)” の例文
いいにくそうに伝兵衛がいうと、お那珂なかは、畳へ手をついて、何かいうつもりなのが、そのまま、泣きじゃくって、してしまった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人はまた始まったなと云わぬばかりに、象牙ぞうげはしで菓子皿のふちをかんかん叩いていている。迷亭だけは大得意で弁じつづける。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
謡えぬお長はして蓆の端をむしっている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そして驚く耀蔵の耳へ口をよせながら、ううーむ……と作り声をあげて、彼のからだにからみながら、諸倒もろだおれに、して首を垂れた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人は茫乎ぼうことして、その涙がいかなる心理作用に起因するかを研究するもののごとく、袴の上と、つ向いた雪江さんの顔を見つめていた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なにか、いいかけたと思うと、彼の引っ張っていた杖の先を離して、沢の石ころや草叢くさむらの中に、よろりと、音もなくしてしまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三千代は矢張りいてゐた。代助は思ひ切つた判断を、自分の質問しつもんの上に与へやうとして、既に其言葉がくち出掛でかゝつた時、三千代は不意に顔をげた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ドカアンと弾音はたかくッぽへ走った。つつは美少年の手にくられているのだった。船客たちは、耳を抑えてつ伏した。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三千代はやはりつ向いていた。代助は思い切った判断を、自分の質問の上に与えようとして、既にその言葉が口まで出掛った時、三千代は不意に顔を上げた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勝頼はついに、泣かんばかりな声をしてした。豪気強情、稀に見る自尊心の持主も、快川のまえには身もだえしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丈八郎は、憎悪そのものの眸を、している姉へも投げた。が、すぐそれが、一角の眼を見ると、よけいに、ほむらとなって
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五、六歩、よろめいて、松の間の閾際しきいぎわに、上野介はツ伏せに倒れた。倒れたが、すぐに又、夢中に立ち上りかけながら
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で——伊織は、思わず草の中にしてしまった。生れてから十四の年まで、こんな怖いと思ったことはまだなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血からめて、落着きをとり戻すと、角三郎は、死骸の弁馬を愍然びんぜんあざむように、っ伏しているその衣服きもののすそで、刀の血糊のりをふきながら呟いた。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五ツ六ツ、撲るように刀でたたくと、仁吉の体は、魚の臓物のように、船底にして、声も音も消してしまった。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう、彼女のすすり泣きは、永劫とこしえにやんでいた。——っ伏した黒髪は、血しおの中へ、べっとりと乱れ、手はかたく懐剣かいけんの柄を握っていたのである。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、庄七の身をれて、由の肩さきをサッといだ。由は、笛のような声をつまらせ、ぐわッと地へした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にも関わらず、かの女は、その後で、どっと、せきあげる涙と淋しさとを、どうしようもなく、してしまった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
闘う女の真白な玉裸ぎょくらが、また無性にッ伏してそれを押し隠す。そのはずみに、短刀だけが、寝台の下にころげ落ちた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
依然、ものはいわなかったが、ついに、たもとを噛んで、がばとすと、黒髪の下からよよと泣く声がもれた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又八は、じっとッ伏したきりでいたが、武蔵は大きな眼をあいて、精悍せいかんな動物の腹を、何十となく、見ていた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、藍花染あいばなぞめの小袖に革のたすきをかけ、白い布で、ひたいから後鬢うしろびんへ汗止めをきりっと締めている侍が、草の中に顔を埋めて、つ伏しているのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ……」涙こそながさないが、範宴は全身の悲しみを投げだして、氷のような大床おおゆかしてしまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
棟方与右衛門は、一室の中央に、何もかも覚悟の上らしく、整然と片づけた中に腹を切ってしていた。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
友矩が出てゆくと、他の人々もむらがり寄って、なお怒りまない但馬守と、声もなく地にしている又十郎の間とを、ようやく分け隔て連れて行った。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るにたえず、高直は下にうずくまったが、顔を上げたとき、もうその人はくれないの座に前身をせていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうになくてはならない盟友めいゆう加賀見忍剣かがみにんけんはたおれている。木隠龍太郎こがくれりゅうたろうも血の中にしてしまっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜具の中につ伏している清十郎の様子に、ぎょっとしたような顔いろを動かして、枕元へ取りすがった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胸の高さにまで折り畳んだ夜具よのものに、両のひじ苦患くげんの顔を乗せて、ッ伏せにもたれて坐ったきりなかたちだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もくり……と毒水どくすい波紋はもんがよれたかと思うと、せになった水死人すいしにん水草みずぐさの根をゆらゆらとはなれる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お通は素直にたもとをはなした。そして橋の欄干へッ伏すと、びんをふるわせてしゅくしゅくと泣き出した。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
露八は、淀川に沿って、枚方ひらかたの方角へと、歩きだした。血か、油か、淀は鉛色なまりいろにぎらぎらして、時々、せになった幕兵の死骸が空俵あきだわらみたいにながれて来る。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突然、吉次も不覚な嗚咽おえつをもらしてしまった。がばと、ひじを顔にあてたまま、草のなかへした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お市は、そこに居るか居ないか分らないように門の脇に、身を沈めたまま、平たくっ伏している。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不意を食らった味方の裏切に、なんの骨折りもなく二人はグッタリと土を掴んでしてしまう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清経は、恐懼きょうくして、さらに、静を辛辣しんらつに責めた。余りに長い時間を冷たい板床にひきえられていたせいか、静は、急に眉をひそめ、蒼白あおじろくなって苦しげにっ伏した。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊織は、耳を抑えて、熊笹の中へッ伏した。とたんに、うすい弾煙たまけむりのながれた樹陰で、ぎゃッ——と、生き物が断末を告げる刹那の——あの不気味なさけび声が聞えた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわれるし、兄にはそむけない気がして、朝麿は、板ばさみになって当惑そうにつ向いていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、その後に、もう一人ッ伏していた若い男が、いきなり草埃くさぼこりと一緒にね起きて
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
わらわらと、寄って来て、其処らへっ伏してしまった者は、皆、浅野家の家臣であった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのお人の姿が、やがて、小舟のうちに坐って、がくと、して見えたかと思うと
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身を、馬のたてがみへっ伏せたすきに、すでに花栄の姿は雲林うんりんうちに消え去っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斬られた土民は、岸へは這い上がっても、水草の中にっ伏したままで動かなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
凄まじい表の武者声に、彼女の母は、耳をふさいだまま、室の外にっ伏していた。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足数にして、約十歩ばかり先に、一箇の死骸が、あけになってしているし、ずっと土塀へ寄ったきわにも、頭を柘榴割ざくろわりにされた番の者が、塀の根へりかかったまま死んでいた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いったん馬のたてがみにっ伏して脇腹を抑えているかのように見えた光秀は、胸の下となった手綱の手をうごかすと、急に面を上げて、トトトトトと、小刻みに駒の脚を早め出した。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はたの上へ、つ伏していたのである。暗いなかに、ただ独り寂寞じゃくまくいだきしめて。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのくせ、もう焔のような顔して、しながら、息もくるしげなのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手で口をふさがれたように、武蔵は息が止まった。岩につかまっていても体をズズズと持って行かれそうな風圧をおぼえた。……しばらく目をつぶったままじっとしていたのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足数にして、十歩ほど先に、その小次郎はせにたおれている。草の中へ、顔を横にふせ、握りしめている長剣のつかには、まだ執着の力が見える。——しかし苦しげな顔では決してない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)