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撲
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う
ふりがな文庫
“
撲
(
う
)” の例文
「口をおあきつてばさ!」彼女は男がさし出した手の平をぴしやりと
撲
(
う
)
つて云つた。男は
賤
(
いや
)
しく笑ひ乍らあんぐりと黒い口を開いた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
撲
(
う
)
つ、蹴る、払う。虎の戦法はこう三つを奥の手とする。そのすべてが
効
(
き
)
かないとなると、さしもの獣王も
気萎
(
きな
)
えをするものだとか。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
肩を
曲
(
こご
)
め背を丸め、顔を低く地に垂れた。そうして
撲
(
う
)
たれた犬のように、ヨロヨロと横へ
蹣跚
(
よろめ
)
いた、私は何かへ縋り付こうとした。
銀三十枚
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
どれもこれも
纏
(
まと
)
まりのつかない、空想的な形に見えだしてきたが、そのうち、突然に彼女は、がんと頭を
撲
(
う
)
たれたような気がした。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
濃く温なる空氣は
漲
(
みなぎ
)
り來りて我面を
撲
(
う
)
てり。われは我精神の此の如く安く
夷
(
たひらか
)
なるべきをば期せざりき。その状態は固より興奮せり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
▼ もっと見る
菓物
(
くだもの
)
を盗んだといっては、追いかけて
捉
(
とら
)
えられて、路傍の門に細引きでくくり付けられ、あるいは長い
物干竿
(
ものほしざお
)
で、走る背なかを
撲
(
う
)
たれて
ネギ一束
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
家には
老婢
(
ろうひ
)
が一人遠く離れた勝手に寝ているばかりなので
人気
(
ひとけ
)
のない家の内は古寺の如く障子
襖
(
ふすま
)
や壁畳から
湧
(
わ
)
く湿気が
一際
(
ひときわ
)
鋭く鼻を
撲
(
う
)
つ。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
四山環翠、一水澄碧の湖上に輕艇を
駛
(
はし
)
らすれば、凉風
面
(
おもて
)
を
撲
(
う
)
つて、白波ふなばたに碎くるさま、もとより爽快の好い心持である。
華厳滝
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
己が起ち上がると、賊は己の肩を
撲
(
う
)
つて追ひ立てた。足の踏む所は一面に針葉樹の葉で掩はれてゐて、すべつて歩きにくかつた。
復讐
(新字旧仮名)
/
アンリ・ド・レニエ
(著)
と、
蒼蠅
(
あおばえ
)
だ、
緑金
(
りょくこん
)
の点々々が真向から目を
撲
(
う
)
ち、頬を撲ち、鼻を撲ち、口を撲ち、たちどころにまた紫の
螺旋
(
らせん
)
の柱となって襲いかかった。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
注連
(
しめ
)
だの輪飾だのを一ぱいに積んだ車がいそがしく三人の間を通って行った。——新しい、すが/\しい藁の匂が激しく三人の鼻を
撲
(
う
)
った。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
「CAPTAIN」と
真鍮札
(
しんちゅうふだ
)
を打った
扉
(
ドア
)
を開くと強烈な酸類、アルカリ類、オゾン、アルコオルの
異臭
(
におい
)
がムラムラと顔を
撲
(
う
)
つ。
難船小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
厳冬の一夜佐藤氏は演説に出で、予一人二階の火も
焚
(
た
)
かざる寒室に臥せ居ると、吹雪しきりに窓を
撲
(
う
)
って限りなくすさまじ。
十二支考:10 猪に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
御用だ。と大喝一声、
怯
(
ひる
)
む処を附け入って、
拳
(
こぶし
)
の
雷
(
いなずま
)
手錬のあてに、八蔵は急所を
撲
(
う
)
たれ、
蹈反
(
ふんぞ
)
りて、大地はどうと響きけり。
活人形
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
足がけツ
倦
(
たる
)
いので、づいと伸ばして、寐
返
(
がへり
)
を打つ、體の下がミシリと鳴ツて、新しい
木綿
(
もめん
)
の
芬
(
かほり
)
が微に鼻を
撲
(
う
)
ツた。眼が
辛而
(
やつと
)
覺めかかツて來た。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
玉藻が榊の枝をひたいにかざして、左に右に三度振ると、白い麻はすすきのように乱れて、
黄金
(
こがね
)
の
釵子
(
さいし
)
をはらはらと
撲
(
う
)
った。
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
余りの
可恐
(
おそろ
)
しさに直行は吾を忘れてその顔をはたと
撲
(
う
)
ち、
痿
(
ひる
)
むところを得たりと
鎖
(
とざ
)
せば、外より割るるばかりに戸を叩きて
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
ある時は旅行で得た直覚、またある時は方言や
口碑
(
こうひ
)
の比較の間からも暗示を得、中にはまた文庫の
塵
(
ちり
)
の香の紛々と鼻を
撲
(
う
)
つものもなしとしない。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
白き香りの鼻を
撲
(
う
)
って、絹の影なる花の数さえ見分けたる時、ランスロットの胸には忽ちギニヴィアの夢の話が湧き帰る。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
暫時
(
しばらく
)
其處の
煖爐
(
ストーブ
)
にあたつて、濡れた足袋を赤くなつて燃えて居る煖爐に
自暴
(
やけ
)
に
擦
(
こす
)
り附けると、シュッシュッと
厭
(
いや
)
な音がして、變な臭氣が鼻を
撲
(
う
)
つ。
病院の窓
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
両岸の豆麦と河底の水草から発散する
薫
(
かおり
)
は、水気の中に入りまじって
面
(
おもて
)
を
撲
(
う
)
って吹きつけた。月の色はもうろうとしてこの水気の中に漂っていた。
村芝居
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
そして見たところなんの
醜悪
(
しゅうあく
)
なところは一点もこれなく、まったく美点に
充
(
み
)
ち
満
(
み
)
ちている。まず
花弁
(
かべん
)
の色がわが眼を
惹
(
ひ
)
きつける、
花香
(
かこう
)
がわが鼻を
撲
(
う
)
つ。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
鼻を
撲
(
う
)
つ
好
(
この
)
もしい香りに、編笠をかかげて見返えりますと、僕の肩にかたげられたは、今
剪
(
き
)
り
前
(
た
)
ての
園咲
(
そのざき
)
の白つつじが、白く涼しく匂っているのです。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
雨はまた一としきり硝子窓を
撲
(
う
)
つ、淋しい秋の雨と風との間に
猥
(
みだ
)
りがましい子守女の声が絶えてはまた聞えて来る。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
暁の冷い空気が顔を
撲
(
う
)
つ。
臭橘
(
からたち
)
の垣の蜘蛛の
網
(
い
)
に留まつてゐる雨の雫は、矢張真珠のやうに光つてゐる。藪には低い
靄
(
もや
)
が漂うてゐる。八は
身慄
(
みぶるひ
)
をした。
金貨
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
と、さっき屏風の彼方で
嗅
(
か
)
いた、あの甘いほのかな
薫
(
かお
)
りが今はしたゝか
咽
(
む
)
せ返るように鼻を
撲
(
う
)
つのであった。女はその時までなお扇をかざしていたが
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
けれども、廃墟になったような大都会の光景が、強く彼女の心を
撲
(
う
)
った。反動的な生活力が市民のすべてを捕えた。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
故国を
行
(
ゆ
)
く如き一種の気安さを感じると共に、
自
(
みづか
)
らも
亦
(
また
)
是
(
これ
)
等の大群と運命を
斉
(
ひと
)
しくする弱者である事に想ひ到つて
苦
(
にが
)
い悲哀に
撲
(
う
)
たれざるを得なかつた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
疲れのせいか横になって、うつらうつらと眼を閉じていると、暫くして
紛
(
ぷん
)
と鼻を
撲
(
う
)
つ酒の香りがしました。それはあまりに芳烈な清酒の香りであります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
煙管
(
きせる
)
の
雁首
(
がんくび
)
でお
撲
(
う
)
ちになつた
傷痕
(
きずあと
)
が幾十と数へられぬ程あなた
方
(
がた
)
御兄弟の頭に残つて居ると云ふやうなことに比べて、寛容をお誇りになるあなたであつても
遺書
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
路に沿うた
竹藪
(
たけやぶ
)
の前の
小溝
(
こみぞ
)
へは銭湯で落す湯が流れて来ている。湯気が
屏風
(
びょうぶ
)
のように立騰っていて匂いが鼻を
撲
(
う
)
った——自分はしみじみした自分に帰っていた。
泥濘
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
新吉もぞっとする程身の毛立ったから、
煙管
(
きせる
)
を持って蛇の
頭
(
かしら
)
を
無暗
(
むやみ
)
に
撲
(
う
)
つと、蛇の形は見えずなりました。
真景累ヶ淵
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
「外で火事だというから、あわてて二階から降りると、滑って転げ落ちて、ひどくお尻を
撲
(
う
)
ったんです」
銭形平次捕物控:108 ガラッ八手柄話
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そしてその夕立の来はなに、大粒の奴がパラ/\パラ/\と地面を打つ時、涼気がスウーッと催して来ると同時に、プーンと土の臭いが我々の鼻を
撲
(
う
)
つのであった。
私の父
(新字新仮名)
/
堺利彦
(著)
異臭鼻を
撲
(
う
)
つ これはチベットのどこの寺に行ってもこういう
臭
(
にお
)
いがするので、とても日本人が始めて入った時分には鼻持ちのならぬ臭いであろうと思われたです。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
勝負はながくはかからなかった、肉体と肉体の相い
撲
(
う
)
つ快よい音が二三度し、両者の位置がぐるりと変ったとき、宗之助は巧みに足を払って、伊兵衛を大きく投げ倒した。
彩虹
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
彼は怒りのあまりに、今にもわたしを
撲
(
う
)
ち倒しはしまいかとさえ思った。しかも彼はもう一度
罵
(
ののし
)
ったあとに、船長室のドアを荒あらしく突きあけて
甲板
(
デッキ
)
へ飛び出してしまった。
世界怪談名作集:09 北極星号の船長 医学生ジョン・マリスターレーの奇異なる日記よりの抜萃
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
その雪のような白い
頸
(
えり
)
、その
艶々
(
つやつや
)
とした緑の黒髪、その細い、愛らしい、奇麗な指、その美しい花のような姿に見とれて、その袖のうつり香に
撲
(
う
)
たれて、何もかも忘れてしまい
初恋
(新字新仮名)
/
矢崎嵯峨の舎
(著)
言葉は電撃のように、五郎の背中を
撲
(
う
)
った。五郎は顔色を変えて、思わず立ち上った。
幻化
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
その
後
(
のち
)
叔父は
臼
(
うす
)
に
撲
(
う
)
たれ、
他
(
かれ
)
は木から
落猿
(
おちざる
)
となつて、この山に
漂泊
(
さまよ
)
ひ来つ、金眸大王に事へしなれど、むかし
取
(
とっ
)
たる
杵柄
(
きねづか
)
とやら、
一束
(
ひとつか
)
の矢
一張
(
ひとはり
)
の弓だに持たさば、彼の黄金丸如きは
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
手を
浄
(
きよ
)
めに前夜雨戸をあくれば、
鍼先
(
はりさき
)
を吹っかくる様な
水気
(
すいき
)
が面を
撲
(
う
)
って、
遽
(
あわ
)
てゝもぐり込む蒲団の中でも足の先が
縮
(
ちぢ
)
こまる程いやに
冷
(
つめ
)
たい、と思うと明くる朝は武蔵野一面の霜だ。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
それから頭を引っ込めると、病室の、鈍い空気が顔を
撲
(
う
)
って胸が詰まるような気がした。見れば病人と学士とで何か言っているが、
詞
(
ことば
)
は聞えない。しかしそれを聞きたくも思わなかった。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
加之
(
しかのみならず
)
先生の識見、直ちに本来の性情より出で、
夙
(
つと
)
に泰西
輓近
(
ばんきん
)
の思想を道破せるもの
勘
(
すくな
)
からず。其の邪を罵り、俗を
嗤
(
わら
)
ふや、一片氷雪の気天外より来り、我等の
眉宇
(
びう
)
を
撲
(
う
)
たんとするの概あり。
「鏡花全集」目録開口
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
槍ヶ岳への
岐
(
わか
)
れ路まで戻って来ると、人夫は親子連れの雷鳥を、石で
撲
(
う
)
ち殺して、足を縛っているところであった、先刻首を引ッ込めたそれか知ら、とうとう助からなかったかなあと思う
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
さすがに
我強
(
がづよ
)
い刀自たちも、此見覚えのある、美しい箱が出て来た時には、暫らく
撲
(
う
)
たれたように、顔を見合せて居た。そうして
後
(
のち
)
、
後
(
あと
)
で恥しかろうことも忘れて、皆声をあげて泣いたものであった。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
地を
撲
(
う
)
ちて
大輪
(
たいりん
)
つばき
折折
(
をりをり
)
に落つるすなはち散り積むさくら
桜
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
風は
粉膩
(
ふんじ
)
を
撲
(
う
)
ってなまめかしき香を辰弥に送れり。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
姫
(
ひめ
)
の
路
(
みち
)
金
(
こがね
)
撲
(
う
)
つ
孔雀船
(旧字旧仮名)
/
伊良子清白
(著)
押入の一方には支那鞄、柳行李、
更紗
(
さらさ
)
の
蒲団
(
ふとん
)
夜具の一組を他の一方に入れようとした時、女の
移香
(
うつりが
)
が鼻を
撲
(
う
)
ったので、時雄は変な気になった。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
これに気を得て
勇
(
いさみ
)
をなし、二人の書生は腕を叩き
拳
(
こぶし
)
を
揮
(
ふる
)
うて
躍懸
(
おどりかか
)
れば、
撲
(
う
)
たれぬ
前
(
さき
)
に、「あ
痛
(
いつ
)
、」「お
痛
(
いて
)
。」と皆ばたばた。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
撲
常用漢字
中学
部首:⼿
15画
“撲”を含む語句
相撲
打撲
撲殺
打撲傷
撲倒
横撲
女相撲
相撲取
撲滅
草相撲
相撲取草
引撲
素人相撲
一人相撲
張撲
撲滅論
撲飛
撲地
相撲膏
小相撲
...