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令はそこでそれをまた里正りせいに催促して献上さした。市中の游侠児あそびにんい促織を獲るとかごに入れて飼い、値をせりあげて金をもうけた。
促織 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
苗代川は現実の世から見ればまさに夢の国だとも思える。進歩を誇る吾々に易々やすやすいものが出来にくいのと何たる対比であろうか。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それくらい好きな煙草を長崎にいたときやめて、い煙草も安く喫める欧羅巴ヨーロッパにいたときにも決して口にくわえることすらしなかった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その結果、支那人はふるくからこの草を熱愛した。それはその草状がいという訳ではなく、その草に含んでいる香気を愛でたのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「出家には、ものおしみをする人の心がどうしても解りません、わしにい梨がある、それを出して、皆さんに御馳走をしよう」
種梨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ねがわくば、このき日にあたって、下々しもじもへも、ご仁政のじつをおしめしたまわらば、宋朝の栄えは、万代だろうとおもわれますが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃、私は師匠の家に寝泊まりしていた。当時は肉のいのは牝牛といったものです。ロースだのヒレーだのということは知りません。
東坡巾先生は道行振の下から腰にしていた小さなひさごを取出した。一合少し位しか入らぬらしいが、いかにも上品ない瓢だった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こんなふうで、自分の中学においての成績は三年ごろまではまず中ぐらいのところであったが、それから後はいほうであったと言えよう。
わが中学時代の勉強法 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
述斎は濹上に遊ぶべき時節の最もきは花の散った後若葉の頃であるとなした。これは柳北が『花月新誌』に言うところと全く符合している。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
宗教は詩人と愚人とにくして実際家と智者に要なしなどと唱うる人は、歴史も哲学も経済も何にも知らない人であります。
「お彼岸だものですから、お墓詣はかまいりに一人で出て来たついでに、あんまり気持がいのでつい何時までも家に帰らずにふらふらしていました。」
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
歌を詠まなかった万葉時代の我々は、果してこの草を何と呼んでいたろうか。以前い名があって不幸にして忘れられたか。
兄さんが読んだら泣くだろう。い兄さんだった。兄さんは、僕が八つの時から、お父さんの身代りになって僕を可愛かわいがり、導いて下さった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうして毎日そのスープを飲むが牛の頭は一年に二、三度より取かえない。しかし毎日煮ているからスープの味は非常にくって滋養分も多い。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その時分の無落款むらっかんのものに極めていものが多かったからかも知れませんが、兎に角近世作家のものが、もっとあってもいいと思ったほどでした。
却説さて小助こすけは、いへあしで、おなむら山手やまてつた。こゝに九兵衞くへゑふもののむすめにおあきふ、とし十七になる野上一郡のがみいちぐん評判ひやうばん容色きりやうし。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
新派は初めから大きらひですし、新劇はどれがいのかわからないで行く気になれず、と、まあかういふわけでした。
日というものがこんなにく橘に人事ひとごとでなく存在していることが、大きな広いところにつき抜けて出た感じであった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
わたしの故郷はもっといところが多いのだ。しかしその佳いところを記すには姿もなく言葉もないので、どうやらまずこんなものだとしておこう。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「御用聞が暇で困るのは、世の中が無事な証拠さ。それほど退屈なら、跣足はだしで庭へ降りて、水でも汲むがいい、土が冷えていてとんだい心持だぜ」
容貌きりょうし性質もこんな温厚な娘だったが、玉にもきずの例でこの娘に一つの難というのは、肺病の血統である事だ。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「さあ、どつちがからうな。」長谷川氏は敵の偵察をするやうにじつと頭をかしげた。「わしは種子田がよいと思ふのだが、しかし嬢の思はくもあるでな。」
定「何もございませんが、いつもの魚屋がかれいを持ってまいりました、珍らしい事で、鰈を取って置きました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そうです。あなたにとってはき歌を百首詠むより、国を治め正しき戦の法を学ぶことの方が大切なのです」
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何処を見ても物の色はい。暗く影の深い鎮守の森、白く日に光る渓川の水、それをいろどるものは秋の色である。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
寒いばかりではない、もう苦しくて荷を背負って居る荷持に縋らなくてはならぬ荷物を下さなくては苦しいけれども景色もまたいです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
癩病らいびょう病院に血痕のある木! れしもあまり心持こころもちがしない、こんな場所だから昼間でも人通りがすこぶる少ない、ことに夜にっては、はなはだ寂しい道であった。
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
こゝに在るは善き人々なるをば、客人もく悟り給ひしならん。されど此等の事思ひ定め給はんには、先づ快く一夜の勞をいやし給ふに若かず。こゝにとこあり。
ヂュリ あい、その晴着はれぎいっい。それはさうと、乳母うばや、今宵こよひわしをどうぞ一人ひとりかしてくりゃ。
問「大衆文芸の功労者は?」答「よく働いてい作を見せた、数多くの大衆文芸家と、大衆文芸を論議してくれた、数多くの純文芸家と、大衆文芸を鼓舞してくれた、 ...
大衆文芸問答 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一同は一足お先に那河川なかがわに架けたる橋を渡り、河畔の景色けいしょくき花月旅店りょてんに着いて待っていると、もなく杉田先生得意満面、一行の荷物を腕車わんしゃに満載してやって来た。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
肩つきの按排あんばいは西洋婦人のように肉附がくってしかもなだらかで、眼は少し眠むいような風の
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その中の小品に相当にいものがあつたので、彼女も文展に出品する気になつて、他の大幅のものと一緒にそれを搬入したが、鑑査員の認めるところとならずに落選した。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
信州しんしゅう戸隠とがくし山麓なる鬼無村きなしむらという僻村へきそんは、避暑地として中々なかなか土地ところである、自分は数年ぜんの夏のこと脚気かっけめ、保養がてらに、数週間、此地ここ逗留とうりゅうしていた事があった。
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
曉告ぐる五月の輕風そよかぜゆたかに草と花とを含み、動きてを放つごとくに 一四五—一四七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かつて預言者エレミヤはき無花果と腐った無花果と二かごを並べて、神の聖意にしたがう者をば佳き無花果、不信仰の者を腐った無花果にたとえたことがありますが(エレミヤ二四)
しかしこうしてその男子の如くなるや、知識気力の深浅強弱如何いかんの辺にとどまり、もっぱら精神を練るの教えを主として、当局の婦人においても、その範囲を脱せざれば甚だしといえども
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
青年は一週間ほどってまた来た。今度は自分の作った原稿をたずさえていた。あまりくできていなかったから、遠慮なくそのむねを話すと、書き直して見ましょうと云って持って帰った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
※ンチの作だらうと云ふ「基督キリスト」は一も二も無く※ンチに決めて仕舞しまひたい程い絵である。これも女らしい基督キリストで、顔にも髪にも緑色を用ひたのが其の悲しのある表情に適して居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
欠伸あくびをしながら、煙草を御自分も喫み、管理人にも一本下すったそうでまたその煙草が外国製のものらしく、とても堪らないい香がしたが、吸っているうちに何だか少し頭がぼんやりしてきて
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
故にそのリリシズムを理解しない限りにおいて、百千の句はことごとく皆凡句であり、それを理解する限りにおいて、彼のすべての句は皆いのである。例えば小督局こごうのつぼねの廃跡を訪うてんだという句
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ただその両者が結びついた時にのみ見られるさで、人間がああでもないこうでもないと、ややもすれば無意味な苦心を重ねた後に、自然が最後の仕上げの鑿をふるって、重苦しい塊まりを崩し
高田の作ったこの句も、客人の古風にたかまる感情を締め抑えた清秀な気分があった。梶はい日の午後だと喜んだ。出て来た梶の妻も食べ物の無くなった日のびを云ってから、胡瓜きゅうりもみを出した。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
座敷の三ぱう硝子障子がらすしやうじで、廊下がグルリと𢌞はりえんのやうになつてゐた。障子の外へ出て見ると、中二階風ちうにかいふうに高く作られて、直ぐ下が稻田であると分つた。星明りにも見晴らしのいことが知られた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それから又いつもの通りにいお茶が出る。旨い菓子が出る。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
皆様おそろいでき年をお迎えのことと存じます。
ながまひをわれはき小麥のごときかてとす。
この入日いりびを眺めてゐるのですね。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
き人のよき衣つけて寄りつどふ
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)