)” の例文
初更しよかういたるや、めるつまなよやかにきて、粉黛ふんたい盛粧せいしやう都雅とがきはめ、女婢こしもとをしてくだん駿馬しゆんめ引出ひきいださせ、くらきて階前かいぜんより飜然ひらりる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どちらにしても、みほおけた骨格を想像していた北原にとっては、むしろこれは、容貌瀟洒ようぼうしょうしゃというに近いほど、こなれている人だ。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、むほどのことでもなかろうが、なんわかおんな急病きゅうびょうでの。ちっとばかり、あさから世間せけんくらくなったようながするのさ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
夜じゅう苦にんだりする性情をじっと黙って解釈しながら、気楽な、落着いた淡い興味を感じて、そんな女の性質が気に入った。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
むまじき事なりおとろふまじき事なりおとろへたる小生等せうせいらが骨は、人知ひとしらぬもつて、人知ひとしらぬたのしみと致候迄いたしそろまで次第しだいまるく曲りくものにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
くちばしがめるといってく、などというようなおかしい話が多く、もとは大ていの子どもはいちどはこの話をいたものであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
心なき里人も世に痛はしく思ひて、色々の物など送りてなぐさむるうち、かの上﨟はおもひおもりてや、みつきて程もず返らぬ人となりぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
一日、空が暗く掻き曇った日にこの町で信者の牛肉屋の娘がしんだ。——急にんで死んだのだ——翁は使つかいをうけて早速出掛けた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
仙太 傷がむのは、よくねえ。あんたぁ、ズッと御殿山の方に居たんだって? 俺ぁ初め館山で、後になって反射炉の方へ廻されてね。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
出すとそれがみ付きとなって、止められなくなるもんなんでしょうね。伯父も終いには命まで投げ出さなければならないようになって——
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
んでゐるむねには、どんな些細ささいふるえもつたはりひゞく。そして凝視みつめれば凝視みつめほどなんといふすべてがわたししたはしくなつかしまれることであらう。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ところで、彼は猫を一匹っていた。年をとり、みほうけ、そこここの毛が脱け落ちているので、誰も相手にしないのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
傷は、日にましてくなって行ったが、お信も、それを心にむらしかった。兄に対して、何か、悔悟かいごと、叱責しっせきを、恟々おどおどと待つ気ぶりも見える。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「またきか」とおたつが云った、「そんなものどこがいいだえ、そんなことばっかししてえて頭がめんべえがね」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、私は自然の欲求で、ひどくみ、弱り、痛められた。本能は私を食物にでもありつけさうな住宅の周圍を迂路うろつかせてゐたのであつた。
心地すぐれざるも打臥うちふすほどにもあらねばめりとはいひがたし。やまいなくして病あるが如き身のさまこそいぶかしけれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「つまらないことを気にしたもんですね。誰かのいたずらですよ。叔父さんが神経をむものだから、そんないたずらをする奴が出来るのですよ」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれ奉公ほうこうして給料きふれう自分じぶんつひやしてころでは餘所目よそめにはうたがはれる年頃としごろの卅ぢかくまで獨身どくしん生活せいくわつ繼續けいぞくした。そのあひだかれ黴毒ばいどくんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
衞國ゑいこくはふひそかきみくるまするものつみ(一〇七)げついたる、すでにして彌子びしははむ。ひとき、いてよるこれぐ。彌子びしいつはつてきみくるましてづ。
そう答えた彼女は扉をすこし開け、開けたときにましげな悩ましい蛍の光の明滅は、筒井の片頬をうかべ上げた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いくら足し前をするんだろうなどと入らざる事をんでいると、やがて長蔵さんは平生へいぜいの顔つきで帰って来た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
にがい、みぐるしい案内者あんないじゃよ! やい、命知いのちしらずの舵手かんどりよ、くるしいうみつかれたこの小船こぶねを、はや巖礁角いはかど乘上のりあげてくれ!……さ、戀人こひゞとに!(と飮む)。
現時げんじひとよりうらやまるゝほど健康けんかうたもれども、壯年さうねんころまでは體質たいしついたつてよわく、頭痛づつうなやまされ、み、しば/\風邪ふうじやをかされ、えずやまひためくるしめり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
この土地とちわづらひをしたのは、其方そち見立みたきがないと、江戸表えどおもてとほらないことは、かねがねいてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
他人のこと気にむより、そのほうの始末をするほうがいいわ。なんだったら、いっしょに行って捜してあげましょうか。久慈なら、いくらか知ってるから
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ごくまれにそんな山径で行きいますと、なんだかみ上がりの僕の方を胡散うさんくさそうに見て通り過ぎましたが、それは僕に人なつかしい思いをさせるよりも
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それにあの男の作は癲癇てんかんみの譫語うわことに過ぎない。Gorkiゴルキイ は放浪生活にあこがれた作ばかりをしていて、社会の秩序を踏み附けている。これも危険である。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これでも、年を取るだけ取り、女だか男だかわからなくなりますと、もうそんなことは気にみませんけれど、その時分は、なんと云つてもつらうございました。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
眼をんで寝ている時、渡辺一夫わたなべかずお氏たちにお見舞を受けたのですが、その時のうれしさは随分でした。欧洲にいる間、私は一つの詩、一つの小説も書きません。
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
あるとき天子てんしさまの御所ごしょ毎晩まいばん不思議ふしぎ魔物まものあらわれて、そのあらわれる時刻じこくになると、天子てんしさまはきゅうにおねつが出て、おこりというはげしいやまいをおみになりました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
夜が明けたら築地の病院に腫物しゅもつんで入院して居る父を見舞うつもりで、其れ迄新橋停車場の待合室にでも往って寝ようと、月明りと電燈瓦斯の光を踏んで
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一人ひとりつまなるべしつゐするほどの年輩ねんぱいにてこれは實法じつぱふちひさき丸髷まるまげをぞひける、みたるひとるよりやがて奧深おくふかとこかせて、くゝまくらつむりおちつかせけるが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みほうけたからださえシャンとなって、スウッと肩をのばし、端坐たんざの膝に両手を置いた作阿弥、主水正の言葉をツとさえぎって、夢みる人のように言いだした。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし、いねはアグリの産後いっさいの物音に頭がめ、生家の隠居所にしをしていた。眉間みけんにいつも深い立皺たてじわをよせ、あおい顔をして手拭で鉢巻をしていた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
みほうけても美しい。油屋お北の死骸なきがらは、赤いしごきを首にまとい、なるほどはりから下がっていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お師匠さんは、私の言葉に、小さな声で左様なら、と、お答えになりましたが、よほど、おつむりめていましたものか、そのまま、お稽古台の上に、俯伏うつぶせになられました
とはいって来しは四十五六とも見ゆる品よき婦人、目ましきにや、水色の眼鏡めがねをかけたり。顔のどことなく伊香保の三階に見し人に似たりと思うもそのはずなるべし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
別して惚れた相手の薄雲太夫が真にうけないのを苦にんだらしい——だからこその人殺しさ。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
バッハの『カンタータ(第七八番)』「吾等める足をもちて」(J八六四〇)は世にも可愛らしい少年唱歌隊の二重唱に、弦楽器の伴奏で、その可憐な美しさをめでて
それからは子供がんでいると、親の方が一層苦しいなどと思っていたのはまちがっている。
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
夕方に配達された夕刊には「カッフェで大往生」と題して「細田弓之助(33)が喫茶店『黒猫』で頓死したが、原因はあがりの身で余り激しく駈け出した為、心臓麻痺まひを ...
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あれは友田君の細君のあきさんです。ひどい心気みですから、もう少し落ちつかないことには、現場が見せられないんです。いやどうも、とんでもないことになりました」
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
自然しぜん法則ほうそく依然いぜんとしてもとのままです、人々ひとびとはやはり今日こんにちごとみ、い、するのでしょう、どんな立派りっぱ生活せいかつあかつきあらわれたとしても、つまり人間にんげん棺桶かんおけ打込うちこまれて
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いつ何時なんどきどんなところで無残むざんななくなりようをすることやらと、つねづねそればかりをんでたのだから、まことにいい終わりようでありましたとげられて非常ひじょうによろこんだ。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
主人は墨汁壺インキつぼのやうな真つ暗な部室へやにもぐもぐしてゐたが、客が来たと気がつくと、のつそり立つて往つて、蝋燭にをつけた。蝋燭は黄疸わうだんみのやうな黄色い光りを四辺あたりに投げた。
みあがりのかみは妙にねばりが強くなって、なんぞと云ってはすぐこんぐらかる。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
夏の盛りを三月あまりもして、秋たけなわならんとする頃に遂に空しくなりぬ。
おれはお前さまを抱いて、おっかさまのまくらもとへ連れて行ったことがある。あれがお別れだった。三十二のとしの惜しい盛りよなし。それから、お前さまはまた、間もなく黄疸おうだんまっせる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日もくれ、足も痛みて、いかがして二三あまたのみちをくだらん。二四わかき身は草に臥すともいとひなし。只二五み給はん事の悲しさよ。夢然云ふ。旅はかかるをこそ哀れともいふなれ。
すると兄の神は、そのたたりで、まる八年の間、ひからびしおれ、みつかれて、それはそれは苦しい目を見ました。それでとうとう弱りててく泣く母上の女神におわびをしました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)