の或る記憶をび起させた。……
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
若き紳士諸君、今日こんにちは諸君の注意を生物界にびたいと思います。生物の種類形態はまことに千差万別種々様々でございまして、象は蚤よりも大きく、蚤は象よりもちいさい。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、公は逆上している彼の耳元で二三度大音にばわりながら、夫人のえりつかんでいる彼の左の手を振りほどくと、夫人をかばうようにして夫婦の間へ割って這入った。