)” の例文
安宅さんはその時、三十七八の、背の高い、せぎすの男の方と立ち話をされていた。それは私も一面識のある森於菟彦さんだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この次席家老はせてしなびたような躯に、しなびた猿のような顔をして、いつも精のない、悲観的な調子でものを云う癖があった。
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、うめきながら、枕元で途方に暮れている、吾が子をぎょろりと睨むように見詰めると、枯木のようにせ細った手で、引き寄せて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それでも割合にせもやつれもしないのが矢張り気違いの生理状態なのかとあきれる。呆れながら加奈子は却ってそれが余計不憫になる。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「人妻ゆゑにわれ恋ひにけり」、「ものもひせぬ人の子ゆゑに」、「わがゆゑにいたくなわびそ」等、これらの例万葉にはなはだ多い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それらの線のうちには、直角定規で引いたような堅い荒い冷やかな構図があって、せた女のひじのように鋭角をなして曲がっていた。
実直さとともにけ、せぎすな体で、まかない方の辛労をひき受けて来たのだ。無限の実直さには何らの価値もみとめてはいなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
勘次かんじきはめてせま周圍しうゐいうしてる。しかかれせたちひさな體躯からだは、せま周圍しうゐ反撥はんぱつしてるやうな關係くわんけい自然しぜん成立なりたつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
四人の鵜飼のうちで鵜を持ったほうの一人は、四十前後のせぎすな男で、一人は三十五六の角顔かくがおの体のがっしりした男であった。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
腕も脚も、胸も腰も、せているようで肉づきの豊かな、そして肉づきの水々しくやわらかな、見あきない美しさがこもっていた。
私は海をだきしめていたい (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
円髷まるわげに結ひたる四十ばかりのちひさせて色白き女の、茶微塵ちやみじんの糸織の小袖こそでに黒の奉書紬ほうしよつむぎの紋付の羽織着たるは、この家の内儀ないぎなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
歳は三十の前後、細面ほそおもてで色は白く、身はせているが骨格はえています。この若い武士が峠の上に立つと、ゴーッと、青嵐あおあらしくずれる。
せて、背の高いひとであった。顔は細長くて蒼白く、おしろいも口紅もつけていないようで、薄い唇は白く乾いている感じであった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
子供の時分は色白な顔をしていたようでしたが、今逢う晃一郎氏はせ形の浅黒い見るからに凜々りりしい一高の学生になっているのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
わずかばかりのせた畑もこの老爺ろうやが作るらしかった。破れた屋根の下で、牧夫は私達の為に湯を沸かしたり、茶を入れたりしてくれた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女は籐椅子とういすを離れながら、恥しそうに会釈えしゃくをした。見れば球を拾ったのは、今し方女中と噂をした、せぎすな隣室の夫人である。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは、最後に残った山口の分の一つに、彼のせた青白い手が躊躇ちゅうちょなくのびたのを見とどけたとき、ほとんど、感謝にまで成長した。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
背後で、子供に乳を含ましている女房に注意されて、そッちの窓外をみると、田圃たんぼあぜに青くせこけた若者がウロウロしていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
あのよくふとっていた人が、げっそりとせて、半白の髪が、更に一層白さを増していたことによっても、十分察することが出来た。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
せさらばえた姿を、ひどく馬鹿馬鹿しく、いきどおろしく思い出すと共に何かしら解放されたような、安易さを覚えて来るのであった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そう昂然こうぜんと言って、(——私は昂然たる朝野を、ここで初めて見た。)朝野はポンと、はだけたせた胸を叩き、みずからよろめいた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
蘆の中に、色の白いせたおうな高家こうけの後室ともあろう、品のい、目の赤いのが、朦朧もうろうしゃがんだ手から、蜘蛛くもかと見る糸一条ひとすじ
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見知らぬ男はあまり背の高くない、せぎすな、真っ黒な房々とした髪をパラリと肩あたりまでのばした二十三、四の男であった。
少しせて可憐かれんさの添った顔を見ながら源氏は、それを他人に譲るとは、自身ながらもあまりに善人過ぎたことであると残念に思われた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
掌馬人うまかいかの馬決して病まずと答え、厩へ往きて馬にむかい、汝は瓦師方にありて碌に食料をくれず骨と皮ばかりにせて困苦労働したるに
少なくも記録に拠所よりどころがなく、顔などは面長おもながであったか、丸顔まるがおか、また肥えていたか、せていたか、そういうことが一切分らんのでした。
僕は先生の部屋へやでいつの間にか泣寝入りをしていたと見えます。少しせて身長せいの高い先生は笑顔えがおを見せて僕を見おろしていられました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
無数のせた青ざめた顔が、壁の石のように積みかさなって、いわば鉄格子の身にみなはめこまれたようにしてしっかりくっついていた。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
夫人は、灯もない夕暮の自室に、木乃伊ミイラのようにせ細ったからだを石油箱の上に腰うちかけて、いつまでもジッと考えこんでいた。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
其でなくては、此病気は、陰影を亡くするという意味でもなく、「わが身は陰となりにけり」の実体を失う程せると言うことでもない。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
こんな小さなせっぽちな伯父がこれから一人ぼっちで棺の中に入らなければならないのかと思って、ひどく傷々いたいたしい気がした。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その年ごろは十八、九で、二十歳はたちまでは行ってはいないだろう。身長せいが高くてせぎすである。首なんか今にも抜けそうに長い。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この問題が内部動乱の中心にわだかまり、苦悩の大部分を占めるであろう。私はいうが、私はこの対人関係について思索するにせた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
死んだと思ったなら猶更なおさら幽霊に違いない、其のマア女が糸のようにせた骨と皮ばかりの手で、お前さんの首ッたまへかじり付くそうだ
耳門くぐりから邸内へはいつて行くと信者ででもあらうか、せ細つた中年の女が、大麦藁帽子おほむぎわらばうしをかぶつて、庭の草むしりをしてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
田舎でみっちり養生をして、なおったらまた出て来て、運を盛り返そうという心組みのあることは、せ衰えた叔父の顔にも現われていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いつでも半分位で辛抱しんぼうしてろくに茶を飲むことも出来ず水を呑んで居るという始末しまつ。ですから赤い顔が青くなってだんだんせてしまう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
油蝉の暑苦しく鳴いている木の下で、私は厚く礼をいって僧と別れた。僧のせた姿は大きな芭蕉の葉のかげへ隠れて行った。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼女はせて器量も落ちたので、往来で行き会う人々ももはや以前のように彼女をしげしげと見たり、にっこり笑いかけたりはしなかった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
相変らずの美貌であるが、少しくせぎすで、手足など蚊細かぼそすぎるうらみがあった。胸の病いがあるのではないかと疑われた。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
人が顔を見て存外にせずに居るなどと言はれるのに腹が立ちて火箸ひばしの如く細りたる足を出してこれでもかと言ふて見せる事
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
モニカのそばへ行くと、モニカは助かったのだと思いこんでいるらしく、せ細って眼だけになったような顔で、ほんのりと笑ってみせた。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おれもひじを畳についた、がっきと手と手を組んだ、おれはいい加減かげんにあしらうつもりであった、先生のせた長い腕がぶるぶるふるえた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「じいさん。つかねえことを訊くようだが、眼のするどい、ひょろッとせた野郎が、朱革あかがわ鎧櫃よろいびつを背負って通るのを見かけなかったかい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、それとともにやる瀬のない、悔しい、無念の涙がはらはらとこぼれて、夕暮の寒い風にかわいて総毛立った私のせたほおに熱く流れた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
いかにも後家相ごけそうをした、色の黒い、小欲で眼の光っている、せた長顔の、綿入れを三枚重ねて着て、もてるだけの荷物の包を両手にさげて
お霜の方はあまり愚痴を言いませんでしたが、だんだんせて憂鬱になって行くのは、心の悩みが一段と深いせいでしょう。
ある時、何かの事で葡萄の木の下を掘つてゐた欣之介は、土の中から出て来た水気のないせた鬚根ひげねつまみ上げて、はげしい痛ましさを覚えた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
俺あき見分けらあ。機関兵はせて色が蒼白あをじろいや。水兵はまる/\とふとつて色が黒いや。何故なぜつてよ、機関兵は石炭のこなほこりや、油煙を
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
彼等の随喜するまきを焚く炉が切ってあるけれど、そのほかの場所では、大がいせこけたステイム・パイプが部屋の片隅に威張ってるだけだ。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)