)” の例文
(あなたは春陽会しゅんようかいへいらしって? らしったら、今度知らせて頂戴ちょうだい。あたしは何だか去年よりもずっとさそうな気がしているの)
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
始めのうちは音信たよりもあり、月々つき/″\のものも几帳面ちやん/\と送つてたからかつたが、此半歳許はんとしばかり前から手紙もかねも丸で来なくなつて仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さかなは何があるな。甲州街道こうしゅうかいどうへ来て新らしい魚類を所望する程野暮ではない。何か野菜物か、それとも若鮎わかあゆでもあれば魚田ぎょでんいな」
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
清淨しやうじやうみづでもければ、不潔ふけつみづでもい、でもちやでもいのである。不潔ふけつみづでなかつたのは、りよがためには勿怪もつけさいはひであつた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
其跡そのあと入違いれちがつてたのは、織色おりいろ羽織はおり結城博多ゆうきはかたの五本手ほんて衣服きもの茶博多ちやはかたおびめました人物、年齢四十五六になるひんをとこ。客
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
よってかの家を彩牋堂とこじつけ候へども元より文藻ぶんそうに乏しき拙者せっしゃ出鱈目でたらめ何かき名も御座候はゞ御示教願はしく万々ばんばん面叙めんじょを期し申候
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
で、貴方あなた時代じだいやうとすましてもゐられるでせうが、いや、わたくしふことはいやしいかもれません、笑止をかしければおわらください。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
勘さんの嗣子あととりの作さんは草鞋ばきで女中を探してあるいて居る。ちとさそうな養蚕かいこやといの女なぞは、去年の内に相談がきまってしまう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この歌は、平凡な歌だけれども、新年の楽宴の心境がく出ていて、結句で、「嬉しくもあるか」と止めたのも率直で効果的である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いざと云ふ場で貴方の腕が鈍つても、決して為損しそんじの無いやうに、私刃物きれものをお貸し申しませう。さあ、間さん、これをお持ち遊ばせ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それにこの高原の空気と自給自足の労働とが、よほど健康にもかったらしく、たださえ頑丈な身体が益々ますます丈夫そうになっていた。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
照子はくすくす、「五十五銭にいたしておきます、一閑張いっかんばりのお机にはうつりがうございますよ。一円ならお剰銭つりをあげましょうか。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでも思切おもひきツて其の作を放擲ツて了うことが出來ぬから、何時いつまでも根氣こんき無駄骨むだほねツてゐる、そして結局なさけなくなるばかりだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
兎も角も、家の屋根の如き、天日を強く受ける所や、その他の燃える恐れの有る物件は、燃えぬ品物を以ておおう用意をするがかろう。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
そうして、雨の中をこんく探して歩いたが、怪物の正体は遂に判らなかった。私は夜もすがらこの奇怪なる音楽のためにおびやかされた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おとまはんかア、……あの鬼みたいな青六が村長になつて、何がかろぞい。」と、文吉は鍬の手を止めて、間拔けた聲で答へた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そんな風にしばらく外にいてから部屋に帰って男を起す事になっていた。男の長い間く眠るのを、女は体のためにいように思っていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
天気のい日は、老博士も、死人のような生残者たちも、僕から釣道具を借りて、釣りに興ずるのだった。嵐のあとの晴れた朝だった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
竜神何卒なにとぞ檀越だんおつに一度逢わせてくださいと頼むと、数日後果して貴人より召され、夥しく供養されたという(『宋高僧伝』七)。
時にとってのき道しるべと、兵馬は余の方面はさておき、自分の目的地方面をたどると、はしなくもそこに一つの迷いが起りました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
岩野泡鳴氏は文士や画家ゑかき片手間かたでまの生産事業じごふとしては養蜂ほどいものは無いといつて、一頻ひとしきりせつせと蜜蜂の世話を焼いてゐた。
この室はちょうどかの雪峰チーセを見るに都合がし、夜分はごく美しい月を見ることが出来ますから此室ここにお休みなさいという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
誠に船の中は大変な混雑であった(桑港着船の上、艦長の奮発で水夫共に長靴を一足ずつかっやって夫れから大に体裁がくなった)
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こんな話でその夜はしんきましたが、戦争と聞いては何んとなく気味悪く、また威勢のいことのようにも思われて心はおどる。
後に「倭」の字を改めて、これを同音の「和」の字に代えたのは奈良朝の末で、けだしき意味の文字を取り換えたに他ならぬ。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
それは見晴しのい峠の山道を、ひとりでゆっくり歩きたかったからであった。道は軌道レールに沿いながら、林の中の不規則な小径を通った。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
請ふわがきコスタンツァに汝の我にあへる次第とこの禁制いましめとをうちあかし、汝がこの後我を悦ばすをうるや否やを見よ 一四二—一四四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
つまり、あまり露骨にファシスト的だというので、それは、一般に評判のくない新貨ですが、あなた方は、どうお考えですか。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
『泰子も、仕合わせになろう。あとの、そちたちも、かえって、かろうというものだ。べつだんな、騒動ではない、案ずるな』
お光は依然として勤勉な春風楼の裁縫師であり、き母であり、穏やかな平和さを絶えず身辺に漲らしている小母さんであった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
先ず手軽いのが玉子のサンドウィッチで湯煮ゆでた玉子を黄身も白身も一緒に裏漉うらごしにして塩を少しとバターとをきほどに混ぜて煉ります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
はなはだ「是非の心無き」に近く、きに改めるに如かざるに遠しというわけで、この意見が結局彼の頭の中に生長して来た。
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
あそこまで参れば、わたくしの耳は紀介様のお声をきくことが出来まするし、ご機嫌かった日のお笑いごえを耳に入れることもできます。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
たまや、さう/\、おまへも一しよればかつたね!空中くうちゆうにはねずみないだらうけど、蝙蝠かうもりならつかまへられる、それはねずみてゐるのよ。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
関東煮とは、吾々われわれ東京人の所謂いわゆるおでんの事だよ。地方へくとおでんの事をく関東煮と呼ぶ。殊に関西では、僕自身度々たびたび聞いた名称だよ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
くお天氣てんきには、とほ近江あふみくに伊吹山いぶきやままで、かすかにえることがあると、祖父おぢいさんがとうさんにはなしてれたこともありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
靜子は藝人じみても可なり垢ぬけした精神があるのをみして、かの女を自分等の集まる或詩人會へつれて行つたこともある。
できるだけ確実に物をて、書いたりおぼえたりする習慣をつけておくと、将来つごうのいことがひじょうに多いであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ほか稽古けいこの時に絵をいたりしないような、そしてお友達に何を言われても、いと思ったことを迷わずするような、強い子になって下さい。
先生の顔 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
村の人たちには、どうしてあんなに仲のかった伊作と多助が、こんな喧嘩をするようになったのか誰も知りませんでした。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
「皆な面をもって喜んでいるね。万豊の栗拾いたちが、くもあんなにそろって面を持出したとおもったが——飛んだ役に立てたものだな。」
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「五月鯉」の第一回に梅若丸うめわかまる然とした美少年が荒くれ男に組敷かれる処があるのも大方小波の稚児ちご時代の自叙伝の一節だろうと想像する。
他處目よそめうらやましうえて、面白おもしろなりしが、旦那だんなさまころはからひの御積おつもりなるべく、年來としごろらぬことなきいへきをばかり口惜くちをしく
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
考へだにせば、儒を聞きて儒を疑ひ、仏を聞きて仏を疑ひてもし。疑へばいつかその疑の解くることあり、それが道がわかるといふものに候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
みなみでは養蠶やうさん結果けつくわかつたのとすこしばかりあまつたくは意外いぐわい相場さうばんだのとで、一ゑんばかりのさけ奮發ふんぱつしたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
めでたき飾紐リボンあまた買はるべし、その黒き髮にうつりきものをえらみ試みんは、いかに樂かるべきぞなど、繰返して説き勸めつ。
彼は正直な職人であつたが、成績のい上等兵として兵営生活から解放されて後、町の料理屋から、或は遊廓から時に附馬つけうまを引いて来たりした。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あの頃もっと勉強して置けばかった。あの頃かけば幾らでもかけたような気がしてならない。この頃は、朝早くから窓一ぱいの光線が差込む。
日和ひよりおりなどにはわたくしはよく二三の腰元こしもとどもにかしずかれて、長谷はせ大仏だいぶつしま弁天べんてんなどにおまいりしたものでございます。
阿房たわけものめが。いわ。今この世のいとまを取らせる事じゃから、たった一本当の生活というものをとうとばねばならぬ事を、其方そちに教えて遣わそう。