)” の例文
その驚き方は、長男の庄次郎が板新道いたじんみちの女にをやつしているのを発見した時の場合などとは、比較にならないほど大きかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿蘇に登るのもものい。計画を中止して、ここでじっと待とうか。そうしたいのだが、女指圧師が駅で待っているかも知れない。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼を思ひ是を思ふに、身一つにりかゝるき事の露しげき今日けふ此ごろ、瀧口三の袖を絞りかね、法體ほつたい今更いまさら遣瀬やるせなきぞいぢらしき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そのほか多くの者の名を彼一々我に告ぐるに、彼等皆名をいはるゝを厭はじとみえ、その一者ひとりだにさまをなすはあらざりき 二五—二七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
また心き事はべりき、その大臣の娘おわしき、いろかたちめでたく世に双人ならぶひとなかりき、鑑真がんじん和尚の、この人千人の男に逢ひ給ふ相おわすとのたまはせしを
あまつさえ大阪より附き添い来りし巡査は皆草津くさつにて交代となりければ、めてもの顔馴染なじみもなくなりて、きが中に三重県津市の監獄に着く。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いいえ、勿体もったいないより、まないのはあたしのこころ役者家業やくしゃかぎょうつらさは、どれほどいやだとおもっても、御贔屓ごひいきからのおむかえよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
園が出ていった戸口の方にものい視線を送りながら、このだだ広い汚ない家の中には自分一人だけが残っているのだなとつくづく思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ワツと泣きる声を無理に制せる梅子は、ヒシとばかり銀子をいだきつ、燃え立つ二人の花の唇、一つに合して、ばし人生のきを逃れぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
岩瀬肥後も今は向島むこうじま蟄居ちっきょして、客にも会わず、号を鴎所おうしょと改めてわずかに好きな書画なぞに日々のさを慰めていると聞く。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
道教は浮世をこんなものだとあきらめて、儒教徒や仏教徒とは異なって、このき世の中にも美を見いだそうと努めている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
鳥沢とりざわも過ぐれば猿はし近くにその夜は宿るべし、巴峡はきようのさけびは聞えぬまでも、笛吹川ふゑふきがはの響きに夢むすびく、これにもはらわたはたたるべき声あり
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ただ、故主を慕う有王だけは、俊寛の最期を見届けたく、千里の旅路に、艱難かんなんを重ねて、鬼界ヶ島へ下ったのである。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は店先に腰かけて黙って見ていたが小さな女の子までも同じき目に逢ってワアッと泣いて行くのを可哀かわいそうに思った。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
それにも、うきねといふ言葉ことばきといふいやな、なさけない悲觀ひかんすべき意味いみ言葉ことばが、おんからかんじられる習慣しゆうかんになつてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
それで五平を叩っきりそこなうと、すぐその場から、おさらばをきめて、それからはお定まりの、艱難かんなんというやつさ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
女は針の手をやめると、ものそうに顔を挙げて見せた。まゆの迫った、眼の切れの長い、感じの鋭そうな顔だちである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
則重がおめ/\捕われの身となって生き耻をさらしながら、敵の城中にき年月を送っていた心事については、あまり腑甲斐ふがいなく思われるけれども
それにあの気まぐれなものさこそ、ああいう陰気な人柄にはぴったりするように思える、と思いきって言いだした。
わななく手でさてもこの世は夢まぼろしなどとへたくその和歌を鼻紙の表裏に書きしたためて、その日その日のさを晴らしている有様だったので
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しばらく、物く、たく、しかも陽気な世の中が自分にまみえた。自分は娯しい中に胸迫るものを感じ続けて来た。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
武男が遠洋航海の留守の間心さびしくき事多かる浪子を慰めしは、燃ゆるがごとき武男の書状を除きては、千鶴子の訪問ぞそのおもなるものなりける。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
父善太郎氏は、親の報いとあきらめもしようけれど、可愛い子供が三人まで、同じを見せられるとは、余りと云えば残酷だ。そればかりではない。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……田舍ゐなかづくりの、かご花活はないけに、づツぷりぬれし水色みづいろの、たつたをけしたのしさは、こゝろさもどこへやら……
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
園部は、これも青くないとは云えない顔色に、るわしげにまゆをひそめて、みどりの顔色をのぞきこんでいる。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わずか五十銭ばかりの金で、頭のさをすっかり吹き払って、アルコオルなしで楽しむことエンジョイのできる所へ!」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
さしもに豪華をうたわれた岩下氏もある事件に蹉跌さてつして囹圄れいごにつながれる運命となった。名物お鯉も世のきをしみじみとさとらなければならなくなった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
角をつながれたまま、頭はじっと動かさずに、彼は腹にしわを寄せ、尻尾しっぽでものげに黒蠅くろばえを追いながら、女中がほうきを手に持ったまま居眠りをしているように
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
何の因果で斯様かようき目と泣いて怨めど肝腎カナメの。当の患者はアラレヌ眼付きで。キョロリキョロリとしているばっかり……チャカポコチャカポコ……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
げにかうきめ見つる後は重き病をも得るものなり。二一二ゆきて月ごろを過せとて、人を添へて出でたたす。
世のき事、人生のつらいことが毎日われわれの眼にうつり耳にひびきながら、われわれの胸にはなんらの影をも落とさず、なんらの共鳴をも引き起こさない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
雲が重苦しく空に低くかかった、ものい、暗い、寂寞せきばくとした秋の日を一日じゅう、私はただ一人馬にまたがって、妙にものさびしい地方を通りすぎて行った。
春の夜を淋しく交る白い糸を、あごの下に抜くもものうく、世のままに、人のままに、また取る年の積るままに捨てて吹かるるひげは小夜子の方に向いている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
軽躁けいそうと心附かねばこそ、身を軽躁に持崩しながら、それをしとも思わぬ様子※醜穢しゅうかいと認めねばこそ、身を不潔な境にきながら、それを何とも思わぬ顔色かおつき
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
人生のさがわかりながら私の知らず顔をしていますのも、世の中のならわしに従っているだけなのです。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
子の上にかゝき夢より醒めさふらひしは二三時の頃にさふらひけん、月あか水色みづいろの船室をてらり申しさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
追憶のなかに出てくる青年のおもかげは、いつも、すがすがしく、ものく、あわれで、やるせない思いをかきたてられたものだったが、いまは軽蔑しか感じない。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そはやはりふるさとは詩歌の国ならず、あさましきこときこと、きのふの夕より知りそめしに候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
○余が病気保養のために須磨すまに居る時、「この上になほき事の積れかし限りある身の力ためさん」
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
種蒔け、種蒔け、蒔かずにやゐられぬ、蒔かねばさやの、子種はどつさり、畑は上々で、畝高うねだか
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
丁度、その日光室の中には快癒期かいゆき患者かんじゃらしい外国人が一人、籐椅子とういすもたれていたが、それがひょいと上半身を起して、私たちの方をものげなまなざしで眺め出した。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
貫一は心陰こころひそかに女の成効を祝し、かつ雅之たる者のこれが為に如何いかさいはひならんかを想ひて、あたかもたへなる楽のの計らず洩聞もれきこえけんやうに、かる己をも忘れんとしつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
世の常ならば生面せいめんの客にさえ交わりを結びて、旅のさを慰めあうが航海の習いなるに、微恙びようにことよせてへやのうちにのみこもりて、同行の人々にも物言うことの少なきは
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
まことに、旅は大正昭和の今日、汽車自動車の便あればあるままにくつらくさびしく、五十一歳の懐子ふところごには、まことによい浮世の手習いかと思えばまたおかしくもある。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と独りごちて、浄人きよめが家のありけるに入りにけり。男れしもいと憐に、不思議と覚えけり。
これあるがためにものげな冬の長さも、早く過ぎて行きます。雪と手仕事とには厚い因縁いんねんがひそみます。これこそは北国に様々な品物を生ましめる一つの原因であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ふ、ふ、川へ落ちたぐらいが何だね、借金が何だね、き世の波におじ気がつきましたかね。……おとなしいお子供さん、そのうちにどこかの小父さんがめてくれるだろう。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
歩くにも、さもものそうに、しゃなりしゃなりとやっている。いい風情ふぜいだなあ、じつに!
それからさまざまの艱難かんなんを経て、ある時は相模さがみ大山石尊おおやませきそん参籠さんろうし、そこで二十四の時に真言しんごんに就いて出家をとげ、それより諸国を修行し、或いは諸所の寺々の住職をし
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
世間よのなかしとやさしとおもへどもちかねつとりにしあらねば 〔巻五・八九三〕 山上憶良
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)