)” の例文
そういいながら、水木と洵吉とは、まだ濡れている写真を奪合うようにして覗きみては、手をって喜び、部屋の中を踊廻っていた。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
三人が飛び上ったり、手をったり、抱き上げられて接吻されたりしている気配が、部屋の中にいても、はっきり感じられました。
「死神にかれたのが三人、今頃は手遲れになつたか、それとも首尾しゆびよく錢形の親分をおびき出して、手をつて笑つて居るか」
老爺たちは、私の顔を覚えていて、みんな手をって笑って、私を歓迎した。私は、その五人のうちの二人の老爺を知っていた。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
三年も前から同じ師匠を木挽町こびきちょう待合半輪まちあいはんりんというへ招き会社の帰掛かえりが稽古けいこに熱心している由を知ってたがいにこれは奇妙と手をって笑った。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
老人はそこで手をった。するとはたして林の中と土手の蔭から二人の武士が、見えぬ手に引かれでもしたように鷺足さぎあしをして進んで来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしどこか独自なところがあって、平生の話の中にも、その着想の独創的なのに、我々は手をって驚くことがよくあった。
私の父と母 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こうした蔭口を、時には故意わざと聞えよがしに云うのを耳にしながら、平然として告別式に列席し、納骨式に拍手かしわでって祝詞のりとげる彼だ。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
亀が後脚に立つてうごめいてゐるやうだと、それを私に背負はせたお雪さん自身さへ、思ひ遣りなく手をつて笑つたほどだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
そのとき杜松ねずがザワザワとうごして、えだえだが、まるでってよろこんでいるように、いたり、はなれたり、しました。
でね、此を聞くと、人のい、気の優しい、哥太寛の御新姐ごしんぞが、おゝ、と云つて、そでひらく……主人もはた、と手をつて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その帰りがけにバルザックはふとある裁縫屋の看板が目についた。見るとその看板にマーカスという名がかいてある。バルザックは手をって
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
道庵は額を丁とって、取って附けたようなお辞儀をした時分には、せっかく包みかけた道庵が危なく転げ出してきました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悪魔は彼等の捕われたのを見ると、手をって喜び笑った。しかし彼等のけなげなさまには、少からず腹を立てたらしい。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だから京伝が「洒落本の一つも読みなすったか」と訊いた、あの時の馬琴は、内心しめたと、ひそかに腹の中で手をっていたに相違なかろう。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかも昔からの言い伝えで、毛人を追いはらうには一つの方法がある。それは手をって、大きな声ではやし立てるのである。
その汁を地蔵尊の冷たい石の鼻の穴のあたりに塗り附けて見る。そうして手をってはやしたてる。「鼻垂れ地蔵だ。やい」というのである。
「馬だよ。馬が僕の家の主な財産だ。貨幣学でラテン語の金銭って字が家畜って字だということを習った時、案をって感心したのは僕だった」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そしてここに十七章三節において「ねがわくはものしろを賜うてなんじみずから我の保証うけあいとなり給え、誰かほかにわが手をつ者あらんや」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
我は手を被中ひちゆうより伸べてち鳴らし、聲を放ちてアヌンチヤタと呼びぬ。次に思ひ出したるは我が心血をそゝぎたる詩なり。
彼はげていた刀をすとッと腰におとし、そこの座敷廊下に立ちはだかるようにして手をった。座敷にたまっていた人々の声も静かになった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
と云いながら振袖を薪割台の上へ乗せて、惜気もなくザクウリッと二つみっつに切りました時は、多助も思わず手をって
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
のどかな顔で、移りかわる河岸の景色をながめていたが、薄靄の中でぼんやりと聳えているエッフェル塔を見つけると、うれしそうに手をって
野萩 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「やった、やった、やった」「わあーっ」見物の人々は思わず総立ち、手をひざを叩いてしばらくは鳴りもやまない。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
根岸氏は手をつて喜んだ。そして出来る事なら、この機会に男をも、女をも、駝鳥の卵をもみんな土蔵の恰好に鋳直いなほしたいと思つたらしかつた。
教えている一人が手をちながら近づく。肱を水平にし、へっぴり腰でふらふらと歩いてくる一人が彼に声をかけた。
その一年 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
それともいきほひに駆られ情に激して、水は静かなれども風之を狂はせば巨浪怒つてあがつて天をつに至つたのだらうか。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
仙太の手から打球板ラッケットを奪ひ取らうとした少年なぞは、手をつて、雀躍こをどりして、喜んだ。思はず校長も声を揚げて、文平の勝利を祝ふといふ風であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そうして手を上下向い合せに拡げ大きな声でチー、チー、タワ、チョェ、チャンと言ってぽんと一つ手をちます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
夥しい人夫と土砂と支出を負担して、トロニア銀行は、今にも潰れそうになりました。そこで、華やかだったその時代の人々は、手をって喜びました。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
案をって快哉かいさいを叫ぶというのは、まさに求めるものを、その求める瞬間に面前にらっしきたるからこそである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
武雄さんは手をって喜んで、その眼鏡をふところに入れました。それからお父さんとお姉さんの眼鏡も探し出して一所に懐に入れて、どこかへ遊びに行きました。
三つの眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かつて『曽我物語』を読み、曽我兄弟がその父のあだを報じたる痛快淋漓りんりの段に至り、矍然かくぜんとして案をって曰く「我あに一度は父讐ふしゅうを報ずるあたわざらんや」
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
貞白はひざった。「なるほど/\。そういうお考えですか。よろしい。一切わたくしが引き受けましょう。」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
聞中に此方は莞爾にこ/\笑ひ出し聞了つては横手をち成程々々奇々きゝ妙計めうけい必ず當るに相違なし夫なら直に金の算段さんだん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
... この方法をもってしたら随分沢山の人を聚める事が出来ましょう」と何事にも食物の事を利用せんとするはこれもなかなかの食道楽。広海子爵も手をって賛成し
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
といふのも同じだつた。まはりで聞いて居た人々は手をつて、さうだ、そのことそのこと、といつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
つて、び上るだらう。しかしお前にはよく分つてゐる、お前はあの人達とは違つた人のことを考へてゐるのだ。そしてその人はお前のことを考へてはゐない。
なかなかうまいぞ、と思わず手をった。すると、その様子があんまり突飛でおかしかったものと見えて、れちがった二人連れの紳士がくすくすと笑って行った。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
国に一の美事あれば全国の人民手をちて快と称し、ただ他国に先鞭を着けられんことを恐るるのみ。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
同じ閑中の趣にしても、蜂の巣を伝う屋根の漏のわびしさ、面白さは、おのずかあんたしむるものがある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
伊豆の山燃ゆ、伊豆の山燃ゆと、童らふしおもしろく唄い、沖の方のみ見やりて手をち、おどり狂えり。あわれこの罪なき声、かわたれ時の淋びしき浜に響きわたりぬ。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかも賤妓せんぎ冶郎やろうが手をつて一唱三歎いっしょうさんたんする者はこの都々逸なり。いやしくも詩を作る者は雲井竜雄くもいたつお西郷隆盛さいごうたかもりらの詩を以て、浅薄露骨以て詩と称するに足らずとなす。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
伊豆の三島の神は鰻を使者とし神池の辺で手をてば無数の鰻浮き出たという。かかる事西洋になかったものか、徳川時代の欧人の書に伝聞のまましばしば書きいる。
内蔵助は、発狂したように、手をって笑った。ひどく笑い出すと、この頃のお大尽は、手を拍っただけではやまない。酒杯さかずき仰飲あおってやたらにそこらの人間へす。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泣きはらしたる阿園が両眼ムラムラと紅線走り手巾持てる手も今は早や拭く力なければ涙は滴々たたえて落ちぬ、磧よりは手をち声を揚げ手巾を振りて此方を呼びたり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
樹間を出でゝ數歩ならざるに、われはまた手をつて快哉を叫ばざるべからざるの奇景に逢ひぬ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
村人は手をち、草も雨がないので枯れているから、よく燃えるだろうし、追風のある日にはたちまちまっ黒野になってしまうだろうと、その案に喝采かっさいを送ったのである。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ゴーシュは顔をまっ赤にして額にあせを出しながらやっといまわれたところを通りました。ほっと安心しながら、つづけて弾いていますと楽長がまた手をぱっとちました。
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私は、とうとう手持ち無沙汰に困まってしまって、何かなしに手をって、お八重を呼んだ。
北国の人 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)