)” の例文
このの窓にさす冬の日の暖なうちに、手先の冷える寒さの来ない中に、紙一枚でも多く胸にある事をかいて置きたいと思ふからだ。
冬日の窓 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
何もも忘れ果てて、狂気の如く、その音信おとずれて聞くと、お柳はちょう爾時そのとき……。あわれ、草木も、婦人おんなも、霊魂たましいに姿があるのか。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このに、お通の乗っていた牛が繋がれているからには、お通の身も、共にここへ連れ込まれていることはもう疑う余地もあるまい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松の間から見えるひとが、秋の空の下で、燃え立つように赤かった。しかしそれが唐辛子とうがらしであると云う事だけは一目ですぐ分った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分のような九尺二間のあばらへ相応の家から来てくれてがあろうとも思わず、よしまた、あると仮定してうわかぶりするのはなおいや
かれは、おじいさんのあとについてゆきました。そして、なつかしいまえつと、だいぶんあたりのようすがわっていました。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「なアに、あっしはこうなることを見通していたんだ。お品さんが一年泊っていりゃア、三百六十六日目にこのの旦那がやられるよ」
権頭のいわゆる「死っ損ないの老いぼれ」であろう、名を源兵衛と呼ぶこのの老僕だ、——彼は急いで来たとみえて汗をかいている。
初代の家は巣鴨すがも宮仲みやなかの表通りとも裏通りとも判別のつかぬ、小規模な商家しょうかとしもうたとが軒を並べている様な、細い町にあった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この田崎は、武男が父の代より執事の役を務めて、今もほど近きわがより日々川島家に通いては、何くれと忠実まめやかに世話をなしつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
二人はっと藁苞わらづとの中から脇差を出して腰に差し、ふるえる足元を踏〆ふみしめて此のの表に立ちましたのは、丁度日の暮掛りまする時。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
知らず彦兵衞は金のつるに有り付たりとよろこび勇み望みの荷物を請取うけとりこれあゝしてかうしてと心によろこび我がを指て立歸たちかへり淺草御門迄來懸る處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もともとやつこといふ名からして、大昔からいやしめられ、罵しられた卑稱で、あやつ、こやつ、やつ、やつこ、いへの子、ツ子だといふことだ。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
幾度も人のすくない時を見計らつてはお辻の死床に名残なごりをおしみに来た二人の娘が、最後にそろつて庭を隔てた離れから出て来た。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
震災前では、先代のふみかしく、あの蟹のようにワイ雑な顔で、いつもきまって十年一日しゃっくりのまじる都々逸ばかりやりました。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
山の畑の段々道、山裾を切り拓いた赤土の道、柿や蒟蒻芋こんにゃくいもを軒に吊した淋しい百姓がちらほらと、冬枯れの山家やまがは、荒涼としています。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
三廻りの神ならばどころでないね。しかし我々は百姓に飛込んで、雨宿りは出来た様なものの船ではどうも仕様が無かったろう
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
ことにの老婦人も兄も、全く同じ「崩れる鬼影」という言葉を叫んだのですから、いよいよもって出鱈目ではありますまい。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
榮子が明日あすから居る処をみじめな田舎とばかり想像されて、ねんねこの掛襟かけえりを掛けながら泣いて居たのも鏡子だつたのである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
奥州へ来て、広い原さえ見れば安達ヶ原だと思い、一つがありさえすれば鬼の棲家すみかだと想像する自分の頭脳あたまの御粗末さ加減にあきれ返る。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はむしろ、幼少の時から許嫁であつたといふ、このの主人の次兄、当時の医学生であつた政二の方をよつぽど好きだつた。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
さて、わたくしは或る夜ふしぎなひとに立ち寄って見ましたが、それは何の不思議さもない、普通のお百姓家であったことを知りました。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
神もおはしまさばの軒にとゞまりて御覧ぜよ、仏もあらば我がこの手元に近よりても御覧ぜよ。我が心は清めるか濁れるか
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「横濱へ通ふ蒸氣は千枚張りの共車このへ通ふは人力車りんりきしや」の其頃は多少 exotiqeque であつた甚句の歌と共に
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
と、一行は尻をたたいてこのを出たが、婆さん一向いっこう平気なもの、振向いてもみない。食物しょくもつ本位の宿屋ではなかったと見える。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
生れて四十年、一たんの土と十五坪の草葺のあばらぬしになり得た彼は、正に帝王ていおうの気もちで、楽々らくらくと足踏み伸ばして寝たのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
詩人ウオルズウオルスも、またライダルのしづに愛妹ドロセヤと共に見るかげもなき生活を営みて、しかも安らかに己が天職に奮進したりき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(自分をあざけるように)きょう、まつのお内儀かみに、泥棒猫どろぼうねこだとののしられました。私の小指ほどの価もないあの鬼ばばに!
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
お蓮様づきとしてこの一つへ送られるまでは、兄や、手下の左官どもとともに、奉行所につづくお作事部屋にいたのですが。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「何だな、吝臭けちくさえ。途中ですようなら始めっから出ねえがいい。お前この節はいやにしまになったな。」とけなされると
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
それはすなわちあのばん気のどくな親方とわたしがこの門口かどぐちにこごえてたおれたとき、寒気のために受けたものであった。
筑紫の、はじ木原こばら、木原には夕光ゆふかげ満ち、夕光に鷽鳥うそどり啼けり。宰府道、ここの木原に、飼鳥かひどりの、よき鷽鳥うそどりを、もつあらしも。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
七夕祭の夜、喜多きた茶荘さそうに招かれた時、平山君や僕から言い出した催しとて、趣向の事や人の寄りなどに就いては、人知れず苦労していた。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
はしらはかたむいて、うちというのもばかりのひどいあばらでしたから、ぼうさんは二びっくりして、さすがにすぐとは中へはいりかねていました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ひとりは絲をつむぎつゝ、わがの人々と、トロイアびと、フィエソレ、ローマの物語などなしき、チアンゲルラや 一二四—
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そうして落書の筆者の知れぬところに興味があった。この方こそ或いは市振いちぶりひとなどでの経験であったかも知れない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その欅の木のそばを通つて、右に曲つて、私はよく此処に遣つて来た。其頃、私の此は丁度半分出来上つて、瓦師が書斎の屋根に瓦を載せて居た。
晩秋の頃 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
その将校には、前もってこのの主婦が病気で隣室に寝ていることが耳に入れてあったので、彼のほうでも、そのことは別に気にもとめなかった。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
少女おとめあり、友が宅にて梅の実をたべしにあまりにうまかりしかば、そのたねを持ち帰り、わが垣根かきねに埋めおきたり。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それに引きかえて姉のわたしは、二十歳はたちという今日の今まで、夫もさだめずに過したは、あたら一生を草のに、住み果つまいと思えばこそじゃ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
無事に此のにゐてくれたのは有難いが、虐待されて、痩せ衰へてゐなければいゝが、………まさか一と月半の間に忘れる筈はないだらうけれど
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やはりにほかならぬもので、国造、伴造をクニノミヤツコ、トモノミヤツコと訓むのは、「国の御奴」、「伴の御奴」の義でなければならぬ。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
百姓達は冬圍ひが終つてしまふと、草の中にもぐりこんで、土間にむしろを敷いて、繩を編んだり、草鞋を造つた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
まったくその家はすぐそばまで行ってもそれと知らずにはちょっと気がつかないほど闇の中にあって闇にとけ込んで見える不思議な一軒であった。
そこでその人の官舎へ来るようにとのことだったので、蘇州のしげのという日本宿に落着いてから、やがてその官舎の方へお訪ねしたわけであった。
誰にしても好き嫌ひはあるもので、ゲエテは無駄話が嫌ひだつた。シヨペンハウエルは女が嫌ひだつた。スウイフトは戸を閉めない人が嫌ひだつた。
ガタッ、ピシャッ、と、鳴り震動するほどのはげしさで開けられた襖、そのわざとらしさ、おどけ好きの金五郎。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それは、——さきほど私は、私たちの家のじき近くに離れが一つあると申しましたね。——その離れ家と私たちのうちとの間には、広っ場があるんです。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
この地には一切営業上の課税が無く、だ家屋税を家主いへぬしより徴収せられるだけである割に家賃はやすい。間口七げん奥行十五けんの二階が一箇月八九十円である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
よろしくこのにとどまってこの家運を守り給えばとこしなえに龍王ルーけ給うべき幸福は尽きることはございますまい
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)