)” の例文
内の女は暫く身じろぎもしないでいたが、っとためらいがちに低く返事をした時、男ははじめてそれが誰であったかに気がついた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
懐中ふところから塵紙ちりがみして四つにつて揚子箸やうじばし手探てさぐりで、うくもちはさんで塵紙ちりがみうへせてせがれ幸之助かうのすけへ渡して自分も一つ取つて、乞
エデイソンは結婚すると、ただちに花嫁を連れて新婚旅行に立つたが、二週間ばかし静かな田舎を歩き廻つてつと都へ帰つて来た事があつた。
そして団栗どんぐりの橋際まで二町程も流されてつと引上げられ、その場は息を吹き返したが、勿論それが基で、二三日病院に居て死んだのだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
男は刃わたりを手のひらでしらべたときに、っと女が俵のなかにあることを言ったことを考え、ぎっくりして顔いろまで、変えて女を見つめた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
つとの事で薩摩屋敷へ着き、大山(綱良)さんに逢つて、龍馬等は来ませんかと云ふとイヤまだ来ないが其の風体ふうていは全体どうしたものだと云ふ。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
表二階おもてにかいの、狭い三じょうばかりの座敷に通されたが、案内したものの顔も、つとほのめくばかり、目口めくちも見えず、う暗い。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしが、つと樽につかまつたと思ひますと、船は突然真逆様に渦巻の底の方へ引き入れられて行くやうに思はれました。わたくしは短い祈祷の詞を
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
おときの所では一昨日おととひ上簇が済んで、今っとうろつき拾ひが片付いたところだと云って直ぐに来て呉れた。
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
時頃じごろになつて、御米およねつとのこと、とろ/\とねむつたが、めたらひたひいた手拭てぬぐひほとんどかわくらゐあたゝかになつてゐた。そのかはあたまはうすこらくになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
誰もゐない家の軒に祭りの提燈がたつた一とつ暑い日蔭の外れに搖れてゐるのを見守りながら、みのるがつと家へはいつた時は、もう庭の上にも半分ほど蔭ができてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
思案に尽きてついに自分の書類、学校の帳簿などばかりいれて置く箪笥たんすの抽斗に入れてその上に書類を重ねそしてかぎは昼夜自分の肌身はだみより離さないことに決定きめっと安心した。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
而して寂しい冬の間に『桐の花』の編輯がつと完成し、初めて市に出るやうになつた。
後先を見𢌞して、一町も向うから電車が來ようものなら、もう足が動かぬ、つとそれをり過して、十間も行つてから思切つて向側に驅ける。先づ安心と思ふと胸には動悸が高い。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
神戸へ去年の夏行って、ウィルキンソンで、久しぶりで美味しいシャーベットを食べて、東京へ帰ってから探したが、中々見つからなくて、帝国ホテルのグリルでっとのこと、ありついた。
甘話休題 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
泥濘に靴が吸いついたり、べったりしながら、ッとの思いでアパートの階段に辿り着き、自分の部屋まで運んで、取り敢えず壁際のベッドの上によこたえ、始めて電気の下で少女の顔を見た。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「まだつと十七位のもんだせう」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「そこいらにお掛けになるといいわ」菜穂子は寝たまま、いかにも冷やかな目つきで椅子を示しながら、そう云うのがっとだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
つとこずゑしづまつたとおもふと、チチツ、チチツとててまたパツとえだ飛上とびあがる。曉方あけがたまでがなかつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこからつと呼吸をして居る見るもいたましげな患者とが、時々苦しさうな呻き声を立てて居るばかりで、他の多くは足を一本切られたとか、背中の大きな腫物を切開したとか
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
媼さんが受取つたのを見ると、内田氏はつと安心したやうに帽子をかぶつて外へ出た。
まアそんなことをして試験はっとすましたが、可笑おかしいのは此の時のことで、私は無事に入学を許されたにもかかわらず、その見せてれた方の男は、可哀想にも不首尾に終ってしまった。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隅「大きな声をするない、手前の様な土百姓どびゃくしょうに用はないのだ、っとサバ/\した」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『だけどね、つと昨晩ゆうべ來た許りで、まだ一晝夜にも成らないぢやないかねえ。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
多門はそう言ってお萩に水を飲まし、抱き起しましたが、しばらくしてっと呼吸を吹き返し、多門の顔をじっと見つめました。多門は咄嗟とっさの間に先刻の女の顔によく似ていると思いました。
ゆめの話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いつしかそんな考えをとつおいつし出していた私が、っと目を上げるまで、彼女はさっきと同じように私をじっと見つめていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さ、其を食べた所為せいでせう、おなかの皮が蒼白あおじろく、ふかのやうにだぶだぶして、手足は海松みるの枝の枯れたやうになつて、つと見着けたのがおにしま、——魔界だわね。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
乞食こじきしきりにれいひながら雑巾ざふきんで足をぬぐひ、う/\の事でいたすわつて、乞
わたくしはそのころっと阿闍利さまのお心のほどがわかりました。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
菜穂子は、それでも最初のうちは、何かをっと堪えるような様子をしながらも、いままでどおり何んの事もなさそうに暮らしていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さ、それべた所爲せゐでせう、おなかかは蒼白あをじろく、ふかのやうにだぶだぶして、手足てあし海松みるえだれたやうになつて、つと見着みつけたのがおにしま、——魔界まかいだわね。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それからっとあの方は御自分にお立ち返りになられたかと思うと、何だってそんな事をなすったのかはよくお分かりにならぬながら
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おなじやうなせつないゆめを、幾度いくたびとなくつゞけてて、半死半生はんしはんせいていつとわれかへつたとき亭主ていしゆ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
っとたどりついた浄瑠璃寺の小さな門のかたわらに、丁度いまをさかりと咲いていた一本の馬酔木をふと見いだしたときだった。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「あゝ、うなさいましともさ。——では、つてらつしやい。」で、つと出掛でかけた。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
っと芽ぐみ初めた林の中では、ときおり風がざわめき過ぎて木々の梢が揺れる度毎に、その先にある木の芽らしいものが銀色に光った。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
烏瓜からすうり、夕顔などは分けても知己ちかづきだろうのに、はじめて咲いた月見草の黄色な花が可恐こわいらしい……可哀相かわいそうだから植替うえかえようかと、言ううちに、四日めの夕暮頃から、っと出て来た。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自然が自分のために極めて置いてくれたものを今こそっと見出したと云う確信を、だんだんはっきりと自分の意識に上らせはじめていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
其處そこたづねまして、はじめて、故郷ふるさとまでとほくない、四五十里しごじふりだとふのがわかつて、それから、かんざしり、おびつて、草樹くさきをしるべに、つとをかさねてかへつたのでございます。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それからっと聞えるか聞えないほどの声で、「御料紙の色さえわかり兼ねます位で、折角ながら何んとも読めませんでした」
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
瓜井戸うりゐど宿しゆくはづれに、つとを一まいけた一膳いちぜんめしのきはひつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのときっと私はその父の額らしい山襞を認めることが出来た。それは父のがっしりとした額を私にも思い出させた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
つと、の(おもつた)がえて、まざ/\とうしてものを言交いひかはせば、武藏野むさしのをか横穴よこあなめいた、やま場末ばすゑびたまちを、さぐり/\にかせいで歩行あるくのが、さそはせて、としのやうに
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それから五年立った秋、父はっと任を果して、常陸から上って来た。兎に角無事に任を果して来たと云うものの、父はいたいたしい程、やつれていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
っと十一時近くにそれを読み了えて、手水ちょうずをしに下りて往くと、丁度例の娘達が外から帰って来たところだった。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
去年の春、呉竹を植えたいと思って人に頼んでおいたら、それから一年も立ったこの二月のはじめになってっと「さし上げますから」と言ってきた。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私の方では、その大きな見知らないような男の子が昔私と遊んだことのある子供であるのをっと認め出していた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私の「美しい村」は予定よりだいぶおくれて、或る日のこと、っと脱稿だっこうした。すでに七月も半ばを過ぎていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
女は急に手足がすくむように覚えた。そうして女は殆どわれを忘れて、いそいで自分の小さな体を色のめた蘇芳すおうの衣のなかに隠したのがっとのことだった。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「こないだの雪をお見せしていますの。」万里子さんはボブがもがくのをっとおさえつけながら言った。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)