トップ
>
泛
>
う
ふりがな文庫
“
泛
(
う
)” の例文
船はいつのまにか、
船渠
(
ドック
)
の地上から十尺も高く
泛
(
う
)
かび出している。職長の指揮笛が、両舷のワイヤロープへあわただしく鳴っている。
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
半七老人はその当時の光景を思い
泛
(
う
)
かべたように、大きい溜め息をついた。それに釣り込まれて、わたしも思わず身を固くした。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
女房
(
にようばう
)
は
横臥
(
わうぐわ
)
することも
其
(
そ
)
の
苦痛
(
くつう
)
に
堪
(
た
)
へないで、
積
(
つ
)
んだ
蒲團
(
ふとん
)
に
倚
(
よ
)
り
掛
(
かゝ
)
つて
僅
(
わづか
)
に
切
(
せつ
)
ない
呼吸
(
いき
)
をついて
居
(
ゐ
)
た。
胎兒
(
たいじ
)
を
泛
(
う
)
かしめた
水
(
みづ
)
が
餘計
(
よけい
)
に
溜
(
たま
)
つたのである。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
当時の
殷盛
(
いんせい
)
をうかべた地表のさまは、背後の山の姿や、山裾の流れの落ち消えた田の中に、点点と島のように
泛
(
う
)
き残っている丘陵の高まりで窺われる。
夜の靴:――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
一天の
景
(
かげ
)
は、寒く、こころを
憑
(
の
)
り
秉
(
と
)
つて、歎きの
科
(
しぐさ
)
を強ひる。——わたしはその群る虫に、その虫の歌に、汎として
泛
(
う
)
き流れるサモス派の船である。…
雪
(新字旧仮名)
/
高祖保
(著)
▼ もっと見る
妙な形のガラス壜のことが心に
泛
(
う
)
かんだとき、宿命的な魔法の
呪縛
(
じゅばく
)
にかかっている美しい一人の女の姿が、生けるがごとくにわたしの幻影となって現われてきた。
世界怪談名作集:10 廃宅
(新字新仮名)
/
エルンスト・テオドーア・アマーデウス・ホフマン
(著)
私は腰を
泛
(
う
)
かしそっと息を殺して其の女の姿が視野に這入る様二尺許り位置をずらせました。そうする事に依って女の側面の一部を窺う事が出来たのであります。
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
山村水廓
(
さんそんすいかく
)
の
民
(
たみ
)
、河より海より小舟
泛
(
う
)
かべて城下に用を便ずるが佐伯近在の
習慣
(
ならい
)
なれば
番匠川
(
ばんじょうがわ
)
の
河岸
(
かし
)
にはいつも
渡船
(
おろし
)
集
(
つど
)
いて乗るもの下りるもの、浦人は歌い山人はののしり
源おじ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
泉石
(
せんせき
)
のここだあかるき
真日照
(
まひでり
)
に青鷺が
佇
(
た
)
てり
泛
(
う
)
く鴨のあひだ
夢殿
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
和具
(
わぐ
)
の
細門
(
ほそど
)
に
船
(
ふね
)
泛
(
う
)
けて
孔雀船
(旧字旧仮名)
/
伊良子清白
(著)
秀忠は、幼い頃、相国寺の陣中で、父の家康のそばに坐って謁見した、石舟斎
宗厳
(
むねよし
)
のすがたと、自分の幼時とを、思い
泛
(
う
)
かべていた。
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
月並ながらも行水というものに相当した季題の道具立てはまずひと通り揃っているのであるが、どうも一向に俳味も俳趣も
泛
(
う
)
かび出さない。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
丁度靜かな沼の水に
荇菜
(
あささ
)
の花が
泛
(
う
)
いて居るやうに黄色な小さな花は
甜瓜
(
まくは
)
であります。
白瓜と青瓜
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
睡蓮の花
泛
(
う
)
けりとふ池の
面
(
も
)
は日の照りつけて観る色も無し
黒檜
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
右門は、石のまわりを、
繞
(
めぐ
)
り歩いた。そしてふと、地下の白骨を思い
泛
(
う
)
かべた。綾部大機の死骸が、ぞっと記憶の底から呼び出された。
柳生月影抄
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼の物をいう時のほかは其の口を固く一文字にむすんでいたが、その大きい眼の中には怪しい笑みが
泛
(
う
)
かんでいるのを侍従は見逃がさなかった。
小坂部姫
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
雨落
(
あまおち
)
に
通草
(
あけび
)
の花はちり
泛
(
う
)
きて
中
(
なか
)
流れをり清きむらさき
白南風
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
昨日
(
きのう
)
の
初雷
(
はつらい
)
できょうの陽ざしは一倍澄んでいる。又八は、まだ耳に新しい武蔵の言葉を思い
泛
(
う
)
かべ、ゆうべの酒を吐き出したくなった。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
半分から上は消えるように隠れてしまって、枝をひろげた梢は雲に
駕
(
の
)
る妖怪のように、不思議な形をしてただ
朦朧
(
もうろう
)
と宙に
泛
(
う
)
かんでいるばかりです。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
雨落
(
あまおち
)
に
通草
(
あけび
)
の花はちり
泛
(
う
)
きて
中
(
なか
)
流れをり清きむらさき
白南風
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
母はその帰り途に「だまされた……」と暗い顔に、涙さえ
泛
(
う
)
かべていた。そして、ぼくへ「お父さんには黙っておいで、叱られるからね」
忘れ残りの記:――四半自叙伝――
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しずかにそれを聴いているうちに、私の眼のさきには昔の麹町のすがたが
泛
(
う
)
かび出した。そこには勿論、自動車などは通らなかった。電車も通らなかった。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
起とうとしながら、ばばはふと、顔の前に
泛
(
う
)
き出している文字に気をとられた。それは、洞窟の壁に彫りこんである
何人
(
なんぴと
)
かの願文だった。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
被衣
(
かつぎ
)
を深くして、しかもこちらを背にして立っているので、その顔はもとより判らなかったが、それが玉藻であるらしいことは直ぐに千枝太郎の胸に
泛
(
う
)
かんだ。
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
と思いながら、じッと地べたをみつめてゆくと、御方の
﨟
(
ろう
)
やかな姿やお延のあの艶めかしさが、足もとへ
絡
(
から
)
むように
泛
(
う
)
いてくる。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
狐か、盗人か、千枝松もその判断に迷っているうちに、ふとかの陶器師のことが胸に
泛
(
う
)
かんできた。
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
「おう」善信の顔に、微笑が
泛
(
う
)
いた。刻々と明るんでくる夜明けの光が、彼の顔からすがたを見ているうちに
鮮
(
あざ
)
やかにしてきた。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
普通の客でないとすれば、それが栄之丞ではないかという疑いが直ぐにまた彼の胸に
泛
(
う
)
かんだ。
籠釣瓶
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
母はやや失望の色を
泛
(
う
)
かべた。けれど甚助の胸には、口で言い現し難い何ものかが実は宿っていた。けれどそれを説明する言葉がなかった。
剣の四君子:03 林崎甚助
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
きのうの朝、陶器師の翁から聴かされた古塚参詣の怪しい女の姿を思い
泛
(
う
)
かべた。
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
夜気にただよう
血腥
(
ちなまぐ
)
さい闇の中に、斬ッて曳いた一角の
白刃
(
しらは
)
と、しめた! という
笑
(
え
)
みに
歪
(
ゆが
)
んだ顔とが、物凄く
泛
(
う
)
いて見えた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
もう夜の九
字
(
じ
)
ごろだった。宇治の町も、火の消えたようではあったが、四ツ辻の油障子に駕という大書の字が
灯
(
ひ
)
に
泛
(
う
)
いていた。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そこらにあった
腰蓑
(
こしみの
)
をまとって、散所者の
舟人
(
ふなびと
)
に似せた姿も、それらしい。たちまち出屋敷の水門を離れ、舟は一と筋の川へ
泛
(
う
)
かび出ていた。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ここでも世間へ
泛
(
う
)
かび出せなかった過去を持つ光秀は——いま、まったく反対な立場になって、旧朝倉の一族を監視した。
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その髪の毛を、掻きよせてみると、どうだろう、
白蝋
(
はくろう
)
みたいな女の頬は、ニッと、
笑靨
(
えくぼ
)
が
泛
(
う
)
かんでいるのだ、いかにも、死を満足しているように——。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
お菊ちゃんは、じっと、考え込んでから、何か、一策を心に
泛
(
う
)
かべたらしく、ひそひそと、
諜
(
う
)
ち
合
(
あ
)
わせをしていた。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と家士たちは、紫色にわななく重蔵の唇を見て、悲涙を
泛
(
う
)
かめながら訊き返した。忠房は見るに堪えぬ
面持
(
おももち
)
で
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ななめに、
紙燭
(
ししょく
)
の黄色い明かりがながれた。その明かりに、
泛
(
う
)
いた
僧形
(
そうぎょう
)
のかげを見ると、顔をだした
公卿侍
(
くげざむらい
)
は
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「——わしの性分か。わしは大河のこの悠久な
趣
(
おもむき
)
が妙に好ましい。川へ
泛
(
う
)
かぶと、心もいつか
暢々
(
のびのび
)
してくる」
私本太平記:01 あしかが帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
今日もそこの足場で
生命
(
いのち
)
がけの作業をしている木靴の仲間の顔が、あれこれ、ぼくの眼に
泛
(
う
)
かんでいた。
忘れ残りの記:――四半自叙伝――
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それより前に、孫策は、兵船数十艘をととのえて、長江に
泛
(
う
)
かみ出て、
舳艫
(
じくろ
)
をつらねて
溯江
(
そこう
)
して来た。
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
流水は、正成の
産土
(
うぶすな
)
の地、
水分
(
みくまり
)
を象徴しており、半花の菊を
泛
(
う
)
かべた図は、天皇軍をあらわしている。
私本太平記:04 帝獄帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あたまに
泛
(
う
)
かぶほど、その堀川のやしきへは、金借りの使にばかりやらせられ、両親のたな下ろしと、いや味と、愚痴の百万べんを、よく聞かせられたものである。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
辺りの月光は
茫
(
ぼう
)
と
霞
(
かす
)
んで、松葉の露のような
泪
(
なみだ
)
が、お綱の両の
睫毛
(
まつげ
)
にいッぱいな玉を
泛
(
う
)
かべていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その結果、
高
(
こう
)
御曹司の横恋慕が
泛
(
う
)
かびあがった。そして彼をめぐる取巻き連の
陸謙
(
りっけん
)
、
富安
(
ふあん
)
などという
阿諛佞奸
(
あゆねいかん
)
な
輩
(
やから
)
が、巧みに林冲を
陥穽
(
かんせい
)
に落したものとわかってきた。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、羅門塔十郎は、すこし失望のいろを
泛
(
う
)
かべて、聞き歩みに
現
(
うつつ
)
な足を運びながら、腕を
拱
(
こまぬ
)
いた。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
重い沈黙の上に、きょうも
梟
(
ふくろう
)
が啼いている。——と、突然、名案が
泛
(
う
)
かんだように一人がいった。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
朱実と武蔵とがそうして囁いている様子を白い眼で見ながら、小次郎の頬へにたと
笑靨
(
えくぼ
)
が
泛
(
う
)
いた。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
信玄の面に、一瞬ではあったが、
慄然
(
りつぜん
)
とした気泡が
泛
(
う
)
いた。それの去ったとき、彼は、数日来の疑問を解いていた。謙信の
心態
(
しんてい
)
がある程度、信玄の心に映じていたのである。
上杉謙信
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「有難う……。それさえ分れば、ここに
泛
(
う
)
かび上がる人があるのよ。トム公、おまえこの巾着ッ切さんに、よく
事情
(
わけ
)
を話したらいいよ。こういう人は、物分りがはやいのだから」
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
泛
漢検1級
部首:⽔
8画
“泛”を含む語句
泛子
泛々
山陰泛雪図
泛影樓
泛氷
泛淙
泛濫