“や”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:ヤ
語句割合
遣12.3%
痩12.0%
止9.8%
家6.1%
已4.0%
行2.9%
屋2.8%
瘠2.6%
殺2.6%
歇2.1%
矢2.1%
灼2.1%
焼2.1%
病2.0%
罷1.9%
八1.8%
破1.7%
谷1.7%
演1.6%
焦1.6%
箭1.5%
廃1.3%
妬1.3%
熄1.2%
焚1.1%
休1.1%
夜0.9%
飲0.8%
燒0.8%
与0.7%
漸0.7%
留0.7%
稍0.7%
嫉0.6%
野0.6%
燬0.6%
息0.5%
烙0.5%
哉0.4%
疾0.4%
輻0.3%
辞0.3%
斬0.3%
嫁0.2%
廢0.2%
襲0.2%
呀0.2%
舎0.2%
食0.2%
輟0.2%
疚0.1%
優0.1%
燔0.1%
盗0.1%
嫌0.1%
痛0.1%
厭0.1%
辛0.1%
較0.1%
弥0.1%
炙0.1%
試0.1%
呑0.1%
停0.1%
柔0.1%
禁0.1%
與0.1%
飮0.1%
喫0.1%
喰0.1%
焙0.1%
燎0.1%
遏0.1%
為0.1%
ヶ谷0.1%
奴0.0%
寝0.0%
射0.0%
害0.0%
放0.0%
烘0.0%
熱0.0%
疲0.0%
訪0.0%
遺0.0%
動0.0%
奏0.0%
悩0.0%
火0.0%
熾0.0%
乎0.0%
傷0.0%
凪0.0%
切0.0%
刺0.0%
吸0.0%
唄0.0%
営0.0%
如0.0%
学0.0%
己0.0%
店0.0%
患0.0%
戦0.0%
斃0.0%
施0.0%
易0.0%
炎0.0%
炒0.0%
煆0.0%
燃0.0%
爇0.0%
癯0.0%
竭0.0%
罹0.0%
習0.0%
耶0.0%
舍0.0%
詠0.0%
贈0.0%
云0.0%
些0.0%
彈0.0%
惜0.0%
攫0.0%
辭0.0%
進0.0%
験0.0%
中止0.0%
也0.0%
亭0.0%
今罷0.0%
仕0.0%
作0.0%
免0.0%
兮0.0%
十分遣0.0%
即0.0%
厄0.0%
去0.0%
合0.0%
否0.0%
呈0.0%
商0.0%
喧0.0%
噛0.0%
失0.0%
嫉妬0.0%
定0.0%
容易0.0%
宿0.0%
巳0.0%
弭0.0%
弾0.0%
彫0.0%
打0.0%
扮0.0%
投0.0%
捕0.0%
捺0.0%
掏0.0%
撃0.0%
撲0.0%
操0.0%
政0.0%
斂0.0%
料理0.0%
早0.0%
暗殺0.0%
歛0.0%
歩0.0%
殴0.0%
毀0.0%
浴0.0%
灸0.0%
炷0.0%
焠0.0%
燩0.0%
犯0.0%
療0.0%
癈0.0%
着0.0%
睨0.0%
窯0.0%
答0.0%
終0.0%
縫0.0%
羸0.0%
脆0.0%
膄0.0%
舍屋0.0%
舗0.0%
舞0.0%
良0.0%
薬0.0%
蝕0.0%
見0.0%
譲0.0%
譴0.0%
赫0.0%
踊0.0%
軈0.0%
退0.0%
逸0.0%
遊0.0%
邸0.0%
酌0.0%
鑠0.0%
闘0.0%
降0.0%
飲酒0.0%
饋0.0%
駆0.0%
魅0.0%
(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
番(ばん)ごと喧嘩(けんくわ)をして遣(や)り込(こ)めてやるのだが隨分(ずゐぶん)おもしろいよと話(はな)しながら、鐵網(かなあみ)の上(うへ)へ餅(もち)をのせて、おゝ熱々(あつ/\)と指先(ゆびさき)を吹(ふ)いてかゝりぬ。
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この次席家老は痩(や)せてしなびたような躯に、しなびた猿のような顔をして、いつも精のない、悲観的な調子でものを云う癖があった。
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かつら (やがて砧の手をやめる)一晌(いっとき)あまりも擣ちつづけたので、肩も腕も痺(しび)るるような。もうよいほどにして止(や)みょうでないか。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何も彼(か)も忘れ果てて、狂気の如く、その家(や)を音信(おとず)れて聞くと、お柳は丁(ちょう)ど爾時(そのとき)……。あわれ、草木も、婦人(おんな)も、霊魂(たましい)に姿があるのか。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の個性は或る已(や)みがたい力に促されて、新たなる存在へ躍進しようとする。その力の本源はいつでも内在的である。内発的である。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
心の欲する所は思い存分に行(や)る、しかしその行うことにも自ら宜しき程度があって、その程度即ち矩を踰えない所に真の自由がある。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
街(まち)の中(なか)を通(とお)る人々(ひとびと)も、両側(りょうがわ)の店(みせ)もだいぶ変(か)わったけれど、やはり、銀行(ぎんこう)は、そこにあり、そして、向(む)こう側(がわ)にたばこ屋(や)がありました。
街の幸福 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お菊はぬき足をしてそこを通り過ぎて、主人の居間の縁先に立つと、軒の大きい桜もきのうにくらべると白い影が俄かに瘠(や)せていた。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
警察の調べがとどいて、お槙があげられる、心細いの一念、可愛い憎いで、芳男と一しょに殺(や)りました、と云いかねない女なのさ。
いつの間にか音楽が歇(や)んで燈(あか)りが暗くなったので、彼はふと眼をあけると、何だか非常に遠いところから帰って来たような感じがした。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「君の説も一応は道理(もっとも)の様(よう)に聞えるが、五個の庄の住民は矢(や)はり普通の人間で、決して𤢖や山男の類(たぐい)では無いと云うじゃアないか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見(み)よ、愚劣(ぐれつ)な×(2)旗(き)に対して拳(こぶし)を振(ふ)る子供(こども)らを、顔(かほ)をそむけて罵(のゝし)る女(をんな)たちを、無言(むごん)のまゝ反抗(はんこう)の視線(しせん)を列(れつ)に灼(や)きつける男(をとこ)たちを!
けれども、グレーテルはどんどんかけていきました。こうして、ばちあたりの魔法使(まほうつか)いは、むごたらしく焼(や)け死(し)んでしまったのです。
どちらにしても、病(や)みほおけた骨格を想像していた北原にとっては、むしろこれは、容貌瀟洒(ようぼうしょうしゃ)というに近いほど、こなれている人だ。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
玄機が刑せられる二年前に、温は流離して揚州(ようしゅう)に往っていた。揚州は大中十三年に宰相を罷(や)めた令狐綯が刺史(しし)になっている地である。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ソフアの傍には、八(や)つ手(で)の鉢植、むかしのままに、ばさと葉をひろげて、乙彦が無心に爪で千切(ちぎ)りとつた痕(あと)まで、その葉に残つてゐる。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
と、徳利をつかんだまま、よろよろと、立ちあがると、ガタピシと破(や)れ襖(ぶすま)をあけ立てして、庫裡(くり)の戸棚の中の、揚(あ)げ蓋(ぶた)を刎(は)ね上げる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
臥(ふ)しながら思うに、大正元年の秋、英一がまだ十歳なりける時、大西一外君に誘われて我と共に雑司(ぞうし)ヶ谷(や)の鬼子母神(きしもじん)に詣でしことあり。
ただその一つさえ祭の太鼓は賑(にぎわ)うべき処に、繁昌(はんじょう)が合奏(オオケストラ)を演(や)るのであるから、鉦は鳴す、笛は吹く、続いて踊らずにはいられない。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と呟(こぼ)した事があつた。そして相手の農夫(ひやくしやう)が値上げの張本人であるかのやうに凝(じつ)とその顔を見つめた。顔は焼栗のやうに日に焦(や)けてゐた。
大王猿猴の勧めに依って弓を引いて敵に向いたもうに、弓勢(ゆんぜい)人に勝(すぐ)れて臂(ひじ)背中(はいちゅう)に廻る。敵、大王の弓勢を見て箭(や)を放たざる先に遁(のが)れぬ。
「ほんとに商売を廃(や)めてしもうてからにします」とばかりで、夜遅く近処の風呂にゆくほかは一日静かにして家にとじ籠(こ)もっていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
男女陰陽(なんにょおんよう)の道にもとづいてたわむれするはこうするものぞよ。どうじゃ、妬(や)き加減は? アッハハハ。では、罷りかえるかのう。……
南洲等力(つと)めて之を拒ぎ、事終に熄(や)む。南洲人に語(かた)つて曰ふ、七卿中他日關白(くわんぱく)に任ぜらるゝ者は、必三條公ならんと、果して然りき。
州の諸侯をはじめ、郡県市部の長(おさ)や官吏は、逃げ散るもあり、降(くだ)って賊となるもあり、屍(かばね)を積んで、焚(や)き殺された者も数知れなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ——」とお房は返事をしたが、やがて急に力を入れて、幼い頭脳(あたま)の内部(なか)が破壊し尽されるまでは休(や)めないかのように叫び出した。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私(わたし)たちが、せっかく、一夜(や)をそこにあかそうと思(おも)って止(と)まると、枝(えだ)が意地悪(いじわる)く、夜中(よなか)に、私(わたし)たちの体(からだ)を揺(ゆ)すって、振(ふ)り落(お)とそうとする。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
男も一息に、しかし幾らか緩(ゆっ)くり加減に飲(や)り、不味(まず)そうに手の甲で唇(くち)を拭いて、何か考え事でもするように、洋酒(コップ)の底をいじくりながら
角海老(かどゑび)が時計(とけい)の響(ひゞき)きもそゞろ哀(あわ)れの音(ね)を傳(つた)へるやうに成(な)れば、四季(き)絶間(たえま)なき日暮里(につぽり)の火(ひ)の光(ひか)りも彼(あ)れが人(ひと)を燒(や)く烟(けぶ)りかとうら悲(かな)しく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
直ぐその家に眼を与(や)つたのであるが、花崗岩らしい大きな石門から、楓の並樹の間を、爪先上りになつてゐる玄関への道の奥深く
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
懐中(ふところ)から塵紙(ちりがみ)を出(だ)して四つに折(を)つて揚子箸(やうじばし)で手探(てさぐ)りで、漸(や)うく餅(もち)を挟(はさ)んで塵紙(ちりがみ)の上(うへ)へ載(の)せて忰(せがれ)幸之助(かうのすけ)へ渡して自分も一つ取つて、乞
夜陰(やいん)のこんな場所で、もしや、と思ふ時、掻消(かきき)えるやうに音が留(や)んで、ひた/\と小石を潜(くぐ)つて響く水は、忍ぶ跫音(あしおと)のやうに聞える。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
藻西の店は余等(よら)が立てる所より僅か離れしのみにして店先の硝子(がらす)に書きたる「模造品店、藻西太郎」の金文字も古びて稍(や)や黒くなれり目科は余を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「喬木(きょうぼく)風にあたる。何しろ、御勲功の赫々(かっかく)たるほど、人の嫉(や)っかみもしかたがあるまい。わけて特に、君寵(くんちょう)義貞に厚しともあれば……」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ハヽヽヽ、士ですからね、私は。何時、官を退いて野(や)に帰るかも知れませんよ、ハヽヽヽ、帰る、帰る、帰る……例へば、ですよ。」
鏡地獄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
『憶得詩』は安政戊午の冬湖山が神田お玉ヶ池の家を燬(や)かれた後躬(みずか)ら編成した詩集である。その事は第二十七回に述べてある。毅堂は集の終に
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
対(こた)うる者はなかったから予が答えたは、まず日月出でて爝火(しゃっか)息(や)まずと支那でいうのが西洋の「日は火を消す」と全(まる)反対(あべこべ)で面白い。
眼は開いていてじっと彼を見つめており、あの最後の表情はまるで彼女の額に刻(きざ)み込まれたか烙(や)きつけられたかのように見えた。
先年溜池(ためいけ)にて愚僧が手にかゝり相果て候かの得念が事、また百両の財布取落(とりおと)し候侍(さむらい)の事も、その後は如何(いかが)相なり候哉(や)と、折々夢にも見申(みもうし)候間
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ソロモン王の言葉にも「請(こ)ふ、なんぢら乾葡萄をもてわが力をおぎなへ、林檎をもてわれに力をつけよ、われは愛によりて疾(や)みわづらふ」
乾あんず (新字旧仮名) / 片山広子(著)
俥(くるま)は幌(ほろ)を深(ふか)くしたが、雨(あめ)を灌(そゝ)いで、鬱陶(うつたう)しくはない。兩側(りやうがは)が高(たか)い屋並(やなみ)に成(な)つたと思(おも)ふと、立迎(たちむか)ふる山(やま)の影(かげ)が濃(こ)い緑(みどり)を籠(こ)めて、輻(や)とともに動(うご)いて行(ゆ)く。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「だから僕も田舎を辞(や)めて来たような訳さ。それに、まあ差当りこれという職業(しごと)も無いが、その内にはどうかなるだろうと思って——」
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そうらしいな。斬(や)るかな。まず、千浪どのに怪我のないように。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
どちらとも彼奴(あいつ)の返事をお聞き下さい。或(あるい)は、自分、妙を欲しいではないが、他(ほか)なら知らず河野へは嫁(や)っちゃ不可(いか)ん、と云えば、私もお断(ことわり)だ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一六六 他を利することは如何に重大なりとも、己を益することを廢(や)むべからず、己の本分を識りて恆に本分に專心なれ。
法句経 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
例の、闘鶏師(とりし)仲間の者が、腹癒(はらい)せに、その後、藩邸にまで襲(や)って来たので、問題は、家老の耳にも、主君にも、家中全体に知れ渡ってしまった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敏捷(すばや)い、お転婆なのが、すっと幹をかけて枝に登った。呀(や)、松の中に蛤が、明く真珠を振向ける、と一時(ひとしきり)、一時、雨の如く松葉が灌(そそ)ぐ。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
売りますよ。気吹(いぶき)の舎(や)の著述なら、なんでもそろえてありますよ。染め物のほかに、官服の注文にも応じるしサ。まあ商売(あきない)をしながら、道をひろめているんですね。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「うむ、毎日食(や)つてるが、今日でもう卅羽(ぱ)も食つたかな。お蔭で顔もこんなに若くなり泥的もすつかり巧くなつたよ。」
而るを誰と以(とも)にか之を易(か)えん。且つ而(なんじ)その人を辟(さ)くるの士に従わんより、豈に世を辟(さ)くるの士に従うに若かんやと。耰(ゆう)して輟(や)まず。子路行きて以て告ぐ。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
たとへば我が良人(をつと)、今此処(こゝ)に戻らせ給ふとも、我れは恥かしさに面(おもて)あかみて此膝(これ)なる文(ふみ)を取(とり)かくすべきか。恥づるは心の疚(や)ましければなり、何かは隠くさん。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今現に金の指環に真珠を嵌(は)むる細工に掛れる、年三十二三の優(や)さ男、成るほど女にも好かれ相(そう)なる顔恰好は是れが則ち曲者生田なるべし
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
また能く火と変じ、その竜火湿を得ればすなわち焔(も)ゆ、水を得ればすなわち燔(や)く、人火を以てこれを逐えばすなわち息(や)む、竜は卵生にして思抱す〉
「鶏を……。誰に盗(や)られたろう。又、銀山の鉱夫の悪戯(いたずら)かな。」と、若い主人は少しく眉を顰(ひそ)めて、雇人(やといにん)の七兵衛老爺(じじい)を顧(みかえ)った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「うれしくなんかねえさ。兵隊のくせして、うだうだ、おらの膝ッこばか寝ている男なんか、おら、嫌(や)んだ気がするにな」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本来なれば何も彼もすてて、茅野雄の後を尾行て行くか、でなかったら後腹(あとばら)の痛(や)めぬように——競争相手を滅ぼす意味で——討って取るのが本当であった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「美代姉は、厭(や)んだって言ったの、父(おど)、行がねえごったら、首(くびた)さ、縄つけでも連(つ)せで行ぐどて。お美代姉、泣いでいだけ。」
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「私は澤山です。あなたのがなくなりますから。」と冷吉は、もじ/\する心持を押へるやうにして辛(や)つとさう言つた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
叔父が較(や)や遠方から偵がふと、怪しむべし、新夫婦のみ籠つた新築の離れ屋の、ぐるりの石垣に、幾らともなく横さらふ角鹿の蟹樣の物が取付き這廻る。
蓮の花開く音を聴く事 (旧字旧仮名) / 南方熊楠(著)
昂奮した山城守が、こう心中に怒声を揚げた時、その心語(しんご)に応ずるかのように、眼前に人影が立った。ぎょッとして顔を上げると、気に入りの小姓(こしょう)一弥(や)だ。いつの間にか、庭を横ぎって来ていたのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
家ごとに羔羊(こひつじ)を屠ってその血を門口の柱と鴨居(かもい)とに塗り、火に炙(や)いてあまさず食い、また酵(たね)入れぬパンに苦菜(にがな)をそえて食うべきことを命ぜられた。
(亡くなつた夏目漱石なぞも、京都で初めてそれを見て甚(ひど)く感心したといふ事だ。)大雅堂がある時その指頭画を試(や)つて、幾らか得意さうな顔をしてゐると
「一風呂浴びて来て、飲み直しじゃ。今夜(こよい)は徹宵(てっしょう)呑(や)るも面白かろう。湯から上って来るまでに、娘を伴れてきておけ。湯壺へは、誰も来るでないぞ。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
丁度公園では歌が停(や)んだところであったが、聴衆がひどく喝采(かっさい)して止(や)まないので、同じ歌がまた始めから繰り返された。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
塒(ねぐら)にゐるのをそつと捉へて柔(や)んはりと訊くんだ。脅かしちやいけねえよ
『ぢやね、芳ちやんの樣な人で、モ些(ちつ)と許りお尻の小さいのを嫁に貰つて呉れたら、一生酒を禁(や)めるからツてお主婦(かみ)さんにそ云つて見て呉れ。』
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ヂュリ 予(わし)の骨々(ほね/″\)を其方(そなた)に與(や)っても、速(はや)う其(その)消息(しらせ)が此方(こっち)へ欲(ほ)しい。これ、どうぞ聞(き)かしてたも。なう、乳母(うば)や、乳母(うば)いなう、如何(どう)ぢゃぞいの?
『橘さんは餘り飮(や)らん方ですね。』と云つた樣な機會(きつかけ)から、日下部君と志田君の間に酒の論が湧いて、寢酒の趣味は飮んでる時よりも飮んで了つてからにある
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
由「じア喫(や)ってみましょう………これは恐入ったね、中々柔かで仕末にいけません、姉さん、此の玉子焼は真白だねえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『あに、炉部屋(ろべや)へ置いてくらっせ、そっちへ喰べにゆくでの。おっ母も、客人と一緒に喰(や)らんせ。ちっとも、気がねは要らんおらの友達じゃげな』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その焙(や)きつくやうな思ひ出のあるくみ子が、八田義太郎と云ふ實業家の家へ急に嫁入つてゆくと云ふことは、周次には何としても信じられない事だつた。
多摩川 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
さればこれらの分配通信の機関は火の原を燎(や)くがごとく、水の下(しも)に就くがごとく、かの政治的の境界をば日に侵掠(しんりゃく)して経済的の領地となさしめたり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
灯影の疎(まば)らなその町へ来ると、急に話を遏(や)めて、女から少し離れて溝際(どぶぎわ)をあるいていた浅井の足がふと一軒の出窓の前で止った。
爛 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「何。成敗する? ……よかろう、汝らの手で成敗できるものならいたしてみい。為(や)り損じたら、この檜門(ひのきもん)が、おてまえ達の血で赤門になるぞ」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時は東山道軍はすでに板橋から四谷新宿(よつやしんじゅく)へと進み、さらに市(いち)ヶ谷(や)の尾州屋敷に移り、あるいは土手を切り崩(くず)し、あるいは堤を築き、八、九門の大砲を備えて
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「煙草入(たぶこれ)は燒(や)けたつて錢(ぜね)だら灰(へえ)掻掃(かつぱ)けば有(あ)る筈(はず)だ、外(ほか)に盜(と)る奴(や)ざ有(あ)りやすめえし」小柄(こがら)な爺(ぢい)さんの目(め)は光(ひか)つた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
此頃京都に於ては、一旦将軍帰東の沙汰があつて、其事が又寝(や)んだと見える。良子刀自所蔵の柏軒の書牘(しよどく)がある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と思うと、慄然(ぞっ)として、頭髪(かみのけ)が弥竪(よだ)ったよ。しかし待てよ、畑(はた)で射(や)られたのにしては、この灌木の中に居るのが怪(おか)しい。
ところがね、ちょうどその晩兼六園の席貸しな、六勝亭、あれの主翁(あるじ)は桐田(きりた)という金満家の隠居だ。この夫婦とも、何者の仕業(しわざ)だか、いや、それは、実に残酷に害(や)られたというね。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浮いたところの毫(すこし)もない、さればと云つて心鬱した不安の状もなく、悠然として海の廣みに眼を放(や)る體度は、雨に曝され雪に撃たれ、右から左から風に攻(せ)められて、磯馴の松の偏曲もせず
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
烘(や)く如き熱、腐りたる蒸氣の中にありて、我血は湧きかへらんとす。沼は涸れたり。テヱエルの黄なる水は生温(なまぬる)くなりて、眠たげに流れたり。西瓜の汁も温し。
『荘子(そうじ)』に曰く、「至人(しじん)は神(しん)なり。大沢(だいたく)焚(や)くるも熱(や)くあたわず。河漢(かかん)沍(こお)れども寒(こご)えしむるあたわず」と。また曰く、「死生(しせい)はまた大なり。しかるにこれと変ずるを得ず」
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
眼の縁辺りが薄く隈取られ、小鼻の左右に溝が出来、見れば意外に憔悴もしてい、病んででもいるように疲(や)せてもいた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『突然訪(や)つて来て大分夜更まで遊んで行つた。今度の問題に就いちや別段話もなかつたが、(俺もモウ二十七ですからねえ。)なんて言つてゐたつけ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そら/\」といひながら、手(て)を出(だ)して待(ま)つて居(ゐ)る與吉(よきち)へ遺(や)つた。おつぎは砂糖(さたう)の附(つ)いた自分(じぶん)の手(て)を嘗(な)めた。與吉(よきち)は其(その)砂糖(さたう)をお袋(ふくろ)の懷(ふところ)へこぼしながら危(あぶ)な相(さう)につまんでは口(くち)へ入(い)れる。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
搗(か)てて加えてその頃から外国人、殊に日本人に対して厳しく警戒し、動(や)やともすると軍事探偵視して直ぐ逮捕した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
このすばらしい音楽(おんがく)はあのラッパのある自動音楽機(き)が ひとりで奏(や)つてゐるのです
出戻りとかいう名を冠(き)せられることが、恐ろしかったのである。病気になった始めから、ただその一事をどのくらい気に悩(や)んでいるかを知っている浩は、よけい心配した。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
十六年三月孫の家が再び火(や)けた。四月新居が落せられた。是月孫本町温知医黌の医学教諭となり、これに属する温知病院の副長となつた。其長は例の如く栗園がこれに任じた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そんならなぜ軽くつながっているように取られるかというに、「焼く人は」と、「吾が情(こころ)熾(や)く」と繰返されているために、其処が調子が好過ぎて軽く響くのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
子(し)獨(ひと)り(三三)郊祭(かうさい)の犧牛(ぎぎう)を見(み)ざる乎(か)。之(これ)を養食(やうし)すること數歳(すうさい)、衣(き)するに(三四)文繍(ぶんしう)を以(もつ)てし、以(もつ)て(三五)太廟(たいべう)に入(い)る。是(こ)の時(とき)に當(あた)つて、(三六)孤豚(ことん)たらんと欲(ほつ)すと雖(いへど)も、豈(あ)に得(う)可(べ)けん乎(や)。
『誰れが傷(や)っ付けたんだ? 貴様か、ジルベール?』と激怒したルパンが恐ろしく問いつめた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
風(かぜ)は凪(や)んでも雨(あめ)にも成(な)らず……激(はげ)しい暑(あつ)さに寢(ね)られなかつた、唯吉(たゞきち)は曉方(あけがた)に成(な)つてうと/\するまで、垣根(かきね)一重(ひとへ)の隔(へだ)てながら、産聲(うぶごゑ)と云(い)ふものも聞(き)かなかつたのである。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
天窓(あたま)がはっと二つに分れた、西瓜をさっくり切(や)ったよう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのときは——あの兇行のあった室(へや)が暗かったものですから——短刀で胸を一突きに刺(や)られたのが致命傷ということだけ判ったのですが、屍体を屍体置場(モルグ)へ運んでから、私が改めて検(しら)べると
とパクリ/\と吸(や)って居る。見物は
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「日本堤(にほんづつみ)。一つ唄(や)らんか」
脚 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以前はかなりの船持ちであったという磯野の叔父はもと妾であった女と一緒に、そのころそこに逼塞(ひっそく)していた。下谷で営(や)っていた待合も潰(つぶ)れて、人手に渡ってから、することもなく暮していた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
漸く自身の人柄に沁み透つたかの如(や)うにしつくりとして来て、彼は、事毎に、無言の彼女の姿を眺める時に、ふつと、己れが主になつて好ましい美妓を侍らし
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「昔だと、仏門に入(い)る処だが、君は哲学を学(や)っとる人だから、それにも及ぶまい。しかし、蒼沼は可怪(あや)しいな。」
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
剰(あまつ)さへ細雨を注(そそ)ぎ来りしが、甚(はなはだ)しきに至らずして己(や)み、為めに少(すこ)しく休暇(きうか)することを得たり。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ふる里の写真にうつりをさなき日親切受けしつり具店(や)ありき
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
先の家にいるとき、雨のなかを井戸へ水を汲みに行って、坂で子供を負(おぶ)ったまま転んで、怪我(けが)で前歯を二本かいたほかは、歯を患(や)んだことのない老人(としより)に、そう言って笑われた。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鶴富組の御主人も言うたはったが、今に日本がアメリカやイギリスと戦(や)ってみイ。敵の沈没船を引揚げるのに、お前らの身体はなんぼあっても足らへんネやぞ。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「雪に馬の斃(たお)れることはないが、暑さでは、馬さえ斃(や)られる」
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お利代が寢ずに看護してくれて、腹を擦つたり、温めたタオルで罨法(あんぽふ)を施(や)つたりした。トロ/\と交睫(まどろ)むと、すぐ烈しい便氣の塞迫と腹痛に目が覺める。翌朝の四時までに都合十三回も便所に立つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
事件の始まりは、今も記した、飲食店の美満寿屋からで、或日私は心易(や)すそうに其家の門口を潜ったものである。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ジャンは陽に炎(や)けた顔を真蒼にして数秒間立ちすくんだが、屹度(きっと)思い定めた風で再び刈り進んだ。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
肉を炒(や)かせ、飯をあつらえた。小酒屋へ入って、飲まないのも悪いと考えてか、その間に
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無理をすると顔が火のつくように熱く煆(や)ける。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
さりながら、何程思続け候とても、水を覓(もと)めて逾(いよい)よ焔(ほのほ)に燃(や)かれ候に等(ひとし)き苦艱(くげん)の募り候のみにて、いつ此責(このせめ)を免(のが)るるともなく存(ながら)へ候(さふらふ)は、孱弱(かよわ)き女の身には余(あまり)に余に難忍(しのびがた)き事に御座候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
崇(たふと)く優くも、高く麗(うるはし)くも、又は、完(まつた)くも大いなる者在るを信ぜざらんと為るばかりに、一度(ひとたび)は目前(まのあたり)睹(み)るを得て、その倒懸の苦を寛(ゆる)うせん、と心爇(や)くが如く望みたりしを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
秋は早い奥州の或山間(さんかん)、何でも南部(なんぶ)領とかで、大街道(おおかいどう)とは二日路(ふつかじ)も三日路(みっかじ)も横へ折れ込んだ途方もない僻村(へきそん)の或(ある)寺を心ざして、その男は鶴の如くに癯(や)せた病躯を運んだ。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小次郎の鼾声(いびき)が微かに聞える。——一時、ハタと竭(や)んだ虫の音もふたたび何事もないように、そこらの草の露からすだき始めた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『磯貝のような若い者ですら、その通り、いつ病気を罹(や)るか分らぬ。——ましてや』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『まあ、習(や)ってみなさるがよい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左に推させ、耶(や)と右へ、捻ぢ回したる打擂(すまひ)の本手(てなみ)に、さしも悍(たけ)たる須本太牛は、鈍(おぞ)や頑童(わらべ)の放下(ほか)さるる猪児(ゐのこ)の似(ごと)く地響(ぢひびき)して摚と仰反り倒れけり——と描写している。
越後の闘牛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
松高く築地(ついぢ)は低き學び舍(や)に
故郷の花 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
憚(はばか)って、冷遇(れいぐう)じゃという噂がある。それを詠(や)ったとみえる
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西洋人に贈(や)る進物の見立をして貰ふには、長く居る金田君に限ると思つてね、彼方(あツチ)此方(こツち)とブロードウヱーの商店を案内して貰つた帰り、夜も晩くなるし、腹も空(す)いたから、僕は何の気なしに
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「さうだこと云(や)あねえで、そら來(き)たつとかう手(てえ)つんだすもんだ、倦怠(まだるつこ)くつて仕(し)やうねえ此等(こツら)がな」先刻(さつき)の爺(ぢい)さんは又(また)一杯(ぱい)をぐつと干(ほ)して呶鳴(どな)つた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そんだが俺(お)れ旦那(だんな)に云(や)あれてから、家族(うち)の奴等(やつら)ことも怒(おこ)んねえはあ、俺(お)れうめえ處(とこ)見(み)られつちやつたな、いや云(や)あれちや勿體(もつてえ)ながす、本當(ほんたう)に勿體(もつてえ)ねえだよ
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『私(わたし)——私(わたし)は小(ちひ)さな娘(むすめ)よ』と云(い)つて愛(あい)ちやんは、一日(にち)の中(うち)に何遍(なんべん)も變化(へんくわ)したことを思(おも)ひ出(だ)して、些(や)や顧慮(うしろめた)いやうな氣(き)がしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
些(や)や誇顏(ほこりがは)に云(い)ひました、何故(なぜ)といふに、自分(じぶん)位(ぐらゐ)の年齡格好(としかつかう)の小娘(こむすめ)で、全(まつた)く其意味(そのいみ)を知(し)つてるのは甚(はなは)だ稀(まれ)だと實際(じつさい)愛(あい)ちやんは然(さ)う思(おも)つてゐましたから。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
近子は些(ちよい)と嫌な顏をして、「それでも貴方(あなた)、何(ど)うかすると彈(や)れツて有仰(おつしや)ることがあるぢやありませんか。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「そりや頭が重いからさ。ところへ上手(じやうず)でもないバイヲリンをギコ/\彈(や)られるんだから耐(たま)らんね。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
寢床(ねとこ)にはひつても盤面(ばんめん)が腦裡(のうり)に浮(うか)んで來て口惜(や)しさに眠(ねむ)れぬ思(おも)ひのする事しばしばだが
僕(ぼく)先づ出陣(ぢん)に及んで何と四勝(せう)一敗(はい)、すつかり得意(い)になつてゐると、つい二三日前には口惜(や)しさの腹(はら)癒(い)やさんずと向(むか)うから來戰(せん)に及んで何と三敗(はい)一勝(せう)、物の見事に復讐(ふくしう)されてしまつた。
(酒が飲めなきゃ飯を食ってもう帰れ、御苦労だった、今度ッからもっと上手に攫(や)れよ。)と言われて、畳に喰(くい)ついて泣いていると、(親がないんだわねえ、)と、勿体ねえ
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「攫(や)られたのかい。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「辭(や)めてもえゝのんや」と繰返していふ。たしか、以前(まへ)にも二三囘、彼は斯うした事から「辭(や)める」と騷ぎ出し、職員全部にそれをふれて𢌞つたが、結局辭めなかつた。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
晝休に、食事を濟ませてから暫く職員室にゐると、廊下で何か生徒等が騷ぎ始めたと思つたら、やがて扉があいて、去年の春結婚のために辭(や)めた音樂の教師が、赤ん坊を抱いてはひつて來た。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
「進(や)れよ……」綽空が、輦(くるま)の上からいう。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「輦(くるま)を進(や)りながら話しましょう」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若し内容があつたにしても前の晩のことだけは余以外の者には解らない。また、あの晩の続きを験(や)るのかと最初は思つたが、シヤボン玉の液はこの晩に新しく拵へたのであつた。
西瓜喰ふ人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
額にセルロイドの光線避けなどをかむつて、忙し気に手の先きを働かせてはゐるが、験(や)つてゐることは、至極単純なことらしかつた。たゞ徒らに物々しく器具や液体を弄んでゐるだけなのだ。
西瓜喰ふ人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「好(よ)い目(め)が出(で)た時(とき)、中止(や)めるは老巧者(くろと)」ぢゃ。
されども幕のコフ所にゆるせり。薩云々等朝に大典の破し事憤りて、兵を国より召上せ、既に京摂間に事あらんと。龍也(や)此度山口に行、帰りに必ず面会、事により上に御同じ可レ仕候かとも存候。
庭のあずま亭(や)に女の声がする。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何故つて今罷(や)めようといふ仕事の代りに、一體何をあなたが目論(もくろ)んでゐるのか僕には見當が附かないからなあ、一體今あなたが持つてゐるのはどんな目的なんです、どんな望みなんです
つけろといふ遠廻しの忠告ですつてさ、仕(や)るとなれば前触れなんてする筈もないぢやありませんか。
鬼涙村 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「雑ものを作(や)っていると、硝石を食ってしようがねえな。また少し土を採って来て置こうか」
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
役所は免(や)められ、眼はとうとう片方が見えなくなり片方は少し見えても物の役には立たず、そのうち少しの貯蓄(たくわえ)はなくなってしまいました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
瓢兮(や)瓢兮吾れ汝を愛す
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そんな奴らが何人いたって、まさかの時のお役に立つものでない。仇討は吾々だけで十分遣(や)ってみせるよ
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
恋愛を更らに向上せしむるの努力は即(や)がて恋愛が生命を得、幸福を与ふる衝動となるのである。
恋愛と道徳 (新字旧仮名) / エレン・ケイ(著)
「もうお話にも何もならねえチヨツカイ厄(や)きの悪魔で御座いますでな。」
この子は葦船(あしぶね)に入れて流し去(や)りつ一〇。次に淡島(あはしま)一一を生みたまひき。こも子の數に入らず。
なんでえ太(ふて)え奴だと喧嘩を吹っ掛けて、其の侍(さむらい)と喰い合(や)っても刀をふんだくって番頭さんに渡して遣れば、後(あと)で死に合うとも何うしても宜(い)いのだから、番頭さんもいなせな拵(こしら)えでゴテ/\をきめて
否(や)、実際山を歩行(ある)いたんだ。それ、日曜さ、昨日は——源助、お前は自(おのず)から得ている。私は本と首引(くびッぴ)きだが、本草(ほんぞう)が好物でな、知ってる通り。で、昨日ちと山を奥まで入った。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは呈(や)りなさい。行処が分っていれば好いじゃないか。それに、平尾さんの処へ行けば不動さまも仕合せ。命日々々には私の所や君の処よりも、平尾さんの処の方が御馳走(ごちそう)もあろう。ただ、我々が借りたい時は借りる条件を
隠居仕事に、食料を商(や)る連中の何時も集る緑のベンチ
私は額縁屋へ喧(や)かましくいって造らせたりしますが、どうもいう事を聞かないので癪(しゃく)だから致方(いたしかた)なく、私は場末の古道具屋をあさって、常に昔しの舶来縁の、古いのを探しまわるのです
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ご存じの楚蟹(ずわえ)の方ですから、何でも茨を買って帰って——時々話して聞かせます——一寸(いっすん)幅の、ブツ切(ぎり)で、雪間(ゆきま)の紅梅(こうばい)という身どころを噛(や)ろうと、家内と徒党をして買ったのですが
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「失(や)っ張(ぱり)鳴物入で」
雁 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
然うして後から私も化け込んで、見え隠れに附けているとも知らず、此女(こいつ)とお前さんは道連れに成って仲好くして、縺れぬばかりに田圃路を歩きなすった。案山子(かがし)まで見て嫉妬(や)いていたじゃあないか
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「茲(ここ)ニ住シテ凡ソ幾年、屡(しばし)バ春冬ノ易(かわ)ルヲ見ル寄語ス鐘鼎家(しょうていか)、虚名定(や)ンデ益無(なか)ラン」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
無尽蔵にいる兎や狐を狩り取ることもいと容易(や)すければ、その肉を燻(あ)ぶることも焼くことも大して手間は取らなかったが、私の目指す森林の奥まで持ち運ぶ方法に苦しんだ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私の心が不健全であるのでは無からうか、愛情と云ふものを宿(や)どさない一種の精神病のではあるまいかと——けれど私は只だ亡き母を懐(おも)ひ、慕ひ想像する以外に
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
腕も拔群ですが、何よりの特色はその輕捷(けいせふ)な身體で、もう一つの特色は、妨(さまた)げる者は殺さずんば巳(や)まない、鬼畜の如き殘虐(ざんぎやく)性でした。
これを称して弭兵(びへい)という。弭兵とは兵を弭(や)めるという事だが、その性質より考うるにこれを今日の語でいえばリーグ・オヴ・ネーション、国際連盟ともいうべきである。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
飲むとむやみに陽気に騒ぎ散らすと宿の女中が話していました。ふだんはまじめな面(つら)をしているが、なかなか道楽者らしい男で、酔うと三味線なんぞをぽつんぽつん弾(や)るということです
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これは彩色なしではあるが、木地(きじ)のままでも、その物質そのままを感じ、また色彩をも感ずるように非常に苦心をして彫(や)ったのであった。
斯うしていれば大抵は無難だが、それでも時々何の理由もなく、通りすがりに大切の頭をコツリと打(や)って行くこともある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かかる賤しき油売の姿にわが身を扮(や)つしてあれば
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
賤「私の云った通り後(あと)から石を投(や)ったのかえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「賊はじきにその晩捕(や)られた」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と是から血を出し、我(わが)姓名の下へ捺(お)すとは痛(ひど)い事をしたもので、ちょいと切って、えゝと捺(や)るので、忌(いや)な事であります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貴娘(あなた)知らんのならお聞きなさい。頃日(このごろ)の事ですが、今も云った、坂田礼之進氏が、両国行の電車で、百円ばかり攫徒(すり)に掏(や)られたです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると伊藤公が撃(や)られたというんでしょう、さあ大変、みんな滅茶苦茶に飛び出して行って、わいわいごった返しです。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「知れた事だ。汝等(うぬら)のような蛆虫(うじむし)は撲殺したって仔細(しさい)は無(ね)え。金次どうだ。」「撲(や)っちまえ。」と、拳(こぶし)と杖(ステッキ)の空(くう)に躍るを、「待った。」と間(なか)に割込むは、夫人(おくさま)の後を追うて、勝手口より出(いで)たる矢島
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さては旨(うま)いぞシテ操(や)ったり、とお通にはもとより納涼台(すずみだい)にも老媼は智慧を誇りけるが、奚(いずく)んぞ知らむ黒壁に消えし蝦蟇法師の、野田山の墓地に顕(あらわ)れて、お通が母の墳墓の前に結跏趺坐(けっかふざ)してあらむとは。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ガヤガヤと物をいう。非難攻撃、陥穽(かんせい)迫害! ……が、わしは恐れない! わしは力でやっつける! 一人の力で、もっぱらに政(や)る!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
風も斂(や)まつて林の中は森(しん)として居た。烏が一羽、連れから離れたやうに、「があ、があ。」と啼きながら奥山の方へ飛んで行つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「そいつはおれが料理(や)ってやる、人を斬るのはこうするのだ、見ておけ」
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それみろ、と何か早(や)や、勝ち誇った気構(きがま)えして、蘆の穂を頬摺(ほほず)りに、と弓杖(ゆんづえ)をついた処は可(よ)かったが、同時に目の着く潮(うしお)のさし口。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(このあいだに暗殺(や)る気かな? ——)
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その瞬間、電車の響も、自動車の音も、人の話声も一時にぴったりと歛(や)んで、不思議な沈黙が街を占めた。と、突然、静まり返った建物を覆すような、けたたましい電鈴(ベル)が鳴った。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
犬がさつさと歩(や)つて来た
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
序(ついで)のことにスエズ運河の堰堤(えんてい)を毀(や)ってしまおうじゃないか。
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
例えば冷水浴の如き私も生徒に接するごとに能くそう言うのですが、君らは水を浴(や)りたまえ、殊に五月六月頃は丁度好い時節である、一つ思い切ってやりたまえ。
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
けれど、見ている静のほうが、その一火(ひとひ)一火(ひとひ)に、骨のしんまで灸(や)かれるような怺(こら)えに締めつけられていた。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の女の手紙には、いつも炷(や)き籠められたやうに涙の匂ひが染み込んでゐた。
酔狂録 (新字旧仮名) / 吉井勇(著)
今にも裂けて飛びそうな山体を解放する安全弁であるかの如くに、一きわ物凄い光を放って、翠の濃い谷間の空気を焠(や)きに焠き研きに研いて、蛍石のような輝きを帯びた晶冽の気と化し
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
たゞ沙漠の砂(すな)の燩(や)けてゐるやうに、頭が熱(ほて)ツてゐるばかりだ。そして何時颶風(はやて)が起ツて、此の體も魂も埋(うづ)められて了(しま)うか知れないんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「あいつ、犯(や)っとるな。仔鯨撃ちですよ」
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
今から推察すれば父の胸算(きょうさん)に、福澤の家は総領に相続させる積(つも)りで宜(よろ)しい、所が子供の五人目に私が生れた、その生れた時は大きな療(や)せた骨太(ほねぶと)な子で、産婆(さんば)の申すに
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
飮み習(なら)ツて了ツたもんですから、些と癈(や)めるてえ譯には参(まい)らないんですよ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
へへへ、今夜はお前(め)さんも着(や)ってるけれど。まあ、可いや。で何だ、痘痕(あばた)の、お前さん、しかも大面(おおづら)の奴が、ぬうと、あの路地を入って来やあがって、空いたか、空いったか、と云やあがる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、これも気色(けしき)ばんだ女房の顔を、兀上(はげあが)った額越(ひたいごし)に、ト睨(や)って
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(瓦窯(や)くとこ見てもいゝ?)
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
何となりとも察してよき樣に斗らひ給へ、我れは小豆(あづき)まくらが相應なればと、美事とぼけた積りで答(や)れば、ほんに左樣(さう)で御座(ござ)んしたもの、海山三千年の我れに比らべて力まけのせし可笑しさ
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし、秋蘭の眼は澄み渡ったまま、甲谷の笑顔の前を平然と廻り続けて踊りが終(や)んだ。——歌余舞(かよま)い倦(う)みし時、嫣然(えんぜん)巧笑。去るに臨んで秋波一転——。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「も少し日射(ひあたり)の好い部屋で縫(や)ったら可さそうなものだな。そして火鉢(ひばち)もないじゃないか」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『摩訶僧祇律』七に雪山水中の竜が仙人の行儀よく座禅するを愛し七巾(まき)巻きて自分の額で仙人の項(うなじ)を覆い、食事のほか日常かくするので仙人休み得ず身体萎(くたびれ)羸(や)せて瘡疥を生ず
こんな時には、よしんば鼻先を抓(つま)まれたつて侯爵は決して腹を立てない。赤茶盌は脆(や)つこい物で、腹を立てると毀(わ)れるといふ事を知つてゐるから。
膄(や)せた張飛(ちやうひ)は眞鶴(まなづる)駐在所(ちゆうざいしよ)に勤務(きんむ)すること既(すで)に七八年(ねん)、齋藤巡査(さいとうじゆんさ)と稱(しよう)し、退隱(たいゝん)の關羽(くわんう)は鈴木巡査(すゞきじゆんさ)といつて湯(ゆ)ヶ原(はら)に勤務(きんむ)すること實(じつ)に九年(ねん)以上(いじやう)であるといふことは、後(あと)で解(わか)つたのである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
初め大后、日下一にいましける時、日下の直越(ただこえ)の道二より、河内に出(い)でましき。ここに山の上に登りまして、國内を見放(さ)けたまひしかば、堅魚(かつを)を上げて舍屋(や)を作れる家三あり。
若い男若い女が手を牽合(ひきあ)って歩いて行くのを見るごとに、羨ましいような妬ましいような、蔑むような侮るような、名状のならぬ心持が自分に起り、傍らの古本舗(や)を覗き込むと
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「ア。もう舞(や)ってる」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥さんは良(や)や久しい間、純一の顔を無遠慮に見ていたのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それはいねちゃんと私とが大きいアルミの薬(や)カンをかけた私のうちの茶の間の火鉢をさしはさんでとったもので文学雑誌のひとがとったのです。
永くまたこの蝕(や)んだ額をあげないであらう。
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
「左様(さい)で、ござりません。仁丹が可(よ)うござりますやろ。」と夕間暮(ゆうまぐれ)の薬箪笥(くすりだんす)に手を掛ける、とカチカチと鳴る環(かん)とともに、額の抜上った首を振りつつ大(おおき)な眼鏡越にじろりと見(や)る。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家元の看板を、中のお里に譲(や)ってしまって、がらにもない、お武家様の奥様に、納まろうとしたけれど、これも駄目……。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところで汽車が発つと何うにも胸が収まらない。例(いつも)よりは少し小(こ)つ酷(ぴど)く譴(や)られたのでな。
道 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
面は陽に赫(や)けている
鱒の話 (新字新仮名) / 今野大力(著)
ほかの家来も多く集まった中で、沢庵は、猿楽舞などを踊(や)りだした。酔えば酔うで、忽ちそこに愉楽三昧(ゆらくざんまい)な世界をつくる沢庵の面白そうな姿を、武蔵は、慎んで眺めていた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爲方(しかた)がないから、ギリ/\齒噛をしながらも、強(つよ)い心でおツ耐(こら)へてゐる。其れがまた辛(つら)い。其の辛いのを耐へて、無理に製作を續(つゞ)ける。軈(や)がて眼が血走(ちはし)ツて來、心が惑亂(わくらん)する。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「何やってんだ、一体——。別に学校を退(や)めるほどの事情もなさそうだったが、働かなきゃならんほどの」
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その争いが烈しくなるにつれて、前者は後者を罵(ののし)って、あいつらがそんなに逸(や)るのは喰うに困るからだと言った。そして、それは事実でもあった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「八十三郎がいないから、なお、いいじゃないか。兄貴の君とはちがって、あれは、通人だぞ。なかなか、蔭(かげ)にまわって、遊(や)っとるらしい」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「行っていらっしゃいませ」妻の声をうしろに、籬(まがき)の菊花(きく)に眼をやりながら、我が邸(や)の門を出ると
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どこかへまいって一杯酌(や)ろう。細かい話や、あしたの手筈(てはず)は、そこで飲みながらのことと致して」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鑠(や)ける光線(くわうせん)に續(つな)がれて
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
出掛けて行って闘(や)るだろう。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「とうとう降(や)って来やアがった。」と叫んで思い思いに席を取った。文公の来る前から西の空がまっ黒に曇り、遠雷さえとどろきて、ただならぬけしきであったのである。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
建場(たてば)々々で飲酒(や)りますから、滅多に持出した事のない仕込の片餉(かたげ)、油揚(あぶらげ)の煮染(にしめ)に沢庵というのを、もくもくと頬張りはじめた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから満枝は益す禿の寵(ちよう)を得て、内政を自由にするやうになつたから、定めて生家(さと)の方へ貢(みつ)ぐと思の外、極(きめ)の給(もの)の外は塵葉(ちりつぱ)一本饋(や)らん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
パン屋ははや竈(かまど)をまっかにして忙しそうに立ち働いているし、乳屋は車を駆(や)って戸々に牛乳を配達しつつある。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
何にせよ、私(てまえ)どうかしていたと見えます。兎はちょいちょい、猿も時々は見懸けますが、狐狸は気もつきませぬに、穴の中からでも魅(や)りましたかな。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)