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漸
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や
ふりがな文庫
“
漸
(
や
)” の例文
内の女は暫く身じろぎもしないでいたが、
漸
(
や
)
っとためらいがちに低く返事をした時、男ははじめてそれが誰であったかに気がついた。
姨捨
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
懐中
(
ふところ
)
から
塵紙
(
ちりがみ
)
を
出
(
だ
)
して四つに
折
(
を
)
つて
揚子箸
(
やうじばし
)
で
手探
(
てさぐ
)
りで、
漸
(
や
)
うく
餅
(
もち
)
を
挟
(
はさ
)
んで
塵紙
(
ちりがみ
)
の
上
(
うへ
)
へ
載
(
の
)
せて
忰
(
せがれ
)
幸之助
(
かうのすけ
)
へ渡して自分も一つ取つて、乞
大仏餅。袴着の祝。新まへの盲目乞食
(新字旧仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
エデイソンは結婚すると、
直
(
ただち
)
に花嫁を連れて新婚旅行に立つたが、二週間ばかし静かな田舎を歩き廻つて
漸
(
や
)
つと都へ帰つて来た事があつた。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
そして
団栗
(
どんぐり
)
の橋際まで二町程も流されて
漸
(
や
)
つと引上げられ、その場は息を吹き返したが、勿論それが基で、二三日病院に居て死んだのだつた。
乳の匂ひ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
男は刃わたりを手のひらで
査
(
しら
)
べたときに、
漸
(
や
)
っと女が俵のなかにあることを言ったことを考え、ぎっくりして顔いろまで、変えて女を見つめた。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
▼ もっと見る
漸
(
や
)
つとの事で薩摩屋敷へ着き、大山(綱良)さんに逢つて、龍馬等は来ませんかと云ふとイヤまだ来ないが其の
風体
(
ふうてい
)
は全体どうしたものだと云ふ。
千里駒後日譚
(新字旧仮名)
/
川田瑞穂
、
楢崎竜
、
川田雪山
(著)
表二階
(
おもてにかい
)
の、狭い三
畳
(
じょう
)
ばかりの座敷に通されたが、案内したものの顔も、
漸
(
や
)
つと
仄
(
ほのめ
)
くばかり、
目口
(
めくち
)
も見えず、
最
(
も
)
う暗い。
貴婦人
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
わたくしが、
漸
(
や
)
つと樽につかまつたと思ひますと、船は突然真逆様に渦巻の底の方へ引き入れられて行くやうに思はれました。わたくしは短い祈祷の詞を
うづしほ
(新字旧仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
おときの所では
一昨日
(
おととひ
)
上簇が済んで、今
漸
(
や
)
っとうろつき拾ひが片付いたところだと云って直ぐに来て呉れた。
夏蚕時
(新字旧仮名)
/
金田千鶴
(著)
二
時頃
(
じごろ
)
になつて、
御米
(
およね
)
は
漸
(
や
)
つとの
事
(
こと
)
、とろ/\と
眠
(
ねむ
)
つたが、
眼
(
め
)
が
覺
(
さ
)
めたら
額
(
ひたひ
)
を
捲
(
ま
)
いた
濡
(
ぬ
)
れ
手拭
(
てぬぐひ
)
が
殆
(
ほと
)
んど
乾
(
かわ
)
く
位
(
くらゐ
)
暖
(
あたゝ
)
かになつてゐた。
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
頭
(
あたま
)
の
方
(
はう
)
は
少
(
すこ
)
し
樂
(
らく
)
になつた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
誰もゐない家の軒に祭りの提燈がたつた一とつ暑い日蔭の外れに搖れてゐるのを見守りながら、みのるが
漸
(
や
)
つと家へはいつた時は、もう庭の上にも半分ほど蔭ができてゐた。
木乃伊の口紅
(旧字旧仮名)
/
田村俊子
(著)
思案に尽きて
終
(
つい
)
に自分の書類、学校の帳簿などばかり
入
(
いれ
)
て置く
箪笥
(
たんす
)
の抽斗に入れてその上に書類を重ねそして
鍵
(
かぎ
)
は昼夜自分の
肌身
(
はだみ
)
より離さないことに
決定
(
きめ
)
て
漸
(
や
)
っと安心した。
酒中日記
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
而して寂しい冬の間に『桐の花』の編輯が
漸
(
や
)
つと完成し、初めて市に出るやうになつた。
雪と花火余言:東京景物詩改題に就て
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
後先を見𢌞して、一町も向うから電車が來ようものなら、もう足が動かぬ、
漸
(
や
)
つとそれを
遣
(
や
)
り過して、十間も行つてから思切つて向側に驅ける。先づ安心と思ふと胸には動悸が高い。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
神戸へ去年の夏行って、ウィルキンソンで、久しぶりで美味しいシャーベットを食べて、東京へ帰ってから探したが、中々見つからなくて、帝国ホテルのグリルで
漸
(
や
)
っとのこと、ありついた。
甘話休題
(新字新仮名)
/
古川緑波
(著)
泥濘に靴が吸いついたり、
辷
(
す
)
べったりしながら、
漸
(
や
)
ッとの思いでアパートの階段に辿り着き、自分の部屋まで運んで、取り敢えず壁際のベッドの上に
横
(
よこた
)
え、始めて電気の下で少女の顔を見た。
黒猫十三
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
「まだ
漸
(
や
)
つと十七位のもんだせう」
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
「そこいらにお掛けになるといいわ」菜穂子は寝たまま、いかにも冷やかな目つきで椅子を示しながら、そう云うのが
漸
(
や
)
っとだった。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
漸
(
や
)
つと
梢
(
こずゑ
)
が
靜
(
しづ
)
まつたと
思
(
おも
)
ふと、チチツ、チチツと
鳴
(
な
)
き
立
(
た
)
てて
又
(
また
)
パツと
枝
(
えだ
)
を
飛上
(
とびあが
)
る。
曉方
(
あけがた
)
まで
止
(
や
)
む
間
(
ま
)
がなかつた。
間引菜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
そこから
漸
(
や
)
つと呼吸をして居る見るも
傷
(
いた
)
ましげな患者とが、時々苦しさうな呻き声を立てて居るばかりで、他の多くは足を一本切られたとか、背中の大きな腫物を切開したとか
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
媼さんが受取つたのを見ると、内田氏は
漸
(
や
)
つと安心したやうに帽子をかぶつて外へ出た。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
まアそんなことをして試験は
漸
(
や
)
っと
済
(
すま
)
したが、
可笑
(
おか
)
しいのは此の時のことで、私は無事に入学を許されたにも
関
(
かかわ
)
らず、その見せて
呉
(
く
)
れた方の男は、可哀想にも不首尾に終って
了
(
しま
)
った。
私の経過した学生時代
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
隅「大きな声をするない、手前の様な
土百姓
(
どびゃくしょう
)
に用はないのだ、
漸
(
や
)
っとサバ/\した」
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
『だけどね、
漸
(
や
)
つと
昨晩
(
ゆうべ
)
來た許りで、まだ一晝夜にも成らないぢやないかねえ。』
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
多門はそう言ってお萩に水を飲まし、抱き起しましたが、しばらくして
漸
(
や
)
っと呼吸を吹き返し、多門の顔をじっと見つめました。多門は
咄嗟
(
とっさ
)
の間に先刻の女の顔によく似ていると思いました。
ゆめの話
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
いつしかそんな考えをとつおいつし出していた私が、
漸
(
や
)
っと目を上げるまで、彼女はさっきと同じように私をじっと見つめていた。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
さ、其を食べた
所為
(
せい
)
でせう、お
腹
(
なか
)
の皮が
蒼白
(
あおじろ
)
く、
鱶
(
ふか
)
のやうにだぶだぶして、手足は
海松
(
みる
)
の枝の枯れたやうになつて、
漸
(
や
)
つと見着けたのが
鬼
(
おに
)
ヶ
島
(
しま
)
、——魔界だわね。
印度更紗
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
乞食
(
こじき
)
は
頻
(
しき
)
りに
礼
(
れい
)
を
云
(
い
)
ひながら
雑巾
(
ざふきん
)
で足を
拭
(
ぬぐ
)
ひ、
漸
(
や
)
う/\の事で
板
(
いた
)
の
間
(
ま
)
へ
坐
(
すわ
)
つて、乞
大仏餅。袴着の祝。新まへの盲目乞食
(新字旧仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
わたくしはそのころ
漸
(
や
)
っと阿闍利さまのお心のほどがわかりました。
あじゃり
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
菜穂子は、それでも最初のうちは、何かを
漸
(
や
)
っと堪えるような様子をしながらも、いままでどおり何んの事もなさそうに暮らしていた。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
さ、
其
(
それ
)
を
食
(
た
)
べた
所爲
(
せゐ
)
でせう、お
腹
(
なか
)
の
皮
(
かは
)
が
蒼白
(
あをじろ
)
く、
鱶
(
ふか
)
のやうにだぶだぶして、
手足
(
てあし
)
は
海松
(
みる
)
の
枝
(
えだ
)
の
枯
(
か
)
れたやうになつて、
漸
(
や
)
つと
見着
(
みつ
)
けたのが
鬼
(
おに
)
ヶ
島
(
しま
)
、——
魔界
(
まかい
)
だわね。
印度更紗
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
それから
漸
(
や
)
っとあの方は御自分にお立ち返りになられたかと思うと、何だってそんな事をなすったのかはよくお分かりにならぬながら
かげろうの日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
同
(
おな
)
じやうな
切
(
せつ
)
ない
夢
(
ゆめ
)
を、
幾度
(
いくたび
)
となく
続
(
つゞ
)
けて
見
(
み
)
て、
半死半生
(
はんしはんせい
)
の
躰
(
てい
)
で
漸
(
や
)
つと
我
(
われ
)
に
返
(
かへ
)
つた
時
(
とき
)
、
亭主
(
ていしゆ
)
が
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
漸
(
や
)
っとたどりついた浄瑠璃寺の小さな門のかたわらに、丁度いまをさかりと咲いていた一本の馬酔木をふと見いだしたときだった。
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
「あゝ、
然
(
さ
)
うなさいましともさ。——では、
行
(
い
)
つて
入
(
い
)
らつしやい。」で、
漸
(
や
)
つと
出掛
(
でか
)
けた。
大阪まで
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
漸
(
や
)
っと芽ぐみ初めた林の中では、ときおり風がざわめき過ぎて木々の梢が揺れる度毎に、その先にある木の芽らしいものが銀色に光った。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
烏瓜
(
からすうり
)
、夕顔などは分けても
知己
(
ちかづき
)
だろうのに、はじめて咲いた月見草の黄色な花が
可恐
(
こわ
)
いらしい……
可哀相
(
かわいそう
)
だから
植替
(
うえか
)
えようかと、言ううちに、四日めの夕暮頃から、
漸
(
や
)
っと出て来た。
二、三羽――十二、三羽
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
自然が自分のために極めて置いてくれたものを今こそ
漸
(
や
)
っと見出したと云う確信を、だんだんはっきりと自分の意識に上らせはじめていた。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
其處
(
そこ
)
で
訊
(
たづ
)
ねまして、はじめて、
故郷
(
ふるさと
)
は
然
(
さ
)
まで
遠
(
とほ
)
くない、
四五十里
(
しごじふり
)
だと
云
(
い
)
ふのが
分
(
わか
)
つて、それから、
釵
(
かんざし
)
を
賣
(
う
)
り、
帶
(
おび
)
を
賣
(
う
)
つて、
草樹
(
くさき
)
をしるべに、
漸
(
や
)
つと
日
(
ひ
)
をかさねて
歸
(
かへ
)
つたのでございます。
みつ柏
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
それから
漸
(
や
)
っと聞えるか聞えないほどの声で、「御料紙の色さえわかり兼ねます位で、折角ながら何んとも読めませんでした」
ほととぎす
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
此
(
こ
)
の
瓜井戸
(
うりゐど
)
の
宿
(
しゆく
)
はづれに、
漸
(
や
)
つと
戸
(
と
)
を一
枚
(
まい
)
開
(
あ
)
けた
一膳
(
いちぜん
)
めし
屋
(
や
)
の
軒
(
のき
)
へ
入
(
はひ
)
つた。
二た面
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
そのとき
漸
(
や
)
っと私はその父の額らしい山襞を認めることが出来た。それは父のがっしりとした額を私にも思い出させた。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
漸
(
や
)
つと、
其
(
そ
)
の(
思
(
おも
)
つた)が
消
(
き
)
えて、まざ/\と
恁
(
か
)
うしてものを
言交
(
いひか
)
はせば、
武藏野
(
むさしの
)
の
丘
(
をか
)
の
横穴
(
よこあな
)
めいた、
山
(
やま
)
の
手
(
て
)
場末
(
ばすゑ
)
の
寂
(
さ
)
びた
町
(
まち
)
を、
搜
(
さぐ
)
り/\に
稼
(
かせ
)
いで
歩行
(
ある
)
くのが、
誘
(
さそ
)
ひ
合
(
あ
)
はせて、
年
(
とし
)
を
越
(
こ
)
す
蚊
(
か
)
のやうに
三人の盲の話
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
それから五年立った秋、父は
漸
(
や
)
っと任を果して、常陸から上って来た。兎に角無事に任を果して来たと云うものの、父はいたいたしい程、
窶
(
やつ
)
れていた。
姨捨
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
漸
(
や
)
っと十一時近くにそれを読み了えて、
手水
(
ちょうず
)
をしに下りて往くと、丁度例の娘達が外から帰って来たところだった。
晩夏
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
去年の春、呉竹を植えたいと思って人に頼んでおいたら、それから一年も立ったこの二月のはじめになって
漸
(
や
)
っと「さし上げますから」と言ってきた。
かげろうの日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
私の方では、その大きな見知らないような男の子が昔私と遊んだことのある子供であるのを
漸
(
や
)
っと認め出していた。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
私の「美しい村」は予定よりだいぶ
遅
(
おく
)
れて、或る日のこと、
漸
(
や
)
っと
脱稿
(
だっこう
)
した。すでに七月も半ばを過ぎていた。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
女は急に手足が
竦
(
すく
)
むように覚えた。そうして女は殆どわれを忘れて、いそいで自分の小さな体を色の
褪
(
さ
)
めた
蘇芳
(
すおう
)
の衣のなかに隠したのが
漸
(
や
)
っとのことだった。
曠野
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
「こないだの雪をお見せしていますの。」万里子さんはボブがもがくのを
漸
(
や
)
っとおさえつけながら言った。
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
漸
常用漢字
中学
部首:⽔
14画
“漸”を含む語句
漸々
漸次
漸〻
佳人意漸疎
東漸
漸進
漸時
漸減
西漸
無漸
浸漸
漸進論
漸源
漸移
漸綻
漸蔵主
漸近線
漸進的
漸次強音
漸遅
...