)” の例文
予はえらく、偶然人の秘密を見るはし。しかれども秘密を行う者をして、人目を憚るふるまいを、見られたりと心着かしめんは妙ならず。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「でもあの辺はうございますのね、周囲まわりがおにぎやかで」おゆうはじろじろお島の髷の形などを見ながら自分のあたまへも手をやっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「節ちゃん、鈴木の兄さんはあわせを着ていらっしゃるようだぜ。叔父さんの綿入を出してお上げ。ついでに、羽織も出して上げたらかろう」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どうも外国人は調子がいですね。少しすぎる位だ。ああ賞められると、天気の方でも是非好くならなくっちゃならなくなる」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
硬くていもの悪いもの……ざっと考えても、以上のように触覚がたべものの美味さ不味さの大部分を支配しているものである。
数の子は音を食うもの (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
先ずしといずれも安心したが、何ぞ測らん右の蛙がそもそも不思議の発端で、それからこの邸内に種々の怪異あやしみを見る事となった。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
若しも單に日本の警察機關の成績といふ點のみを論ずるならば、今度の事件の如きは蓋し空前の成功と言つてもからうと思ふ。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
大洞は、色を失つて戦慄せんりつするお加女の耳にちかづきつ、「こし気を静めさして今夜の中にそつと帰へすがからう——世間に洩れては大変だ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
両親はそれをひどく可愛がって、結婚を申しこんで来る者があると、自分で選択さしたが、いつもいというものがなかった。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
エレガントといってもいような、その立派な容貌風采、十数年の昔ではあるが、松本たい氏と会った時には、威圧をさえ感じたものである。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さる無駄口に暇潰ひまつぶさんより手取疾てっとりばやく清元と常磐津とを語り較べて聞かすがし。其人聾にあらざるよりは、手を拍ってナルといわんは必定。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
けれど小供こどもこそまこと審判官しんぱんくわんで、小供こどもにはたゞ變物かはりもの一人ひとりとしかえない。嬲物なぶりものにしてなぐさむに丁度ちやうどをとことしかえない。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
次ぎに二硫化炭素の実験であったが、これは頗る臭い物である。臭い位はまだいとしても、塩化窒素の実験となると、危険至極の代物だ。
此の意を持して国民性を説く、(此の点につきてはみだりに作家のみ責むべき理由なしとするも)意やし、言の不妥なるを如何いかん
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
唯……自分が生前に何等のほまれを持つてゐなかつた事は物足らない。せめて自分が中學の特待生でもあつたらかつたらう。……
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
左樣さやうさ/\れはうだ。』と、イワン、デミトリチはひたひあせく、『れはうだ、しかわたし如何どうしたらからう。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
うございますから取つて置いて下さい。その代り誰にもお見せなさらないやうに、阿父様おとつさまにも阿母様おつかさまにも誰にも有仰おつしやらないやうに、ねえ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
補助貨が乏しかつたら、その代りに鶉を呉れてやつたらからうぢやないか、鶉は売つて銭に替へる事も出来るし、煮てあつものにする事も出来る。
「それは何方どつちだツてうございますけれども、私は何も自分から進むで貴方あなたと御一緒になツたのぢやございませんから、うぞ其のおつもりでね。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もしれ私一人ひとりの好みを云へば、やはり、犬よりは狼がい。子供を育てたり裁縫したりする優しいめす白狼はくらうい。
世の中と女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
家来二人は矢走を渡りたいといって、姥ヶ餅のそばから矢走へ行ったことを覚えている。これは軽輩だからいのだ。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
大抵族霊トテムたる動物を忌んで食わぬが通則だが、南洋島民中に烏賊いかを族霊としてこれを食うをしとするのもある(『大英類典』第九版トテムの条)。
小作料の騰貴はまだいが、中には小作地が不足して住みれた村にも住めなくなり、東京に流れ込んだり、悪くすると法律の罪人ざいにんが出来たりする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
乃公は最早もうかろうと思って、衣嚢かくしの中から先刻さっき捕えて置いた小鼠を出してテーブルの上に置いた。乃公が手を放すか放さぬ中に鼠は奥様おくさんに飛付いた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
舞台監督の意向は日本の習慣などはうでもい、たゞ欧洲に無い野蛮趣味と新しい形とを出して観せたいのらしい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と、かくまをしたまひしかば、天皇、答へ詔りたまはく、「こもいと理なり。みことの如くてし」と詔りたまひき。
そこで利家が見ると、政宗は肩衣かたぎぬでいる、それはい、脇指をさして居る、それも可いが、其の脇指が朱鞘しゅざやの大脇指も大脇指、長さが壱尺八九寸もあった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
希望を以てすることを仮りに積極的行為と名づくれば、恐怖の念よりすことを消極的行為というてもい。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
実に母と子の関係は奇蹟と云ってもい程に尊い感じのするものであり、また強い熱意のある信仰である。
愛に就ての問題 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「かうほかの税が高いんやもん、天滿山官林の松茸ぐらゐ、村方むらかた無代たゞ呉れたてさゝうなもんや。それを一兩でも高う賣らうと、競り上げるのは、官も慾が深すぎる。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
如何いかにもれは仕様のない奴等やつらだ、誰も彼も小さくなるなら小さくなり、横風おうふうならば横風でし、うも先方の人を見て自分の身を伸縮のびちぢみするような事では仕様しようがない
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
上は則ち乾霊あまつかみの国を授けたまふうつくしびに答へ、下は則ち皇孫すめみまたゞしきを養ひたまひしみこゝろを弘めむ。然して後に六合くにのうちを兼ねて以て都を開き、八紘あめのしたおほひていへむこと、亦からずや。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
筆数は余り多くないが、その大樹があるために何となくその景色が物凄ものすごくなつて、その樹はたしかに下の方の深い谷間にそびえて居るといふことがよくわかる。心持のい画である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
及ばぬ恋の無駄ながふもやすよりは、妄想をデツチ上げた恋愛小説でも作つて、破鍋われなべにトヂ蓋の下宿屋の炊婦おさんでもねらつたらからう。はツはツ、顔を赤くするナ。怒る。怒る勿。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
徳川時代に至るまでも、鬚奴ひげやっこの称ありて、武家の従者はなお余五将軍の郎等、太郎介と同じく、鬚多きをもってしとせしなり。けだしえびすすなわち毛人を理想とせるものなるべし。
武士を夷ということの考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「ハヽヽヽヽヽ、左樣か、それはかつた、左樣か、入りやんしたか、ハヽヽヽ。」
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
たまちやんのことはなさなければかつた』とかなしげなこゑあいちやんがつぶやきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
此処こゝ一安心ひとあんしんは致しましたが、そうなると直ぐ心配になって参るは神奈川へ着いてから何うしたら宜かろうか、いゝ塩梅に伊之さんが待ってゝくれゝばいが、若しも居なかったら何うしよう
見て英国好えいこくずきの人なれば甚だ嬉しがりをり候文芸に型や主義は要らず縦横に書きまくるがしと考ふる小生は貴兄の作物さくぶつが鳥の歌ふ如く自然に流れでるのを羨ましく思をり候今後種々の方面へ筆を
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
離婚は悲しむべき事で或場合には罪悪となづけてもいと考えますが、また或場合には罪悪からのがれる正当な手段と見る事も出来ますから、十分その真相を調べた上でなければ是非の判断はむずかしい。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
乳母 おまへ今日けふはお參詣まゐりてもいといふお許可ゆるしましたかえ?
嬉しげだ、——今彼のには万事がい、——
「これでし」
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
し』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
考えて見たまえな、名誉だの、品性だの、上流の婦人の亀鑑きかんだのと、ていい名は附けるものの、何がなし見得坊なんじゃあないか。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うも外国人は調子がいですね。すこすぎる位だ。あゝめられると、天気の方でも是非くならなくつちやならなくなる」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「誰が親と奉公人と一緒にして、物を言うやつが有るもんですか。こんな奉公人の前で、親の恥までさらさなくってもう御坐んす」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
色の淺黒い、輪廓の正しい立派な男、酒を飮めば必ず歌ふ、のまざるもた唄ひながら働くといふ至極元氣のい男であつた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「お内儀さん。お前がお仕置に出る時には、あの黄八丈を召して下さい。いっそ思いを残すことが無くってうございます。」
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『は、う御座いますとも。何日いつでも貴方の御出懸けになる時は、あの大抵の日は小使をお寄越し下されば直ぐ參ります。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)