)” の例文
「それから取っ組み合いが始まったが、恐ろしく強い野郎で、その上匕首あいくちを持ってやがる。切尖きっさきけるはずみに、鼠坂ねずみざか逆落さかおとしだ」
只今も申しまする通り夜分になれば伯父の目さえければはゞかるものはないんでげすから、お若さんも伊之助も好事いゝことにして引きいれる
それは新しい鳥打帽を眉深まぶかかぶって、流感けの黒いマスクをかけた若い運転手の指であったが……私はすぐに手を振って見せた。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私たちはときどき日をけるため道ばたの農家の前に立ち止まって、去年と同じように蚕を飼っている家のなかの様子をうかがったり
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あんまり気負いこんだ走りかたなので、往来の人たちは吃驚して、道をけ、路傍の家からは、とびだして来て眺める者があった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
因ってその辺の猫は今に蚤付かず。さてこの鼠神の祭日に出す鼠けの守り札を貼れば鼠害なしという(『郷土研究』三巻四二八頁)。
肋骨あばらへ、いきなり、匕首あいくちだった。彼がけて仰向けに倒れるのと、外の人間がかたまっておどりこんだのと、息一つの差がなかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど、ぱらぱらと散って来るのが、その夕日をけた、たもとへ留まったのですがね。余りに綺麗だ。これにゃ相当のワキ師があろう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼らは、雨も雪も降らないのに、合羽かっぱを着ていた、それは寒さをも防ぐし、軽くもあるのだ。そして飛沫ひまつをもけることができるのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
それを顔の前にあてるのである。いわばヴェールである。この「顔当かおあて」は昼野良のらで仕事をする時、虫をけるためだといわれる。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
身体を水にらしては火の粉をけるという騒ぎ、何んのことはない、火責め水責めを前後に受けて生きた心地もしなかった。
けの薬をいれる、ホドヂンと云うセロファンの薬の袋をっているひとたちのなかに、眼鏡めがねをかけた赤い着物のおばあさんもいました。
隠れた恋人の家は幾つもあるはずであるが、久しぶりに帰ってきて、方角けにほかの女の所へ行っては夫人に済まぬと思っているらしい。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
老紳士「鶏小屋へはよくいたちが来たり蛇が来たりしていけませんが何か防ぐ法がありますか」中川「鼬けには硝子板がらすいた鮑貝あわびかいのような光るものを ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
風をけて、湖の岐入の方へ流れ入ると、出崎の城の天主閣てんしゅかく松林まつばやしの蔭から覗き出した。秀江の村の網手の影が眼界にうかび上って来たのである。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのほかには事業じぎょう成功せいこう祈願きがん災難さいなんけの祈願等きがんとういろいろございます。これはいずれの神社じんじゃでもおそらく同様どうようかとぞんじます。
互いにからだをすりつけて、風ととをけているのだ。犬を見る。わたしを見る。わたしをたぶん見識っているかも知れない。こわくって飛べない。
古マントに風をけながら、ようやく私が訪れた時には、もう彼は起きていて、心からこの失業者を歓迎して呉れた。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
村の人が背負い網を負って山から帰って来る頃で、見知った顔が何度も自動車をけた。そのたび私はだんだん「意志の中ぶらり」に興味を覚えて来た。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
そして、八反はったんの着物を着たまま、ゴミ眼鏡めがねを顔につけ、部落を乗りまわしたものであった。その姿は全く異様であったが、頓着とんじゃくするどころではなかった。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
ところが顔の先へ押し付けられた夕刊をけて、四辺あたりを見廻した彼は、急におやと思わざるを得なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昼のうちは教室で働き、夜は出来るだけおそく帰り、虫けの粉などを振まいて、南京虫に食はれて寝た。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
今まで己が眠っているあいだに、出て行った事があるのだろうか。そうかも知れない。どこへ行くのだろう。つい一二時間病室の陰気な空気をけている積りだろうか。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
沢山たくさんの短いトンネルと雪けの柱の列が、広漠こうばくたる灰色の空と海とを、縞目しまめに区切って通り過ぎた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
Kと私とは崩壊した家屋の上を乗越え、障害物をけながら、はじめはそろそろと進んで行く。そのうちに、足許あしもと平坦へいたんな地面に達し、道路に出ていることがわかる。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それから、また、机の引き出しを、くしゃくしゃかきまわす。感冒けの黒いマスクを見つけた。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこで私は何かいい水難けのまじないでもないかといろいろ考えた末庭の松の枝へ海水着の濡れたのを懸けて置こうかと思う、そして絶えず女中に水をかけさせて置くのだ
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
しばらく口をかずに歩いた後、Sは扇に日をけたまま、大きいかんづめ屋の前に立ち止った。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
五月の潮の、ふくれきった水面は、小松の枝振りの面白い、波けの土手に邪魔もされず、白帆しらほをかけた押送おしおくぶねが、すぐ眼の前を拍子いさましく通ってゆくのが見える。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「どうもこいつは驚いたな。けても除けても着きまとって来る。まるで俺の運命のようだ」
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
毎々の無心はかれないと申し聞かせますと、それならばいい工夫がある……と云うのが地蔵の踊りで、コロリけと云い触らせば、きっと繁昌すると云うのでござります。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この数学の教師はまだ若い時に、暖炉の灰けにかかっていた女中の着物をある日見て、そのためにその女を思うようになった。ファヴォリットはその間に生まれたのである。
麦藁帽むぎわらぼうの下から手拭を垂らして、日をけながらトボトボ歩きました。京都へ着くと、もう日が暮れていましたが、それでも歩きつづけて、石山まで行ってやっと野宿しました。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そんなことでもして悪病の神を送るよりほかに災難のけようもないと聞いては、年寄役の伏見屋金兵衛ふしみやきんべえなぞが第一黙っているはずもなく、この宿でも八月のさかりに門松を立て
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのおそろしい勢を見て、からだ道傍みちばたけようとしましたが、牡牛はかえって一郎次の方へ真直まっすぐに突き進んで来て、アット思うもなく、一郎次を二つの角で引っかけたかと思うと
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先にけてか林のわき草原くさはらを濡れつゝきた母子おやこありをやは三十四五ならんが貧苦にやつれて四十餘にも見ゆるが脊に三歳みつばかりの子を負ひたりうしろに歩むは六歳むつばかりの女の子にて下駄を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
この地形は航海者にとっても、また陸岸の網引にとってもともに重大なる関係がある。フクラの端はすなわちミサキであり、その陰は風をけ舟を泊することができるからである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼女は、それをけるために、からだをはすにして、いつとき道ばたに立ちすくんだ。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
母親は、押入れの葛籠つづらのなかから、子供の冬物を引っ張り出して見ていた。田舎からけて持って来てた、丹念に始末をしておいた手織物が、東京でまた役に立つ時節が近づいて来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
とにかくかゞみむかし支那しなでもかほうつすばかりのものではなく、これをつてゐると、惡魔あくまけるといふようなかんがへがあつたので、はかをさめたのもさういふ意味いみがあつたかもれないのです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
れでゐて足音あしおとしづかで、ある樣子やうす注意深ちゆういぶか忍足しのびあしのやうである。せま廊下らうかひと出遇であふと、みちけて立留たちどまり、『失敬しつけい』と、さもふとこゑひさうだが、ほそいテノルで挨拶あいさつする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのこえくと、ぼうさんは、さてこそ鬼婆おにばばあっかけてたとがたがたふるえながら、みみをふさいでどんどんして行きました。そしてこころの中で悪鬼あくきけの呪文じゅもん一生懸命いっしょうけんめいとなえていました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
新庄以北、釜淵・及位のぞきあたり、山手にかかっては雪がますます深く、山の斜面には雪崩なだれの跡が所々に見える。駅の前は吹雪ふぶきけの葦簀よしずの垣根が作られている。同車の客の土木請負師らしい人は言う。
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「それは、瓦斯ガスマスクですよ。毒瓦斯けに使うマスクなんです」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
薯がらの小積こづみのかげだ吸ふ煙草だ早春の出洲の烈風をけて
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「いゝえ。私が行者に頼んでけをしたからですわ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
飛込んだガラツ八、絡み付くお喜代に手が伸びると、平次はそれに引かれるやうに、僅かに身をかはして辛くも匕首のさきけます。
しかし又、それだけ不良に慣れ切っているから、滅多な不良は寄せ付けぬと同時に、不良けの不良を飼っておくような処もある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
私たちはときどき日をけるため道ばたの農家の前に立ち止って、去年と同じように蚕を飼っている家のなかの様子をうかがったり
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
日あたりをけて来て、且つ汗ばんだらしい、あねさんかぶりの手拭てぬぐいを取って、額よりは頸脚えりあしを軽くいた。やや俯向うつむけになったうなじは雪を欺く。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)