)” の例文
赤塗の自転車に乗った電報配達人が綱をっている男女の姿を見て、道をきいていたが、分らないらしい様子で、それなり元きた彼方かなたへと走って行った。
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もう一人、あわせ引解ひっときらしい、汚れたしま単衣ひとえものに、綟れの三尺で、頬被ほおかぶりした、ずんぐりふとった赤ら顔の兄哥あにいが一人、のっそり腕組をしてまじる……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すなわちその葉が風に吹かれるとその風が葉面に当たってその葉を一方に押しやる。そうするとその長い葉鞘がれてこの葉がこんな姿勢をとるのである。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ドタリと音を立てて草の上にたおれると、すぐに両手を突張って起き上ろうとしたが、そのまま全身をじらしてゲロゲロ、ゲロゲロと白いものをき始めた。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
遠い山に歯のようなしろい縄のように雪がれかかり、前の山は暗い茜にそまって秋のままの姿だった。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ミミは草の葉をり合わせた糸に、その花を一つ一つつなぎまして、長い長い花の鎖にしてゆきました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
気のせいであったのか、それとも一種の幻惑の種類であったのか、ともかく、彼女の厚いくちもとから鼻すじへかけて、深い微笑の皺がれこんだ事は実際であった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)