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乱れ打つ急調なリズムは、宛然さながらつ白骨の音で、その間を縫う怪奇な旋律は、妖鬼の笑いと、鬼火の閃めきでなくて何んでしょう?
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
自分や雪子とはちょっと心臓のち方の違ったところがある妹なので、まあ、露骨に云えば、全幅的には信用していない点があった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると、何千羽とも知れない水禽みずとりが、いちどに翼をって飛び立った。面々の駒はおどろいて、幾頭かは沼水の深いところへ跳ねこんだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皆まで嘘でなかろう、虎が蝟に制せらるるは昨今聞かぬが豪猪やまあらしつとてそのはりに犯され致命傷を受くる事は近年も聞くところだ。
「——ってるじゃないの、こんなに、ほら、どきんどきんって、——ずいぶん強い動悸どうきだわ、あたしの手をはね返しそうだわよ」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「のう、お前、わしはお前にそう言い聞かせたはずじゃ。」と叔父は、例の二つの凹みのところを微かに脈たせながら、言った。
ほんのわずかしかなかったにゅうに、これもよく見入るとあたらしくにゅうが五分ばかりふえ、それの走りのするどさにたれた。
陶古の女人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しかもこの、白金プラチナの神経を持った女を、一目見た時から妖しく胸をたれた自分自身に、私は狼狽に似た驚きを覚えたのである。
白金神経の少女 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
この間二三度刺客達は、討ち果そうとして走りかかったが、安房守の威厳にたれたものか、いつも途中で引き返してしまった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
新秋しんしうもちいゝかぜすだれとほしてく、それが呼吸氣管こきうきくわんまれて、酸素さんそになり、動脈どうみやく調子てうしよくつ………そのあぢはへない。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
市内電車の隅の方に、熱心に夕刊を読んでいる鳥打帽の男の横顔に目をそそいだ瞬間、梅本清三の心臓は妙なち方をした。
被尾行者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
このように女性的なスタイルの文章を書いていた私は今、刺すがごとき、つがごとき攻撃的のポーズで書くようになった。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
昔キリストは姦淫かんいんを犯せる少女を石にてたんとしたパリサイ人に対し、汝らのうち罪なき者まず彼女を石にて搏つべしと言ったことがある。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
子路は、虎をちそこねて、崖から真逆さまに落ちて行くような気がした。顔渕と閔子騫とは少し伏目になって、自分たちの前の床を見つめた。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
会堂のすみから隅へ流れわたる時には、自分の身体もそれに運ばれ、翼をってあちらこちらと飛び回り、その誘いに身をうち任せるのほかはない。
豊干禅師ぶかんぜんじを乗せたお前。和唐内わたうないたれたお前。それからウイルヤム・ブレエクの有名な詩に歌はれたお前。虎よ。お前は最大のコスモポリタンだ。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
翼をやにの上につべし、我等頂上いたゞきを棄て岸を楯とし、汝たゞひとりにてよく我等を凌ぐや否やをみん 一一五—一一七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
諸羽もろはねつと、ひらりと舞上る時、緋牡丹の花の影が、雪のうなじに、ぼっとみて薄紅うすくれないがさした。そのまま山のを、高く森のこずえにかくれたのであった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とにかく、そのままにして置けば、死線を越すまで体力と角とでち合うのであるから素晴らしく豪儀である。
越後の闘牛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
僕は荒涼たる阿蘇の草原から駆け下りて突然、この人寰じんかんに投じた時ほど、これらの光景にたれたことはない。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それを見て、店の男や女もおどろいて、彼らは鶏を叱って追いやろうとしたが、かれは狂えるようにれまわって、あくまでも女を追いとうとするのである。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一蝉まさに美蔭を得て而して其身を忘れ、蟷螂かげを執りて而して之をたんとし、得るを見て而して其形を忘れ、異鵲いじゃく従つて而して之を利し、利を得て而して其真を
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
分って見れば何事もなかったが、此の刹那に彼を襲った驚愕の激しさ! はっと胸をって来るものの強さ! これは凶事の恐るべき予感だったのであろうか………
満身の力を両の翅に籠めて、五たび六たび空をつと共に、双翼に風を張って悠揚自在に翔して行く。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
医術の適中 それから脈など見ますとほんのかすかにって居るばかりで、腹の中に手を入れて見ると幾分か温気あたたまりがある。首筋を持って見ると非常に堅くなって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
些々ささたる戦況に一喜一憂いっきいちゆうすることなく、如何いかなる場合にも冷静にがっしりと規則正しく脈っていたが、しかし極めてまれには、大いなるうれい、大いなる喜びのために
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
機を設けて胸の前にて繰りつて飛行す、地より直ぐにあがることあたはず、屋上よりはうちて出づ。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
瑠璃子は、勝平と相っている相手が、もしや恋人の直也でありはしないかと思うと、の一徹の老人が、一気に銃口を向けやしないかと思う心配で、心が怪しくみだれた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
恐しいのはその精神が溢れているからである。私達をつのは彫刻上の技巧ではなく、わけてその形ではなく、而もその中にこもって出て来る物凄い気魄きはくのようなものである。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
細くかつ低い声には相違ないが、眠らんとする春の一縷いちるの脈をかすかにたせつつある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾々の見えざる触手が感覚の花の盛りを呼びきたすならば、香水の移りゆく香気は、まどみママのなかに羽をつ蝶のごとく、彼方此方に吾々の感情の色どりを植ゑてゆくだらう。
した徉徜さまよつてると何處どこともなくッとこゑがしたので、おもはずあいちやんは後退あとじさりしました、ト一おほきなはとかほびついて、つばさもつはげしくあいちやんをちました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
つわ、飲むわ——博徒ばくとの仲間にはいって、人殺し兇状を重ね、とうとうほんものの泥棒渡世とせいをかせいで、伝馬町てんまちょうの大牢でも顔を売り、ついに、三宅島みやけじまに送られ、そこを破ってからは
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
胸をって踊って曰く、『余が孫を殺す不義なり。余、天に請うことを得たり』
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
東北地方は既に厳霜凄風げんそうせいふうたれて、ただ見る万山ばんざんの紅葉はさながらに錦繍きんしゅうつらぬるが如く、到処秋景惨憺いたるところしゅうけいさんたんとして、蕭殺しょうざつの気が四隣あたりちているこうであった、ことにこの地は東北に師団を置きて以来
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
縮毛の大男と、若い水夫とが、野獣のようなうめきを立てて、たちまち、肉弾にくだんあいすさまじい格闘をはじめた。よくの深い水夫たちは、二人の勝敗如何いかにと、血眼ちまなこになってこの格闘を見守っている。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
よしんば男の手に、産後の脈がたうと、それはほんの些細な事で……。
鷲はその強い大きな翼をつてすさまじい勢で風をきり、たちまちに追ひ付き、その鋭いつめくちばしとで、鶴を突いたり、つたりするので、空は鶴の白い羽がとび散り、まるで雪がふるやうでした。
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
次の脈がつ時に展開しきたる事情をば全くアテもなく待つのであった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
猶太ユダヤ教奉ずる囚人が、羅馬のみかどの嚴しき仰によりて、大石を引き上げさせられしこと、この平地にて獸を鬪はせ、又人と獸と相たせて、前低く後高き廊の上より、あまたの市民これを觀きといふ事
躍り立ち羽ち巻き立つ波の穂のあひだに徹り青空のいろ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
民族の血潮が胸をつおれたちのどのひとりが
間島パルチザンの歌 (新字旧仮名) / 槙村浩(著)
すべての呻きが地をってゆらめきあがる空
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
わが日よ、高羽たかは焔にめぐりちね
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
自然と生物とが同じ脈を
南洋館 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
つらぬはねぶく
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
一刀、虎のどこかをったが、その虎尾こびは、李逵の体を、はるかへ叩き飛ばしていた。虎は彼の上へ、腹を見せて、すぐ躍ッてくる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ少年らしい柔軟な薄い膚であるが、育ちざかりの、新鮮な、活き活きした力の脈っているのが、その膚の下に感じられた。
………あ、リヽーかな、やれ嬉しや! さう思つた途端に動悸がち出して、鳩尾みぞおちの辺がヒヤリとして、次の瞬間に直ぐ又がつかりさせられる。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「鐘の音と鐘の音の間が、八五郎の脈は五十六つて、俺の脈は六十二搏つ——なんてことを、八丁堀の旦那方が眞面目に聽いてくれると思ふか」