“夜(や)” の例文
女房(にようばう)は或(ある)年(とし)復(ま)た姙娠(にんしん)して臨月(りんげつ)が近(ちか)くなつたら、どうしたものか數日(すうじつ)の中(うち)に腹部(ふくぶ)が膨脹(ばうちやう)して一夜(や)の内(うち)にもそれがずん/\と目(め)に見(み)える。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私(わたし)たちが、せっかく、一夜(や)をそこにあかそうと思(おも)って止(と)まると、枝(えだ)が意地悪(いじわる)く、夜中(よなか)に、私(わたし)たちの体(からだ)を揺(ゆ)すって、振(ふ)り落(お)とそうとする。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
のう吉(きち)ちゃん。たとえ一夜(や)の枕(まくら)は交(かわ)さずとも、あたしゃおまえの女房(にょうぼう)だぞえ。これ、もうし吉(きち)ちゃん。返事(へんじ)のないのは、不承知(ふしょうち)かえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
初めて其(そ)の耦(ぐう)を喪(うしの)うて鰥居無聊(かんきょむりょう)、復(また)出(い)でて遊ばず、但(ただ)門に倚(よ)つて佇立(ちょりつ)するのみ。十五夜(や)三更(こう)尽きて遊人(ゆうじん)漸(ようや)く稀(まれ)なり。丫鬟(あかん)を見る。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
正金銀行支店の諸君から日本料理の生稲(いくいね)へ招かれて一夜(や)を語り更(ふか)した。小島烏水(うすゐ)永井荷風二君の旧知揃(ぞろ)ひで二君の噂が頻(しきり)に出た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
返事(へんじ)が無(な)いから二度(ど)掛(か)けましたがそれでも返事(へんじ)が無(な)いから塾(じゆく)ではどうなつた事(こと)かと非常(ひじやう)に心配(しんぱい)して責任(せきにん)を持(も)つたものは一夜(や)睡(ねむ)らなかつた位(くらゐ)。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
莟(つぼ)みと思(おも)ひし梢(こずゑ)の花(はな)も春雨(しゆんう)一夜(や)だしぬけにこれはこれはと驚(おどろ)かるヽ物(もの)なり、時機(とき)といふものヽ可笑(をか)しさにはお園(その)の少(ちい)さき胸(むね)に何(なに)を感(かん)ぜしか
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「一寸伺ひますが、往時(むかし)一夜(や)のうちに琵琶湖とか富士山とか出来たと言ひますが、富士山を取崩したら、見事琵琶湖が埋まるでせうかな。」
ちょうど八月十五夜(や)の晩(ばん)でした。真(ま)ん丸(まる)なお月(つき)さまが、野(の)にも山にも一面(めん)に照(て)っていました。お百姓(ひゃくしょう)はおかあさんのそばへ行って、何気(なにげ)なく
姨捨山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ここに、時ならぬ噴火口(ふんかこう)ができて、富士の形が一夜(や)に変るのかと思われるような火の柱が、人穴城(ひとあなじょう)から、宙天(ちゅうてん)をついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万寿山へも行けば、万里(ばんり)の長城(ちやうじやう)へも行つた。梅蘭芳(メイランフワン)の劇をも見れば琉璃廠(るりしやう)の狭斜へも行つた。Bは北京に三夜(や)泊つた。
犬 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
やりましたから、市の為めには恩人です。五高の側(そば)に一夜(や)塘(とも)というのが残っていますが、彼処(あすこ)の屈折の具合で此処には水害ということは一切ありません
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
九月十三夜(や)に、渡邊織江は小梅の御中屋敷(おなかやしき)にて、お客来がござりまして、お召によって出張いたし、お饗応(もてなし)をいたしましたので、余程夜(よ)も更けましたが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とまれ、十年前(ねんまへ)の秋(あき)の一夜(や)、乳色(ちゝいろ)の夜靄(よもや)立(た)ち罩(こ)めた上海(シヤンハイ)のあの茶館(ツアコハン)の窓際(まどぎは)で聞(き)いた麻雀牌(マアジヤンパイ)の好(この)ましい音(おと)は今(いま)も僕(ぼく)の胸底(きようてい)に懷(なつか)しい支那風(しなふう)を思(おも)ひ出(だ)させずにはおかない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
誰の手にも誰れの懷(ふところ)にも行かなかつた。そして母親の懷(ふところ)に抱かれないならば、一夜(や)でも泣きあかさうとした。そして、決して眠るまいと決心してゐるやうであつた。
珠 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
仰(あふ)いで見(み)ると松(まつ)の樹(き)はもう影(かげ)も見(み)えない、十三夜(や)の月(つき)はずつと低(ひく)うなつたが、今(いま)下(お)りた山(やま)の頂(いただき)に半(なか)ばかゝつて、手(て)が届(とゞ)きさうにあざやかだけれども、高(たか)さは凡(およ)そ計(はか)り知(し)られぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
「見てみろ、また高楼に灯が入った。道益の一ノ姫は、今夜も船澗(ふなま)をあけて、谷戸の業平(なりひら)に夜舟を漕がせる気とみえる。これでもう五(い)つ夜(や)つづけうちだが、ようまァ精の出ることだ」
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
先刻(せんこく)は見送(みおく)られた吾等(われら)は今(いま)は彼等(かれら)を此(この)船(ふね)より送(おく)り出(いだ)さんと、私(わたくし)は右手(めて)に少年(せうねん)を導(みちび)き、流石(さすが)に悄然(せうぜん)たる春枝夫人(はるえふじん)を扶(たす)けて甲板(かんぱん)に出(で)ると、今宵(こよひ)は陰暦(いんれき)十三夜(や)、深碧(しんぺき)の空(そら)には一片(ぺん)の雲(くも)もなく
多分(たぶん)彼等(かれら)に取(と)つては楽(たの)しい一夜(や)であるべき筈(はず)だつたのであらうが唖(おし)のやうに黙(だま)りこくつた我々(われ/\)の苦(にが)い表情(へうぜう)と無愛相(ぶあいそう)な態度(たいど)とが、如何(いか)に彼等(かれら)を失望(しつぼう)させたかは、想像(そうぞう)に余(あま)りあるものであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
或一夜(や)、文三が散歩より帰ッて見れば、叔母のお政は夕暮より所用あッて出たまま未(ま)だ帰宅せず、下女のお鍋(なべ)も入湯にでも参ッたものか、これも留守、唯(ただ)お勢の子舎(へや)に而已(のみ)光明(あかり)が射(さ)している。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一夜(や)千々岩は不意に絶えて久しき川島家の門を入りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼らは城内の侍長屋のような所で一夜(や)を明かした。
蜆谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十夜(や)法会(ほうゑ)の跡さびしき
秋の一夕 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
二十三夜(や)さま
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
新吉(しんきち)は、九つのとき、ほんの一夜(や)、病気(びょうき)になって臥(ね)たばかりで死(し)んでしまいました。弥吉(やきち)じいさんの、歎(なげ)きは一通(ひととお)りでありません。
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「にわとりはとられる、金の袋、銀の袋はぬすまれる、しかたがない、こん夜(や)はハープでもならすかな。」といいました。
ジャックと豆の木 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
暫(しばら)くしてお品(しな)の母(はゝ)の耳(みゝ)へも蛇(へび)の噂(うはさ)が傳(つた)はつた。それからといふものお品(しな)の母(はゝ)は一夜(や)でも卯平(うへい)を自分(じぶん)の家(うち)から放(はな)さない。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
目(め)に遮(さへ)ぎるは月(つき)を追(お)ひ日(ひ)に隨(したが)ひて艶(ゑん)いよ/\艶(ゑん)ならんとする雨後春山(うごしゆんざん)の花(はな)の顏(かほばせ)、妍(けん)ます/\妍(けん)ならんとする三五夜(や)中(ちう)の月(つき)の眉(まゆ)いと子(こ)が容姿(ようし)ばかりなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ハテ品川(しながは)の益田孝君(ますだかうくん)さ、一夜(や)に頭(あたま)が三尺(じやく)延(のび)たといふが忽(たちま)ち福(ふく)も禄(ろく)も益田君(ますだくん)と人のあたまに成(な)るとは実(じつ)に見上(みあ)げた仁(ひと)です、殊(こと)に大茶人(だいちやじん)で書巻(しよくわん)を愛してゐられます
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
勿論(もちろん)、何(なん)の事(こと)もなく疑(うたが)ひだけで濟(す)んだのだが、一夜(や)を思(おも)はぬ所(ところ)で明(あ)かしてしまつた誰彼(たれかれ)、あまり寢覺(ねざ)めがよかつた筈(はず)も無(な)いが、何(なん)でも物事(ものごと)の先驅者(せんくしや)の受難(じゆなん)の一卷(ひとまき)とすれば
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
七年目(ねんめ)で会(あ)った、たった二人(ふたり)の世界(せかい)。殆(ほと)んど一夜(や)のうちに生気(せいき)を失(うしな)ってしまった菊之丞(きくのじょう)の、なかば開(ひら)かれた眼(め)からは、糸(いと)のような涙(なみだ)が一筋(すじ)頬(ほほ)を伝(つた)わって、枕(まくら)を濡(ぬ)らしていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
種種(しゆじゆ)の色(いろ)大理石を自由に使役して、此(この)高雅と壮大と優麗との調和を成就した彼(か)れの才の絶大さよ。此処(ここ)には彼れの雄偉(ゆうゐ)なる未成品「昼(ちう)」「夜(や)」「朝(てう)」「夕(せき)」の四像もあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
お沢 はい、(言い淀(よど)み、言い淀み)今(こん)……夜(や)……が、満……願……でございました。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陣笠(じんがさ)も具足(ぐそく)も、昼のあかりで見れば、それは一夜(や)づくりの紙ごしらえであろう、兵はみな、小太郎山の、とりでの工事にはたらいていた石切りや、鍛冶(かじ)や、大工(だいく)や、山崩(くず)しの土工(どこう)なのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
オヤと思(おも)つて、窓外(まどのそと)を眺(なが)めると、今宵(こよひ)は陰暦(いんれき)の十三夜(や)、月明(つきあきら)かなる青水(せいすい)白沙(はくしや)の海岸(かいがん)には、大佐(たいさ)の部下(ぶか)の水兵等(すいへいら)は、晝間(ひるま)の疲勞(つかれ)を此(この)月(つき)に慰(なぐさ)めんとてや、此處(こゝ)に一羣(ひとむれ)。彼處(かしこ)に一群(ひとむれ)、詩吟(しぎん)するのもある。
「一夜(や)泊つて行かうと思ひます。貴方(あなた)は?」
犬 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
人間(にんげん)が一夜(や)にして、おけらになったというようなことは、ひとり神(かみ)だけが知(し)り、またこうした奇蹟(きせき)は、神(かみ)だけがよくなし得(う)ることでした。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
次(つぎ)の日(ひ)は朝(あさ)からきら/\と照(て)つた。暖(あたゝ)かい日光(につくわう)は勘次(かんじ)の土間(どま)まで偃(は)つた。地上(ちじやう)は凡(すべ)て軟(やはら)かな熱度(ねつど)を以(もつ)て蒸(む)された。物陰(ものかげ)に一夜(や)保(たも)つてゆつくりした雪(ゆき)が慌(あわ)てゝ溶(と)けた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今宵(こよひ)は舊暦(きうれき)の十三夜(や)、舊弊(きうへい)なれどお月見(つきみ)の眞似事(まねごと)に團子(いし/\)をこしらへてお月樣(つきさま)にお備(そな)へ申(まを)せし、これはお前(まへ)も好物(かうぶつ)なれば少々(せう/\)なりとも亥之助(ゐのすけ)に持(も)たせて上(あげ)やうと思(おも)ふたれど
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私(わし)の懇意な者が高輪(たかなわ)に茶店を出して、旧幕時分で、可笑しかった、帆かけ船は見えるし、二十六夜(や)の月を見て結構でしょうと云うと、左様(そう)でない、通るものは牛馬(うしうま)ばかりで
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
唯(たゞ)一夜(や)、徒(いたづ)らに、思出(おもひで)の武生(たけふ)の町(まち)に宿(やど)つても構(かま)はない。が、宿(やど)りつゝ、其處(そこ)に虎杖(いたどり)の里(さと)を彼方(かなた)に視(み)て、心(こゝろ)も足(あし)も運(はこ)べない時(とき)の儚(はかな)さには尚(な)ほ堪(た)へられまい、と思(おも)ひなやんで居(ゐ)ますうちに——
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一夜(や)をまんじりともしなかったおせんは、茶(ちゃ)の味(あじ)もいつものようにさわやかでなく、まだ小半時(こはんとき)も早(はや)い、明(あ)けたばかりの日差(ひざし)の中(なか)を駕籠(かご)に揺(ゆ)られながら、白壁町(しろかべちょう)の春信(はるのぶ)の許(もと)を訪(おとず)れたのであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あとの僕等と女画家(ぢよぐわか)とはドリヷル夫婦の自動車に相乗(のり)してモンマルトルへ帰つた。文豪の誕生日の一夜(や)を想ひ掛(が)けなく斯様(かやう)に面白く過ごしたのは栄誉である。而(さ)うして此(この)日は僕の誕生日でもあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
話(はなし)はだいぶ古(ふる)めくが、大正(たいしやう)十一年(ねん)の秋(あき)の或(あ)る一夜(や)のことだ。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
宝石商(ほうせきしょう)は、気(き)が狂(くる)わんばかりにあわてたのです。けれど、どうすることもできなかったのであります。一夜(や)泣(な)き明(あ)かしたすえに
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼(か)の渡邊織江が切害(せつがい)されましたのは、明和の四年亥歳(いどし)九月十三夜(や)に、谷中瑞林寺の門前で非業な死を遂げました、屍骸を引取って、浅草の田島山(たじまさん)誓願寺(せいがんじ)へ内葬を致しました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
亥之助(ゐのすけ)も何(なに)か極(きま)りを惡(わ)るがつて其樣(そのやう)な物(もの)はお止(よし)なされと言(い)ふし、十五夜(や)にあげなんだから片月見(かたつきみ)に成(な)つても惡(わ)るし、喰(た)べさせたいと思(おも)ひながら思(おも)ふばかりで上(あげ)る事(こと)が出來(でき)なんだに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女(め)ちょうは昨日(きのう)から、この野(の)の中(なか)に一夜(や)を明(あ)かしたのであるが、音(おと)のする上(うえ)を見(み)あげて、渡(わた)り鳥(どり)にしては小(ちい)さいと思(おも)ったので
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
近侍(きんじ)のもの。侍「ハアー。殿「今宵(こよひ)は十五夜(や)で有(あ)るの。侍「御意(ぎよい)に御座(ござ)ります。殿 ...
昔の大名の心意気 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
七夜(や)の、枕直(まくらなほ)しの、宮參(みやまい)りの、唯(たゞ)あわたゞしうて過(す)ぎぬ、子(こ)の名(な)は紙(かみ)へ書(か)きつけて産土神(うぶすな)の前(まへ)に神鬮(みくじ)の樣(やう)にして引(ひ)けば、常盤(ときは)のまつ、たけ、蓬莱(ほうらい)の、つる、かめ、夫(そ)れ等(ら)は探(さ)ぐりも當(あ)てずして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)