)” の例文
先哲せんてついはく……君子くんしはあやふきにちかよらず、いや頬杖ほゝづゑむにかぎる。……かきはな、さみだれの、ふるのきにおとづれて……か。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その岸には水車が幾個となく懸つて居て、春は躑躅つゝじ、夏はの花、秋はすゝきとその風情ふぜいに富んで居ることは画にも見ぬところであるさうな。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
早朝上刻じょうこくから、お呼び寄せの大太鼓が、金線を溶かしたお城の空気をふるわせて、トーッ! トウトーットッとおやぐら高く——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この游は安政二年乙卯おつぼう四月六日に家を発し、五日間の旅をして帰ったものである。巻首に「きのとのといへるとし、同じ月始の六日」
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「これを、勝家の部屋へとどけて参れ。明朝こくまでに、これにしるしてある者ども一同、評定ひょうじょうの間に集まるようにと申し添えて」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨でぬかる大羽根峠を越えて長作に出で、鶴川に沿うて溯ると、到る所の水崖に藤は紫の房を垂れ、の花は雪をこぼしている。
秩父のおもいで (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ウサギという字は、ちがう字で書くと『』でしょう。それからネズミは『』でしょう。つまり両方とも十二支のうちの一つなのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あの彫物は二人の干支えとだから、歳を繰つて見ると二十年前に捨てられたお關の(兎)の彫物が三杯みつき家の娘に間違ひないわけだ
の花についてあっさり書いた。それが幾らか気をかえてくれたので庭にも出てみた。仕事に少し無理をする。そしてまた疲れてしまった。
真ん中にノビノビと立っているのはしゃ唐冠とうかん、白い道服、刺繍ししゅうしたくつの老人で、口ひげはないが長いあごひげ、眉毛まゆげと共にの花のように白い。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
隣家となりける遲咲おそざききのはなみやこめづらしき垣根かきねゆきの、すゞしげなりしをおもいづるとともに、つき見合みあはせしはなまゆはぢてそむけしえりあしうつくしさ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あぐる程のものならんとおほせありしことなりころ貞享ていきやう甲子きのえね正月廿日こく玉の如くなる御男子ごなんし誕生たんじやうまし/\ければ大納言光貞卿をはじめ一家中いつかちう萬歳まんざい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
公方様くぼうさま、御不例御座遊ばされそうろうところ、御養生かなわせられず、去る二十日の上刻、大坂表において薨御こうぎょ遊ばされ候。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寒中に草の話をするのも時を得ないが、なるだけ因縁のあるように第一には「雪の下」、次にはの年だからうさぎの何々という類の草の名を問題にする。
あかつきのの刻(午前六時)からうまの刻(十二時)までの半日を泰親の祈祷と定め、午の刻からとりの刻(午後六時)までの半日を玉藻の祈祷と定め
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お神が窓からほうりこんでくれたお菓子を妹たちにけ、自分ははなづけの気仙沼の烏賊いかをさいて、父と茶漬を食べている銀子に、母が訊くのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ながらへばとらたつやしのばれん、うしとみし年今はこひしき。」それをばあたかも我が身の上をえいじたもののように幾度いくたび繰返くりかえして聞かせるのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姉と娘との間に立ッて、自分は外庭の方へ廻ッて往ッたが、見つけた、向うの垣根かきねの下に露を含んで、さも美しく、旭光あさひに映じて咲いていたの花を見つけた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
ならばただすの森あたりの、老木おいきの下闇に致したかった。あすこは夏の月夜には、せせらぎの音が間近く聞えて、の花の白くほのめくのも一段と風情ふぜいを添える所じゃ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが三日のの刻だそうで、五日には早や日向守があづちへまいりなんなくおしろを乗っとりまして
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分は中学の時使った粗末な検索表と首っ引で、その時分家の近くの原っぱや雑木林への花を捜しに行っていた。白い花の傍へ行っては検索表と照し合せて見る。
路上 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
一羽のほととぎすがはなの蔭などでしきりにてておりますが、こうして日ごと一人きりで歎き明かしてばかりおる私にすっかりなつきでもしたと見えます。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
例えば、木性の人はとりの年八月酉の刻に有卦に入り、の年まで七年間を吉とし、右七年を経れば八年目より五カ年間は無卦に入る。その間を凶とすと申すことじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
うしとらたつ、——と、きゃくのないあがりかまちにこしをかけて、ひとり十二じゅん指折ゆびおかぞえていた、仮名床かなどこ亭主ていしゅ伝吉でんきちは、いきなり、いきがつまるくらいあらッぽく
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
三行書みくだりがきの中奉書はの年の七夕たなばた粘墨ねばずみに固まりてれたる黒毛にかびつきたるは吉書七夕の清書の棒筆、矢筈やはず磨滅まめつされたる墨片は、師匠の褒美ほうびの清輝閣なり、彼はえり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
その念仏の声が止まると一緒に息が止まったが、その時口から五六寸ばかりの光が出て紫の雲がたなびき、「音楽」が聞え、さまざまの奇瑞があって五日のの時まで続き
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「こいつはなんだか考えれば考えるほど背筋のゾクゾグしてくるような気持だ! おの! 一本かんをしておくれんか! こんな妙な晩には酒でも飲まんことにはやりきれねえ」
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
はなをか霍公鳥ほととぎすきてさわたきみきつや 〔巻十・一九七六〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
堤の下の赤松越しに、四条行きの電車が走っている。電車道の人家の庭には白いはながしだれて咲いている。磚茶せんちゃの味のような風が吹く。ごろりと横になりたいような景色だった。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
大木の森のような木が深く奥にはあって、田舎いなからしい花垣はながきなどがわざと作られていた。昔の思われる花橘はなたちばな撫子なでしこ薔薇そうび木丹くたになどの草木を植えた中に春秋のものも配してあった。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
亀の年という甘いお酒(瀬戸物の大きなかめのかたちの器にはいっていた)をのませたのでその名をよく覚えてしまって、ある時、お前はの年、お前はの年と年寄りが言っていたらば
となりたつとなるまでもちっとも止まず励ましたつれば、数万すまん眷属けんぞく勇みをなし、水を渡るは波を蹴かえし、おかを走るはすなを蹴かえし、天地を塵埃ほこりに黄ばまして日の光をもほとほとおお
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
寿江子がの年で年女としおんなだからお前に豆をまかせてやってもいいけれど、家じゃ、鬼はーそと! と云ったら家じゅう年女までいそいで外へ馳け出さなくちゃならないから大変だ、と云って。
食すべき「たのみ」のえさがないから、蛇奴も餓死うえじにに死んでしまいもしようが、なまじいの花くだし五月雨さみだれのふるでもなくふらぬでもなく、生殺なまごろしにされるだけに蛇奴も苦しさに堪えねてか
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
桜が散りの花が散り、五月雨もことなく過ぎた。このあいだに、玄武社から頻りに催促があった。いったいどんなぐあいであるか、そろそろ工作は進んでいるか、うまく運びそうかどうか。
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その中から矢が二本出ている。鼠色ねずみいろの羽根と羽根の間が金箔きんぱくで強く光る。そのそばによろいもあった。三四郎は花縅はなおどしというのだろうと思った。向こう側のすみにぱっと目を射るものがある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実行家となるには二葉亭は余りに思慮が細か過ぎた。右から左から縦から横から八方から只見とみうこう見ての毛で突いたほどの隙もないまでに考え詰めてからでないと何でも実行出来なかった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
流れをさかのぼって、方角はとらの境あたりに取った。その先にある某地点、この谷川の水が丑寅うしとらの方向に転ずるところ、そこが第二の屯営とんえいであろう。ひそかに大野順平は自分の胸にそう期していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
わたくしいま喰殺くひころされるのは覺悟かくごまへだが、どうせぬならたゞなぬぞ、睨合にらみあつてあひだに、先方せんぱうすきでもあつたなら、機先きせん此方こなたから飛掛とびかゝつて、多少たせういたさはせてれんとかんがへたので
詩人が歌う緑蔭りょくいん幽草ゆうそう白花はくかを点ずるの時節となって、はたけの境には雪の様にの花が咲きこぼれる。林端りんたんには白いエゴの花がこぼれる。田川のくろには、花茨はないばらかんばしく咲き乱れる。然し見かえる者はない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
家康はの刻、輿こしにて進発した。藤堂高虎とうどうたかとらが来合わせて
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
午飯、花鮓はなずし。豆腐かすに魚肉をすりまぜたるなりとぞ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ああ五月! 五月は野の林にの白い花咲く月
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「もう一ッペン、あのをおこらしてやろうか。」
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
の花やせきだほしク里の垣 左白
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
妻をやるはなくだし降るなかを
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
四月の末だというのに、湿気しっきを含んだ夜風が、さらさらと辻惑つじまどいに吹迷って、の花を乱すばかり、さっと、その看板のおもてを渡った。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
典厩信繁、その日のよそおいは、の花おどしの鎧に、鍬形くわがたのかぶとを猪首いくびに着なし、長槍を小脇に、甲斐黒の逸足にまたがっていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上半身に十二支の内、うしとらたつうま、の七つまで、墨と朱の二色で、いとも鮮やかに彫ってあるのでした。
しかるに天保てんぽう四年みずのととし十二月二十六日のの刻すぎの事である。当年五十五歳になる、大金奉行おおかねぶぎょう山本三右衛門さんえもんと云う老人が、ただ一人すわっている。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)