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熟
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う
ふりがな文庫
“
熟
(
う
)” の例文
木の上にゐた子供も下りて來て、取つたのを二人で分けながら、
賄賂
(
わいろ
)
のつもりか、よく
熟
(
う
)
れてゐるのを擇つて、二つ三つ私に呉れた。
避病院
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
部屋の
中央
(
まんなか
)
の辺りに一基の朱塗りの
行燈
(
あんどん
)
が置いてあって、
熟
(
う
)
んだ
巴旦杏
(
はたんきょう
)
のような色をした燈の光が、畳三枚ぐらいの間を照らしていた。
鸚鵡蔵代首伝説
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
余りに完全なもの、
熟
(
う
)
れきった美しいもの、また超然たるものを憎む。理由なき憎しみと、その壊滅を見んとする快感とにそそられる。
私本太平記:11 筑紫帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
火をも心にとめざるさまなるかの大いなる者は誰なりや、嘲りを帶び顏をゆがめて臥し、雨もこれを
熟
(
う
)
ましめじと見ゆ 四六—四八
神曲:01 地獄
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
その
熟
(
う
)
れきった良い年増が、庵室に入っていよいよ尼さんの玉子になろうという前の晩、滅茶滅茶に斬られて死んだんですぜ。
銭形平次捕物控:104 活き仏
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
▼ もっと見る
豊醇に
熟
(
う
)
れきった身体のこなしが、柔軟に、音もなく、舞台のうえをすべって、さす手、引く手に、いいようもない
妖
(
あや
)
しい色気がただよう。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
ちやうど桃の実の
熟
(
う
)
れる頃で、果物好きな乙羽は、汽車の窓から桃の実をしこたま
購
(
か
)
ひ込むで、次ぎから次ぎへと
止
(
と
)
め
度
(
ど
)
もなく貪り食つた。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
柿の傍には青々とした
柚
(
ゆず
)
の木がもう黄色い実をのぞかせていた。それは日に
熟
(
う
)
んだ柿に比べて、眼覚めるような冷たさで私の眼を射るのだった。
闇の書
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
いま、
我
(
わ
)
が
瀧太郎
(
たきたらう
)
さんは、
目
(
め
)
まじろがず、
一段
(
いちだん
)
と
目玉
(
めだま
)
を
大
(
おほ
)
きくして、
然
(
しか
)
も
糠
(
ぬか
)
にぶく/\と
熟
(
う
)
れて
甘
(
あま
)
い
河豚
(
やつ
)
を
食
(
く
)
ふから
驚
(
おどろ
)
く。
麻を刈る
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
三寸の緑から鳴きはじめた麦の
伶人
(
れいじん
)
の雲雀は、麦が
熟
(
う
)
れるぞ、起きろ、急げと
朝未明
(
あさまだき
)
から
囀
(
さえ
)
ずる。折も折とて
徴兵
(
ちょうへい
)
の検査。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
あの人にも困つたもんや、あんな家を建て腐りにしといて、
熟
(
う
)
んだとも潰れたともいうて來んのやもん、家屋税は
毎
(
いつ
)
でもわしが立て替へやないか。
兵隊の宿
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
木の根の周圍の
草地
(
くさち
)
一ぱいふり撒かれた林檎を拾ひ集めた。そして私は
熟
(
う
)
れたのと熟れないのとを選り分けた。それを家へ運んで貯藏室に藏つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
雌の肥えた奴は遙かに下の方で、垂れ下った葦の実に囓りつき、産卵器を重たそうに下げ乍ら
熟
(
う
)
れた実を喰べていた。
青べか日記:――吾が生活 し・さ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
夜はしずかに小雨あがりの湿っぽい土になく虫の音のほか、何事をも起りそうもない沈んだ静かさのうちに、闇はしだいに
熟
(
う
)
れてゆくようであった。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
「こゝから覗いて御覧なさい。——ね、まだ赤いのがぽつ/\
実
(
な
)
つてるでせう。かういふのはこれから
熟
(
う
)
れるんだ。」
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
その
城
(
しろ
)
あとのまん中に、小さな
四
(
し
)
っ
角山
(
かくやま
)
があって、上のやぶには、めくらぶどうの
実
(
み
)
が
虹
(
にじ
)
のように
熟
(
う
)
れていました。
めくらぶどうと虹
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
ずくしはけだし
熟柹
(
じゅくし
)
であろう。空の火入れは
煙草
(
たばこ
)
の吸い
殻
(
がら
)
を捨てるためのものではなく、どろどろに
熟
(
う
)
れた柹の実を、その器に受けて食うのであろう。
吉野葛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「いま、
赤
(
あか
)
い
実
(
み
)
が
熟
(
う
)
れています。
圃
(
たんぼ
)
には、
取
(
と
)
り
残
(
のこ
)
された
豆
(
まめ
)
が、まだすこしは
落
(
お
)
ちているはずです……。」と、
山
(
やま
)
からきた、
兄
(
あに
)
のほうのはとがいいました。
兄弟のやまばと
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
近年、村の柿の木も、
栗
(
くり
)
の木も、
熟
(
う
)
れるまで
実
(
み
)
がなっていたことがなかった。みんな待ちきれなかったのだ。
二十四の瞳
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
「
傑
(
すぐ
)
れた作品とは、緊張した意識の流れから、
熟
(
う
)
れた果実がいつか枝から落ちるように、生まれ出るもの」
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
『さうだね。まだ熟してゐないんだよ。もう少し取らう。そしてバスケツトに入れて
熟
(
う
)
れさしてやらう。』
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
青くて堅かつた林檎の實は、いつか赤く
熟
(
う
)
れて落ちよう落ちようと枝を下へ引くやうになつたのです。
反古
(旧字旧仮名)
/
小山内薫
(著)
榧
(
かや
)
の木にかやの実の
生
(
な
)
り、榧の実は
熟
(
う
)
れてこぼれぬ。こぼれたる拾ひて見れば、露じもに凍てし榧の実、
尖
(
とが
)
り実の
愛
(
かな
)
し
銃弾
(
つつだま
)
、みどり児が
頭
(
つむり
)
にも似つ、わが抱ける子の。
風隠集
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
秋というと生まれた川久保を思い、川久保を思うと累々と真赤に
熟
(
う
)
れた柿が目の前に浮んで来る。
かき・みかん・かに
(新字新仮名)
/
中島哀浪
(著)
そこからは、
熟
(
う
)
れいきれ切った、まったく
堪
(
たま
)
らない生気が発散していて、その
瘴気
(
しょうき
)
のようなものが、草原の上層一帯を覆いつくし、そこを匂いの幕のように鎖していた。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
大次郎と解って、二人は喜ぶやら、驚くやらしたが、二度びっくりしたのは、その顔に昔日の美男の面影はなく、まるで
熟
(
う
)
れ柿を潰して固まらしたような、物凄い刀痕。
煩悩秘文書
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
自分の居間と私の
家
(
うち
)
の女中部屋とを、例のレンズと鏡で出来た、様々の形の暗箱を装置して、
熟
(
う
)
れた果物の様な
肥太
(
こえふと
)
った、二十娘の秘密を、隙見してやろうと考えました。
湖畔亭事件
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
となりの
門
(
かど
)
の柿の実は年ごとに粒が大きくなって、この秋も定めて美事に
熟
(
う
)
れることであろうよ
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
あまり成育しない前に、
熟
(
う
)
れてしまった果物のような、小柄な、身体全体が、ピチピチした——深々とした眼、小さい鼻、小さい唇の、生々とした新子の妹、美和子である。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
たとえば、わたしの豆を
熟
(
う
)
れさせるその同じ太陽は同時にこの地球に似た一団の遊星を照らす。もしこのことを忘れずにいたら、幾つかの誤りをふせぐことができたであろう。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
慌
(
あわ
)
てながら一層面をそむけましたが、途端にほろほろと大きな
雫
(
しずく
)
が、その丸まっちく肉の
熟
(
う
)
れ盛った膝がしらに落ち散ったので、退屈男の不審は当然のごとくに高まりました。
旗本退屈男:01 第一話 旗本退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
捧げた膳を私の前に据えると、舌もつれする風に——ご、ゆる、りと……などと言いながら、
熟
(
う
)
れたれいしに似た鼻から、垂れさがる鼻汁を、危なくすすり上げて、愛想笑い。
ある偃松の独白
(新字新仮名)
/
中村清太郎
(著)
この季節特有の
薄靄
(
うすもや
)
にかげろわれて、
熟
(
う
)
れたトマトのように赤かった。そして、
彼方此方
(
かなたこなた
)
に散在する雑木の森は、夕靄の中に
黝
(
くろず
)
んでいた。
萌黄
(
もえぎ
)
おどしの
樅
(
もみ
)
の
嫩葉
(
ふたば
)
が殊に目立った。
土竜
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
人は世に
熟
(
う
)
れた顔を
揃
(
そろ
)
えて、山の背を渡る雲を見る。その雲は或時は白くなり、或時は灰色になる。折々は薄い底から山の
地
(
じ
)
を
透
(
す
)
かせて見せる。いつ見ても古い雲の心地がする。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
啀み合えば合うほど、自分の反抗心と、憎悪の念とが募って行くばかりである。長いあいだ忘れていた自分の子供の時分に受けた母親の仕打が、心に
熟
(
う
)
み
靡
(
ただ
)
れてゆくばかりである。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
いいあんばいにできものが
熟
(
う
)
んでふききれて、やっと赤ン坊は泣かなくなりました。
亡霊怪猫屋敷
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
ふと、ふりあおいだマタンの目に、まっかに
熟
(
う
)
れたリンゴの実が、四つ五つ、うつりました。木は、石のへいの中にはえているのでしたが、実だけは、へいの上に見えているのでした。
名なし指物語
(新字新仮名)
/
新美南吉
(著)
紅葉
(
もみぢ
)
が
綺麗
(
きれい
)
に色づき、
柿
(
かき
)
の実があかく
熟
(
う
)
れて、風の寒い夕方、爺さんが商売から帰り
途
(
みち
)
に、多勢の人が集まつて、何やら声高に
罵
(
ののし
)
り騒いでをりますから、何だらうかと
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いてみますと
竜宮の犬
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
やがて、あなたは、
剽軽
(
ひょうきん
)
に、「こんなにしていて、見つけられたら大変やわ、これ上げましょ」と、ぼくの
掌
(
てのひら
)
に、よく
熟
(
う
)
れた杏の実をひとつ
載
(
の
)
せると、二人で船室のほうへ
駆
(
か
)
けてゆきました。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
卒業の喜び、初めて世に出ずる希望——その花やかな影はたちまち消えて、秋は来た、さびしい秋は来た。裏の林に
熟
(
う
)
み割れた栗のいがが見えて、晴れた夜は野分がそこからさびしく立った。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
「この手は、もう、けふあすでおしまひだ。今にも雨が降りやア、
熟
(
う
)
んでしまつて、喰はれない。買ひ時だから行つて來たのだが、もう遲過ぎたくらゐだ——こんなに澤山でも、安いのだよ。」
泡鳴五部作:03 放浪
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
プラットホームの彼方は一面の麦畑で、麦穂が黄色く
熟
(
う
)
れている。子供たちがそこらで草笛を吹きながら遊んでいる。空気はよどんで動かないが、風景はことのほか鮮烈に栄介の眼に迫って来た。
狂い凧
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
「この種をも一度
蒔
(
ま
)
くので、
熟
(
う
)
れすぎたから塩押しにするのだ。」
旧聞日本橋:12 チンコッきり
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
「
黄檗
(
おうばく
)
を出れば日本の茶摘みかな」茶摘みの
盛季
(
さかり
)
はとく過ぎたれど、風は時々
焙炉
(
ほうろ
)
の香を送りて、ここそこに二番茶を摘む女の影も見ゆなり。茶の
間々
(
あいあい
)
は麦黄いろく
熟
(
う
)
れて、さくさくと
鎌
(
かま
)
の音聞こゆ。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
愚か者らはまだ
熟
(
う
)
れぬまに房を摘まれた。
ルバイヤート
(新字新仮名)
/
オマル・ハイヤーム
(著)
そして、
熟
(
う
)
れながらに青い/\桃の実。
吉原百人斬り
(新字旧仮名)
/
正岡容
(著)
「この柿も
熟
(
う
)
んだら、おらにくれる?」
一塊の土
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
正に
熟
(
う
)
れ切った、女盛りの肉体美だ。
山羊髯編輯長
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
胡桃
(
くるみ
)
の匂がする、またよく
熟
(
う
)
れて
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
隣にて、この
熟
(
う
)
みたる木実の
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
熟
常用漢字
小6
部首:⽕
15画
“熟”を含む語句
熟々
熟視
熟睡
早熟
成熟
爛熟
熟〻
半熟
熟柿
熟練
熟考
熟知
未成熟
黄熟
熟兎
未熟
熟慮
熟達
熟実
熟蝦夷
...