)” の例文
蘭軒は此年病の為に困窮に陥つて、蔵書をさへらなくてはならぬ程であつた。そこで知友が胥謀あひはかつて、頼母子たのもし講様の社を結んで救つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
りたいとも、沽りたいとも。しかし、めったな人には沽りたくないものじゃ。まあ目利きの買手がつくまで、当分待つとするかな。ははは。」
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わしは、あんたがお困りのようだから、お泊めはしたが、わしの家は食物を売ったり、飲物をったりする所でないから、手すくなでゆきとどかん。
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
かくてこの身はやうなきしろものとなりぬ。たと羅馬ロオマわたりに持ち往きてらんとし給ふとも、盾銀たてぎん一つ出すものだにあらじ。かどある生活なりはひわざをも知らず。
彼がかうして書風を改めてゐるのは、人の頼みを受けて書をつて、生活の助けとした為の稽古から来てゐることは勿論だが、其はほんの外側の原因である。
橘曙覧評伝 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「ここに美玉あり。ひつおさめてかくさんか。善賈ぜんかを求めてらんか。」と子貢が言った時、孔子は即座そくざに、「これを沽らんかな。これを沽らん哉。我はあたいを待つものなり。」
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
香華をる店とて見当らなかつたので墓畔水いろの小さな花を咲かせてゐた勿忘草の一と束を毮り取つて手向け戦後いのち全く再び郷土に帰住した報告をして、しづかに去つた。
下谷練塀小路 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
彼女は自分の美徳を認めるものが現われ出るまで、それをろうと企てたことがかつてない。沽ろうとした瞬間に美徳が美徳でなくなるという第一義的な真理を本能の如く知っているのは彼女だ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一字未嘗沽 一字未だ嘗てらず。
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
とくおさめて諸を蔵せんか。善賈ぜんこを求めて諸をらんかと。子曰く、之を沽らんかな。我は賈を待つ者なりと。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
五年の後に夫が将軍に謁した時、五百はこの支度の一部をって、夫の急を救うことを得た。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしてその何人の所為しよゐなるを探るに及んで、これをつたものの昌盈なるを知つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
既にして岡本氏の家衰えて、畑成文はたせいぶんに託してこのまきろうとした。成文は錦小路にしきこうじ中務権少輔なかつかさごんしょうゆう頼易よりおさに勧めて元本を買わしめ、副本はこれをおのれが家にとどめた。錦小路は京都における丹波氏のえいである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)