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同時に、将門にとっては、拭うことのできない「反逆者」「乱暴者」という印象を、堂上公卿の頭にきつけてしまったものであった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼は開いていてじっと彼を見つめており、あの最後の表情はまるで彼女の額にきざみ込まれたかきつけられたかのように見えた。
幼いころに心にきついたまま忘れるともなしに忘れ去っていたさまざまの情景を、先生の歌によって数限りなく思い出した。
歌集『涌井』を読む (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
鼎に似ると、るもくも、いずれ繊楚かよわい人のために見る目も忍びないであろう処を、あたかもよし、玉を捧ぐる白珊瑚しろさんごなめらかなる枝に見えた。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十六で死んだ姉、華やかで、強気で、涙もろくて、清らかな心情と義侠的なところのあったこの長姉のことは一生私の心に深く深くきつけられている。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その印象のきつけられた姿は、おそらく彼女の生涯まで、どんなにしても離れがたく、執拗に生きてつきまとっているように思われた。「今こそ!」と彼女は考えた。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
道中も彼は深い考えに沈み、ほとんど物も言わずに、往来の人とか、船とか、すべての事物から、何物をか頭のなかにき付けようとでもするように、一々に注目して行った。
むっとする香りと共に、俺はぐらぐらするような気がしたが、その時、むっくりもり上って居る彼女の二の腕の肉に、きつけられたような、蛇のような青痣を見てしまった。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
触覚の上にきつけられた昔の記憶が今、自分が手を置いて居る若い娘のうるおった肩の厚い肉感に生々しく呼び覚まされると新吉の心は急に掻きむしられるように焦立ママって来た。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その癖、二人の心には六月三十日と云ふ字が、毒々しくき付けられてゐるのだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
神に祈ったりしていたその長女は、それから一年もたたないうちに死んでしまった。心配そうな含羞はにかんだようなその娘の幼い面影が、今でもそのまま魂のどこかにきついていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
長い間乾き切つてきつきさうになつてゐた私の胸も、その響きに合せて高まり、活々とした血が漲り——私の肉體は更生かうせいを望み——私の魂は清らかな歡喜にかはいてゐるのでした。
それ以来私はあきらかに三浦の幽鬱な容子ようすかくしている秘密のにおいを感じ出しました。勿論その秘密の匀が、すぐむべき姦通かんつうの二字を私の心にきつけたのは、御断おことわりするまでもありますまい。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幾万の改革者がき殺されたことか
先駆者 (新字新仮名) / 中山啓(著)
火にかれながら、一つの氷が
或る時の詩 (新字旧仮名) / 片山敏彦(著)
なぜならば、音は、彼の脳裡に、肉体のあるかぎりは忘れ得ないであろうほどふかく記憶にきついているはずであった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう味わいに最初に接した時の驚嘆——「あの驚嘆を再びすることができるなら、私はどんなことでも犠牲にする」。この言葉は今でも自分の耳にきついている。
岡倉先生の思い出 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
まして、今日が呪われた六月三十日であると云ったような言葉は、どちらからも、おくびにも出さなかった。その癖、二人の心には六月三十日と云う字が、毒々しくき付けられているのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
『ようも、悪たいを……』と、かの女は、これをさいごの憎悪としてき残すようなひとみで、忠盛をにらんだ。
『道草』に書かれた時代よりも後に生まれた純一君は、父親を「気違いじみた癇癪持ち」として心にきつけていた。それは容易に消すことができないほど強い印象であった。
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そう自分へいい聞かせながら、幾つかの呼吸を腹の下に調える間に、彼は篤と目をこらして、初めて仰ぐ不識庵ふしきあん謙信なる人の人がらをその眼の点にきこんだ。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この光景は、ぼくの眸をつよくいたとみえ、いつまでも忘れ難いものとなった。そのとき母の姿も、そこに居たのか、茶の間だったかは、よく覚えていない。
ややもすれば、このごうが煮えたぎるように、そなたの体のうちへも、道誉という男をきつけねば、一生、妄執もうしゅうは晴れやるまい。藤夜叉、これほど男からいわれたら、もう眼を
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うるさくなって、慧春尼は、自分で自分の顔を後には焼け火ばしでいたという。次の話は、それ以前の事だろう。或る時、尼は公式の使で円覚寺の壇へ参礼さんらいしたことがあった。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左近は、白い眉にしわをよせた。葡萄ぶどうの果肉みたいな眸でじっと見られると、正季には、ちと恐かった。腕白時代から、家来ではあっても、恐い爺と、きつけられていたからだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこから一角の焦点へ向って、かちっときついたまま、じろぎもしないのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿波には阿波の歴史があり、この城にはこの城の柱石ちゅうせきをなす掟と人心というものがある。間者を殺せば凶妖きょうようありと申すことは、家中一統の胸に深くきついて、誰も信じて疑わぬまでになっている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時のことも、まざまざと、童心どうしんにつよくきつけられてある。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(——あわれな人々)としてきついていたにちがいない。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の肌にかれては、思い知らさずにおられない。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)