)” の例文
毛と云う毛は悉く蛇で、その蛇は悉く首をもたげて舌を吐いてもつるるのも、じ合うのも、じあがるのも、にじり出るのも見らるる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毛といふ毛はこと/″\く蛇で、其の蛇は悉く首をもたげて舌を吐いて、もつるゝのも、ふのも、ぢあがるのも、にじり出るのも見らるゝ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
あわただしい退がいかれて、勝政の麾下は、それぞれの旗幟きしと組頭の行くを目あてに、堀切の崖を、道も選ばずじ登り出した。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明軍死する者多いが、さすがに屈せずしかばねを踏んで城壁をじる。日本軍刀槍を揮って防戦に努めるけれども、衆寡敵せず内城に退いた。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
高くもないけど道のない所をゆくのであるから、笹原を押分け樹の根につかまり、崖をずる。しばしば民子の手を採っていてやる。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
つづいてそれがどっと雪崩なだれを打つときの声に変ります。わたくしはほとんどもう寝間着姿で、寝殿しんでんのお屋敷にじ登ったのでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
お桂さんはいきおいよく乾いた草を分けてじ上った。欣七郎の目に、その姿が雑樹ぞうきに隠れた時、夫人の前には再びやや急な石段があらわれた。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が最初戸口から跳び出した時には、他の謀叛人どもも、私たちをやっつけてしまおうと、すでに防柵にじ登っていたのである。
あなたさまの魂の居られる世界へわたくしがじ登ることに於て、はじめてまことのあなたさまに私はお目にかかれるので御座いました。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
蜻蜓とんぼせみが化し飛ぶに必ず草木をじ、蝙蝠こうもりは地面からじかに舞い上り能わぬから推して、仙人も足掛かりなしに飛び得ないと想うたのだ。
昔のアヌンチヤタは我が仰ぎしところ、我が新に醒めたる心の力もてぢんと欲せしところなるに、うらむらくは我を棄てゝ人に往けり。
彼は夫婦仲好のまじないと云って誰でも探すと笑いつゝ、松にじ上り、松葉の二つい四本一頭にくくり合わされたのを探し出してくれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
特に馬車を辞して蜿々ゑん/\たる小径をじ登つた時、其れは真に「人間に非ざる別天地」である、と私は感歎せざるを得なかつた。
馬鈴薯からトマト迄 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
樵夫は覚悟して、そのうろこの上にじ登ると、物は空中をゆくこと一、二里で、彼を振り落した。しかも池に落ちたために彼は死ななかった。
雪のはだれる音、塀にじ登る音、——それぎりひっそりしてしまったのは、もうどこかへいの外へ、無事に落ち延びたのでございましょう。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小さな谿流けいりゅうにかかった吊橋を渡って、その村の対岸にある栗の木の多い低い山へじのぼり、その上方の斜面に腰を下ろした。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この巻鬚は強く他物に絡み付き茎をしてじ登らせる。面白い事はこの巻鬚は実は茎の変じたものでこれに花が咲いたらそれが花穂になる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
蝸牛かたつむりも、田螺たにしも食うかと思えば、果実の類はまた最も好むところで、木にじ上ることの技能を兼ねているのはその故である。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
城山へは、宿の横手の裏峡道から、物ずきに草樹を掻き分けじ登ったのだから、洋服のYは泰然、私はひどく汗を掻いた。
さらに、彼は、泳ごうとしてからだをかがめる。ところが、兄貴のフェリックスは、その背中へじ登って、飛び込みをやる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それをじ昇って天竺てんじくまで行くと、ある家の裏の垣根にやっと蔓の端が引掛かり、今にもはずれそうになっていたけれども
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
点火と同時に、綱をたぐって急いでじ登る。とたんに爆音が耳に割れて、岩石が飛び散り、もう和歌山県の村上音造はじめ五人が死んでいた。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
晩に、炊事場の仕事がすむと、上官に気づかれないように、一人ずつ、別々に、息を切らしながら、雪の丘をのぼった。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
塔にじ上らないでその高さを測り得たという事は子供心に嬉しかろう。その喜びの中には相似三角形に関する測量的認識の歓喜が籠っている。
アインシュタインの教育観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
青桐の上にその板と綱を持つてぢ登つて、二階の窓外に輕く降り立ち、何んの苦もなく部屋の中へ滑り込んだのでせう。
老人が樹にじて戯るれば、子供は杖をついて人の世話をやき、孔夫子が門人を率いて賊をなせば、釈迦如来は鉄砲を携えて殺生せっしょうに行くならん。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
けゃ、けゃ、さういふやからがあさましい最期さいごぐる。さゝ、豫定通さだめどほり、戀人こひゞともとて、居間ゐまのぼり、はやなぐさめてやりめされ。
その頂上てうじやうにはふるむかしから、大理石だいりせきのやうにかたくて真白ましろゆきこほりついてゐて、かべのやうにそゝりつ、そこまで、まだ誰一人だれひとりのぼつたものがない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
雪田を踏み、砂礫をじて、二峰の中間に達し、東峰を後にして、西峰を攀ず。砂の斜面急也。五、六歩ごとに立ち留まりて、五つ六つ息をつく。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
その中にようやく適当な入口を見出し、人夫が草をぎ払った後からつづいて谷を越え、熔岩流のただ中にじ登って見た。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
かの往きにアルプスの雪嶺をじたるは今トスカナの沃野に達せんがためなり。武備世界の境遇に入りたるは生産世界の境遇に達せんがためなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
厳重に鎖※さやくせられた同邸表門をじ登って、銃声現場と覚しき邸内本館二階東側の室へ闖入ちんにゅうしてみたところ、北側化粧台の前に置かれた寝台の上に
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
千里の山嶺をじ幾片の白雲を踏み砕きて上り着きたる山の頂に鏡をぎ出だせる芦の湖を見そめし時の心ひろさよ。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
この岸さえじのぼってゆけば、それがはっきりわかってくるのだ。おれは毎日この岸にきて空の方をながめている。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
藤かずらをじ、たにを越えて、ようやく絶頂までたどりつくと、果たしてそこに一つの草庵があって、道人は机にり、童子どうじは鶴にたわむれていた。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
帆村は、さも計画を熟知しているような顔をして、この機密にじのぼるための何かの足掛りを得たいつもりだった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
阿Qは顫える足を踏みしめて桑の樹にじ昇り、畑中はたなかへ飛び下りると、そこは繁りに繁っていたが、老酒ラオチュも饅頭も食べられそうなものは一つもない。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
彼岸ひがんに達せんとすれどもながれ急なればすみやかに横断すべくもあらず。あるひは流に従つて漂ひあるひは巌角がんかくぢていこひ、おもむろにその道を求めざるべからず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
大いなる巖を切り崩して歩み深山に迷ひ入つて彷徨さまよはねばならぬ。毒虫に刺され、飢え渇し峠を越え断崖をぢ谷を渡り草の根にすがらねばならない。
新らしき女の道 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
南米の糞山ふんざんを作る海鳥のごとく、ロッキー山をじ登る山羊のごとく、集合動物にして、古人の言いしごとく単独を歓ぶ人は神にあらざれば野獣なり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
一面に真っ白な楯をついたクーロアールをじ登るには、それ無しには眼がちらちらして、我慢にも歩けなかった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
細き橋を渡り、せまがけぢて篠田は伯母の軒端近く進めり、綿糸いとつむぐ車の音かすかに聞こゆ、彼女かれは此の寒き深夜、老いの身のほ働きつゝあるなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼はそうして石のようになって立っていたが、思いだしたようにそれに両手をかけて上にじのぼるようにした。
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
忽ち scèneセエヌ が改まった。場所の変化も夢では自由である。純一は水がかかとに迫って来るのを感ずると共に、そばに立っている大きな木にじ登った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
雪山の嶮坂をじ登る 暫く休んで北に登ること一里にして西に折れ一方に千仞せんじんの谷間を望みつつ崖道の恐ろしい牟伽羅坂ムカラざかという坂を登って参りましたが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
葉末はちょっと立ち止まり四辺あたりを素早く透かして見たが、人目がないと見極めるとさっと山の方へ走り出した。林を潜り山骨をじ上へ上へと走るのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その間に小さな駈落者らは、大忙おおいそぎで裏庭の雑草を踏み越えて、そこに立っている無花果いちじゅくの樹にじ登った。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
それを辿たどって先ず国境山脈にじ登り、南進して千九百五十七米の三角点をきわめ、引き返してその北の一峰から西に沢を下り、地図の道に出て砥沢に行き
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
長塩という村から左に折れ急坂をじ尽した時、南沢なみさわという一部落へ出ました。そこは富里分の丸畑であって、そこに上人作の内仏があると教えられました。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
此処へ来たら五重の塔へ登るものだとあって、埃だらけの材木の間を息の切れるほどくぐった末、天辺てっぺんから花曇りと煤煙に鬱陶うっとうしそうな大都会を見渡した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)