)” の例文
どうせ文鳥を飼うなら、こんな暖かい季節に、この縁側へ鳥籠をえてやったら、文鳥も定めし鳴きかろうと思うくらいであった。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(四三)しんへいは、もと(四四)悍勇かんゆうにしてせいかろんじ、せいがうしてけふす。たたかもの(四五)其勢そのいきほひつてこれ利導りだうす。
の時に疾翔大力、爾迦夷るかいに告げていわく、あきらかに聴け諦に聴け。くこれを思念せよ。我今なんじに梟鵄諸の悪禽あくきん離苦りく解脱げだつの道を述べんと。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
でもこれがもしほんとうだったとすれば、はなのきむら人々ひとびとがみなこころ人々ひとびとだったので、地蔵じぞうさんが盗人ぬすびとからすくってくれたのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
さるを富貴は前生さきのよのおこなひのかりし所、貧賤はしかりしむくいとのみ説きなすは、一〇一尼媽あまかかとらかす一〇二なま仏法ぞかし。
白樺しらかばの皮をかべにした殖民地式の小屋だが、内は可なりひろくて、たたみを敷き、奥に箪笥たんす柳行李やなぎごうりなどならべてある。妻君かみさんい顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
侍「亭主や、其処そこの黒糸だか紺糸だか知れんが、あの黒い色の刀柄つか南蛮鉄なんばんてつつばが附いた刀は誠にさそうな品だな、ちょっとお見せ」
或はとうに走つて行つてしまつた機関車のあるのを知るであらう。煙や火花は電気機関車にすれば、ただその響きに置き換へてもい。
機関車を見ながら (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
十七年ぶりで父に会う、というよりもほとんど生れてはじめて父に会おうとしている、かれしかれ一生の一転機となるに違いない。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「君はき人なりと見ゆ。彼のごとくむごくはあらじ。またわが母のごとく」しばしれたる涙の泉はまたあふれて愛らしきほおを流れ落つ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「願くはわが憤恨いきどおりはかられ、わが懊悩なやみのこれと向いて天秤はかりにかけられんことを」というは、友の観察の浅きを責めし語である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
顏中かほぢゅうのどこも/\釣合つりあひれて、何一なにひと不足ふそくはないが、まん一にも、呑込のみこめぬ不審ふしんがあったら、傍註わきちゅうほどにもの眼附めつきや。
得たことはしであった佐助が彼女の機嫌を取ってくれるのは有難ありがたいけれども何事もご無理ごもっともで通す所から次第に娘を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さきに猴酒の事海外に例あるを聞かぬと書いたは千慮の一失で、『嬉遊笑覧』十上に『秋坪新語』忠州山州黒猿く酒をかもす事を載す。
阿弥陀様は長い事お慈悲の一天張てんばりで本願寺の後見をして来たが、そこの坊さんはうも金費かねづかひが荒くて世間の評判がくなかつた。
あなたのようなかたが不幸にばかりおあいになるわけがありませんわ。……わたしは生まれるときからのろわれた女なんですもの。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
じいさんがはからず大福運を得たすぐあとに、きっともう一度悪い爺さんがうらやんで真似そこなって、ひどい失敗をする段が伴なっている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やつ何かの役にたちたいと思ってるらしい、」と上役どもから言われていた。教誨師きょうかいしらも彼の宗教上の平素についてはく言っていた。
あゝきアポルロよ、この最後いやはてわざのために願はくは我を汝の徳のうつはとし、汝の愛するアルローロをうくるにふさはしき者たらしめよ 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
湯元に辿たどり着けば一人のおのこ袖をひかえていざ給えき宿まいらせんという。引かるるままに行けばいとむさくろしき家なり。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
文化九年十一月より文政四年まで書物奉行しょもつぶぎょうを勤めた。白藤が大田南畝と友としてかったことは南畝が随筆『一話一言いちわいちげん』に散見している。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「当世顔は少し丸く」と西鶴さいかくが言った元禄の理想の豊麗ほうれいな丸顔に対して、文化文政が細面ほそおもて瀟洒しょうしゃしとしたことは、それを証している。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
まことを云えば御前の所行しょぎょういわくあってと察したは年の功、チョンまげつけて居てもすいじゃ、まことはおれもお前のお辰にほれたもく惚た
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
所が私は自分でも他人でもその血の出るのを見て心持こころもちくないから、刺胳と云えばチャントを閉じて見ないようにして居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なんだって、おまえへい乗越のりこえてて、盗賊ぬすびとのように、わたしのラプンツェルをってくのだ? そんなことをすれば、いことはいぞ。」
旅に乾いた唇を田舎酒に湿しめしつつ、少しい心地になって、低声ていせいに詩をうたっているスグ二階の下で、寂しい哀しい按摩笛あんまぶえが吹かれている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
心持こころもちが悪くなった反対なんだから、私の姿を見ると、それから心持がくなった——事になる——加減かげんになさい、馬鹿になすって、」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はあなたとつき合うようになってから、美しい、いものをだんだんと願い、また信じる事ができるようになって来ました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
対象にする物のさ悪さで態度を鮮明にしないではいられない性質の大臣は、近ごろ引き取った娘に失望を感じている様子は想像ができるし
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さてまた此大したお金を何ぞいことにつかたいと思ふにつけ、さき/\のかんがへが胸のうちに浮んで来ましたが、いづれも夢か幻のやうくうな考へでした。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
とはいえ、そうした侠妓に養われ、天賦の素質を磨いたとはいえ、貞奴の持つ美質は、みんなき父母の授けたものである。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ゑんぜにえず財布さいふるならば彼等かれらなげところいのである。かれたゞ主人しゆじんつてさへすればいとおもつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
くも書かれたり、ゆるゆる熟読じゅくどくしたきにつき暫時ざんじ拝借はいしゃくうとありければ、その稿本こうほんを翁のもととどめて帰られしという。
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
い悪いは、十分わかっておりながらも、頭からガミガミ叱らずに、だまって愛の涙で抱擁してくれる人もほしいのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
いままでの話でもわかるとおり、くいえば勇猛果敢ゆうもうかかん、悪くいえば変質者に近いほど怖いもの知らずのマタ・アリである。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
茄子なす糠味噌ぬかみそけるのに色をく出そうとして青銭あおせんを糠味噌へ入れる人もあるが、あれは青銭から緑青が出てそれで茄子の色を善くするのだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
よこしまなる人はもちろん話をも防ぎ、ただき道に導き奉り、共に天神地祇ちぎの冥助を、永く蒙り給わんことを願い給うべし。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
戦国の豪傑たちは、他愛なく喝采かっさいした。与一の姿も愛らしや。信長が鼓構つづみがまえの所作しょさかな。——満堂思わず手をたたく。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老人の寛大な純朴さを嘲弄ちょうろうするのは、テオドルにとっては容易なことだった。ジャン・ミシェルもついには、自分の人のさが恥ずかしくなった。
素人しろうとにしてはきました、其後そのご独逸どいつへ行つて、今では若松わかまつ製鉄所せいてつじよとやらにると聞いたが、消息せうそくつまびらかにしません
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二人は、一年ぐらいは仲しだったが、だんだん、いろんなことで、貧富の区別が、わかりはじめると、自然うとくなった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
私はまた女のいうことにいくらか不安をも感じたが、本来それほど性情のくない女とは思っていないので、だんだん疑いも解け、その気になり
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そもそもかく外国々とつくにぐにより万づの事物の我が大御国おおみくにに参り来ることは、皇神すめらみかみたちの大御心にて、その御神徳の広大なるゆえに、しきの選みなく
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
故に日々交わっていて不愉快と思うものははなはだ少く、性質のく、交りやすい人が多く、仕事するにもおのずから愉快である。
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
というのは、それはクシベシという、貧乏は貧乏なのですが、それというのも、その男は大変ななまもので、そして心のくないアイヌだったのです。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
斯樣かやうすればわるい、何故なにゆゑわるいかといふてん自分じぶんこゝろはせてて、自分じぶん其理由そのりいう發明はつめいし、成程なるほどこれはい、わるいといふところ自分じぶん合點がつてんせしむる。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
誰から別段たのまれたということもなく、まあ自分の発意ほついから仲のい友達同士が道楽半分にやり出した仕事ですから、別に小言こごとの出る心配もなし
悪しきを見過ぐすものからじ。弱きもの詮無し。照る日に、このあかきに、何づる、人びと。五月さつきの、白雲のいゆきしづけ松むら、その姿思へや。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やす そん上に、自動車んうはなかつたつえる。無茶に急ぐとだもね……。おツでん、頭んふらふらしたつばい。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
割合に教育のある、品のい、親切な婆さんで、二十年間に世話をした日本人の写真を出して見せては自分の育てた子供の話をする様に得意さうである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)