)” の例文
月も日も刻も同じ七月の十五日の夜、庭窪の蘇州庵というれ唐館で同じように朱房の匕首で背中を後から突かれて死んでおりました
と、徳利をつかんだまま、よろよろと、立ちあがると、ガタピシとぶすまをあけ立てして、庫裡くりの戸棚の中の、ぶたね上げる。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ところが、その時早しその時おそし、聴衆のなかにたちまれ鐘のやうな哄笑こうしょうが起つて、ぬつと前へせせりだした一名の壮漢がある。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
がきの一草庵と思いきや、粗末な荒土ながら土塀がひろくめぐらしてある。近づけば、燈火も点々、三つ四つは奥のほうに見える。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書にみたる春の日、文作りなづみし秋の夜半、ながめながめてつくづくと愛想尽きたる今、忽ち団扇うちわと共に汝を捨てんの心せつなり。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
わたしは無言で歩いた。男も無言でさきに立って行った。うしろの山の杉木立では、秋のせみれた笛を吹くようにむせんでいた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こちらが頭を下げると同時に彼は満足な足をあげて、足袋たびの上に加えた。この人は足袋の穴に拘泥していたのである。……
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは「れウィオリノ」という題名としていとの切れたウィオリンの画の上に題名を書くというような鼻持ならない黴臭かびくさい案だったから
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
真珠のような銀鼠色ぎんねずみいろした小鳥の群が、流るる星の雨の如く、れ蓮にかくれた水の中から、非常な速度で斜めに飛び立った。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
純な青年の心ひとすじでむかっていることも基経は知っているだけ、それがどういう烈しいれ目を見せるかが分っていた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
さっと一汐ひとしお田越川たごえがわへ上げて来ると、じゅうと水が染みて、そのにぶつぶつ泡立あわだって、やがて、満々と水を湛える。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はしりて場を出づれば、月光あまねく照して一塵動かず、古の劇場の石壁石柱は巋然きぜんとして、今のれ小屋のあなたに存じ、廣大なる黒影を地上に印せり。
れた人間離にんげんばなれのした嗄声しゃがれごえ咽喉のどいて迸出ほとばしりでたが、応ずる者なし。大きな声が夜の空をつんざいて四方へ響渡ったのみで、四下あたりはまたひッそとなって了った。
何分かの後、ふところに猫を入れたお富は、もう傘を片手にしながら、むしろを敷いた新公と、気軽に何か話してゐた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ついさっきまで夜具の裾のほうにあったのが、今はずっと短かくなって、れ畳の中ほどまでを染めているにすぎない、するともう三時ころなのだなと思った。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
されば流れざるに水のたまごとく、わざるにおもいは積りていよいよなつかしく、我は薄暗き部屋のうちすすびたれども天井の下、赤くはなりてもまだれぬ畳の上に
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
丁度其の日の申刻なゝつさがり、日はもう西へ傾いた頃、此の茶見世へ来て休んでいる武士さむらいは、廻し合羽がっぱを着て、柄袋の掛った大小を差し、半股引の少しれたのを穿いて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何故かと云へば、卒塔婆そとばがきの横を通つてその入口に達すると「あづまアバート」と書いた木札がかかつてゐて、ちやんと、アパートではないとことわつてゐる。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
老たる母に朝夕のはかなさを見せなければならないゆえ、一身をにえにして一時の運をこそ願え、私が一生はぶれて、道ばたの乞食こじきになるのこそ終生の願いなのです。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
黄金丸はいと不憫ふびんに思ひ、くだんの雌鼠を小脇こわきかばひ、そも何者に追はれしにやと、彼方かなたきっト見やれば、れたる板戸の陰に身を忍ばせて、此方こなたうかがふ一匹の黒猫あり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
をんなまど障子しやうじひらきて外面そともわたせば、むかひののきばにつきのぼりて、此處こゝにさしかげはいとしろく、しもひき身内みうちもふるへて、寒氣かんきはだはりさすやうなるを
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お君はどこまでも、米友の言うことを気にしないで、いつもの通り軽くあしらって、着物を畳んでいるが、米友はやっぱり浮かないかおをしていると、障子しょうじの裏で、ワン!
とこの時太いステッキをついたれ服日和下駄の一高生が後ろから弥次った。この男は何ういう料簡か、先刻から受験者の並んでいるところを頻りに彼方此方あっちこっちと歩いていた。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
裕佐は思はずかう嘆息を洩らしてれ芭蕉の乱れてゐる三坪ばかりの庭の方を向いた。
濁つた池のおもては錆び果てて、何の色香も無い庭だが、隅このちひさな石橋の蔭には、れ残つた蓮の浮葉が二つか三つ、下のあはれなすがれ葉には、時おくれの精霊蜻蛉が休んでゐる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
枯れ萩におおわれた崖が、れ腐ちた縁のすぐの向こうに、壁かのように立っていたが、その崖を背にし縁の上に、先刻の三匹の親子狐が、鼻面を並べ蹲居そんきょして、この屋内を覗いていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここを以ちて大殿こぼれて、悉に雨漏れども、かつて修理をさめたまはず、一〇をもちてその漏る雨を受けて、漏らざる處に遷りりましき。後に國中くぬちを見たまへば、國に烟滿ちたり。
此時分龍馬が隊中の者を連て丸山の茶屋で大騒ぎをして「船をられた其のつぐなひにや金を取らずに国をとる、国を取て蜜柑を喰ふ」と云ふ歌を謡はせたのです。ホヽ可笑をかしい謡ですねえ……。
あるじ一〇あふごをとりて走り出で、の方を見るに、年紀としのころ一一五旬いそぢにちかき老僧の、かしら紺染あをぞめ一二巾をかづき、身に墨衣のれたるを穿て、一三つつみたる物を背におひたるが、つゑをもてさしまねき
たもち得ぬ才はたとへばうまざけのれしかめにも似たるこの人
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
芭蕉葉もやうやくれて秋ふけぬと思ふばかりに物ひそかなり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
なべが一つ、箱の底にゴロッと転がっているんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あゝ古ぼけたれ帽子のやうな年が死んだ。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
なべてはれしはえの屑、(顧みなせそ)
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
訪なふは啄木けら鳥かや雪のとぼそ
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
がさを笑ひさしをり春の雨
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
れし築地ついぢにみだれたる
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
れしみきやうや讀むべき。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
れし戸に倚る夏菊の
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
れしころもさむけきに
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
障礙しやうげれぬ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
船はれ船
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
しょせん逃げおおせぬとあきらめてか、途中、小さいどうを見かけるやいな隠れこんで、内から御堂格子みどうごうしを閉じていたのだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
揺れて触れ合うれ葉の間からは、ほとんど聞き取れぬほど低い弱い、しかし云われぬ情趣を含んだひびきが伝えられる。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
墨染の麻の法衣ころもれ破れななりで、鬱金うこんももう鼠に汚れた布に——すぐ、分ったが、——三味線を一ちょう盲目めくら琵琶びわ背負じょい背負しょっている、漂泊さすら門附かどづけたぐいであろう。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
障子の紙も貼ってから、一冬はもう越えたのであろう。切り貼りの点々とした白い上には、秋の日に照らされた芭蕉ばしょうの大きな影が、婆娑ばさとして斜めに映っている。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女はまどの障子をらきて外面そともを見わたせば、向ひののきばに月のぼりて、此処こゝにさし入る影はいと白く、霜や添ひし身内もふるへて、寒気ははだに針さすやうなるを
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
庄左衞門はれた戸棚とだなからたしなみの刀を出してさア来いと云う。娘はふるえながら両手をついて
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
区画整理のおいおい進捗しんちょくすると共に、その姿を東京市内から消してしまって、わずかに場末のれた垣根のあたりに、二、三本ぐらいずつ栽え残されているに過ぎなくなった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はづかなるあるかなきかの金を得て、かきよせて、市のちまたに米買ふとれし嚢を手にさげて、これに米、すこし賜べよと乞ひのめば入れて賜びけり、さらさらと入れて賜びけり。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)