)” の例文
大異は林の中へ入ってすぐそこにあった大木の根本へ坐って、幹にっかかり、腰の袋に入れていた食物をつまみだしていはじめた。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
半ば渡りて立止り、欄干にりて眺むれば、両岸の家々の火、水に映じて涼しさを加え、いずこともなく聞く絃声流るるに似て清し。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
前夜のとおり人々の注意は、今や明るくなって見えてきた街路の先端に向けられた、というよりそこにりかかったと言ってもよい。
文机、円テーブル、長椅子など、ことごとく上等なものであり、それにって男女の人々が、麻雀だのポーカだのをやっていました。
狐の妖魅えうみをなす事和漢わかんめづらしからず、いふもさらなれどいふ也。われ雪中にはあかりをとらんため、二階のまどのもとにて書案つくゑる。
するとちょうの長者は、大いにまごついて、坐りかけた身を起し、禅椅にっている魯達のそばへきて、彼の耳へ口をよせてささやいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五六ぽん屹立きつりつしたもみいたやうこずゑあひつて、先刻さつきからかるいひかりいと踊子をどりこおほうて一ぱい陰翳かげげてたのであるが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
時折りはその把手にりかかり過ぎて、引っくりかえりそうになりながらも、催眠術にかかった人のようにフラフラと電車通りへ出た。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
軍服ぬぎて盥卓たらいづくえのそばへらんとせしメエルハイムは、「かしこは若き婦人がたの居間なり、無礼なめなれどその窓の戸くさしてよ」
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女ふたりは爭ひかねて、顏を見合せながら手を弛むれば、半二は机にりかゝかりて苦しさうに息をつく。お作はその脊を撫でる。
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「しょっちゅうでしょ、女ならみんなそう思うだろうとおもうわ」女はそっと彼へりかかった、「——よかった、これで安心したわ」
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夏の夜にふさわしい薄青い服を着て、ソファにりながら、不安な動揺にみちた瞳を輝かしながら市街に起る雑多な物音に脅えていた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
岸を離れて見上げると徳二郎はてすりつて見下ろして居た。そして内よりはあかりが射し、外よりは月の光を受けて彼の姿が明白はつきりと見える。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ぼんやりではあるが老婆が門にって北の方を見ているのが見えた。やがて二人は王の家へ着いた。母親は美しい女を見て訊いた。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
彼が椅子にりかかって、さも冷静らしく自分の正気なることを論じているのを聞いていると、わたしは妙な心持ちになって来た。
平常つね部屋へやりかゝる文机ふづくゑ湖月抄こげつせうこてふのまき果敢はかなくめてまたおもひそふ一睡いつすゐゆめ夕日ゆふひかたぶくまどすだれかぜにあほれるおとさびし。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
冬の夕暮、鍛冶の火高く燃えて、道ゆく百姓の立ちりて手を温むるとき、我は家の窓に坐して、これを見つゝ、時の過ぐるを知らず。
かくして彼は心置なく細君からなぶられる時の軽い感じを前に受けながら、背後はいつでも自分の築いた厚い重い壁にりかかっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
居合せたものはつり込まれて彼れの周囲に集った。女まで引張られるままに彼れの膝にりかかって、彼れのほおずりを無邪気に受けた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
皆の跫音あしおとが聞えた時、火鉢にりかかって、時々こくりこくりと居睡いねむりをしていた母親は、あわてて目をこすって仕事を取りあげた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その漢学者からは捨吉もまだ少年の時分に詩経しきょう素読そどくなぞを受けたことのある人だ。茶の間の柱のところへも行ってりかかって見た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
両親並びて、五六歳の男児おのこの父の膝にりたるは、武男が幼きころの紀念なり。カビネの一人ひとりうつしの軍服なるは乃舅しゅうと片岡中将なり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そして晝間でも御殿の下の日当りのよい石崖いしがけりかゝって、晴れた秋の空を見上げながらひとりぼんやりと幻をいかけたりした。
もう一人のお客さんは、入り口の方にりかかってこくりこくりやって御座ござったが、やがて、アヴァランシュのような大鼾おおいびきをかき初めた。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
徐々おもむろ黄昏たそがれの光の消え行く頃には其の山も其の岩も皆遠く西のかた水平線の下に沈んで了ひ、食事を終つて再び甲板の欄干に身をせた時
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのままには帰らないで、溝伝いにちょうど戸外おもてに向った六畳の出窓の前へ来て、背後向うしろむきりかかって、前後あとさきみまわして、ぼんやりする。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
用いているが、寄生植物のように、別種のものが、他種の本体にりかかっているのでないから、これを寄生というのは、いかがかと思う
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
堯の心もそんなときにはなにか新鮮な喜びが感じられるのだった。彼は窓際にって風狂というものが存在した古い時代のことを思った。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
そしてその窓にりかかって、いましがたどちらの目からにじたのかも分らない熱いものが私の頬を伝うがままにさせながら
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
年をとつた僧正も、わしには「永遠」につてゐる神の如くに見えた。わしは実に、殿堂の穹窿きゆうりゆうすかして、天国を望む事が出来たのである。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
……自分こそ嫡男であると言いたて、追々に味方をつくり、大藩にって謀叛でも企てるようなことになれば、それこそ国の大事、乱の基。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
窓にりかかり、庭を見下せば、無花果いちじくの樹蔭で、何事も無さそうに妹さんが佐吉さんのズボンやら、私のシャツやらを洗濯して居ました。
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は説明を続けようとしてふと若い男の方を見ると、彼は自席のところにりかかって窓の外へをぶらげたまま、真蒼な顔をしていた。
段々走つて白岩あたりに行くと、岸のさま湖のさまも物さびて、巨巖危ふく水に臨み、老樹びて巖にるさまなど、世ばなれてうれしい。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
壁にりかかって、大声でおばさんと話していた天願氏が何を思ったか突然立ち上った、手で一座を制するようなしぐさを繰り返しながら
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そしてうしろへりかかった。外套の下に私は緑灰色のゴルフ服を着ていた、ゴルフ靴下の房も言うまでもなく緑灰色だった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
執念しぶとい好奇心だけにすがっていて、朦朧もうろうとした夢の中で楽しんでいる——ともかく、そのほうが幸福なのかも判りませんわ。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今日こんにちこれ復興ふくこうするをべし、而してその復興ふくこうはうたるや、安楽椅子あんらくいすかゝり、或は柔軟じうなんなる膝褥しつぢよくうへひざまづ如何程いかほど祈祷きたう叫号きうごうするも無益むえきなり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
んでも或日、老人は門の扉にりかかって、横木に手をかけた儘、堅く死固しにかたまっていたということだ。今は、誰も門を護る人がないと見える。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かうした場合であつたが、突然彼がりかゝつてゐた机から顏を上げて、かう云ふのを聞いて、私は少なからず驚かされた。
泥壁には地図のように割目が入っていて、りかかると、ボロボロこぼれ落ちた。——由三は半分泣きながら、ランプのホヤを磨きにかかった。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
今夜も彼女はこのテエブルつて、長い間ぼんやり坐つてゐた。が、不相変あひかはらず彼女の部屋へは、客の来るけはひも見えなかつた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
圭一郎は溢れるやうな醉ひ心地でその版畫を恍惚と眺めて呼吸をはずませすがるやうにして獲がたい慰めを願ひ求めた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
私はいつか千代子と行き会ったかの橋の欄干おばしまって、冬枯れの曠野ひろのにションボリと孤独ひとりみ寂寥さみしさを心ゆくまでに味わうことも幾たびかであった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
お兄様は、玄関の太い黒光りのする大黒柱だいこくばしらりかかって、肋骨の附いた軍服のまま、奥へも行かずに立っていられます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
貫一は無雑作に郡内縞ぐんないじま掻巻かいまき引被ひきかけてしけるを、疎略あらせじと満枝は勤篤まめやかかしづきて、やがておのれも始めて椅子にれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私は百合さんにりかかるやうにしてやつと階段を昇つたのだつた。そして部屋へはいるとすぐベッドに倒れてしまはなければならなかつた。……
恢復期 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「ああ、すみません。旦那のかかっているところにスイッチがありまさあ。それをちょっと右へひねってくださいな」
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人なみに青い事務セエードを頭にかけて机につてはゐるものの、自分なぞする仕事が与へられず暇で困つてゐたのだ。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
こうして机にりかかってぼんやりしてると、過ぎにし旅行のことが影絵のごとく、おぼろに思い浮かべられて、淡い淡い悲哀を覚ゆるのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)