“う”のいろいろな漢字の書き方と例文
カタカナ:
語句割合
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(注) 作品の中でふりがなが振られた語句のみを対象としているため、一般的な用法や使用頻度とは異なる場合があります。
あるときは、隣室りんしつてゐるKの夫人ふじんゆすおこされてましたが、彼女かのぢよにはそれがたんゆめとばかり、すことができなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
平次の言葉を静かに聴き入っているうちに、お町の眼の色が次第に力がせて顔には死の色がサッとかれているではありませんか。
大きな竹藪たけやぶのかげに水たまりがあって、睡蓮すいれんの花が白くいているようなところを見ながら、朝風を切って汽車が走るのであった。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
春日の永きにむ馬上の旅の様子がよく現れている。煕々ききたる春光の中を飛ぶ蝶の姿が、ありありと眼に浮んで来るような気がする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
もうこの上は犯人嫌疑者を引張って来て、その手を犬に嗅がせれば、それが真犯人であるか否かをたちまち鑑別しるのであります。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「なんというおそろしいところだ。どうしてこんなところにまれてきたろう。」と、ちいさなあかはなは、自分じぶん運命うんめいをのろいました。
小さな赤い花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
三人が飛び上ったり、手をったり、抱き上げられて接吻されたりしている気配が、部屋の中にいても、はっきり感じられました。
ちょうど政友会の放漫政策の後をけて、緊縮政策の浜口内閣の出現した時であった。ふと庸三の耳に総理大臣の放送が入って来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
の一のかはをがれたために可惜をしや、おはるむすめ繼母まゝはゝのために手酷てひど折檻せつかんけて、身投みなげをしたが、それのちこと
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
阿蘇に登るのもものい。計画を中止して、ここでじっと待とうか。そうしたいのだが、女指圧師が駅で待っているかも知れない。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
さて取り捨つべきところもなければ、屋敷のそとに穴を掘りてこれをめ、蛇塚を作る。その蛇はあじか何荷なんがともなくありたりといえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
怪談くわいだんといふものをこしらへて話したいと思ふ時分じぶんの事で、其頃そのころはまだ世の中がひらけないで、怪談くわいだんの話のれる時分じぶんだから、種子たねを探して歩いた。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
つ、蹴る、払う。虎の戦法はこう三つを奥の手とする。そのすべてがかないとなると、さしもの獣王も気萎きなえをするものだとか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分や雪子とはちょっと心臓のち方の違ったところがある妹なので、まあ、露骨に云えば、全幅的には信用していない点があった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その岸には水車が幾個となく懸つて居て、春は躑躅つゝじ、夏はの花、秋はすゝきとその風情ふぜいに富んで居ることは画にも見ぬところであるさうな。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
背嚢ルックザックから乾麺麭かんパンの包みを取りだすと、てのひらの中でこなごなにくだき、たいへん熟練したやりかたでつばといっしょに飲みにしてしまう。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
部屋の中央まんなかの辺りに一基の朱塗りの行燈あんどんが置いてあって、んだ巴旦杏はたんきょうのような色をした燈の光が、畳三枚ぐらいの間を照らしていた。
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
案ずるよりむが安い。さすがの竜之助もその心置きなき主人の気質がしのばれて、この時ばかりは涙のこぼれるほどうれしかった。
(これは、不意討だった。前に、覗っている奴が見つかったなら、たれはしまい。謙信は、鉄砲ぐるみ、兵を斬った事さえある)
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
大臣も不承不承慎んで馬の糞を金箕でける役を勤めたとあらば、定めて垂れ流しでもあるまじく、蜀江しょっこうの錦ででもぬぐうたであろう。
はしのあつたのは、まちすこはなれたところで、堤防どてまつならむではつてて、はしたもと一本いつぽん時雨榎しぐれえのきとかいふのであつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
四五年経つと家の都合がだいぶん以前とは違って来て、何か些細の仕事でもしなければえそうになるので是非なく中国に帰って来た。
頭髪の故事 (新字新仮名) / 魯迅(著)
リント少将は、ピストルをにぎって勝ってみるのはいいが、少将は、やがてこの戦車の中で、えと寒さのため死んでしまうだろう。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ヒューヒュー鳴るは風に吹かれて、木々のこずえが啼くのでもあろう。遥かの山の峰の方から、鋭く吠える獣の声はえた狼の声である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
押問答無用おしもんどうむよう、こんがらもせいたかも何を愚図愚図しているんだ、こっちは拙者が引きけたから、その野郎を血祭りに上げてしまえ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宍戸備前守ししどびぜんのかみは、わずかに八人に守られて、もうにの覚悟かくごで戦っている。そこへ、かけつけたのは清兵衛せいべえで、大声にさけんだ。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
半七老人はその当時の光景を思いかべたように、大きい溜め息をついた。それに釣り込まれて、わたしも思わず身を固くした。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五月には廓で菖蒲しょうぶえたという噂が箕輪の若い衆たちの間にも珍らしそうに伝えられたが、十吉は行って見ようとも思わなかった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
支那でも斉の桓公孤竹国をち春往き冬かえるとて道を失うた時管仲老馬を放ちて随い行きついに道を得たという(『韓非』説林上)。
主人はまた始まったなと云わぬばかりに、象牙ぞうげはしで菓子皿のふちをかんかん叩いていている。迷亭だけは大得意で弁じつづける。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清八も、お絹も、縁側から覗く善兵衞も、娘のお冬も、庭に突つ立つて居る下男の友吉も、嚴肅げんしゆくなものにたれて默つてしまひました。
手島はこれを調達せんと欲して奔走しているが、これをる道がないというのであった。抽斎はこれを聞いて慨然として献金を思い立った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なんと、飴屋あめやさんの上手じやうずふえくこと。飴屋あめやさんはぼうさききつけたあめとうさんにもつてれまして、それからひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、敵もさる者、カーチス戦闘機が十八機、死にものぐるいの逆襲をやり、わが神風式偵察機と、入りみだれて機関銃をちあった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
百何十年かった今となっては、功業の跡、夢の如くせて、その事蹟じせきは、ドラゴン退治の伝説の英雄となんの選ぶところがない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
玄一郎は傷がんだりして、それから夏いっぱい休み、ようやく治って、起きられるようになったときは、もう秋風が立ちはじめていた。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
先輩に聞けば一口にして知り得べき者を数月数年の苦辛くしんを経て漸く発明するが如きは、ややに似たれどもなかなかに迂ならず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「これやみんな、てめえのために、夜の眼も寝ずにった小柄だから、ここにあるだけくれてやる。からだに仕舞って持ってゆけ!」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはわたしの家の接ぎ目を割ったので、そのための空気洩れをとめるためにその後多くの倦怠けんたいをもってめられなければならなかった。
尤も前にも云つたやうに、「負郭ふくわくの田三百畝、半はきびう」と云ふので、いんの為に家産がわづらはされるやうなおそれは、万々ない。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
意久地なしの鼻は高くても低く見え、図々しい奴の鼻はヒシャゲていてもニューとりになっているかの表現をしております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
われをもくして「骨董こつとう好き」と言ふ、誰かたなごころつて大笑たいせうせざらん。唯われは古玩を愛し、古玩のわれをして恍惚くわうこつたらしむるを知る。
わが家の古玩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その結果内乱は終息し、日本の国家は平和となり、上下合一、官民一致、天皇帰一、八こう、新時代が生れるのだ
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もし生はこれ気をけて、しかしてたちまちあり。死はこれ気散じて、しかしてたちまち無ならば、すなわち誰をか鬼神となすや。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
任は怒ってゆるさなかった。二成はそこでまた地券を任にやって、かってにってもかまわないということにして、やっともとの金をもらって帰って来た。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
と云へる有様の歴々あり/\と目前に現はれ、しかもせふの位置に立ちて、の言葉を口にしようし、りようをしてつひ辟易へきえきせしめぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
(存在)に対する(非存在)というような、そんな、単純な空という意味ではない、ということをお話ししておきました。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
いの字ヶ原の草靄くさもやは、かかるあいだにッすらとれかけていた。遠くかすんでいる山の前を、一羽の鳥影が悠々と横ぎってゆく。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りたいとも、沽りたいとも。しかし、めったな人には沽りたくないものじゃ。まあ目利きの買手がつくまで、当分待つとするかな。ははは。」
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
雪が降ったりんだりして、年が暮れかかった。やっこはしためも外に出る為事しごとを止めて、家の中で働くことになった。安寿は糸をつむぐ。厨子王は藁をつ。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私が一字づゝ文字に突当つてゐるうちに、想念は停滞し、戸惑ひし、とみに生気を失つて、ある時は消えせたりする。
文字と速力と文学 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
といっているとき、部屋の中からは、一人の役人が、頭から湯気ゆげを立てて、まるでだこのような真赤な顔で飛び出してきた。
浅井は軽くけていたが、同情のない男のように思われるのも厭であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わり乞食ほいと盗賊ぬすっとか畜生か。よくもわれが餓鬼どもさ教唆しかけて他人ひとの畑こと踏み荒したな。ちのめしてくれずに。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こうして弥生も半ば過ぎた頃、飛騨の高原をねりくねって洋々と流れる高原川の流域の砂地へ辿たどり着いた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ヤレ昔を忘れて厚かましいだの可笑おかしいだのと云う念がの毛ほども腹の底にあっては、是れは榎本の悪いのでなく此方こっちの卑劣と云うものだから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
秀吉「汝は、京に上せはりつけにかけんと思いしが、わが面前に壮語して主家を恥しめざるは、い奴かな」
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
麻苧あさおの糸を娘がんでいるのにむかって男がいいかける趣の歌で、「ら」は添えたものである。「ふすさに」は沢山たくさんの意。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
如何いかんとなれば本人は元来きず持つ身にして、その気すでえたるが故に、大節に臨んで屈することなきを得ず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
けているものだ。末々、よいさむらいになるだろう。松千代の友だちにはちと頑是がんぜなさ過ぎるが、よう育ててやれよ
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとこのわかとりつばさ横腹よこばらってみましたが、それはまったくしっかりしていて、かれそらたかのぼりはじめました。そしてこのつばさはどんどんかれまえまえへとすすめてくれます。
それとも、お嬢と、おかみさん、二人へ御婦人ばかりだから、また仕事でもしようというんで様子でも見にせやあがったか。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここがすなわち素人のぶなところで、特に田舎出の人々の陥り易いところである。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
右舷側砲はつるちにうち出しぬ。三十二サンチ巨砲も艦を震わして鳴りぬ。後続の諸艦も一斉にうち出しぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
いかにも我は、目前に張りたる交錯せる綱をえらみ引くことを得べし。されど我はその綱のいづれの處に結ばれたるを知るに由なし。我は恩人の勸に會ひてと曰ひたり。
時をたゞし道にしたがひ、仰いで鳳鳴を悲み、俯して匏瓜を嘆ず、之をりてれざらんことを恐れ、之を藏めて失はんことを憂ふ、之れ正は即ち正なりと雖も
人生終に奈何 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
みんなは、毎日まいにち潮風しおかぜにさらされているとみえて、かおいろが、って、赤黒あかぐろかった。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
珍しい、金目になるものを奪い取り、慾情のえを満すことが出来る、そういう期待は何よりも兵士達を勇敢にする。彼等は、常に慾情に飢え、金のない、かつかつの生活を送っていた。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
せて又生くと思ひぬ、——夢なりき、よるの神壇
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
白い吹雪が大原の中を、点々と飛ぶ、大きくねる波系が、白くざわざわと、金剛杖に掻き分けられて、裾に靡く、吹雪は野菊の花で、波系はすすきの穂である。
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
下総しもうさ香取郡飯篠村の人、山城守家直やましろのかみいえなお入道長威斎、剣法中興の祖として天心正伝神道流しんとうりゅうと号していたが、この家直の弟子に諸岡もろおかという上手じょうずあり、常陸ひたちえど崎に住んで悪疾を病み、根岸兎角とかく
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
少時前いまのさきツたのは、角海老かどえびの大時計の十二時である。京町には素見客ひやかしの影も跡を絶ち、角町すみちやうにはいましめの鉄棒かなぼうの音も聞える。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三十四年の春になっては寝返りも出来なく顔を自分で拭くことも出来なかった、体を少しでもうごかすたびにウンイウンイとめきの声を漏らされた、この時分にどんな風にして歌を選ばれたか
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と、呼ぶ声がきこえたときのれしさったら、まるでボーッと顔がほてるくらいだ。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
(三六)かうきよき、(三七)かたちそむいきほひきんずれば、すなはおのづかめにけんのみいまりやうてう相攻あひせむ。輕兵けいへい鋭卒えいそつかならそとき、(三八)老弱らうじやくうちつかれん。
「年を取るてえと、めえ物を食うより楽しみがないのに、歯が悪くなるから、だんだん旨めえ物がなくなっちまあ。こんなべら棒な話ってあるかい。」と、老優市村羽左衛門いちむらうざえもんが憤慨したのも
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
丑松は喪心した人のやうになつて、長いこと同じところにゑたやうに立つた。あゝ、先輩は行つて了つた、と思ひ浮べた頃は、もう汽車の形すら見えなかつたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
朧月ろうげつの匂ふおもてを行く刻み定刻九時四十分の時報今
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「何でもありゃしない。鉄砲をった処が、こんな処じゃ一寸も利目はありゃしない。あれは多分桂田博士だろう。」
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
この点に於て我がシバルリイは、彼のシバルリイの如く重味あること能はず、我が紳士風は、彼の紳士風の如く優美の気韻をくること能はず、女性の天真を殺して、自らの天真をも自損せり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
よき餌をつくりし彼らを笑え、なぶらるるだけ彼らを嬲れ、急にほふるな嬲り殺せ、かしながらに一枚一枚皮をぎ取れ、肉を剥ぎとれ、彼らが心臓しんまりとして蹴よ、枳棘からたちをもて背をてよ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひくひくとつおんみの心の臓に、啜り泣くおんみの心の臓に、血を噴き上ぐるおんみの心の臓に、奇術師の無感覚もて七本ながら立てゝしまふでござりませう。
そこがんで瘭疽ひょうそになってとうとう小指を切って二十日余りも寝ついてしまいましたり、もちろんものの拍子と言えばそれまでのことでございましょうが
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
貧福をいはず、ひたすら善をまん人は、その身に来らずとも、子孫はかならず幸福さいはひべし。一〇三宗廟そうべうこれをけて子孫これをたもつとは、此のことわりの細妙くはしきなり。
ここにその將軍既に詐りをけて、弓をはづし、つはものを藏めつ。ここに頂髮たぎふさの中よりけのゆづるり出で更に張りて追ひ撃つ。かれ逢坂あふさかに逃げ退きて、き立ちてまた戰ふ。
ラレテ矮奴わいどトナッテ年々としどしニ進奉セラル」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
性来憂鬱を好み、日頃煩悶を口癖にしてむことを知らない。前記の言葉はその一例であるが、これは浅間麻油の聞き飽いた(莫迦の)一つ文句であつた。
小さな部屋 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
豊満せる財嚢をち棄てて落涙するという昔話を其儘そのまま演出するに終らねばならぬ。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わがつばさかくやく
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「今つた鐘は、戌刻いつゝ(八時)でせう」
浪頭なみがしらのように巻き返した大勢は、その時どッと横合から槍、大刀をひらめかして来たのを、浪人は玄蕃の一刀を後ろへけ、持ったる鉄扇に力をこめて、ピシリッと馬の尻をったので
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甃石しきいしにすてつきちたたき
忘春詩集:02 忘春詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
母は裏の物置のわきに荒蓆を布いて、日向ぼツこをしながら、打残しの麻糸をつてゐる。三時頃には父も田廻りから帰つて来て、厩の前の乾秣場やたばで、鼻唄ながらになたや鎌を研ぎ始めた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
越後えちごの七ふしぎの一つなる弘智法印こうちほういんの寺などでも、毎年四月八日の御衣おころもがえという日に、もとは海べ七浦の姥子うばこたち、おのおの一つかみずつのを持ちよって、一日のうちにつむり縫って
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さういふ無知な状態に在つたからして、「てやこらせや清國を」といふ勇ましい軍歌が聞えると、直ぐもう國を擧げて膺てや懲せや清國をといふ氣になつたのだ。反省もない。批評もない。
大硯君足下 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ひょうたん池のところで、で玉子を二つ買って食べる。ハムスンの飢えと云う小説を思い出した。昼間からついているイルミネーションと楽隊、色さまざまなのぼりのにぎわい。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
自分の力で喫ってゆくことは、むさぼりじゃあないのです、花をって、生計をたてることは、俗なことじゃないのです、人はかりそめに富を求めてはならないですが、しかし、また務めて貧を
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「出精すれば、上がる質だ。まずに、やんなさい」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、こんな一刻いっときが、せめて陣中でのらしなのだといわぬばかりに、よく飲むし、また相手へも
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸侯を問わず、公卿を問わず、浮浪を問わず、幕臣を問わず、彼らが期せずして儲君ちょくん擁立運動に従事したるも、またべならずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その一死を賭して、雲蒸うんじょう竜変りょうへん成功を万一に僥倖ぎょうこうしたる、またべならずや。竹内式部たけのうちしきぶ山県大弐やまがただいに、高山彦九郎の徒すなわちこれなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ここに大后いたく恨み怒りまして、その御船に載せたる御綱栢は、悉に海に投げてたまひき。かれ其地そこに名づけて御津みつさきといふ。
また「いかにかねぎつる」と詔りたまひしかば、答へて白さく、「朝署あさけに厠に入りし時、待ち捕へつかひしぎて、その枝を引ききて、こもにつつみて投げてつ」
お菊ちゃんは、じっと、考え込んでから、何か、一策を心にかべたらしく、ひそひそと、わせをしていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関門屯所の柵門さくもんの前で、駕を降りた。すぐ、役宅へ入って、誰彼たれかれを招いて、夜半よなかの時間や、警衛のあわせだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
む! ナニ。何でもないよ。」と言っていると、階下したから
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
む!」と頭振かぶりを掉った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
甚之助じんのすけかぎりなく口惜くやしがり、父君ちヽぎみなげ母君はヽぎみめ、長幼ふたり令孃ひめあたりあるきて、中姉樣ちうねえさまいぢすことヽらみ、ぼくをも一處ともにやれとまり、令孃ひめむかへばわけもなくあまへて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
端金はしたにはあらざりけんを、六三ろくさ此金これとヾめず、重々ぢゆう/\大罪だいざいくびおふせらるヽともらみはきを、なさけのおことばてつしぬとて男一匹をとこいつぴき美事みごとなきしが、さても下賤げせんてば、こひかねゆゑするとやおぼ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ゑがかぬもおなじこと御覽ごらんはずもあらねば萬一もしやのたのみもきぞかしわらはるゝからねどもおもそめ最初はじめより此願このねがかなはずは一しやう一人ひとりぐすこゝろきにおく月日つきひのほどにおもひこがれてねばよしいのちしも無情つれなくて如何いかるは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あだしごとはおもふまじるにてもきみさまのおこゝろづかはしとあふればはしなくもをとこはじつと直視ながめゐたりハツと俯向うつむはぢ紅葉もみぢのかげるはしきあき山里やまざとたけがりしてあそびしむかしは蝶々髷てふ/\まげゆめとたちて姿すがたやさしき都風みやこふうたれにおとらんいろなるかはうれひを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老母あはれみて四四をさなき心をけ給はんや。左門よろこびにへず。母なる者常に我が孤独をうれふ。まことあることばを告げなば、よはひびなんにと、ともなひて家に帰る。
只今いとま給はらば、三六六娘子をとめの命もつつがなくおはすべしといふを、庄司さらけず、我三六七弓の本末もとすゑをもしりながら、かく三六八いひがひなからんは、大宅おほやの人々のおぼす心もはづかし。
若侍を最初にち棄てて、返す刀に二人を倒おしたまま何事ものう引取ったものじゃ……しかし、それにしても若侍の事が何とのう不憫に存じた故、それからのちに人の噂を聞かせてみたところが
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その門地を倒し、そのお家柄を破壊して、四民平等の天下をみ出そうと豪語した旧権打倒御新政謳歌の志士が、真っ先に先ずおどろくべき憤慨を発したのである。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
小田原市では大震災でペシャンコにやられて以来、二階をむ人が多いが、倉田由之がそれで、耐震に特に注意を払ったという。胴体は鉄骨鉄筋だが、屋根は木で軽くできている。
復員殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「この地の形相をみまするに、青竜しょうりゅう白虎びゃっこぜん朱雀すざく玄武げんむの四神の配置にふさわしき土地、帝都の地としてまことに適当と存じます」
往来へ出て月の光を正面まともけた顔は確かにおしょうである。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ななつになる子が、いたいけなことた。とのごほしととうた……
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
眞實まこととなし斷りたりしは麁忽そこつ千萬此方はげんに見たるといふ證據あらねば其醫師いしやの云しがそにて大藤のむすめに病の氣も有らぬを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夾苧漆けふちよしつ魚子地なゝこぢ撥鏤ばちる。さうして祭堞パテース
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
移りぬ、べし衆人の水師のほとりつぶやくは
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
その次に教養が高すぎ、又その上に困ったことに、文章がますぎる。つまり俗に通じる世界が稀薄なのである。
花田清輝論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
年々栽え替えられる桜にも去年の春の懐かしい匂いが迷っていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人は何十発となくちましたが、一羽も弾ち落とすことが出来ませんでした。しまいには力がぬけて、鉄砲をつえたたずみました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
沖に白雲をつした二条の縞の外は、池のように冴えて小波さざなみも立たない。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
甲給仕 ポトパンは何處どこせた? かたづける手傳てつだひをしをらぬ。かたづけやくくせに! 拭役ふきやくくせに!
法水のりみずはしばらくそれを嗅いでいたが、やがて彼の眼に、っとりと魅せられたような色がうかび上がってきた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
倉地は物さそうに
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
諸王、諸臣、及び天下の百姓、ことごと長老おきなは愛児を失ふがごとく、塩酢之昧あぢはひ口に在れどもめず、少幼者わかきめる父母かぞうしなふが如くて、いさつる声、行路みちに満てり、すなは耕夫たがやすものすきを止め、舂女つきめきおとせず。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
いまは筆とることのもの
忘春詩集:02 忘春詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
その声銅盤をつがごとし、口旁に鬚髯あり、頷下に明珠あり、喉下に逆鱗あり、頭上に博山あり、尺水と名づく、尺水なければ天に昇る能わず、気を呵して雲を成す、既に能く水と変ず
報知しらせひまなく打電てる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
或日あるひ近所きんじよかはれふに出かけて彼處かしこふち此所こゝあみつてはるうち、ふと網にかゝつたものがある、いて見たが容易よういあがらないので川にはひつてさぐこゝろみると一抱ひとかゝへもありさうないしである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
岸をむ水は、石に觸れて倒立し、鹹沫しぶきは飛んで二人の面をてり。ポツジヨの興は風浪の高きに從ひて高く、掌をちて哄笑し、海に對して快哉くわいさいを連呼せり。
ここに八十神見てまた欺きて、山にて入りて、大樹を切り伏せ、茹矢ひめやをその木に打ち立て、その中に入らしめて、すなはちその氷目矢ひめやを打ち離ちて、ち殺しき。
神河内から白骨しらほねへと流れて行く大川筋が、緑の森林の間を見え、隠れになって、のたくって行く、もう前穂高の三角測量標は、遥か眼の下にっちゃられて、小さくなっている。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
てば打つほどいよいよ廻り歩き、戦争の間に合わなんだと。
王「委細は先刻から承知の介だ、この少童を伴れ去って木を斫らすがよい、またこの人をるから鉄砲を持たせ」、豹殺し「父よ今こそ掌をって御礼をもうします」
し我が右の頬をたば、左の頬をも向けて摳たしめよとは、あに天地をまろうする最大秘訣にあらずや。
想断々(1) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
水をつた床の上にコンデンスド・ミルクの広告の散らかつてゐることも変りはない。が、あのすがめの主人の代りに勘定台の後ろに坐つてゐるのは西洋髪につた女である。年はやつと十九位であらう。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
心のつかれにむこともあったであろう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そののち阿利吒は薪を取らんと山に行きしが、道にて一匹のうさぎを見ければつえふり上げてちょうちしに、たちまち兎は死人と変じて阿利吒のうなじからみ着きたり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
サウシの『随得手録コンモンプレース・ブック』二に、衆蛇に咬まれぬよう皮に身をつつみ、蛇王に近づきち殺してその玉を獲たインド人のはなしあり。
日本が好餌として沿海をうかがわれている事実や、それをてという朝廷の攘夷派と、幕府の開港策とが、対立してる事や、志士、各藩の動向——水戸学の運動化——それから
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ひそかに北平ほくへい(河北省・満城附近)の太守公孫瓚こうそんさんへ使いを派し、冀州をって、これをけ奪りにしようではないか。——そういってやるのです」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
し君が僕に向かって君の手袋を投げ付けるなら、喜んで拳銃ピストルの用意をしよう。西班牙流に放射ち合おうね……
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
義兄関羽が、華雄をち取ったからには、此方とても、ひと手柄してみせる。この機をはずさず、全軍をすすめ給え。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美くしさと云うものはどんな物にでもひそんで居る、その表面には出て居ないながらも尊い美くしさをさとく感じる事の出来ないのは一生のちには半分位損をする。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
突然レムブルグが悲鳴をあげて廊下に飛出す、米良はバルコニに駈け上るとれた空気に蒼白あおざめた闘争にやつれた同志の死体が沈むのを見た。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
叔父は園田孫兵衛そのだまごべえと言いて、文三の亡父の為めには実弟に当る男、慈悲深く、あわれッぽく、しかも律義りちぎ真当まっとうの気質ゆえ人のけも宜いが、おしいかなと気が弱すぎる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
老樹のら枯れしたのも美しく、全身枯死した、白骨の姿が、また美しい。それは、ありし日の楽しい、そして厳しい、生活の姿を彷彿させる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
口腔内部ことに歯の変形は容貌改変上極めて重大である。歯を抜き或はえ、歯並みを変形する手術は現に歯科医によってある程度まで行われているが、怪老人はそれを更らに広く深く究めたのである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
勘次は怒りのためにふるえ出した。と、彼は黙って秋三の顔を横から殴打った。秋三は蹌踉よろめいた。が、背面の藁戸を掴んで踏み停ると
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
しかし、前川は穏健主義の紳士で、周囲をち破ってまで、新子との交情を深める考えはなかった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ごくからかへつて見ると石がない、雲飛うんぴは妻をのゝしち、いかりいかり、くるひにくるひ、つひ自殺じさつしようとして何度なんど妻子さいし發見はつけんされては自殺することも出來できず、懊惱あうなう煩悶はんもんして居ると、一夜
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
あの颺々ようようとして芸術三昧ざんまいに飛揚してせた親友の、音楽が済み去ったあとで余情だけは残るもののその木地きじは実は空間であると同じような妙味のある片付き方で終った。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
衣紋えもんを繕っているのであるから、それには全く、美くしさとか調和とか云うものがせてしまって、何さま醜怪な地獄絵か、それとも思い切って度外れた
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
が、私は望む、知識にえている日本の青年が自由にわが国に到来する日が、間もなく来ることを。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
の白い一片ひとかけを紙に受けて、「さあ、これでめて上げるよ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「法隆寺に火がついたら、こゝをけるのや、と太子様が言やはりましたや。再建さいこんに要るだけのお金がちやんとめておますのやさうな。」
老畸人も亦たむかしの豪遊の夢をや繰り返しけむ、くさめ一つして起きあがりたれば、冷水ひやみづのんど湿るほし、眺めあかぬ玄境にいとま乞して山を降れり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「それがやっぱし、珍しもの好きの江戸ッ子だからでございましょうねえ——聴けば、雪之丞とかいうのが、あんまり大評判、上々吉の舞台なので、来月も、つづけてたせるとか言っているとか申しますが——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
見惚みほれぬ。——るむ笛の
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あの森の中にはジプシイが住んでをつて、妖女ウェーヂマが火掻棒に跨がつて空を翔けまはるやうな晩に限つて、巣窟あなから出てきて、鉄をつのぢや。
「ええ話しましょう」とすぐ乗気な返事をしたが、活溌かっぱつなのはただ返事だけで、挙動の方は緩慢かんまんというよりも、すべての筋肉が湯にでられた結果、当分作用はたらきを中止している姿であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人のごとくこんな利目ききめのある薬湯へだるほど這入はいっても少しも功能のない男はやはり醋をかけて火炙ひあぶりにするに限ると思う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それあともかく、ちよつと見て来るだけでも見て来てやらにやあ。おめえ一つ火をつてくんなよ!」
遂に辱められたるを以てうらめしとなす〉とあり、『古事記』には〈その産にあたっては八尋の和邇わにと化りて匍匐い逶蛇もこよう〉とあり、その前文に〈すべて佗国あだしくにの人は産に臨める時、本国もとつくにの形を以て産生
たちて與へざる事なども有しかば藤五郎は倩々つく/″\おもふやう實子佐五郎出生以來養父母には我が兄弟をとんずること甚しければ兄弟の中へはとても家督かとくゆづるまじ家名かめい相續さうぞくの出來ぬものなれば身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それからずっと歳月がって、私の欧羅巴ヨーロッパから帰って来た大正十四年になるが、火難の後の苦痛のいまだずいているころであったかとおもうが、友人の一人から手紙をもらった中に
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
大忠だいちう(九〇)拂辭ふつじするところく、(九一)悟言ごげん(九二)撃排げきはいするところく、すなはのちその辯知べんちぶ。親近しんきんせられてうたかはれず・(九三)これくすを所以ゆゑんなり
さるに香央かさだが家の事は、神の四一けさせ給はぬにや、只秋の虫のくさむらにすだくばかりの声もなし。ここにうたがひをおこして、此のさがを妻にかたらふ。妻四二更に疑はず。
現在げんざいこのたき修行場しゅぎょうばってからはまだいくらにもなりませぬ……。
日々の攻苦せめくひどいことは私が説明するまでもなくあの柳の生棒なまぼうで一日置きに三百ずつたれて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あわれむべし過度の馳騖ちぶに疲れ果てたる馬は、力なげにれたる首をならべて、てども走れども、足は重りて地を離れかねたりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ももりたまはく、「いまし、吾を助けしがごと、葦原の中つ國にあらゆるうつしき青人草一九の、き瀬に落ちて、患惚たしなまむ時に助けてよ」とのりたまひて、意富加牟豆美おほかむづみの命といふ名を賜ひき。
その時程の動乱をけたためしはないのであつた。
「別墅ノ谷中ニアル者園ヲ賜春トなづク。多ク春花ヲ植ヱ、氷川ニアル者園ヲ錫秋ししゅうト名ク。多ク秋卉しゅうきウ。しこうシテ石浜ニ鴎窼おうかアリ。溜池ためいけニ八宜アリ。青山ニ聴松アリ。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
榛軒のれんを愛したことは、遺言を読んで知るべきである。丸山の地は池を穿ち水を貯ふるに宜しくないので、榛軒は大瓦盆だいぐわぼん数十に蓮をゑて愛翫した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
富士帯の大幹とも根柢ともいうべき富士山は、南に伊豆函根の諸山を放って海に入っているが、北は茅ヶ岳、金ヶ岳、八ヶ岳とねって、その間に千曲川の断層を挟んで、日本南アルプスの白峰山脈
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
輪交わちがいの家紋をも秀吉からもらったのである。それに感奮して、また数日の後、城壁の下まで戦い迫って行ったが、こんどは敵方からった一弾にあたって、仰向けに倒れてしまった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔が自分に投げ与えた一の目的の為めに、良心ならぬ猛烈の意志は冷やかに働らいて、一に妻の鼻息をかがっている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
洛内らくないにては、人目もあるゆえ、鹿ししたにへ集った当日、万端おちあわせする考え。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてそれを四方にり出したのである。また同国では昔既に種子無しの葡萄を見出していてこれを鎖鎖葡萄といった。すなわち今日の Sun-raisins と同じである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
すなわち知る、彼が万里の外土を踏まんとする一片の火鎌ひうちがま、象山の燧石ひうちいしと相つ、いずくんぞ雄心勃如ぼつじょたらざるを得ん。かくてはしなくペルリは、明年の再来を期して艦をめぐらせり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
だが、ち出しもののつぼのように外側ばかり鮮かで、中はうつろに感じられる少年だった。少年は自分でもそのうつろに堪えないで、この界隈かいわいを酒を飲み歩いた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかのみならず、五ふう、まま洪水でみずが襲って、せっかくこれまでにきた御経営も、一夜に泥の海とすごときおそれすら、なきにしもあらずです
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忽舟に乗じて来るものあり。歌謡東都様なり。之をみれば山村九右衛門樋口小兵衛なり。因て四人同舟して山腹の日国寺に詣る。寺北斗を祭てす。燈火昼のごとし。村人群来す。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
熊七が乗つて来た汽車はどの辺に居るであらうなどとも思ふ。食堂へ誰も誰も行く。通つて行く女が皆團十郎の妹娘の旭梅とか云ふ人のつきをして居る。
日記のうち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
きもきて走る鬼、そがあとにただにゑつつ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
但し是等はくらうべからず即ちわし黄鷹くまたかとびはやぶさたか、黒鷹のたぐい各種もろもろからすたぐい鴕鳥だちょうふくろかもめ雀鷹すずめたかたぐいこうさぎ、白鳥、鸅鸆おすめどり、大鷹、つる鸚鵡おうむたぐいしぎおよび蝙蝠こうもり
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
樽野は、煮えくりかへる汚辱の大釜に投げ込まれて、望遠鏡を握り絞めたまゝ、らゝかな光りを含んで萌えたつてゐる青草の中に仰向態に悶絶した。
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
眞夜中の時計の音もまた妄想に痺れた Tonka John の小さな頭腦に生膽取の血のついた足音を忍びやかに刻みつけながら、時々深い奈落にでも引つ込むやうに、ボーンと時をつ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)