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長い雨がようやくんで、東京への汽車がほぼ通ずるようになった頃、裸連は九人とも申し合せたように、どっと東京へ引き上げた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつの間にか音楽がんであかりが暗くなったので、彼はふと眼をあけると、何だか非常に遠いところから帰って来たような感じがした。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
雨はんだ代りに、風が少し出て、その黒烟こくえんとその火とが恐ろしい勢で、次第に其領分をひろめて行く。寺の鐘、半鐘、叫喚、大叫喚※
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
或る日未亡人の里方の桜井須磨右衛門が浅草の観音に参詣して、茶店に腰を掛けていると、今までんでいた雨が又一しきり降って来た。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『そうも云えるのう。……何じゃ、まだまぬようではないか。理非りひはいずれにもせい、藩邸の内で、双方とも不作法千万、見てまいれ』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暮方になっても、この荒れ気味の雨はまず、そのため圭介もいっこう帰ろうとはしなかった。とうとう日が暮れかかって来た。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その中に霰もんだからまたそのヤクに乗って出掛けると半町ばかりの川がある。幸いにヤクに乗って居るから苦もなく渡った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
雨はまだまなかった。伯母の帰ったあとで、播磨は切腹の支度に取りかかった。夜はもう五つ(午後八時)を過ぎたらしい。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
空はからりと晴れ昼のうちは涼風が吹き通っていたが夕方からぱったりみ、すわっていても油汗が出るような蒸暑い夜になった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たまたまよるあめんでふうわりとやはらかなそらあをれてやゝのぼつたそのあたゝかななゝめけると、れた桑畑くはばたけから、あを麥畑むぎばたけから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「あれで暫らく休んで参りましょう、どのみち本道へかからなくてはなりません、そのうち雨もむことでございましょう」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そは我が歌ひて半に至りし時、老女の絲繰る手やうやく緩く、はては全くみて、暗き瞳の光は我面を穿うがつ如く、こなたに注がれたればなり。
隣の老拱の歌声はバッタリんで咸亨酒店は灯火あかりを消した。單四嫂子は眼を見張っていたが、どうしてもこれがあり得ることとは信ぜられない。
明日 (新字新仮名) / 魯迅(著)
きり/\と縛り上げられ乍ら、お越は、半面燒痕やけどの顏をあげて、二階を睨み上げながら、忿怒の聲をめなかつたのです。
たとえば、そよそよと吹く風の、いつ来て、いつんだかを覚えぬがごとく、夕日の色の、何のときに我がそでを、山陰へ外れたかを語らぬごとく。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるいはこの日暮頃にでもむものか、もしくは今にもむものか、一切いっさい判らないが、その降り止む時刻によって恐水者の運命は決するのである。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
Sの性格として思い立ったら、それを完成しなければまないし、それを停めるということも出来ないほど劇しい男だ。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
午後四時芦峅あしくらに達して、私達二人は宝泉坊に宿り、長次郎達は家が近いので帰って行った。麓では風は強くもなかったが、雨は終夜まなかった。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
時たま風がぴったりむと、かえるの啼声が耳についた。それからまた思いきり、一もみ風は襲撃して来る。私も万一の時のことを寝たまま考えてみた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
あゝわが能力ちからよ、汝何ぞかく消ゆるや。我自らかくいへり、そは我わがはぎ作用はたらきむを覺えたればなり 七三—七五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
重たく空にひろがった雲は今やまったく動かなくなり、毎日こまかい雪がちらちらと絶えず降ったりんだりした。
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
幸いにもこの時は、彼の狂った想念がこの施術にぴったりと一致したのである。彼は間もなくうとうとと寐入った。魔に憑かれたような運動はんだ。
すなわち「第三回論戦」と「エリフ対ヨブ」のくだりめて、最後の「エホバ対ヨブ」を講演の題目とするのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
私は向い合った妻に乳をやれと合図をしますと、妻も肯いて立ち上ったのでありますが、其の立ち上った瞬間、隣室の子供が不図泣きんだのであります。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
ゆきはいよ/\つもるともむべき氣色けしきすこしもえず往來ゆきゝ到底とてもなきことかと落膽らくたんみゝうれしや足音あしおとかたじけなしとかへりみれば角燈かくとうひかゆきえい巡囘じゆんくわい査公さこうあやしげに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はげしくは降らぬが急にみそうにもない。井川の山々は、何故私に逢うのを嫌うのだろうと情なくもなる。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
勝てばこそ勝負事もめられないのだが、そうして奪られてばかりいて、何がおもしろいだろう。私はいぶかしくてならなかった。しかし銭占屋自身の言いぐさでは
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
最早大分風もみ掛っているようであるに、船頭どもは出船の用意をせないのみか、その主なる者は港へ上って小料理屋で酒を飲み、安芸者でも上げたと見えて
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
霎時コトコトと牀の上を歩いているような物音がしていたが、それきり音はんで、其儘夜が明けた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
彰義隊は苦戦奮闘したけれども、とうとう勝てず、散々ちりぢりに落ちて行き、昼過ぎにはいくさみました。
宵に少しばかり降った雨もんで風の音の外は森として何の聞こゆる響きもない、医学士はもう立ち去ったか知らん、兎に角も案内は既に知って居るから裏口へ廻り
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
もううなっては何人なにびとも神仏を頼むよりほかに道はございませぬ。二人の船頭も大声を挙げて思い/\の神々を祈って居りますが、風雨は一向む模様はございませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今思うとそれが何かの前兆でもあるかのように急にぱったりんで、気味悪いほどに澄んだ紺碧の空が見え、蒔きずての庭の朝顔の花に眼の痛むような陽の光が燃えた。
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
急に二人は風がんだと思った。併し、それは、黒がいつのまにか二人の傍に来ていたのだった。
凍雲 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
翌日あくるひは午前はまだ暴風雨の名残なごりがつづいていたが、ひる過ぎから風も次第にみ、雨も晴れた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
朝から降りまない雪のなかを、子供をおぶった芳ちゃんと出かける。積もるとみせかけて、牡丹雪ぼたんゆきは案外なところで消えてゆく。寛永寺坂の途中で、恭次郎さんに逢う。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
雪が積っていてまだまなかった。私はかけひの水で顔を洗い終ってからも昨夜のことを思うと、石に垂れた氷柱の根の太さが気持ち良かった。久しく崩れていた元気も沸いて来た。
雨がんだので未醒画伯戦場ヶ原の真中まんなかへ三脚を立て、悠々ゆうゆう写生を初めたところが、折悪しく吹きくって来た一陣の烈風に、画板を吹っ飛ばされ、絵の具は躍り出す、いやはや大狼狽ろうばい
私は風がんでもまだ凝乎じっと耳を澄ませて木立の陰に佇んでいた。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
偶々たまたま眼を視合わせれば、すぐ首をえて可笑おかしく澄ます。それが睨付にらみつけられるより文三にはつらい。雨はまず、お勢は済まぬ顔、家内も湿り切ッて誰とて口を聞く者も無し。文三果は泣出したくなッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
汽車の窓からヴィエンヌ河も見えなくなる頃は、秋雨あきさめんだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その雪は明方になりてみぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
玉霰たちまち来り忽ちむ 楽天
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
雨緑あめみどりに鳴りみて
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
一つの室では五六人寄って、そのうちの一人がふえを吹くのを聞いていた。幕を開けて首を出したら、ぱたりと笛をめてしまった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
脚の傷口もえきるまでには日数もかかろうが、まず一時の痛みさえんだら播磨へ立つつもりじゃ。ここ五、六日も湯につかって
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地震はそのんでは起り、起ってはんだ。町筋ごとに損害の程度は相殊あいことなっていたが、江戸の全市に家屋土蔵の無瑕むきずなものは少かった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それにつけても遊戯の書は、砲火のむと共に数知れず坊間ぼうかんに現われたのを見てわたくしは鴎外先生の言葉を思い出さねばならなかったのだ。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
宿しゅくの入口の小料理屋へはいって、半七は夕飯を食った。それから源助町の方角へ足を向けるころには、雨ももうんでいた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きりきりと縛り上げられながら、お越は、哀れな顔をあげて、二階を睨み上げながら、忿怒ふんぬの声をめなかったのです。