)” の例文
その中で学校の盛んな時も、衰えた時も、すこしも変らずに、いつでも同じように人を教えてまなかったのは呉くみ子さんでした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
春日の永きにむ馬上の旅の様子がよく現れている。煕々ききたる春光の中を飛ぶ蝶の姿が、ありありと眼に浮んで来るような気がする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
帝はすぐ、べつな十冊の書物をひらいてこれにはむことをしらなかった。寝るまと食事のほかは、机によってお眼を離すこともない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ややんじたところへ多喜子が来たのも、小さい新しい一つの刺戟であるというらしいびやかな、とらえどころのない雰囲気である。
二人いるとき (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おもなる事を少し擧げて、詩の映象躍如やくじよたる理想主義の利と、瑣事さじを數ふること多くして聽者をましむる實際主義の弊とも亦然なり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし彼女は、自分の鼻をほとんど気にしていなかった。それくらいのことは、彼女のむことのない饒舌じょうぜつを少しも妨げなかった。
夜半に燈下に坐して、んで仮寝うたたねをしていると、恍惚のうちに白衣の女があらわれて、はりでそのひたいを刺すと見て、おどろき醒めた。
しんり、しずみ、星斗と相語り、地形と相抱擁あいほうようしてむところを知らず。一杯をつくして日天子にってんしを迎え、二杯をふくんで月天子げってんしを顧みる。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
書にみたる春の日、文作りなづみし秋の夜半、ながめながめてつくづくと愛想尽きたる今、忽ち団扇うちわと共に汝を捨てんの心せつなり。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
薄黄色なみ疲れた感を催させるような花であった。その黄色な花の咲いている草の葉は沙地に裏を着けていた。葉の色さえ鮮かでない。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
めばことをもくなり。彼が手玩てすさみと見ゆる狗子柳いのこやなぎのはや根をゆるみ、しんの打傾きたるが、鮟鱇切あんこうぎりの水にほこりを浮べて小机のかたへに在り。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
誰か智的生活の所産なる知識と道徳とを讃美さんびしないものがあろう。それは真理に対する人類のむことなき精進の一路を示唆する現象だ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
変革期の人としては啓蒙に従事した。そのためには東西にむことなき旅をつづけていた。かれには宗教もあり哲学もあり学問もあった。
わたくしはもし当時の遊記や日誌を失わずに持っていたならば、読者のむをもかえりみずこれを採録せずにはいなかったであろう。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お轉婆で、無法で、冒險好きな下町娘は、果てしもない貧乏にみきつて、到頭こんな飛んでもない役を買つて出ることになつたのでせう。
必ずしも海の入日の前に散り乱るることを期せずとも、自然にそのような情景を催して、旅にみたる者をして佇立ちょりつせしめる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ゆえに純なる愛は相手のいかなる醜さ、卑しさ、ずうずうしさによっても、そのはたらきのまざるものでなければならない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
中国の書物には、秋海棠しゅうかいどうを一に八月春と名づけ、秋色中しゅうしょくちゅうの第一であるといい、花は嬌冶柔媚きょうやじゅうびで真に美人がよそおいにむに同じと讃美さんびしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
何故かと云へば僕は自分が牧師職に就いたことを過誤くわごだと思つたからです。その變化のない務めが死ぬ程僕をましたのです。
彼は実に他の一の標準とすべきものゝ如く、誠心にして忠実、我と如何なる運命をも共にしてがうまずたゆまざるの熱愛を有すればなり、と。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
少くとも生涯同一の歎を繰り返すことにまないのは滑稽であると共に不道徳である。実際又偉大なる厭世主義者は渋面ばかり作つてはゐない。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
されど我が未だ語りかぬ間に、かれ等は早く聽きみき。われは聽衆を失はじの心より、自ら新しき説教一段を作りき。
それでもかまはずまずたゆまずつづけるうちある日彼は虱のやうにへばりついてる席をはなれひよこひよことそばへきてれいの舌たらずみたいに
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
もう見舞いに来る人も少くなった病室に、子供はあてがわれたウエーファを手に持ったまま、み果てたような顔をして、ベッドに腰をかけていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
四方よもの山々いよいよ近づくを見るのみ、取り出でていうべき眺望ながめあるところにも出会わねば、いささか心もみて脚歩あしもたゆみ勝ちに辿り行くに
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼等は出帆以来、只一度、それも遠くからちらと陸地を見たきりなので、今はこの単調な、四顧茫々たる海上にみ果てたのであった。ところが
論思いのほか長きに失し、読者もまたすでにまれたるべしと信ずるがゆえに、余のいわゆる第二策は、論ぜずしてこれをおくつもりなのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
シェーキスピーアにむ者はトマス、エケンピスに復る也。歴史は人を受動的ならしむ、人は更に主動的の者を求む。
凡神的唯心的傾向に就て (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
人造人間は、いたり、むことを知らないし、着物を欲しがるわけでもなく、食事をとらぬ。ただ入用なのは、人造人間を動かす動力だけである。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
年漸く老い社務もんで来たせいであろうと思われる、福田氏に譲り渡しの間を周旋したものは松岡俊三君であった。
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
んじ疲れて、懈怠けだいの心が起ろうとする時、頭をもたげて燈光の中に先生の黒いせたお顔を瞥見べっけんすると、いまにも
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それにも一向交渉のない様に紳士と家扶との密語は続けられ、またこれらの静調を他にして、残る三人の小供達は、絶えぬから騒ぎにまなく見えた。
動かぬ女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
事実、彼女の心のなかには、あのふしだらな単調な生活にも破壊されず、けっしてむこともなく、絶えず一つの思念を、凝視してゆく活力があった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いいえ、ただ退屈にんだから、当もなく出掛けただけで、本屋をひやかすとか、そうそう、買物といえば、雑誌を
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
うんほしかゝってあるさるおそろしい宿命しゅくめいが、今宵こよひえんはしひらいて、てたわが命數めいすうを、非業無慚ひごふむざん最期さいごによって、たうとするのではないからぬ。
僕にはだ翁の近年の作の妙味が十分得せられないが飽迄あくまで若若わかわかしいこの翁の心境は例の真夏の花を嗅ぐ様な豊艶多肉な女をむ色もなく描いて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
透谷庵主、透谷橋外の市寓にみて、近頃高輪たかなわの閑地に新庵を結べり。樹かすかに水清く、もつとも浄念を養ふに便あり。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかし、秋蘭の眼は澄み渡ったまま、甲谷の笑顔の前を平然と廻り続けて踊りがんだ。——歌余舞かよまみし時、嫣然えんぜん巧笑。去るに臨んで秋波一転——。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼の父は今から十年ばかり前に、突然遍路へんろみ果てた人のように官界を退いた。そうして実業に従事し出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八十八さか九十九折つづらおれ、木の根岩角いわかど躓き倒れ、傷つきてはまたち上がり、ち上がりてはまた傷つき、まずたゆまず泣血辛酸きゅうけつしんさん、かくして玉の緒も絶え絶えに
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
大臣家ではこうして途絶えの多い婿君を恨めしくは思っていたが、やはり衣服その他贅沢ぜいたくを尽くした新調品を御所の桐壺きりつぼへ運ぶのにむことを知らなんだ。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
聞えて来るのは食物くいものいた猛獣の恐ろしい吠え声と太陽をかすめて舞っている巨大な沙漠鷲の啼き声だけです。
三週間もたたないうちにその原稿は積もり積って三四百枚にもなっていた。うずたかいそのかさなりを眺めてみずから驚嘆した。む事なくなお熱心に続けて行った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
渠は義雄の文學上に於ける功績を賞讃し、長い間、文壇に奔走してむことなく、詩に、評論に、散文詩に、小説に、自分等に教へることが多かつたこと。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そういうむことのない追求の努力が国文学界の一つの運動として動き始めたと自分には感じられたのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
かくいへばとてひたぶるに閑寂を好み、山野に跡をくらまさんとにはあらず、やゝ病身人にみて世を厭ひし人に似たり。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
毎日まいにち透徹とうてつしたそらをぢり/\ときしりながら高熱かうねつ放射はうしやしつゝあつたあまりにながひる時間じかんまうとして、そらからさうして地上ちじやうすべてがやうや變調へんてうていした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「嫌な天氣だな。」と俊男は、奈何いかにもんじきツたていで、ツと嘆息ためいきする。「そりや此樣こんな不快を與へるのは自然の威力で、また權利でもあるかも知れん。 ...
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あまりみたれば、一ツおりてのぼる坂のくぼみつくばいし、手のあきたるまま何ならむ指もて土にかきはじめぬ。さという字も出来たり。くという字も書きたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桑原氏は岡崎ちようの入江に住んでゐる、そしてせつせと東洋史を研究してゐる。ある日の事、研究にもんだので、桑原氏は両手を伸ばして大きな欠伸あくびをした。